カンパニョーロがデビューさせた電動コンポ、EPS。EPSとは、electronic power shiftの略で、カンパでは電動でなく「電子式シフト」と呼んでいる。レコードとスーパーレコードの二種類のレンジにEPSがラインナップされる。以下カンパニョーロ側の発表資料をもとに概要を説明しよう。

カンパニョーロ・スーパーレコードEPSレバーカンパニョーロ・スーパーレコードEPSレバー (c)MakotoAYANOエルゴ形状のレバー 多段シフティングが可能

EPSでは、親指で押すシフトアップレバーを「レバー3」中指で押すシフトダウンレバーを「レバー2」ブレーキレバーを「レバー1」と区別して呼ぶ。それぞれのレバーに単独の機能を割り当てているのは、レースという極限の場面においての誤作動を防ぐためで、それは機械式のエルゴパワーから共通したポリシーだ。
そして、レバー3近くには丸型のボタン形状の「モードボタン」が備わっている。このボタンを押せばバッテリーの充電状態を確認できる。長押しすれば調整モードに入ることが出来る。

スイッチにはマルチドームテクノロジーと呼ばれる技術が採用され、機械式レバー同様のクリック感を生み出している。

EPSのアドバンテージとなっている機構が「マルチシフティング」だ。これは機械式同様に「一気変速」が可能で、リア11段の変速が、アップ・ダウンともにワンアクションで行えるというもの。

EPSレバー 外側からEPSレバー 外側から (c)MakotoAYANOEPSレバー 正面からEPSレバー 正面から (c)MakotoAYANOEPSレバー 内側からEPSレバー 内側から (c)MakotoAYANO

レバー、ボディには従来通りのエルゴノミクス設計にもとづく形状が採用されている。機械式に比べてレバー3(シフトアップ)はハンドル下部を握った際により指が届きやすい位置に伸びている。スプリントの際のシフトアップ時により変速が容易な設計だ。

フロントディレイラー

フロントディレイラーは完全に電子制御となるため調整ネジに当たるものは一切ない。オートマチック・ポジション修正機構をもち、自動調整は機械側で行うため微調整は不要になっている。初期設定で位置決めをすると、機械的な調整は不要になる。ライダーはライディング設定で微調整をすることが可能だ。
電子系統は防水性が非常に高く、水深1mに30分沈めても水が浸透しない。

EPSフロントディレイラーEPSフロントディレイラー (c)MakotoAYANOフロントディレイラーへのケーブルをフレームに内蔵するフロントディレイラーへのケーブルをフレームに内蔵する (c)MakotoAYANO


リアディレイラー

ディレイラーロッド、パラレログラム、ディレイラーケージ、電子アクチュエーターによって動作するウォームスクリューから構成される。パラレログラムのジオメトリーは剛性を高め、電子部品とともに動作するように最適化される。
ロー・ボディとアッッパー・ボディ、パラレログラム、カーボンケージはスクリュー・システムとウォームスクリューで動作し、DTIと交信する電子アクチュエーターによって制御される。機構内のレゾルバによって常に動きがモニターされ、交信しながらポジションを最適に保つ。

EPSリアディレイラーEPSリアディレイラー (c)MakotoAYANOパンタグラフ上面からパンタグラフ上面から (c)MakotoAYANOロー側に変速してパンタグラフが伸びきった状態ロー側に変速してパンタグラフが伸びきった状態 (c)MakotoAYANO


バッテリーと制御システムが一体となったパワーユニット

バッテリーとして認識できるラウンド形状のユニットにはEPSの頭脳とも言える制御システムも内蔵されるため、パワーユニットと呼ばれる。バッテリーパックのモニターだけでなく、ディレイラーの動きの制御、インターフェースとの交信、アラームやブザーの動作を司る。
インターフェースからデジタル信号を受信すると、パワーユニットは独自のアルゴリズムでその信号を処理し、ディレイラーを動作させる。すべての動きを司るEPSの頭脳とも言えるユニットだ。

パワーユニットがEPSのあらゆる操作をつかさどるパワーユニットがEPSのあらゆる操作をつかさどる (c)MakotoAYANO充電状態などをシグナルで確認できる装置 レバー操作をデジタル信号に変換する充電状態などをシグナルで確認できる装置 レバー操作をデジタル信号に変換する (c)MakotoAYANO


システムの電子機器はこのユニットに内蔵されるため、外的な要因(水、オイル、泥、埃など)に対して
影響を受けにくい。すでに北のクラシックに代表される過酷な使用環境のおいてもプロチームの使用に耐えた実績がその機能を保証する。
電子式のネックと考えられる防水性能においては、非常に高い防水性能が実現されており、防塵・防水性を表す規格でIP67(International Protection)レベルを実現しているとのことだ。

バッテリーにはリチウム・イオンが採用され、フルチャージされると通常11.1ボルト、最大12.6ボルトで動作する。月2000kmの走行を行う場合、一ヶ月に一回程度の充電が必要。使用状況にもよるが充電は約500回可能だ。
バッテリー充電器は、電圧110Vから240Vまで対応。オプションでシガライター用ソケットも用意されている。

パワーユニットからのケーブルがフレームに内蔵されるパワーユニットからのケーブルがフレームに内蔵される (c)MakotoAYANOバッテリー充電器  シガーライターソケットも用意されるバッテリー充電器 シガーライターソケットも用意される (c)MakotoAYANO


システムを停止するためのスイッチ・オフ・マグネット メンテナンス時などに使用するシステムを停止するためのスイッチ・オフ・マグネット メンテナンス時などに使用する (c)MakotoAYANOEPS対応フレームはケーブルがインナールーティング(内蔵)のみという指定のため、ケーブルが内蔵できない非対応フレームには使用することができない。

保証はEPSの9つのパーツ全てを同じショップでフレームと併せて購入し、かつそのショップで組み付けた場合にのみ適用されるという。保証は2年間で、これは全世界共通だ。
現在のところEPSは世界共通の技術セミナーを受講したプロショップでのみ購入することができる。

2012年シーズンは、UCIプロチームでじつに4チームがEPSを使用する。チームモビスターとロット・ベリソルは全員の選手が使用し、ランプレとユーロップカーはトップ選手へのみ供給される。カンパニョーロのサプライするプロチームの全てのチームがEPSを使いたいと希望するが、チームが使用するフレームがEPSに対応していない場合があるため、それらのチームは機械式を使っている状況だという。

ピナレロ・ドグマ モビスターレプリカピナレロ・ドグマ モビスターレプリカ (c)MakotoAYANOプロが使用するプロト自体は2005年から実戦使用されているという点でシマノよりも開発は早くから始まり、テスト期間が長かったカンパのEPS。ようやくの商品化は、カンパファン待望のものだった。

今回使用感をテストしていただいたテスター2人は、いずれもセミナーを受講し、販売資格を獲得したプロショップの店長だ。このテストロケ自体はセミナー受講前に行ったため、テスト項目は使用感のみに限らせていただくことを了承いただきたい。

なおテスト車両にはピナレロジャパンの協力を得てピナレロ・ドグマ モビスターレプリカを使用した。プロが使用するモデルとほぼ同一のレプリカモデルであり、完成車状態でイタリア・ピナレロ社から輸入されたものだ。現時点で数少ないEPS正式対応モデルであり、モビスターチームによって2011シーズンをフルに闘ったドグマは、他社にないアドバンテージとなっている。


「操る悦びがある電動コンポーネント」吉田秀夫(盆栽自転車店)

レバーは機械式と同じ形状だという発表だが、テスターは2人とも形状の違いを感じたレバーは機械式と同じ形状だという発表だが、テスターは2人とも形状の違いを感じた (c)MakotoAYANO私は今までずっとカンパニョーロを愛用していますが、まずテストしてみたところレバーの形状が太く変わっていたのにすごく驚きました。一見すると分かりませんが、握ってみると確かに差異を感じることができます。ずっと形状を変えてこなかったカンパニョーロですがここに来て変えてきたことは、私はカンパニョーロにとっての大きな変革だと感じました。(※)

レバー自体が太くなっているので、手の小さな方は苦手意識が出てしまうかもしれないと思いました。少し欧米向けなチェンジと言えるのではないでしょうか。しかし逆にレバーの形状が変わったことに同調して、これまでのモデルと比較してシフトレバー(シフトアップに使用する第3レバー)が少し下方に伸びています。

これによりシフトレバーが下ハンドルと近くなっているので、下ハンドルを持っている際にシフトアップが行いやすくなっていますね。今までシフトレバーに指が届かずに、上ハンドルに持ちかえたりしていた方にとっては大きなメリットとなるのではないでしょうか。

軽いタッチで操作が可能だ軽いタッチで操作が可能だ (c)MakotoAYANO上部からの操作はフィット感もいい上部からの操作はフィット感もいい (c)MakotoAYANO


電動コンポーネントのメリットの1つとして、やはりフロントの変速の有利性が挙げられます。このEPSも同様で、フロント変速は素速く、確実で楽です。スイッチをワンプッシュするだけで変速してくれるのは非常にメリットでしょう。
リアディレーラーの変速もフロントと同様に良いですね。

小さな作動音で小気味良い確実な変速が得られる小さな作動音で小気味良い確実な変速が得られる (c)MakotoAYANOEPSの売りとなっている、いわゆる一気変速が可能な「多段変速機構」は、変速に要する時間を短くすることができるので良いと思います。しかし、例えば2段だけ変えたい、3段だけ変えたい、といった場合にはスイッチを押している時間で調整するしかないので、慣れが必要だと思います。

変速状況はモーター音で判断できますが、交通量の多い道路を走っているような状況だと、作動音が静かなためライダーにも聞こえませんので、慣れと経験が必要となってくるでしょう。

EPSの組み付けに関しては電動コンポーネント専用フレームが必要とのことですが、今のところ完全に対応フレームを生産しているメーカーは少なく、あってもこのピナレロ・ドグマのようにラインナップの最上級モデルであることが多いので、パーツがフレームを選んでしまう現状があります。

コンポーネントの組替え需要はユーザーが手持ちのバイクに対して行うことがほとんどですので、EPS用にフレームを購入する方がどれくらいいるのかは疑問符がついてしまうと思います。

しかしそれを含めても、見た目、機能ともに非常に所有欲を満たしてくれるコンポーネントとなっています。操作する感じも既存のカンパニョーロ製品と同じく、ライダーが制御する楽しさや操る悦びが残されており、いかにも"カンパニョーロらしい" コンポーネントではないかと感じることができました。


「本当の意味でのプロフェッショナルコンポーネント」諏訪孝浩(BIKESHOP SNEL)

下ハンドルを持った際の変速操作性の良さは大きなメリットだ下ハンドルを持った際の変速操作性の良さは大きなメリットだ (c)MakotoAYANOテストしてみての第一印象として、とても良い変速感を感じることができました。
フロントの変速は特に良いと感じました。チェーンにテンションを掛けている状態でもしっかりとズレることも無く変速してくれたので良かったと思います。私もカンパニョーロの11スピードを使用した経験がありますが、ワイヤー式のコンポーネントがそのまま電動になったような、ごく自然なフィーリングです。

多段変速はワイヤー式に比較してとても速いですね。端から端のギアまで一気に変速するシチュエーションはあまり無いと思いますが、ストレス無く舐めるように変速していく様には驚きました。とてもスムーズですね。勾配が急に変化するような場面で、数段変速したいような時にメリットになってくれるのではないでしょうか。ワイヤー式に対しての優位性は確実にあると思います。

レバー形状も変更がされていますね。加えてブラケットの握るポジションが以前と比べて深くなっていますが、私は握り易いと感じました。

ブラケット形状 カンパニョーロ公式発表では機械式と同一の形状とのことだブラケット形状 カンパニョーロ公式発表では機械式と同一の形状とのことだ (c)MakotoAYANO電動専用のフレームでないと組み付けができないとのことですが、今のところ電動コンポ専用フレームは市場にきわめて少ないので、今後EPSが広まるのにはやはりこの点がネックとなってしまうでしょう。新車をまるまる一台購入することになるので、購入するとなるとかなり高くついてしまいますね。このあたりに関しては今後のメーカーの動きに期待したいと思います。

セッティングに関してはとてもシビアですので、しっかりとした技術のあるプロショップで組み付けを行うのが良いでしょうね。価格やそういった意味でも本当のプロ用コンポーネントだと思います。性能は折り紙つきですので、お財布に余裕のあってカンパ好きな方にはオススメの逸品だと感じます。


※カンパニョーロ・ジャパンからのコメント
普段からカンパの機械式エルゴパワーレバーを使用するテスター2人ともがEPSのレバー・ブラケット形状について「形状が大きく異なる」という感想をもたれましたが、機械式エルゴパワーレバーとジオメトリーは同一です。レバー内側下部の電子ユニット内蔵部が少し膨らんでいますが、握らない部分に当たるので、意識して触らないと違いは分からない部分です。

EPSの調整についてはシビアというイメージを持たれていますが、機械式の組み付けをマスターしたショップの方で
技術セミナー受講を済まされた方であれば、機械式よりも組み付けと調整が簡易であるはずです。お二人がセミナー受講前にテストされたために持たれた感想であると考えます。

3月上旬現在のEPS対応フレームは、ピナレロが4モデル、カレラ4、コルナゴ5、ボッテキア2、ウィリエール1、ミヤタ1モデルとなっており、今後増えていきます。



インプレライダーのプロフィール

吉田秀夫吉田秀夫 吉田秀夫(盆栽自転車店)

東京・千駄ヶ谷にある「自転車屋カフェ盆栽自転車店」のプレジデント。かつては実業団トップカテゴリーを走り、ツアー・オブ・ジャパンやツール・ド・熊野など国際レースも多数出場。2011年の独立開業後に自身のクラブも立ち上げてロードレースからシクロクロスまで鋭意参戦中。ファッションサイクリストをレペゼン。自転車における速さだけではない分野においても同時に深く追求し続けている。
盆栽自転車店

諏訪孝浩諏訪孝浩 諏訪 孝浩(BIKESHOP SNEL)

バイクショップスネル代表。自転車歴26年、過去にオランダのアマチュアチームに3シーズン在籍しクリテリウムに多数参戦。オランダクラブ内クリテリウム選手権3位など。
2008年3月に東京都大田区にショップをオープン。オランダで色々なショップを見てきた経験を元に、独自のセンスでショップを経営中。主にシクロクロスをメインに参戦し、クラブ員の約半数がシクロクロスに出場している。
BIKESHOP SNEL


ウェア協力:スゴイ(SUGOi)


edit:Makoto.Ayano
photo:Makoto.Ayano
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