ぱっとしない天気と、せいぜい10度程度までしか上がらない最高気温。今年で開催47回目を迎えるアムステル・ゴールドレースが、小雨降るマーストリヒトをスタートした。比較的大きな集団で「ローラーコースター(ジェットコースター)」と形容されるコースをクリアし、ゴールスプリントに持ち込まれたレースを振り返る。

丘陵地帯を駆け巡るローラーコースター

1回目のカウベルグに向かって進むメイン集団1回目のカウベルグに向かって進むメイン集団 photo:Kei Tsuji舞台となるリンブルグ州(リンブルフ州)は、オランダの南の端に位置している。ドイツとベルギーの国境が近く、まるで二国の間にオランダが無理矢理割って入ったような感じを受ける。

周辺を走っていると、いつの間にか国境を越えてベルギーに入ったりドイツに入ったり。海によって隣国と隔てられた日本に住む人間の感覚からは大きく外れている。

8つ目のロールベルグをクリアする逃げグループ8つ目のロールベルグをクリアする逃げグループ photo:Kei Tsujiリンブルグ以北、つまりオランダのその他の地方は真っ平ら。標高で色分けされた地勢図を見ると、リンブルグ以北は真緑で、リンブルグから南は無造作に紙をぐちゃぐちゃにして広げたような褐色の凸凹が広がる。

オランダ・リンブルグ地方、そしてそのすぐ隣のベルギー・ワロン地方。この2つがアルデンヌ・クラシック3連戦の舞台だ。登りの質は異なれど、3連戦に共通して言えるのは、丘陵地帯で行なわれること。特にアムステル・ゴールドレースは細かい登りが多く、その数は実に31カ所にのぼる。

グルペルベルグを登るメイン集団グルペルベルグを登るメイン集団 photo:Kei Tsuji難所はそれらの登りだけではなく、農道のような細い道や、「1000のカーブ」と呼ばれるワインディング、ロータリーのある街中、急勾配でテクニカルな下り、北から吹き付ける風など、トラップが至る所に仕掛けられている。

なお、リンブルグは今年9月に開催されるロード世界選手権の舞台だ。アムステルのコースと重複している箇所も多く、スタート地点マーストリヒトから周回コースに至るまでの行程は、アムステルのそれと類似している。

名物カウベルグも世界選の周回コースに組み込まれている。昨年シマノレーシングがヨーロッパ遠征を行なった際に拠点を置いたヴァルケンブルグの街を抜け、登坂距離1200m、高低差68m、平均勾配5.8%を一気に駆け上がるカウベルグ。中腹を少し入った場所にあるホーランド・カジノは大会スポンサーの一つだ。

シッベの下りからヴァルケンブルグの街を抜け、コーナーを曲がってカウベルグに突入するコースは共通。アムステルはカウベルグの頂上がゴールだが、世界選のゴールは頂上から更に数キロ進んだ場所に置かれる。ちょっとした下りと平地の先にゴールが待っている。

世界選でもカウベルグが決定的な勝負どころになることは間違いないが、登りで遅れた選手にも、先頭復帰の余地が与えられている。カウベルグで飛び出した単独もしくは数名の逃げ切りの可能性もあるが、小集団によるゴールスプリントも充分に考えられる。

8つ目のロールベルグを登るメイン集団8つ目のロールベルグを登るメイン集団 photo:Kei Tsuji

ローカルレースを走った土井雪広

雨のマルクト広場をスタートする土井雪広(アルゴス・シマノ)雨のマルクト広場をスタートする土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji話をレースに戻すと、スキル・シマノ改めプロジェクト1t4i改めアルゴス・シマノの土井雪広にとって、アムステル・ゴールドレースはローカルレース。これが4回目の出場となる。

ドイツ国境に近い自宅からコースまで、最も近いところで10kmほどしか離れていない。「目をつぶっていても走れる」というほど、コースを知り尽くしている。

集団前方で走る土井雪広(アルゴス・シマノ)集団前方で走る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji前夜からシトシトと降る雨が、冷たくコースを濡らしている。低い気温と長時間のレースによって、上位でゴールした選手を除いて、選手はみんな顔色が悪い。土井も例外ではなく「今日みたいに寒くて距離が長いと、視野に霧がかかったようになる。知り尽くしているコースだから走れたけど」とレース後に冗談を混ぜる。

チームミーティングで決まった土井のオーダーは「序盤はロイ(カーヴァス)とアルバート(ティマー)のアタックをサポートし、中盤に動いてハードな展開に持ち込み、終盤にシモン(ゲスク)とヤン(ウゲ)を良いポジションに連れて行く」というもの。

メイン集団の後方で走る土井雪広(アルゴス・シマノ)メイン集団の後方で走る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsujiボルタシクリスタ・ア・カタルーニャを完走後、このクラシック3連戦を見据えながらトレーニングを続け、数レースを走った土井。エースを守るために集団前方で走り、レースが加速する終盤に遅れた。

「エネルギーがあるうちは身体が軽かった。でも補給ポイントで補給が取れず、エネルギー不足もあってラスト21kmのクルイスベルグで遅れてしまった」と話す土井は、11分31秒遅れの最終集団でカウベルグにゴールした。アムステルの完走は自身2度目。

結果は伴わなかったが、土井は次なるレースに向けて感触を得ている。「SRMをみると、7時間のアベレージが260W。終盤にかけて踏めていないのに凄いデータが出ている。出し切った。調子が良いことは確認出来たし、水曜日(フレーシュ)と日曜日(リエージュ)に繋がる走りだった」。

ツール・ド・フランス出場が決まったアルゴス・シマノにとって、チーム内の出場枠争いは徐々に加熱している。「チームオーダーはこなせた」と話す土井だが、もちろんレースで結果を出してアピールしたいと願っている。そんな歯痒さを感じながらアルデンヌ初戦を終えた。


イタリア代表入りに向け大きくアピールしたガスパロット

失速するサガンを抜いて先頭に立つエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)失速するサガンを抜いて先頭に立つエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiレース後の会見で、ガスパロットは勝利の秘訣を「経験」だと話した。ガスパロットは2010年大会でジルベールとヘジダルに次いで3位。カウベルグの闘い方を知っていた。

「ペーター(サガン)のような爆発力が自分には無いということを心得ている。勾配のキツい区間をインナー39でクリアして、ゴール200m前の少し勾配が緩んだところでアウター53に入れた。そのおかげでペーターを抜くことが出来たんだ。2010年はラスト10mでヘジダルに抜かれて2位を逃した。そのことを良く覚えていたんだ」。

優勝したエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)とパオロ・ベッティーニ伊代表監督優勝したエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)とパオロ・ベッティーニ伊代表監督 photo:Kei Tsujiガスパロットにとって初のメジャークラシック制覇。現地視察に訪れていたパオロ・ベッティーニ伊代表監督に向けて、代表入りの良いアピールになったことは間違いない。「2010年のメルボルン大会ではリザーブだった。ナショナルチームのメンバーとして世界選を走ることが出来れば、それほど名誉なことはない」。

10月の世界選でイタリアチームのエースを担うと期待されていたダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)は、カウベルグの中腹で並走するラーシュペッテル・ノルダーグ(ノルウェー、チームスカイ)と接触して落車。2008年の再現はならなかった。

text&photo:Kei Tsuji in Valkenburg, Netherlands