ランス・アームストロングはドーピング疑惑によって続いてきた法定闘争に対し、8月23日、これ以上の闘いを続けないことを表明した。ツール・ド・フランス7連覇を含む過去の栄光が無になる可能性を含んでいる。

ランス・アームストロング(写真は2010年ツール・ド・フランス)ランス・アームストロング(写真は2010年ツール・ド・フランス) (c)Makoto.AYANOアームストロングが「魔女狩りだ」と形容するドーピングにまつわる訴訟は、終わることを知らない。
しかしアームストロングは23日、アメリカ反ドーピング機関(USADA)との闘いを止めることを表明した。30日前に一度棄却されたUSADAの訴えに対する異議申し立て期限が、24日午前0時だった。

アームストロングは異議申し立てをしない代わりに、自身のサイトに公式声明として次のように綴っている。
ーー「誰にでも『もうたくさんだ』という時があり、自分にとっては今がそうだ。もう3年以上、USADAのトラビス・タイガート氏による、魔女狩りのような訴訟につきあってきたが、家族や財団(LAF:自身の運営するがん基金)の仕事、自分への影響も考えて、この”ナンセンス”に終止符を打つという今回の結論に達した」
この書き出しで始まる公式声明(外部リンク)でアームストロングは、改めて今までどおり一貫してドーピングを否定。再び始まった訴訟も、一旦終わったはずのものと同じ内容だとして、これ以上この件に時間を費やす意志がないことを表明している。

アームストロングは綴る。「僕は連邦裁判所がUSADAの行動を阻止してくれることを願っていた。連邦裁判所は同情してくれたし、その動機、行動、手続きに多くの疑問や不備があることを認めていたけれど、結局は干渉しないことに決めた。これ以上、あまりにも一方的で不公正な訴訟に参加することは出来ない」。
「今日、私はページをめくる。結果に関らず、この問題からは手を引くことに決めた。これからは以前からの仕事に全力を注ぐつもりだ」などとして、がん患者のための支援財団の仕事に集中することを表明し、声明を締めくくっている。

しかし、法廷闘争を止めることは訴訟に負けることにつながる。1998年からの勝利のリザルトの抹消と、競技への生涯出場停止処分を受ける可能性がある。
今回のアームストロングの意思表示を受けて、USADA側は「アームストロングは1999年から2005年までの勝利、ツール・ド・フランスの優勝を剥奪され、永久追放処分を受けるだろう」と示唆している。

これらのことを受け、世界中のメディアによる「アームストロングが過去のツール・ド・フランスの7つの勝利を剥奪された」「自転車界からの永久追放処分を受け入れた」とする報道が加熱している。

アームストロングは「USADAにはそんな権限はない」と主張している。しかし非営利団体であるUSADAには刑事告発をする権限はないが、ドーピングを理由にタイトルを剥奪したり大会参加を禁じるなどして選手に制裁を加えることができるとも言われる。その権限の及ぶ範囲は分かりにくい。今後のUCIおよびWADA(世界アンチドーピング機関)、ツール・ド・フランス主催者A.S.O(アモリー・スポール・オルガニザシヨン)らの対応に注目することが必要だ。
今後この問題がCAS(スポーツ仲裁裁判所)に持ち込まれることも考えられるが、闘いの長期化を望まないアームストロングがそれをするとは考えにくい。


最近に繋がる一連のアームストロングに対するドーピング疑惑・訴訟問題の流れ
(※ニュース報道の内容は主要通信社や海外メディアの伝えたものをダイジェストしています)

最近に繋がる一連のアームストロングに対するドーピング疑惑。元チームメイトのフロイド・ランディスやタイラー・ハミルトン(いずれもドーピング違反確定者)らによるアームストロングに不利な証言が続いたが、2月にはアメリカ連邦捜査局が「証拠とするには不十分」として捜査の打ち切りを宣言、収束したはずだった。
しかし6月13日に法廷闘争は再燃した。USADAが2009年と2010年のアームストロングの血液サンプルを収集した結果、エリスロポエチン(EPO)か輸血による血液ドーピングを疑うに足る分析結果が得られたとして訴えを起こす。

USADAは同時にアームストロングのかつてのチームドクターとコンサルティングドクター、トレーナーらチーム関係者3人に対して、1999年〜2007年の間に、ステロイド、ヒト成長ホルモンやそれらに対してマスキング(隠蔽する)効果がある薬物を含む禁止薬物の所持、他選手への密売、投与などのドーピング違反をしたとして、3人に対して永久追放処分を下していた。3人は容疑を否定し、調停のための事情聴取への出席も拒否していた。

これらの訴えによりトライアスリートとして再活動していたアームストロングの、アイアンマン・トライアスロン世界選手権出場の道は封じられてしまう。
アームストロングは過去より終始一貫して容疑を否認。そしてUSADAがかつてのチーム関係者3人に対して証言者となるように脅迫したと訴え、告発には正当性がないと主張し、上告していた。
しかしアームストロングのこの訴えを、連邦裁判所は7月10日に棄却。
アームストロングはUSADAによる告発、および処分の取り下げを求めて地元のテキサス州西部連邦地裁へ申し立てを行っていた。

アームストロングはUSADAのトラビス・タイガート会長が自身に対して個人的な恨みを持っていると非難し、自分を告発する権利があるのはUCI(国際自転車競技連合)のみで、USADAではないと主張していた。
一方のタイガート会長は、連邦裁判所がアームストロングの異議を退けるか予備判決を下すまで、異議申し立て期間の延長を認めるとしていた。その期限が8月24日の0時だった。


text:Makoto.AYANO

最新ニュース(全ジャンル)