私事ながら、前週に(ヨーロッパの別の国での)予定が入っていたので、スペイン入りが大きく遅れた。本当なら土井雪広(スキル・シマノ)をブエルタの開幕から閉幕までみっちり取材したかったのに。休息日にようやくブエルタに合流。後半11ステージ限定の現地取材が始まった。

スタート地点では毎日ハモンセラーノのサービスがスタート地点では毎日ハモンセラーノのサービスが photo:Kei Tsuji現在ブエルタはガリシア地方を通過している。イベリア半島の北西の端っこ、大西洋に突き出た部分だ。ガリシア地方がブエルタに登場するのは2007年以来4年ぶり。前回は海沿いのビーゴが開幕地となった。

休息日前のタイムトライアルをサラマンカで終えた選手たちは、どのチームも例外無く、長距離ドライブを経てガリシア地方のホテルに散らばった。中でも最も遠いホテルをあてがわれたのはスキル・シマノとアンダルシア・カハグラナダ。

来季スキル・シマノへの移籍が決まっているジョン・デゲンコルブ(ドイツ、HTC・ハイロード)来季スキル・シマノへの移籍が決まっているジョン・デゲンコルブ(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Kei Tsuji480kmの大移動の末、第12ステージのゴール地点ポンテベドラにある古城のようなホテルで、土井雪広は休息日を過ごした。休息日のインタビューはこちら

休息日明けの後半戦は、ガリシア地方のベリンで始まる。ポルトガルの国境から10kmほどしか離れていない人口15000人の山間の街から、3つのカテゴリー山岳を越え、ブエルタ初登場の超級山岳ラ・マンサネーダにゴールする。

出走サインを済ませた土井雪広(スキル・シマノ)出走サインを済ませた土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiジロとツールの取材は経験積みだが、ブエルタの取材は今回が初めて。レースブックに書かれた通りにスタート地点に向けてクルマを走らせたが、行けども行けどもブエルタが行なわれる雰囲気が伝わって来ない。スタート地点直前になってようやく誘導の係員が立っていた。

ズバリ、ジロやツールと比べて観客の数は少ない。海外メディアも少ないので、会場では珍しがられる。

近くに住むオスカル・ペレイロが観戦に駆けつけた近くに住むオスカル・ペレイロが観戦に駆けつけた photo:Kei Tsuji遅めに会場入りしたスキル・シマノのチームバス。来季スキル・シマノ入りが決まっているジョン・デゲンコルブ(ドイツ、HTC・ハイロード)がチームに挨拶にやってくる。

出走サインに向けて下りてきた土井雪広にチームの戦略を聞く。「前半はアタックの動きに乗るかもしれないけど、今日は基本的にエーススプリンター(キッテル)のサポート。明日また彼にチャンスがあるので、チームとして彼を守る」。そう語る土井雪広の表情は晴れないが、それもプロ選手の仕事のうち。土井雪広はその後スペイン紙のインタビューを受けていた。

スタート直後の3級山岳フマセス峠で早速メイン集団から脱落するマルセル・キッテル(ドイツ、スキル・シマノ)スタート直後の3級山岳フマセス峠で早速メイン集団から脱落するマルセル・キッテル(ドイツ、スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiそのキッテルは、スタート直後の3級山岳フマセス峠で早速メイン集団から遅れていた。まるで頂上ゴールのラスト1kmで追い込んでいる決死の形相で、アルバート・ティマー(オランダ)のホイールに食らいついている。先が思いやられる・・・と思ったが、次の撮影ポイント(50km地点)ではしっかり集団内に。

路面状態の悪い先回り用のエスケープルートを経て、超級山岳ラ・マンサネーダに向かう。標高1750mに位置するガリシア地方が誇るスキーリゾートの天辺に、ブエルタは初めて脚を踏み入れる。

集団前方で2級山岳ゴンサ峠に向かう土井雪広(スキル・シマノ)集団前方で2級山岳ゴンサ峠に向かう土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiマンサネーダはマシーソ・セントラル・オウレンサノと呼ばれる山塊で最も標高があり、その頂上付近は樹がまばらにしか生えていない。ガリシア地方に限らずスペインにはアルプスやドロミテの様な荒々しい山岳が少ないものの、見た目にも充分に迫力のある山岳だ。

スキーリゾートの頂上ゴールの例に漏れず、中腹にあるスキー客用のホテルにプレスセンターが置かれ、そこからスキー用リフトで頂上を目指す。朝からずっと空はどんよりしていて、いつ雨が降ってもおかしくないような状況。風も強く、雲が高速で頭上を流れている。ビュンビュン冷たい風を受けながら、リフトで頂上に到着した。

頂上に向かうスキーリフトの眼下には放牧された牛頂上に向かうスキーリフトの眼下には放牧された牛 photo:Kei Tsuji風の強いラスト1kmで待っていると、ブエルタの山岳王ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)が先頭でやってきた。苦しい表情を浮かべながらも、4年連続ステージ優勝の喜びを噛み締めながら、頂上を目指している。

チームスタッフいわく、モンクティエは生粋のクライマーで、好き嫌いが激しい。嫌いな平坦ステージでは常に集団後方でムスッとしていて、山岳が始まると嬉しそうにウキウキして集団の前に上がって行くそう。

厚い雲に覆われた超級山岳ラ・マンサネーダを登る厚い雲に覆われた超級山岳ラ・マンサネーダを登る photo:Kei Tsujiモンクティエは山岳賞2位に浮上し、山岳賞トップのマッテオ・モンタグーティ(イタリア、アージェードゥーゼル)と僅か1ポイント差につけた。しかし本人は「この先の山岳ステージではロドリゲスやマーティンが活躍するだろうから、(4年連続)山岳賞獲得は難しいかも」と謙遜する。

モンクティエから3分遅れて、弾丸のような勢いで登りを突き進むホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)がやってきた。しかしブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)率いるメイン集団とのタイム差は僅か。「まだ総合を諦めない」と語っていたロドリゲスだったが、頂上手前の緩斜面&向かい風で伸びず、メイン集団から7秒稼ぎ出すのがやっとだった。

26分04秒遅れのグルペット最終便でゴールした土井雪広(スキル・シマノ)26分04秒遅れのグルペット最終便でゴールした土井雪広(スキル・シマノ) photo:Kei Tsujiそのロドリゲスが、大歓声を受けてポイント賞ジャージを受け取る。愛嬌のある表情と、激坂でライバルたちを蹴散らすそのスタイルで、多くのファンを獲得している印象。会場には愛称の「プリート」の声が響き渡った。

表彰式が終わってもグルペットはやってこない。タイムオーバーを心配しながらゴールで待っていると、26分04秒遅れでスキル・シマノのメンバー6名を含むグルペット最終便がやってきた。キッテルや土井雪広の姿をその中に確認。

「今日はとにかくキッテルのサポートだった。彼は最初の山岳の時点で遅れかけていて、次の2級山岳でも早々に脱落。彼が脱落する度に、沿道に止まって待った。それはそれで楽じゃなかった。集団に追いついたものの、登りが始まるラスト30kmの時点で集団から再び脱落。でもまだタイムオーバーまで8分あったので、最後まで安心して走った」。下山の身支度を整えながら土井雪広は語る。

チームとして難関山岳ステージを終えたスキル・シマノ。翌日の平坦ステージではもちろんキッテルのスプリント勝利を目指す。キッテルは呆然とした表情でマンサネーダを下りて行った。

text&photo:Kei Tsuji in Manzaneda