この週末、1月28日(ジュニア、アンダー23)、29日(女子、エリート男子)にベルギーの北に位置するコクサイデでシクロクロス世界選手権が開催される。ベルギー勢が自国開催の意地をかけ、世界王者、ゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップ・オメガファーマ)からのアルカンシェル奪還に燃えるだろう。日本からは全日本王者の竹之内悠(チームユーラシア)ら7名の選手が参戦する。

シクロクロス世界選手権2012日本ナショナルチームシクロクロス世界選手権2012日本ナショナルチーム photo:Sonoko.Tanaka史上最高の盛り上がりを見せる、ベルギー・コクサイデ

シクロクロス王国、ベルギーでの世界選手権開催は2007年以来の8回目となるが、コクサイデのサーキットは毎年ワールドカップに組み込まれるため、ファンや選手にとってはお馴染みのコースといえるだろう。空軍基地内に設営されるコースの特徴はなんといっても、1周2.9kmの1/3以上、1060mにも及ぶ砂地だ。果てしなく続く独特な砂地がこのコースの代名詞ともなっている。

地元の小学生と握手を交わす辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)地元の小学生と握手を交わす辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo:Sonoko.Tanakaベルギー国内での盛り上がりは連日のように報道されている。お祭り騒ぎが大好きな国民性、すでに4万枚の前売り券が売り切れ、予測される入場者数は7万人とも! 主催者からのリリースによるとVIPは4,500人、ボランティアを含め、大会開催に携わるスタッフは2,000人、用意されるビールは3万リットルにも及ぶという。わずか3km弱のサーキットにいったいどうやってそれだけの人数が入るのだろう? 現場にいる私は考えると、思わずゾッとしてしまうほど。


世界王者スティバルに挑む鉄壁のベルギーチーム

ワールドカップ・フランス大会で優勝したゼネク・スティバルワールドカップ・フランス大会で優勝したゼネク・スティバル photo:Sonoko.Tanaka男子エリートの主力選手を紹介しよう。まずは爽やかな好青年、ディフェンディングチャンピオンのゼネク・スティバル(チェコ、オメガファーマ・クイックステップ)。昨年の世界選手権は圧倒的な強さで2連覇を達成したものの、2011シーズンは本格的にロードレースに参戦したため、昨年ほどの好調さはないのでは?とも言われていたが、1月に入りフランス・リエヴァンで開催されたワールドカップで優勝。順調に調子を上げ、世界選手権3連覇をめざす。

ケビン・パウエルズ(ベルギー、サンウェブ)ケビン・パウエルズ(ベルギー、サンウェブ) photo:Sonoko.Tanakaベルギー勢の人気は大きく2選手に分かれる。一人は35歳のベテランであり今年のベルギー選手権で圧勝したスヴェン・ネイス(ベルギー、ランドバウクレジット)。今シーズン、ほぼ同じコースレイアウトで開催されたワールドカップの勝者であり、2013年、アメリカで開催される世界選手権での引退を表明しているため、自国開催の世界選手権は今回かぎり。数多くの輝かしいキャリアを持つ彼だが、世界選手権を制したのは2005年の1度だけ。世界選手権との相性の悪さが指摘されているが、気迫の走りでアルカンシェル奪還を狙う。

クラース・ヴァントウナート(サンウェブ)クラース・ヴァントウナート(サンウェブ) photo:Sonoko.Tanakaそして実力、人気ともに急上昇中なのが、ケビン・パウエルズ(ベルギー、サンウェブ)。27歳の中堅選手で、先週末に最終戦を迎えたワールドカップのシーズン王者。ジュニア、アンダー23で世界チャンピオンに輝いている。もの静かな性格で、自転車選手だった兄を2004年に亡くし、深い悲しみを乗り越えた先の活躍に人情厚いベルギー人たちの心は揺さぶられている。ネイスが優勝したコクサイデのワールドカップで最後までネイスと競り合い、最終ストレートでやや進路を妨害されるような形で2位に入った。いまもっとも勢いに乗る選手だ。

ほかにベルギーナショナルチームは2009年の世界チャンピオン、ニールス・アルベルト(BKCP・パワープラス)、ワールドカップ上位に入るクラース・ヴァントウナート(サンウェブ)、トム・メーウセン(テレネット・フィディア)、ロブ・ペーター(テレネット・フィディア)、バルト・アールノウト(ラボバンク・オフロードチーム)と、強力な布陣で自国開催のビッグレースに臨む。ベルギー勢が表彰台を独占することも大いに考えられるメンバーだ。

フランスの前チャンピオン、フランシス・ムレー(FDJ・ビッグマート)や、アメリカチャンピオン、ジェレミー・パワーズ(ラファ・フォーカス)らの活躍にも期待したい。


ワールドカップ・オランダ大会を17位で終えた沢田時(チームブリヂストン・アンカー)ワールドカップ・オランダ大会を17位で終えた沢田時(チームブリヂストン・アンカー) photo:Sonoko.Tanakaトップ10入りが期待される沢田時

辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)は昨年末から、日本チャンピオンの竹之内悠(チームユーラシア)と豊岡英子(パナソニックレディース)は2週前のワールドカップ・フランス大会から参戦し、先週のワールドカップ・オランダ大会でナショナルチームと合流。世界選手権には、ジュニア3選手/沢田時(チームブリヂストン・アンカー)、横山航太(快レーシング)、中井路雅(瀬田工業高校)と宮内佐季子(クラブヴィエント)を含めた7名の選手が出走予定となっている。

試走を終えた竹之内悠(チームユーラシア)試走を終えた竹之内悠(チームユーラシア) photo:Sonoko.Tanakaナショナルチームは水曜日に現地入りし、サーキットまで3.5kmという距離のデパンヌの街に滞在している。木曜日、金曜日と不安定な天候が続いたが、サーキットに出掛け、日本では経験することが難しい、独特な砂のコースで試走を重ねた。

試走中の沢田時(チームブリヂストン・アンカー)試走中の沢田時(チームブリヂストン・アンカー) photo:Sonoko.Tanaka日本勢の注目は、昨年の世界選手権、ジュニアカテゴリーで日本人歴代最高位となる16位に入った沢田時。ジュニアカテゴリー最後となる今年は、昨年以上の上位入賞が期待されている。

「トップ10に入る選手はみんな優勝をめざしています。もちろん自分も優勝することを考えて走りたいと思っています。先週のワールドカップは17位で、数字としては悪くありませんが、自分は納得していません。スタートが良かった分、後半セーブしてしまって、落車に巻き込まれてしまう場面もありました。世界選手権では最高のレースをしたいと思います。よい部分を繋いでいって、積極的に走りたいです。砂のコースは、周りの選手の影響で思うように走れないと思いますが、できるだけ難しい場面を予測して対応しながら走りたいと思います」とコメント。

またエリートカテゴリーでは、昨年の全日本選手権で9連覇中の辻浦圭一を破るなど、急成長を遂げる竹之内悠に注目したい。2週前のワールドカップ・フランス大会では、自身最高位となる33位でフィニッシュ。名だたるトップライダーの背中が見える距離でのレースだった。試走を終えた感触は上々。ジュニアカテゴリーから世界選手権を走り、昨年は代表メンバーに選ばれず、悔しさを味わった彼が、今年は大きく羽ばたいてくれるだろう。


text&photo:Sonoko Tanaka