海外をベースに活動するチームユーラシアが混成チームでフランス領ギアナの9日間・1184.9kmのステージレースに挑戦した。若手中心のメンバーで走ったレースは、ツールの国フランスの影響を受けた「第三国」とは言えない素晴らしいレースだった。 橋川 健監督がレポートする。

ツール・ド・ギアナに出場したユーラシア混成チームツール・ド・ギアナに出場したユーラシア混成チーム 3月に知り合いのスロバキア人の監督から「ツール・ド・ギアナに出場しないか?とても良い運営のレースだよ!」と誘われ「是非行きたい!」と即答したものの、GUYANE? ギアナはアフリカだと思っていたら、実は南米大陸の北東部、大西洋に面したフランス領ギアナのことでした。

ネットでギアナについて調べると、フランス領ギアナ(仏: Guyane francaise)は、南アメリカ北東部に位置するフランスの海外県ならびに海外地域圏(レジオン)。西にスリナム、南と東をブラジルと接し、北は大西洋に面する。北海道ほどの面積に人口22万9,000人が暮らす。県都はカイエンヌ。

…いまひとつ良く分からない地域だけど、「良い運営のレース」と言う言葉を信じて、とにかく行く事を決めた。

今回のギアナ参戦ではエカーズ(エキップアサダ)と湘南ベルマーレから選手をレンタルさせていただいて参戦が実現した。ユーラシアの選手だけでも参戦する事は可能だったのだが、他チームとのレース環境の共有を実現させる事ができれば、選手にとって様々なチャンスが広がってくる。また若い選手達にとって異なる環境で走るという事は良い刺激になると思ったからだ。日本選手団は以下の構成で臨むことにした。

チームプレゼンテーションで紹介されるチームユーラシア混成チームチームプレゼンテーションで紹介されるチームユーラシア混成チーム 竹ノ内 悠 (チームユーラシア フォンドリエストバイク)
中山 卓士 (チームユーラシア フォンドリエストバイク)
藤岡 徹也(チームユーラシア フォンドリエストバイク)
大場 政登志(チームユーラシア フォンドリエストバイク)
内山 巧崇 (エカーズ)
武田 耕大 (湘南ベルマーレサイクルロードレースチーム)
監督  橋川 健(チームユーラシア フォンドリエストバイク監督)
スタッフ アルノ・ベログストラーデ


予想以上に規模の大きな9日間の国際ステージレース

チームプレゼンテーションも盛大に行われた。大会にはフランス本土から2チーム、ドイツ、オランダ、スロバキア、日本などの他に、フランス海外県のマルティニック、グアドループなど8チームが招待を受け、20チーム・120名が9日間・11レース、1184.9kmで行われたレースに挑む。
アマチュアカテゴリー(UCI 1.12カテゴリー)で8チームもの海外招待チームが参加し、9日間のステージレースは世界的にも類を見ないと思う。それではステージごとの走りと、そこで感じたことをレポートとして綴ろう。

レースのスタートを待つ選手達。様々な地域から選手が集まり、国際色豊かな大会となったレースのスタートを待つ選手達。様々な地域から選手が集まり、国際色豊かな大会となった

第1ステージ カイエン~ロウラ 137.6km

17名の逃げに加わった中山 卓士。幸先の良い積極的な走りにチームの士気が上がった17名の逃げに加わった中山 卓士。幸先の良い積極的な走りにチームの士気が上がった スタート直後からアタックがかかり、前半から中山が逃げに乗った。その逃げも竹之内のアタックが吸収され、そのカウンターが決まった。チームとしてきちんと形が出来た中で決めた逃げはとても有意義なものだ。
先頭集団の17名は後続に6分のタイム差をつけ、決定的かと思われたが、ラスト50kmで先頭でアタックがかかり4名が先行し逃げ切った。中山は追撃の5名に加わったがラスト15kmで集団に吸収された。今日のレースでスタート直後にメカトラで遅れた藤岡がリタイヤになった。

区間優勝Ruffine Joann
総合リーダー Ruffine Joann

海外のレースにおいて初の表彰台に上がった竹ノ内悠海外のレースにおいて初の表彰台に上がった竹ノ内悠 第2ステージ-A カイエン~マッコウリア 117.7km

前半に決まった 17名の逃げグループに中山と竹之内の2名が加わり、ラスト10kmで竹ノ内のアタックをきっかけに3名で飛び出した。後続から集団が6秒差で追い上げている中「逃げ切りたかった」竹之内が早目に先行し、3位に入賞した。
「勝ちを狙うため」に牽制し「一か八か」の勝負をするのも悪くないと思うが、まだ海外で3位入賞経験のない竹ノ内にとって「確実」に3位に入賞する事の方が将来的には良い経験になると思う。

区間優勝Gabriel Cyril 
総合リーダー Ruffine Joann


第2ステージ-B マッコウリア~モントシネリー 19.1km 個人タイムトライアル

市役所から観戦する人達。各地を転戦しながら毎日激励を受けた。日本人にもとてもフレンドリーな地域だった市役所から観戦する人達。各地を転戦しながら毎日激励を受けた。日本人にもとてもフレンドリーな地域だった 午前のステージで逃げきりで3位に入賞した竹ノ内が個人総合で6位まで上がった。竹ノ内には全力で走るよう指示するが、午前中の疲労もありタイムは伸びず、トップから約5分遅れで総合成績を65位まで落とした。ユーラシアのメンバーで一番良かったのが大場。ディスク無し、TTバー無しで臨んでトップから4分遅れ、平均時速は40.2k/h だった。因みに優勝したRuffineは平均時速46.79k/h。あらためて日本選手のTTの弱さを見せつけられた。

区間優勝 Ruffine Joann
総合リーダー Ruffine Joann


第3ステージ カイエン~シナマリー 118.5km

ギアナの「オタク」が日本選手を応援してくれた。ちなみに彼の着メロは「ワンピース」だったギアナの「オタク」が日本選手を応援してくれた。ちなみに彼の着メロは「ワンピース」だった 前半から9名が抜け出し、ここにユーラシアは加わらなかった。総合リーダーを介するグアデループはチームの総合力で一際抜きに出ており、2分前後で「泳がせた」後、ラスト10kmを切ってから吸収。最後は集団スプリントとなった。大場、中山、竹之内、武田、内山各選手ともに集団でゴールした。

区間優勝 Hochstrasser Benjamin
総合リーダー Ruffine Joann



第4ステージ シナマリー~セイント ロウレント 145.9km

前半に平坦基調が続いた後、後半の60kmくらいからアップダウンが続く。総合リーダーを介するグアデループのチーム力が高いので、総合で逆転を狙うマルティニックチームや、ドイツのクラブチームなどが攻撃してくると予測され戦略を考えた。
グアデループとしては2~3人の逃げを泳がせるのが理想のハズで、大場、武田は前半の逃げを狙っていく。そして、竹之内、中山は後半のアップダウンの区間で本命が動いた時に対応できるようにアドバイス。

リーダーに立った選手。普段は郵便配達員で今季フランスエリートカテゴリーで3勝しているリーダーに立った選手。普段は郵便配達員で今季フランスエリートカテゴリーで3勝している 最初のアタックは大場のアタックをきっかけに7名が先行。その後、武田を含めた追撃が加わり29名の大集団となる。ここにマルティニックは6名中5名を送り込む!予想よりも早い攻撃だったが、ユーラシアも武田、大場が加わっているのでよしとする。

後半のアップダウン区間で集団が分裂し、10名が先行。大場、武田は遅れて集団に吸収された。リーダーが集団から飛び出し竹之内も追撃に加わったが、集団がうまく協調せず大集団に吸収された。
先頭10名は逃げ切り、フランス北東部のモゼル県ムルト地域選抜の選手が総合リーダーとなった。後続の集団で竹之内14位、中山15位、大場、武田も同集団でゴール。内山は後半に遅れ約15分遅れで完走した。

フランス本土北東部のモゼル県ムルト地域選抜のBetard Christopheが総合でリーダーに立った。普段は郵便配達員として働いている。今季フランスエリートカテゴリーで3勝している。

区間優勝 Buzare Maurice
総合リーダー Betard Christophe

雑魚寝の夜は"トップシークレット"

自分で洗車メンテナンスを行うオランダのHereijgers Kobus。U23ながら個人総合成績15位でフィニッシュ自分で洗車メンテナンスを行うオランダのHereijgers Kobus。U23ながら個人総合成績15位でフィニッシュ この夜、ゴール後に宿泊した町はSaint Laurentという小さな町で、ホテルも数軒。そこに120名の選手とスタッフ、主催者等々が押し寄せ、どこも満室状態。そしてダブルベッドに男2人が寝るという恐ろしい事態になってしまった...。部屋割りについては監督の権限で決め、その内容についてはこのレースで使ったIRCタイヤの商品名にちなんで「トップシークレット」と言う事で…(笑)

このレースはアマチュアによるレースで、フランスでのカテゴリーは「エリート1+2」となる。参加しているチームもクラブチームがメインで、「ほどよくいい加減」な空気が全体に流れている。例えば、多くの選手たちは自分で洗車、メンテ、空気入れ等々自分でやっている。監督、メカニックはボランティアで来ているスタッフが多い。

スタート前に日焼け止めを塗る現地オートバイ審判スタート前に日焼け止めを塗る現地オートバイ審判 ユーラシアの選手達にはできるだけの事はしているが、それでも飲みたい時にコーラが飲めなかったり、バナナが食べられなかったり、それなりの不自由は強いていると思う。
しかし、それがアマチュアのレースであり、今の日本のアマチュア選手たちの実力である。「フルサービス」を受けたければ実力をつけてプロになれば良いだけの事である。日本のチームの中には、選手たちに対して「行き過ぎたサービス」をしていると感じる事が度々ある。それが当たり前のことと「勘違い」している選手が一部いる事を、とても残念に思う。




第5ステージ セイント ロウレント~シナマリー 145.4km

ビーチで朝食。緊張したツアー中でもちょっとした「心地好さ」が選手やスタッフにとって大事な息抜きとなるビーチで朝食。緊張したツアー中でもちょっとした「心地好さ」が選手やスタッフにとって大事な息抜きとなる レースは前半からアタックが続き、中山が積極的に動くが決まらず、ここ一番で動いた竹之内が50km過ぎ、9名の逃げに乗った。この9名の中に総合成績で1分遅れのギアナ地域選抜の選手、総合リーダーを介するフランスの地域選抜の選手が加わった。逃げは集団から3分先行した。この時点で、暫定でギアナの選手が総合でリーダーになるが、後に先頭集団から遅れた。そこで暫定リーダーになったのが、フランス地域選抜で2分遅れの選手。
後続の集団はフランス地域選抜が追撃の手を緩めるが、ドイツのクラブチームが追撃を開始。その差を詰めて行く。
ラスト20kmを切り先頭集団が分裂。5名が抜け出し、ここに竹之内が加わる。ラスト10kmで45秒。集団が追い詰める中、ラスト1km、竹之内が単独でアタック。しかしスプリントに向けてペースを上げた集団に飲み込まれてしまった。ゴールスプリントでは中山が15位でフィニッシュした。

区間優勝 Joseph Marc
総合リーダー Betard Christophe




第6ステージ シナマリー~マトゥリー 127.5km

ペットの猿を見かけた。ジャングルで生け捕りにしたのか…?ご婦人の様子を見る限り「愛されている」ようであるペットの猿を見かけた。ジャングルで生け捕りにしたのか…?ご婦人の様子を見る限り「愛されている」ようである 明日第7ステージは今大会最大の山場のステージを迎えるので、総合に絡んでいる選手は「受身」 の選手が多い。その隙をついて区間優勝狙いで動いてくる選手、そこに便乗して総合成績で順位をあげることを考えている選手...様々な思惑が絡んでいるが、 とにかく逃げが出きる事は予測できる。前半のアタックには大場、武田に逃げに乗るように指示。後半のアタックに関しては明日が山場なので竹之内、中山は 「無理」しないで逃げに乗れそうなら動く、事を指示した。

スタート直後のアタックに大場と武田が反応。約15名の逃げができるが、約30分で吸収された。その後も激しくアタックが繰り返され、中山も積極的に動くがきまらない。

60kmを過ぎて5人の逃げが決まった。そしてそこに乗ったのは昨日逃げ続けラスト1.5kmで単独アタックをした竹之内。5人は最大で2分を先行するが、ラスト10kmでは1分まで詰められる。そこで逃げに加わっていたオランダ人がメカトラで遅れ4名、実際にローテーションが行われていたのは3名だったのでかなり厳しい状況だったが最後まで逃げ切り4名のスプリントへ。

ジャングルの中の一本道をレースは進んだジャングルの中の一本道をレースは進んだ 竹之内は4位に終わった。今日はオメデトウは無かった。竹之内の「めっちゃ悔しいです」に対し「残念だったね」と言うのがどちらも本心だったと思う。
一回も前に出ずに「簡単に」3着に入るギアナの選手が入れば、「苦労して」3着に入る選手も入る。どちらも3着の価値に差があるわけではない。しかし、苦労して得たものは、その経験が後になってきっと生きてくると思う。
チームとして理想的な形でレースを進める事ができた。竹之内はもっと勝つことに執着しても良いと思うし、それができればこのカテゴリーで優勝も狙えると手ごたえを感じた。


第7ステージ カイエン~レジナ 124.5km

今日は最大の山場。予想通り前半からアタックがかかり4名が先行。フランスのチームがこれを追う。
60kmを過ぎて登り区間が始まる。ここでペースが上がり集団が分裂。先頭集団に中山が加わるが、後に集団に吸収される。80kmを過ぎて10名が先行。ここにユーラシアは誰も加わる事はできなかった。この10名から第3ステージまでリーダージャージを着ていたグアダループのRuffine Joannを含めた3名が抜け出し、さらに終盤に単独で抜け出したRuffineが区間優勝し、総合リーダーのジャージを奪い返した。

橋を渡る。大自然の中をレースは進んだ橋を渡る。大自然の中をレースは進んだ 後続の集団は逃げていた選手たちを吸収し約25人の集団となり中山、竹之内、武田の3名が残ったがスプリントになり中山が10位前後でフィニッシュ。竹之内は13位だった…のだが、中山の着順に判定ミスがあり降格されていた。抗議したのだが、覆る事は無かった。

区間優勝 Ruffine Joann
総合リーダー Ruffine Joann


第8ステージ カイエン~クル 125.4km

前半から大場が積極的に動き、単独のアタックを2回決めるが、タイミングが悪かったのか泳がされて終わる。中盤から中山がオランダ+ドイツ他の選手4名と逃げを決めるが、約1時間で吸収。その後竹之内が単独アタックを試みるが約5kmで吸収。さらにラスト1kmで再び竹之内がアタックを決めたが、集団に飲み込まれた。

区間優勝 Carene Boris
総合リーダー Ruffine Joann

第8ステージ クル-クル 10.1km 個人TT

優勝は総合でトップのRuffne。日本人選手トップは大場が2分32秒遅れで43位だった。

区間優勝 Ruffine Joann
総合リーダー Ruffine Joann


第9ステージ カイエン~カイエン 113.2km

フランス領ギアナは移民の国。クレオール人とアフリカ系黒人が66%だけあって黒人選手の活躍が目立つフランス領ギアナは移民の国。クレオール人とアフリカ系黒人が66%だけあって黒人選手の活躍が目立つ いよいよ最終日。これまで大場が前半から積極的に動いているのだが、タイミングが悪いのか単独になる事が多かった。そしてこの日も単独でのアタックとなってしまい、「またか...」と思っていたら、総合リーダーを含めた中間ポイント賞狙いの選手達が動き出し、7名の逃げが決まった。しかし中間スプリントを過ぎて上位陣はエスケープをやめてしまい、集団に吸収された。
グアドループ地域選抜が集団をコントロールする中、ラスト15kmでドイツのSholzが単独でアタックを決めた。竹ノ内が追撃で集団を飛び出すがドイツの選手に追いつく事ができず集団に吸収された。ドイツのSholzは逃げ切って優勝した。

区間優勝 Sholz Timo
総合リーダー Ruffine Joann


ヴォクレールも海外県育ち フランス自転車界の飛び地

今回、絶対的な力の違いを見せつけたフランス領グアドループのRuffine Joann は現在23歳。スプリントでも山岳ステージでもタイムトライアルでも、際立った強さを見せていた。
グアドループはフランスの海外県で、人口44万人。フランスからの経済援助により自転車選手の育成が盛んで、ロードレースは年間で60レース前後行われ、今年ツールに参加したヨアン・ジェヌ(チームユーロップカー)もグアドループ出身だ。
更に今年のツールでマイヨジョーヌを着る大活躍をしたトマ・ヴォクレールは、7歳でカリブ海のフランス海外県「マルティニック」に移住し、12歳で自転車レースを始め、フランス本土に戻る17歳までを過ごしていている。

一方アフリカでもUCIが経済支援を行いコンチネンタルチームが活動している。黒人選手の成長と活躍は僕たちの知らないところで進んでおり、ツール・ド・フランスでイエロージャージを獲得する日も遠い将来では無いと思う。

また、ユーラシアの選手もベルギー3シーズン目の中山、2シーズン目の竹ノ内を中心に、ステップアップしている事を確認できた。選手達がステップアップしていく中で、チームとしても「若手選手の育成」を柱にステップアップしていかなければならないと感じた。僕の来季に向けての課題としたい。


レースを終えて記念撮影。素晴らしい経験になったレースを終えて記念撮影。素晴らしい経験になった 第22回 Tour de Guyane 2011 総合成績
1位 Ruffine Joann 28h08m08
2位 Le Roy Adrien +1m55
3位 Betard Christophe +2m02
30位 竹ノ内 悠 +11m26
35位 中山 卓士 +14m18
40位 武田 耕大 +15m34
44位 大場 政登志 +17m54
79位 内山 巧崇 +52m45


photo&report:橋川 健(チームユーラシア フォンドリエストバイク監督)
photo:Jody AMIET