大西洋のビスケー湾に面したイベリア半島の北端を西から東へ。前日のペーニャ・カバルガの麓にあるソラレスから、ビーチリゾートのノハまでの174.6km。いよいよ終盤に差し掛かるブエルタ・ア・エスパーニャ。前日のゴール地点がスタート地点になるパターンが増えたので、選手にとっても取材陣にとってもストレスは少ない。

チームバスの中でスタートを待つ土井雪広(スキル・シマノ)チームバスの中でスタートを待つ土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiカンタブリア州の州都サンタンデール(スペイン最大の銀行であるサンタンデール・セントラル・イスパノ銀行の拠点)の郊外に位置するソラレス。雲一つない空から降り注ぐ太陽が、スタート地点の真っ赤な出走サイン台を照らす。

ガリシア地方を抜けたあたりからずっと好天が続いていて、終着地マドリードまでもう雨は降らないらしい。気温は30度前後。空気は湿度を含んでいないので軽い感じを受けるが、太陽は容赦ない。

ワンワンワンワン photo:Kei Tsuji前日のハイスピードな展開&激坂ゴールで土井雪広(スキル・シマノ)は些か疲労困憊の様子。「これまでのステージで一番辛かった」と言いながらスタート前にコーラを1本飲み干す。

第18ステージは休息日のインタビューでもお伝えした通り、「逃げにチャンスがある」として狙っていたステージだ。土井雪広は「チームとしてアタックする作戦。今日は逃げの動きに入りたい。でも昨日の疲労がまだ残っている。チームメイトもみんな疲れていると言っている」と言う。出走サイン台を歩く姿を見ても、脚に“来ている”様子が伺える。

3級山岳ブラグイアを登る逃げグループ3級山岳ブラグイアを登る逃げグループ photo:Kei Tsuji結果的に土井雪広は逃げグループに乗れなかった。比較的早く逃げが決まったという。「思いのほか早く逃げが決まった。タイミングが合わずに動きに乗れず。でもスキル・シマノとしては2人を逃げに送り込んだので成功だった」。土井雪広はジェオックス・TMCが率いるメイン集団の中で一日を過ごした。

カンタブリア州の山岳地帯を走るこの日は、カテゴリー山岳を5つ越える。スプリントポイントは2つ。そして逃げが決まりやすいコースレイアウト。逃げグループの中は様々な思惑が入り交じった。

集団中程で登りをこなす土井雪広(スキル・シマノ)集団中程で登りをこなす土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiまずはマッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)による山岳賞狙い。山岳賞ジャージのダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)を、モンタグーティは22ポイント差で追う。この日のカテゴリー山岳を全て先頭通過すれば24ポイント獲得で逆転する。

しかし逃げグループにはコフィディスの刺客が送り込まれた。モンタグーティの撤退マークを仰せつかったニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)が、モンタグーティの山岳ポイント獲得を阻止。

ドクターカーに掴まるアンヘル・マドラソルイス(スペイン、モビスター)このあとリタイアドクターカーに掴まるアンヘル・マドラソルイス(スペイン、モビスター)このあとリタイア photo:Kei Tsujiシーメンスが4つのカテゴリー山岳を先頭通過したこで、結局モンタグーティは15ポイントしか稼げなかった。しかしモンクティエとの差は7ポイント。まだこの先のステージで変動は可能だ。

そしてもう一つが「プリート」ことホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)のポイント賞を懸けたエスケープ。前々日の落車で11分遅れ、さらにペーニャ・カバルガで遅れ、総合争いから脱落したプリートの狙いはポイント賞ジャージ。この日の2つのスプリントポイントを先頭通過し、さらにステージ8位に入ってポイント賞トップに返り咲いた。表彰台でポイント賞ジャージを受け取るプリートの表情は実に晴れやかだった。

マイヨロホのファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)は集団前方に位置マイヨロホのファンホセ・コーボ(スペイン、ジェオックス・TMC)は集団前方に位置 photo:Kei Tsujiゴール地点ノハは、ただいま売り出し中のビーチリゾート。辺りには岩山が点在していて、その間に美しいビーチが連なっている。砂は細かくサラサラしていて、ゴールラインのすぐ横にあるビーチには寝転がる海水浴客が多数。サーフィン向きな波が立っているので泳ぐ人は少ない。

ここ数日、海外からの観客が目立つようになってきた。2週目までは観客の99%はスペイン人だったのに。フランス国境が近くなっているのも理由の一つ。自動車のナンバープレートも、フランス、オランダ、ベルギーがチラホラ。遅めのバカンスを取って、ブエルタを見に来ているというフランス人夫婦に会った。

アスタナへの移籍が決まっているフランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ・ISD)がグランツール初勝利アスタナへの移籍が決まっているフランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ・ISD)がグランツール初勝利 photo:Kei Tsujiテクニカルな曲がりくねったコースを抜け、先頭で姿を現したのはフランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ・ISD)とユルゲン・ファンデワール(ベルギー、クイックステップ)の2人。落ち着いてスプリントに持ち込んだガヴァッツィが勝利した。

1位ガヴァッツィ、2位ファンデワールという結果は、4月のブエルタ・アル・パイスバスコ第5ステージの再現。

「タイミングが合わずに逃げに乗れず。でもチームとして大成功」土井雪広(スキル・シマノ)「タイミングが合わずに逃げに乗れず。でもチームとして大成功」土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsuji2007年にランプレでプロデビューしたガヴァッツィは、同年ジャパンカップ3位。2008年大会ではダミアーノ・クネゴ(イタリア)をアシストしながら5位。「(2007年までランプレを指揮した)マルティネッリ監督のもとで再び走りたいと思った」。ガヴァッツィは来季アスタナへの移籍が決まっている。

土井雪広はメイン集団の後方でゴール。逃げに入ったジェニエが3位に入ったのでその表情は明るい。チームバスに到着した土井雪広はチームスタッフと握手を交わす。「アレックス(ジェニエ)が3位に入ったので大成功です。アレックスはずっと調子が悪いと言っていたのに(笑)」連日逃げに選手を送り込んでいるスキル・シマノ。翌日もその作戦を継続するだろう。

ブエルタは残り3ステージ。第19ステージと第20ステージはバスクを通過する。33年ぶりにブエルタに登場するバスク。選手たちはコースプロフィール以上に厳しいコースだと言う。オレンジ軍団が詰めかけた山岳で、13秒差のマイヨロホ争いはクライマックスを迎える。

text&photo:Kei Tsuji in Noja, Spain
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