強いアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)が帰ってきた。スペインに最も近い地域を走るピレネー最終第17ステージで、バルベルデが独走勝利。総合争いは、1級山岳ペイラギュードのゴール地点にバルベルデから19秒遅れでやってきたフルームとウィギンズのスカイコンビがリードを広げる結果に。

第17ステージ・コースプロフィール第17ステージ・コースプロフィール image:A.S.O.登りと下りしかないような143.5kmの短いコースの先に、今大会最後の頂上ゴールが待っている。序盤から1級山岳を含むアップダウンの連続で、81km地点でスプリントポイントを通過後、再びレースはピレネーの奥地に向けて進路を変える。

霧の1級山岳マンテ峠を進む先頭グループ霧の1級山岳マンテ峠を進む先頭グループ photo:Makoto Ayano標高1755mの超級山岳バレス峠(登坂距離11.7km・平均勾配7.7%)を越えて一旦谷底まで下り、昨日登ったペイルスルド峠を反対側から登り返す。平均勾配7.7%のペイルスルド峠を登り終えると3km下り、そこから平均勾配7.1%の登りを3km進んでようやく1級山岳ペイラギュードの頂上が見えてくる。

大会初登場のこのスキーリゾート地で、マイヨジョーヌ争いはクライマックスを迎える。前日の好天とは打って変わって雨模様のピレネーに向かって、幾分小さくなった153名のプロトンがスタートした。

山岳ポイントを巡るトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)とフレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)の闘い山岳ポイントを巡るトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)とフレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)の闘い photo:Makoto Ayano霧が立ち込める序盤の1級山岳マンテ峠で、バルベルデやマイヨアポワを着るトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)、デニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)、フレデリック・ケシアコフ(スウェーデン、アスタナ)を含む23名が先行。しかしチームスカイがペースを刻むメイン集団とのタイム差は広がらない。

先頭グループは何とかメイン集団を振り切って1級山岳マンテ峠の頂上に到達。ゴールさながらの熱いスプリントで、山岳賞2位のケシアコフを下した山岳賞1位ヴォクレールがここを先頭通過する。

超級山岳バレス峠でメイン集団をコントロールするリクイガス・キャノンデール超級山岳バレス峠でメイン集団をコントロールするリクイガス・キャノンデール photo:Cor Vos雨に濡れたマンテ峠のテクニカルな下りで、メイン集団から総合3位ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)がアタック。しかしニーバリは自らの意思で集団に戻る。ここでヴォクレール、ケシアコフ、バルベルデ、サンディ・カザール(フランス、FDJ・ビッグマット)ら7名の逃げが容認された。

続く2級山岳で、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)やローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)が先頭グループに合流。リクイガス・キャノンデールがコントロールするメイン集団とのタイム差は3分。レースは落ち着いた状態を保ったまま、この日最大の難所である超級山岳バレス峠に差し掛かった。

落ち着いてレースを進めるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)落ち着いてレースを進めるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoバレス峠の勾配ある登りが始まると、バスクファンの声援に応えようとゴルカ・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)とビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)が勇んでアタック。しかし登坂力で勝るルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)に先頭を奪われる。

登りの中腹で追走グループを抜け出したバルベルデは、先行するチームメイトのコスタをパス。そのまま独走に持ち込んだバルベルデがバレス峠を先頭通過した。

徹底的にケシアコフをマークしたヴォクレールが2分遅れで頂上を通過。そしてリクイガス・キャノンデールが牽引するメイン集団が2分30秒遅れで続く。いよいよ第99回ツールは最後の山場(ペイルスルド&ペイラギュード)に差し掛かった。

1級山岳ペイラギュードを先頭で駆け上がるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)1級山岳ペイラギュードを先頭で駆け上がるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Makoto Ayano

1級山岳ペイラギュードでメイン集団から遅れるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)1級山岳ペイラギュードでメイン集団から遅れるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosバルベルデ以外の逃げメンバーは、イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)が率いるメイン集団によって吸収。バッソの強力な引きによって、ペイルスルド峠でカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)はまたも脱落。

総合ジャンプアップを狙うユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)やピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)がメイン集団から飛び出すも、チームスカイ勢がこれを封じる。ペイルスルドの頂上を越える頃には、メイン集団は7名にまで絞られていた。

1級山岳ペイラギュードでウィギンズの様子を確認しながら走るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)1級山岳ペイラギュードでウィギンズの様子を確認しながら走るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos短い下りを経て1級山岳ペイラギュードまでの登り返しが始まると、マイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)のペースアップが始まる。ゴールまで3kmを残して、先頭バルベルデとメイン集団のタイム差は1分。総合2位フルームがもう一段ペースを上げると、総合3位ニーバリらは千切れた。

エースのウィギンズの様子を気遣いながら、ハイスピードでゴールを目指すフルーム。バルベルデが勝利の味を堪能しながらゴールするその後ろで、ライバルたちを引き離したフルームとウィギンズが19秒遅れでゴールした。

ウィギンズを気遣いながら1級山岳ペイラギュードを登るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ウィギンズを気遣いながら1級山岳ペイラギュードを登るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayano「今年のツールは序盤から不運の連続。2日間で3回落車することもあった。総合争いに加われなかったので、ステージ優勝に目標を絞ったんだ。不運を乗り越えて、ようやくチャンスをモノにすることが出来たよ。後ろからフルームとウィギンズが迫ってきたので、最後まで気を抜けなかったよ」。自身4度目のステージ優勝(2008年の1勝はリッコ失格による繰り上げ)を飾ったバルベルデはそう語る。

バルベルデはオペラシオンプエルトに端を発したドーピングスキャンダルによってドーピングへの関与が疑われ、2012年1月までの2年間出場停止処分を受けた。復帰後最初のグランツールで、総合で遅れながらも山岳でしっかりとその存在感をアピール。ロンドン五輪に向けて不運が続くスペインにとっては朗報だ。

1級山岳ペイラギュードの頂上でゴールするアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)1級山岳ペイラギュードの頂上でゴールするアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) photo:Cor Vos今大会最終山岳ステージを終え、ウィギンズがマイヨジョーヌを守り、フルームが2分05秒遅れ、ニーバリが2分41秒遅れで続く。残された総合変動のチャンスは、最終日前日に行なわれる第19ステージ・53.5km個人タイムトライアルだけ。しかし、第9ステージの個人タイムトライアルでウィギンズとフルームが1位と2位を独占していることを考えると、このままの順位で最終日を迎える可能性は限りなく高い。

「クリス(フルーム)は一日中スーパーな走りを見せた。彼はファンタスティックなチームメイトであり、将来的に必ず彼はツールを制するだろう。その時は彼の傍でサポートしたい」。ウィギンズはチームメイトをそう讃えた。

選手コメントはレース公式サイトより。

16分遅れで1級山岳ペイラギュードのゴールを目指す新城幸也(日本、ユーロップカー)16分遅れで1級山岳ペイラギュードのゴールを目指す新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoゴール後、肩を組むブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ゴール後、肩を組むブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos


ツール・ド・フランス2012第17ステージ結果
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             4h12'11"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                  +19"
3位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
4位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)                +22"
5位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)                 +26"
6位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)
7位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)      +37"
8位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)       +54"
9位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン)      +1'02"
10位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン・シャープ)          +1'11"

18位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)         +2'10"
22位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)       +3'17"
78位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                      +16'06"

個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)            78h28'02"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                 +2'05"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)     +2'41"
4位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル)         +5'53"
5位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)      +8'30"
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)         +9'57"
7位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン)       +10'11"
8位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)                +10'17"
9位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ)              +11'00"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット)               +11'46"
83位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                    +2h18'29"

ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)

山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)

新人賞 マイヨ・ブラン
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)

チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン

敢闘賞
アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O., Makoto Ayano