この日スタートの街になったオルシはパリ~ルーべが通過する街としておなじみの北の街。天気は朝から北のクラシックのような怪しい曇り空。コースが細く、危ないと聞かされているだけに心配になる。

パリ~ルーベの通る街、オルシ。北のクラシックのようなビール片手のファンの姿もパリ~ルーベの通る街、オルシ。北のクラシックのようなビール片手のファンの姿も photo:Makoto.Ayanoパリ~ルーベの街をスタートしながらも、コースはパヴェに背を向けて漁師町として有名なブローニュ・シュル・メールへ向かう。最初の60kmはフラットながら、ラスト60kmに6つの「こぶ」のような山岳が続く。そのうち4つはラスト16kmに連続する。

スタートサイン台脇にはこの地方特有の、奇妙な大きな人形がたつスタートサイン台脇にはこの地方特有の、奇妙な大きな人形がたつ photo:Makoto.Ayanoコースディレクターのジャン・フランソワ・ペシュー氏は「ツールとの最初の出会い」と表現する。しかもゴールは急な坂を駆け上がった先にある。ピュアスプリンターには出番なし。クラシック系スプリンターの出番だ。そして総合争いの選手、そしてそれを抱えるチームにとってはタイムを失うリスクを最小限にしなければいけないステージ。第1ステージと第3ステージの罠については多く語られてきた。

スタート地点に現れた新城幸也(ユーロップカー)。調子は良さそうだスタート地点に現れた新城幸也(ユーロップカー)。調子は良さそうだ photo:Makoto.Ayanoノール・パ・ド・カレ地方を抜けて到着するブローニュ・シュル・メールは2011年フランス選手権の開催地。この日と同じ登りゴールでシルヴァン・シャヴァネル(オメガファーマ・クイックステップ)が勝利を飾っている。

ユーロップカーのチームバスを訪れると、新城幸也が気合の入った険しい顔つき。今日のユキヤはふたりのフランス人エース、トマ・ヴォクレールとピエール・ロランのアシストの役割に回ると思い込んでいたが、実は第2監督からアタックすることを命じられたという。

「アタックしますよ!もちろんスタートから行きます。決まるかどうかは、わかりませんっ。運次第」とユキヤ。
ふたりのアシストは?トマで勝利を狙うチームの指示はある?
「僕は今日のコースは知らないんですけど、フランス人たちは選手権で走ったあたりなのでよく知っているんです。だから危険だといってもそんなに心配はしていない。もちろんスタートアタックが決まらなかったらアシストに回りますよ」。



オーガナイザーカーのクルマにはねられたボジッチ

チームメイトのボルト・ボジッチが主催者のクルマにはねられたことを話すヤネス・ブライコヴィッチ(アスタナ)チームメイトのボルト・ボジッチが主催者のクルマにはねられたことを話すヤネス・ブライコヴィッチ(アスタナ) photo:Makoto.Ayano昨第2ステージでボルト・ボジッチ(アスタナ)が用足しするために路肩にストップして、再び走りだすときにレース主催者のクルマに追突され、負傷。自転車も轢かれたという。ボジッチは幸い大きな怪我はなかったが、そのことについて謝罪がないと怒っているという。アスタナのチームバス前で代わりに答えてくれたのは同じスロベニア人のヤネス・ブライコヴィッチ。

「僕自身は事故も見ていないけど、ボルトはとても怒っているよ。彼にぶつかったクルマのドライバーはそのとき謝りもしなかったそうだ。僕はジャッジできないけど、嘘をついていると思えないし。

昨年あったことを思い出すよ。そのときと同じことが繰り返してしまうのはとても良くない。ツールは他のレースより人も車両も多いし危険なのは確か。だからそうした事故が起こりやすい。それは仕方ないけど、対応の悪さで信頼を失うのは良くないよ」。


消化器系の不調を抱えたまま走るマルセル・キッテル(アルゴス・シマノ)消化器系の不調を抱えたまま走るマルセル・キッテル(アルゴス・シマノ) photo:Makoto.Ayano体調回復につとめるキッテル

お腹の調子を崩してスプリントに参加できなかったマルセル・キッテル(アルゴス・シマノ)。じつはその当日だけでなくベルギー入りしてから下痢もが続いていたという。「まだ完全には回復していないけれど、徐々に体調は良くなっている。今朝は食事もいつもどおりとることができた。

僕がダメだった時トム(フィーラース)が頑張ってくれたのは僕にとっても勇気づけられる事だった。早く回復してきたるスプリントステージに備えたい」。しかしキッテルはこの日、大いに苦しむことになる。


レース序盤。集団コントロールを担うのはレディオシャック・ニッサン勢レース序盤。集団コントロールを担うのはレディオシャック・ニッサン勢 photo:Makoto.Ayanoユキヤのアタックは不発に終わる

スタートが切られる頃には北のクラシックのような風も出てきた。5kmほどのところでカメラを用意して待つが、スタートアタック合戦の末逃げを決めたのはユキヤでないユーロップカーの選手、ゼネラルマネジャーの息子ジョヴァンニ・ベルノドーら5人だった。

後方のメイン集団は早くも容認モード。マイヨジョーヌのカンチェラーラが笑いながら手を広げ「ステイ・コーム!(落ち着いて)」と叫んで、逃げグループを行かせようと皆にアピールしている。その後ろにいたユキヤは、遠くからこちらのカメラを構える姿を見つけると、逃げを決められなかったバツの悪さを「ニッコリ、ぷん」の表情で表した。アタックに乗れるかどうかはタイミングが左右する。


ブローニュの急坂スプリントの落車 タイム差は帳消しに

ブローニュ・シュル・メールのゴール前の急勾配でのスプリント合戦。その前に「スプリントでは敵わない」サガンにみすみす持っていかれるよりは、アタックして逃げ切りを狙ったシャヴァネル。知り尽くした細い道を猛スピードで下るが、コーナリングミスで失速。フランス選手権の再現はならなかった。

シルヴァン・シャヴァネルが先行してブローニュ・シュル・メールの登りに突入するシルヴァン・シャヴァネルが先行してブローニュ・シュル・メールの登りに突入する photo:Makoto.Ayano

ゴールへ至るブローニュ・シュル・メール。残り350mで落車が発生するゴールへ至るブローニュ・シュル・メール。残り350mで落車が発生する photo:Makoto.Ayano横並びで激しくダンシングしながらも牽制する先頭集団。ラスト350mで鋭く加速したワウテル・ポエルス(ヴァカンソレイユ・DCM)に反応した集団。左にラインを変えたイェーレ・ファネンデルト(ロット・ベリソル)にヴァカンソレイユの選手がはすって落車。

自転車も大きく横切って飛んだため急ブレーキが鳴り響く。

ウィギンズも停まった。メンショフも停まった。

有力選手が落車の影響を受けたことで騒然となるが、「ゴール前3km以内落車はその集団と同タイム」ルールの適応でタイム差はつかなかった。

バイクが直せないデニス・メンショフをチームメイトのヴォルガノフが気遣うバイクが直せないデニス・メンショフをチームメイトのヴォルガノフが気遣う photo:Makoto.Ayanoゴール前で集団を分断する落車が発生。しばらく立ち上がれない選手もゴール前で集団を分断する落車が発生。しばらく立ち上がれない選手も photo:Makoto.Ayano


サガンに遅れること1秒のエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(チームスカイ)以下47人が同タイムフィニッシュ扱いになった。バラけることで通常ついたはずのタイム差が、落車の救済措置が適応されたことでつかなくなってしまった。これは想定外の余計な救済措置。


「勝て、サガン、勝て」’フォレストガンプのように

ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーッエッジ)の背後に位置するペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーッエッジ)の背後に位置するペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) photo:Makoto.Ayanoツールに再びセンセーションを巻き起こしたサガン。強いと同時にレースが巧い。ラスト350からアタックしたポエルスとミハエル・アルバジーニ(スイス)に先行させ、「まだ行くのは早いよ」とばかり後ろについて冷静に勝機を伺った。

そしてスプリントを爆発させると、謎のランニングポーズのパフォーマンスでゴールを仕留めた。あんなふうに息もあがらない笑顔で、まるで遊ぶようにフィニッシュされては、他の選手達の立つ瀬がない。

第1ステージでは友人に頼まれてチキンダンスとボディビルダーのポーズで踊った。そして今日のランニングポーズはアメリカ映画がネタだった。記者会見で「あのポーズは何?」と聞かれてサガンは笑いながら答える。「フォレスト・ガンプなんだ」。

昨夜のディナーの時、チームメイトたちとは今日勝つ時のポーズを何にしようかという話になった。そこでシルヴェスタ・シュミットが出したアイデアが、”うすのろフォレスト”が手を振って走るあのシーンだった。なぜなら、サガンは勝てと言われれば勝つ。うすのろフォレストは、「走れ、フォレスト、走れ」と言われて一生懸命に走る。「勝て、サガン、勝て」と言われて楽々勝てるのが今のサガンだ。

ジョギングポーズでゴールへと飛び込むペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)ジョギングポーズでゴールへと飛び込むペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール) (c)CorVosサガン応援団の女の子の頬にはVELITSとSAGANの文字サガン応援団の女の子の頬にはVELITSとSAGANの文字 photo:Makoto.Ayano


今日のゴール地点にはスロバキアからやってきたファンがサガン応援団を結成して熱狂的な「ペイト、ペイト」コールで盛り上がっていた。その国のファンの姿は初めて見る。


遅れたマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーッエッジ)がゴールを目指す遅れたマシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーッエッジ)がゴールを目指す photo:Makoto.Ayano黄色と緑のジャージの夢は終わる

この日の優勝候補の一人、マシュー・ゴス(オリカ・グリーンエッジ)は遅れた。そしてサガンの他に誰もピュアスプリンターが前でゴールできず、ポイント無しで終わったためにマイヨ・ヴェール争いは早くもサガンに大きく有利になった。もう決まったと言ってもいいだろう。

やはり膝の痛みが出てしまったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)やはり膝の痛みが出てしまったトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto.Ayanoそしてフランスの人気者ヴォクレールは7分27秒遅れでフィニッシュ。総合上位の夢は早くも終わった。

膝に痛みが出たことでツール出場前には休みをとって自転車に乗らなかったヴォクレール。回復したかに思えたが、やはり痛みが出てしまった。その落胆ぶりは痛々しい。

「終わってしまったね。これはいいサインじゃない。がっかりしているのは本当のところだね。立ち漕ぎも出来なかったんだ。だから今日のステージを走り切ったことに悔いはないよ。これ以上は無理だった。ドクターに診てもらうよ。でも止めるつもりはない。これはツールなんだ。あきらめないのが僕の信条だよ」。


チームメイトを落車で失ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)チームメイトを落車で失ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.Ayanoシウトソウのリタイアはチームスカイの戦力大幅ダウン

カンスタンティン・シウトソウ(チームスカイ)が落車して脛骨を骨折。リタイア第1号となった。平坦でも山岳でも強力なテンポで集団を牽引できるシウトソウの離脱は、ウィギンズのマイヨジョーヌを狙うチームスカイにとって大きな戦力ダウンになる。

新城幸也(ユーロップカー)が落車の脇をすり抜けてゴールに向かう新城幸也(ユーロップカー)が落車の脇をすり抜けてゴールに向かう photo:Makoto.AyanoHTCハイロードでは平坦ステージの勝利を狙うカヴェンディッシュのために集団を牽引し、逃げを潰し、スプリントのお膳立てをしてきた。そして移籍したチームスカイではウィギンズの頼れる山岳アシストとして重要な局面まで仕事をする、キーとなる選手だ。ウィギンズとスカイは8人でこれから戦わなければならない。

「ウィギンズの調子には少し劣るだろう」と評されてきたカデル・エヴァンス。しかしBMCレーシングは無傷の9人。エヴァンスは言う「チーム全員が健康で欠けないことが大事なんだ。イエロージャージを狙うにはチーム全員のシリンダーが揃うこと」。ふたりのマイヨジョーヌ争いはより互角になったように思える。


ロランのアシストに回ったユキヤ

この日、アタックを決めることができなかったユキヤはピエール・ロランのアシストに回った。万一の落車でヴォクレールとの2人のエース共倒れを防ぐため、ふたりは集団の離れたところに位置し、走ったという。
ロランは2度落車して、指から血を流しながらゴール。その走りを終始助けたユキヤ。ゴールしてからはロランから感謝の握手をもらった。


photo&text : Makoto.AYANO in France
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