昨年10月に2012年大会のコースが発表されてからと言うもの、風光明媚なチンクエテッレを通るこの第12ステージに密かに注目していた。青い空に浮かぶ太陽の光が、青い海に反射する。わざわざこんな日にレースなんてしなくてもいいんじゃないかと思うような陽気が、スタート地点を包む。

リグーリア海を望む急峻な崖を縫って行く

山間の街セラヴェッツァのスタート地点山間の街セラヴェッツァのスタート地点 photo:Kei Tsujiスタート地点は、斜塔で有名なピサに近いトスカーナ州のセラヴェッツァ。まるで白い雪を冠しているようなアプアーネ山脈の麓にある。雪のように見えるのは大理石(石灰岩)で、スタート地点近くには採石場や加工所があちこちにある。

すぐ近くのヴィアレッジョやリード・ディ・カマイオーレは、ジロの定番通過地点であるのと同時に、イタリア有数のビーチリゾート地。燦々と照る太陽と、気温24度ほどの陽気に、大会スタッフはビーチに行きたい衝動を理性で何とか抑え込みながら仕事しているように見える。

「世界で最も美しい場所で繰り広げられる、最もタフなレース」「世界で最も美しい場所で繰り広げられる、最もタフなレース」 photo:Kei Tsujiセラヴェッツァを離れ、ビーチリゾートに沿った平坦路を通過し、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)の地元ラスペツィアを抜け、リグーリア海の山岳地帯へと入って行く。

おおざっぱに言うと地中海、細かく言うならリグーリア海。イタリア半島西部のリグーリア海には、樹々が点在する急峻な岬がいくつも大きくせり出している。海沿いに西に向かえば、ジェノヴァやサンレモ、そしてコートダジュールのモナコやニースに至る。

ラスペツィアの街を抜け、山間部に向かうプロトンラスペツィアの街を抜け、山間部に向かうプロトン photo:Riccardo Scanferla中でも有名な地域は、「5つの土地」を意味するチンクエテッレだ。「ポルトヴェーネレ、チンクエ・テッレと小島群」として世界遺産に指定されている一帯には、岬の先端や湾の内側に要塞都市が点在する。

急峻な土地柄、かつてはアプローチが海路に限定されていたが、現在では道路が張り巡らされ、トンネルと橋を多用して作られた高速道路や線路が街を繋いでいる。今やイタリアを代表する一大観光地。第12ステージはそんなチンクエテッレの景勝を堪能する157kmコースで行なわれる予定だった。

昨年10月の洪水で大きなダメージを受けたリグーリア海岸昨年10月の洪水で大きなダメージを受けたリグーリア海岸 photo:Riccardo Scanferla2012年大会のコースが発表されたのは昨年の10月16日。そのわずか9日後の10月25日に、チンクエテッレ一帯を記録的豪雨が襲った。

1年分の降水量が数時間に集中して降るという猛烈な雨。忘れてはいけないのが、樹々がまばらにしか生えない痩せた土地で、なおかつ急峻な地形であるということ。濁流が街を襲い、洪水や土砂崩れが至る所で発生した。

アンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター)やサンディ・カザール(フランス、FDJ・ビッグマット)が逃げるアンドレイ・アマドール(コスタリカ、モビスター)やサンディ・カザール(フランス、FDJ・ビッグマット)が逃げる photo:Kei Tsuji豪雨被害から7ヶ月が経ち、一帯は落ち着きを取り戻しているが、まだまだ道路の復旧作業は続いている。第12ステージのハイライトだったチンクエテッレの海に近いワインディングロードは、土砂崩れの影響で大幅にカット。スタート地点とゴール地点に変更は加えられなかったが、コースは大々的に内陸側に移された。見どころは大幅に減ってしまった。

ゴール地点セストリレヴァンテも同じくビーチリゾート地。チンクエテッレほど特徴的な地形ではないとは言え、アクセスの良さから観光地として開けている。海の臭いを含んだ風が優しくコースをなでる。

昨年もジロはこのセストリレヴァンテを通過している。第4ステージ。ワウテル・ウェイラント(ベルギー)が亡くなった次のステージで、当時はコースのあちこちに「W 108」の幕が掲げられていた。

位置的には、事故が発生した3級山岳ボッコ峠も近い。今年も変わらず街中やコース沿道には「108」の数字が多く確認される。痛ましい事故は観客たちの記憶に強く焼き付いている。

美しいリグーリア海を眺めながらプロトンが進む美しいリグーリア海を眺めながらプロトンが進む photo:Kei Tsuji
逃げに乗れなかったフミ 逃げを成就させたバク

別府史之(オリカ・グリーンエッジ)のヘルメットには「Believe」のステッカー別府史之(オリカ・グリーンエッジ)のヘルメットには「Believe」のステッカー photo:Kei Tsuji別府史之(オリカ・グリーンエッジ)は「昨日のステージは、最後の登りでFシュレクとラスムッセンのトラブルで足止めを食らって、その後メイン集団に何とか復帰したけど、下りでポジションを落としてしまった」とスタート地点で話す。

ヘルメットには、ジロ開幕を合わせてスタートさせた東日本復興支援プロジェクト「Believe」のステッカー。「未だ復興の途にある日本の現状をヨーロッパを中心に世界の人に知ってもらうこと」を目的にしたプロジェクトで、そのコンテンツ第一弾「漁業と復興」が公開されたばかりだ。

ゴールが近づき、牽制状態に入った逃げグループゴールが近づき、牽制状態に入った逃げグループ photo:Riccardo Scanferlaフミは「序盤の平坦路では逃げは決まらない。最初の3級山岳で決まる」と読む。確かにその通り最初の3級山岳で9名の飛び出したが決まった。フミは「今日は大失敗。逃げが決まる瞬間そこにいたのに…気持ちが足りなかった」と悔やむ。今大会2度目の逃げは実現しなかった。

デンマークステージで毎日アタックを仕掛けていたラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ベリソル)が、牽制し合う逃げグループの中からラスト1800mという絶妙なタイミングで飛び出した。

豪快にスプマンテを開けるラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ベリソル)豪快にスプマンテを開けるラルスイティング・バク(デンマーク、ロット・ベリソル) photo:Kei Tsuji柔らかい太陽を受けながら、何度もガッツポーズするバク。ロット・ベリソルはここまでの11ステージで、一度たりともステージ10位以内に選手を送り込めないでいた。ステージ初優勝を飾った選手のガッツポーズやシャンパンファイトは嬉しさに溢れていて撮影し甲斐がある。

一方、同じ逃げグループで走っていたヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)はテクニカルな下りで落車し、チャンスを失いかけた(逃げに復帰して4位でゴール)。どうもレディオシャック・ニッサンはつきが回って来ない。レオパード・トレックの後継チームは、このリグーリア海岸と相性が悪いらしい。

エースのフランク・シュレク(ルクセンブルク)は総合首位からすでに2分11秒遅れている。ツール・ド・フランスにシフトするため、山岳ステージ入りを前にリタイアするんじゃないかという憶測が飛んでいる。

text&photo:Kei Tsuji in Sestri Levante, Italy

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