平均スピード40kmオーバーの記録的な速さで駆け抜けたジロ・デ・イタリア100周年大会。最後までもつれたマリアローザ争いは、終着地ローマでの個人タイムトライアルで決した。

永遠の都ローマは晴れ時々雨

ヴォットリオ・エマヌエーレ二2世記念堂前を通過ヴォットリオ・エマヌエーレ二2世記念堂前を通過 photo:Kei Tsujiついにジロがローマに終着する日がやってきた。個人的には、3週間の闘いが終わる安堵感と、翌日から行き先を失ってしまうような不安な気持ちが混じり合う。

ジロの最終個人タイムトライアルの舞台は、100周年大会を締めくくるに相応しいスペシャルコース。歴史的な建造物が建ち並ぶローマ中心部を、14.4kmかけて駆け回る。ただでさえ観光客の多いローマ市内はこの日、ジロの占拠によって大混乱。街の至る所でガゼッタ紙が読まれていた。

スタート前の選手がリラックススタート前の選手がリラックス photo:Kei Tsujiコースの大部分は黒光りした石畳で、しかもタイトコーナーが連続する。平坦基調とはいえ非常にテクニカルだ。「全国的に晴れ。午後にはにわか雨があるでしょう」という天気予報士の予想通り、レース中盤には20分間ほど雨が降った。

特に石畳区間では、路面コンディションによってコーナリングスピードに大きな差が出るのは明らか。太陽が照らすレース序盤にトップタイムを叩き出したイグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ)は、最後までホットシートを守った。


劇的な展開に持ち込まれたメンショフとディルーカの激闘

最終走者デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)が慎重にコーナーに入る最終走者デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)が慎重にコーナーに入る photo:Kei Tsuji一体誰がこんなシナリオを組んだのか。レース中盤に止んでいた雨は、ディルーカとメンショフの出走とともに再び降り始めた。

最終走者のメンショフは暫定トップタイムに肉薄するペースを刻み、初のジロ制覇に向けて猛進。メンショフのバイクはチームメイトと異なり、空力よりもテクニカルコースでのハンドリングを優先して前輪はロープロフィール。サドルにはクッション性を上げるためにテープが貼られていた。メカニック曰く、メンショフが自分で貼ったそうだ。

メンショフからマリアローザを奪回するどころか、逆にリードを奪われたディルーカが先ずはゴールに飛び込んでくる。全開で走りきり、口からよだれが流れ落ちるマリアチクラミーノは、ゴール後すぐにスクリーンに見入った。

警備スタッフに押される形でディルーカが表彰台の裏へと消えた次の瞬間、ゴール地点は一瞬凍り付いた。誰かが「カドゥート(落車)!」と叫んだ。振り返ってスクリーンを見ると、濡れた石畳に投げ出されたマリアローザの姿があった。



スクリーンに見入るダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)スクリーンに見入るダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス) photo:Kei Tsujiまさかまさかのマリアローザの落車。しかもマリアローザ獲得目前、ラスト1kmでの落車だ。辺りのイタリア人は一気にに浮き足立ち、逆転優勝の可能性が浮上したディルーカの姿を探す。あまりの劇的な展開に言葉を失い、口を開けて佇んでいる観客がフェンスの向こうに並ぶ。

バイクを交換し、メカニックに押されて再び走り出すメンショフ。「何秒失った?20秒ぐらい?」と、観客は思わず顔を見合わす。再びメンショフのタイムが計時されるまでの数秒間、イタリア人はマリアローザを着るディルーカの夢を見た。しかしメンショフが築き上げていたリードは、そんな期待を無情にも切り裂いた。

激闘を繰り広げたダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)とデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)が抱き合う激闘を繰り広げたダニーロ・ディルーカ(イタリア、LPRブレークス)とデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)が抱き合う photo:Kei Tsujiマリアローザの右半分を汚してゴールに飛び込んだメンショフは、落車したにもかかわらずディルーカを21秒、総合で41秒上回り、初のジロ制覇を決めた。2度のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝に続くグランツール3勝目。コロッセオに舞うピンクの紙吹雪の中、メンショフのガッツポーズが何度も空を切った。

ディルーカとの一騎打ちは後世に語り継がれるほどの激戦だった。「今日は人生の中で最高の一日だ。偉大なチャンピオンであるディルーカや、豪華なライバルたちがこの勝利の価値を引き上げてくれている」。レース後の記者会見で、メンショフはスペイン語で淡々と語った。

3週間の闘いを終え、総合優勝したメンショフの平均スピードは40.1km/h。これまでの最高記録だった1983年の38.9km/h(サロンニ優勝)を上回る新記録が誕生した。


来年はアムステルダムをスタート

豪快にシャンパンを飲むデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)豪快にシャンパンを飲むデニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク) photo:Kei Tsuji大きなトラブルも無く、初めてのジロ取材が終わった。ヴェネツィアをスタートしたのが3週間前とは思えない。少なくとも2ヶ月は経っているように感じる。これは毎日の細かなトラブルと移動距離の長さからだと思う。グランツール取材では平均的だと思うが、レンタカーの500(フィアット・チンクエチェント)で走った距離は5000kmを超えた。

ロシア人が制したジロ100年記念大会。2年連続海外勢のマリアローザ獲得は、地元のイタリア人には納得のいかない結果かもしれない。しかし挑戦者として連日果敢な走りを見せたディルーカの存在が大会を大きく盛り上げた。決して諦めないディルーカの熱い走りは、ラクイラ地震(イタリア中部地震)の被災者を勇気づけたはずだ。

101年目のジロは、オランダのアムステルダムをスタートする。

3週間に渡って現地レポート(という名の観戦記)をご覧いただいたき、ありがとうございました。

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