スポーツとは、政治とは関係なく常にフェアであるべきだ。イタリア北部で行われた一つのロードレースが、政治活動の恰好の広告の場となってしまった。

デモによる道路封鎖を伝えるレース主催者デモによる道路封鎖を伝えるレース主催者 (c)CorVosツール・ド・フランスではピレネーにさしかかった際に「バスク」の旗が、ベルギーのレースでは黄色地に黒いライオンの「フランドル」の旗がはためく。ナショナリズムにもとづいたこの熱狂的現象はいつも見られる。

パリ~ルーベのアーレンベルグでいつも見られる 「the Dirk Hofman Motorhomes」のサインは画面に映る位置を計算した、巧みで目障りなゲリラコマーシャルだ。
しかし、イタリアの「北部同盟」は勝手が違う。Dirk Hofman のようなユニークさが何一つない。

「北部同盟」はイタリア北部の分離・独立を支持している右翼思考の強い政党である。彼らのシンボルである「白地にジロ・ディ・ロンバルディアにはためく北部同盟の旗ジロ・ディ・ロンバルディアにはためく北部同盟の旗 (c)CorVos緑の葉」の旗は、ジロ・デ・ロンバルディアのようなイタリアのレースに、しばしば出没する。
フィリップ・ジルベールが、去年イタリア北部コモで勝利した際の写真。よく見てみるとジルベールのバックが「北部同盟」の旗で埋め尽くされていることに気が付く。

北部同盟は、5日間のステージレース「ジロ・デ・パダニア」の開催を通じて、彼らの政治活動をロードレース界へと押し込んできた。
パダニアとは、イタリア北部にあるポー平原周辺を指す。トリノ近郊のアルプスから、ヴェニス近郊の海までの地域だ。1990年代からトスカーナ以北の一帯を、北部同盟は独自に「パダニア」と呼ぶようになった。

リーダージャージは北部同盟のシンボルカラーである「グリーン」だリーダージャージは北部同盟のシンボルカラーである「グリーン」だ (c)CorVosジロ・デ・パダニアの発起人は ミケリーノ・ダヴィコ氏。北部同盟の次官である。アリタリア航空がリーダージャージのスポンサーになっている。リーダージャージは北部同盟のシンボルカラーである「グリーン」だ。

注目すべきは、リーダージャージをめぐる戦い以上に、'ダヴィコ氏と北部同盟’つまり政治的動きが際立ってしまったところにある。
第2ステージ、北部同盟の活動に抗議する人々がレースの妨害を行った。何人かの選手達が、レース中激しく叩かれたのだ。

「スポーツと政治の混同は、実に遺憾なことだ。来年以降のこのレースの開催が不可能なことは、誰の目から見ても明らか。」CAP(国際プロサイクリスト協会)のジャンニ・ブーニョ氏は、ガゼッタ紙にこのような声明文を出した。

CAP(国際プロサイクリスト協会)のジャンニ・ブーニョ氏CAP(国際プロサイクリスト協会)のジャンニ・ブーニョ氏 (c)CorVos「民族主義とは非常に強固なもの。現在、イタリアはギリシャのような経済危機に直面しており、政府は改善策として、緊縮的法案の改正を議会で成立させようと躍起になっている。
こうした状況の中、北部同盟は、現在の経済破綻の原因が南イタリア地方にあることをプロパガンダに利用し、イタリア北部の分離・独立運動をさらに活発化させている」。

南イタリアを標的とした、ある種人種差別的とも言える北部同盟の政治思想。彼らとどう向き合っていくのか、そして今後イタリア北部で外国人がどのような対応を取りながら仕事を行っていけばよいのか。イタリアは今、大きな問題に直面している。

レースのホスト役でもあるCAPのブーニョ氏は言う。「ジロ・デ・パダニアが北部同盟のキャンペーンに利用されていること。そこが大きな問題だ。」

ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)ジョヴァンニ・ヴィスコンティ(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ) (c)MakotoAYANO今年6月に開催されたのイタリア国内選手権で、見事3度目の優勝を果たしたジョヴァンニ・ヴィスコンティ。 ジロ・デ・パダニアでもナショナルチャンピョンジャージを身にまとい、チーム・ファルネーゼヴィーニのメンバーの一員として出場した。
プレレースのインタビューの中で彼は、イタリアが「共和国」であることを改めて実感したようだ。

「僕はロードレースの中に政治を混同させるつもりは全然ない。でも、国家として統治するからには、民族主義的思想や、それに伴う活動を、’国’は忘れる必要がある。」
彼はトゥットスポルト紙にこう語った。
「地図の上にイタリアを二分するような線が描かれていないように、北も南も存在しないんだ。つまりイタリアは一つの国だということ。」

リグーリア海岸地帯のサヴォーナで、レースの妨害行為をした北部同盟の活動を良く思わない「イタリア共和国」の支持者達。彼らは「イタリア国旗」をはためかせ、「独立を叫ぶ者はネズミ!さっさと自分の巣に帰れ!」というサインを出していた。
過激な行動はどんどん拍車が掛り、結果レース中の何人かの選手に激しくぶつかったり押したり、という事態となってしまった。

デモ隊との衝突を説明するUCIコミッセールデモ隊との衝突を説明するUCIコミッセール (c)CorVosガゼッタ紙の取材に対しヴィスコンティは「今にもぶつかりそうで、本当に怖かった。」「日に日に事態が悪化していく、このようなレースを続けていくことに、納得がいかない。」
ヴィスコンティはトリノ生まれ。シチリアで育ち、若い頃からトスカーナで行われるレースに出場していた。トスカーナは現在の彼の住まいでもある。

「僕にはナショナルチャンピョンジャージを着る資格がある。つまりは’イタリア共和国’の代表なんだ。レース中に抗議活動をする人達は、僕達ライダーを獣扱いしたり、裏切り者だと言う。じゃあ誰のことを僕達は裏切っているわけ? 僕達はただ自分達の仕事をこなしているだけ。違う?」
ナショナルチャンピオンの彼は、所属チームの、そしてイタリアの象徴だ。だがしかし来シーズン彼はイタリアを去り、スペインのトップチーム「モビスター」に移籍することが決まっている。

選手たちは、これらの侮辱行為に耐えながら、黙々とゴール目指してレースを進めていった。第2ステージ終了時点で総合トップは、トスカーナ人のエリア・ヴィヴィアーニ。

リクイガスのチームメイトで昨年度ジロ・デ・イタリア覇者イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)は、声明文の中で、彼らしく静かに今回の件に関しての想いを伝えている。

「我々はサイクリストだ。そしてレースをする為にここへ来た。我々は皆さんに問い掛けたい。この場所でレースをすることが、果たして許されるのことなのかと。」

リクイガスやファルネーゼヴィーニ、そして他のイタリアトップチームは、「困難が立ちはだかるレースなどに対して、良い風が吹くようにサポートする」そんな団体を立ち上げるべきだったのかもしれない。
今回チーム側は、論議を呼ぶと予測がついたこのレースに、一人たりとも選手を送り込むべきではなかった。そう思わざるを得ない。


text:Gregor.Brown
translation:Chiaki.Iwamoto
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