リムー~モンペリエの192.5 kmは中盤に4級山岳が1つあるのみの平坦路。ピレネーを抜けて一息つきたい選手たちにとっては集団内で休むことができる「つなぎ」ステージのはずだった。しかし横風が吹き荒れたナーバスなレースになり「山岳のようにきつかった」と言う選手まで。

コースの沿道にはブドウ畑が広がるコースの沿道にはブドウ畑が広がる photo:Cor Vos世界遺産カルカソンヌのシテを通る

川沿いの小さなリムーの街を出発してすぐに、コースプロフィールに表われないアップダウンが続くワインディングロードが現れた。葡萄畑のなかをいく農作業道のような細く荒れた道。そして朝の雨に湿った路面。危険な香りがしたが、スタート直後に決まったアタックによる逃げが形成されたため、すでにこの地点ではナーバスなアタック合戦が終了していたことが救いだ。

美しい葡萄畑が続く丘陵地帯を抜けると、カルカッソンヌ市街にあるヨーロッパ最大の城塞都市「シテ」へと向かう。モン・サン・ミッシェルに続いてまたしてもユネスコ世界遺産の登場だ。
例年カルカッソンヌ付近を通過することが多いツールだが、シテのすぐ脇の道がコースになることは近年なかったこと。いつもなら遠景にシテをあしらう写真になるが、今回はシテの城壁のすぐ脇を集団が通過する。
「カルカッソンヌを見ずして死ぬな」と讃えられるシテ。プロトンの選手もその姿を堪能できたはずだ。

ユネスコ世界遺産カルカッソンヌのシテの前を通るプロトンユネスコ世界遺産カルカッソンヌのシテの前を通るプロトン photo:Makoto Ayano

カルカッソンヌ脇の高速道路を抜けたプロトンは、一路モンペリエへ。ピレネーの緑深い景色から一転、地中海が近づくにつれて乾いた大地に赤レンガ屋根の南仏らしい風景が続く。バカンスに入ったフランスで、もっとも渋滞の激しくなる人気のある地域だ。コースを出入りするチームの補給車両、バス、そしてメディアたちも周辺道路の渋滞の情報を収集しつつプロトンに随行する。


逃げグループを率いるミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)逃げグループを率いるミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ) photo:Makoto Ayano吹き荒れた風に苦しんだプロトン

例年、猛烈な暑さと熱風が襲うこの一帯。この日の天候は南仏らしくない曇り空だったが、熱くはないものの強い風だけは健在だった。この一帯で地中海に吹き降ろす風をミストラルと呼ぶ(本来は冬から春にかけての風を指す)。風は道路脇の木々は大きく揺らし、集団に容赦なく吹きつけた。

スプリンターたちの争いに任せ、集団のなかで休めるはずだった総合争いの有力候補たちもこの日の横風から身を守るべく苦労をしいられた。落車や中切れを防ぐために前に前に位置取りせざるを得ず、<落車が多発した前半のステージ同様>リスキーな状態が続いたという。そして極めつけは後半の追い風。プロトンは風に後押しされるかたちでスピードが上がり続けた。

曇り空のフランス南部を進む曇り空のフランス南部を進む photo:Cor Vosコンタドールは言う「集団にいても厳しい一日だった。たぶんテレビで見ていると、とても静かな日に見えたかも知れないけど。誰もが緊張しており、風速19m(時速70km相当)の突風が吹き荒れていて、それが追い風になったり、つねに風向きが変わっていた。緊張感とストレスに満ちた一日だった」。

カデル・エヴァンス(BMCレーシング)は言う。「火花が散るような状況だった。スプリンターを抱えるチームは前に位置するし、僕らのチームもゴール前10、5kmという地点で前にいる必要があった。もちろん彼らがそれを好まないのは分かっているけれど、とくに残り5kmといったところで何かあると、それでレースを失う可能性があるんだ」。
マイヨジョーヌ擁するユーロップカーが集団をコントロールマイヨジョーヌ擁するユーロップカーが集団をコントロール photo:Cor Vosラスト3kmを切った時点からの落車は救済されるルールがあるが、その範囲外のラスト5kmの落車はタイム差がそのままつき、集団復帰が困難な場合、それだけでツール総合優勝のチャンスを失うことになるのだ。

ヴォクレールのマイヨジョーヌのキープは易しいと踏んでいたユーロップカー。ピレネーで予想以上の頑張りを見せたヴォクレールは疲労をためて調子が良くない状態で、風が吹いたときは山岳ステージ同様に苦しんだという。マイヨをキープするチームの責任を果たした前半。しかし後半からはHTCハイロードら他のチームにバトンを渡し、体力温存につとめた。


どこまでも強気なカヴのスプリント

逃げ集団からイグナティエフ(カチューシャ)のアタックに同調して抜け出し、そしてひとりで粘ったテルプストラ(クイックステップ)。ジルベールがステージ優勝とポイント獲得の両方を狙うアタックをかけるが、HTCトレインはこれを静かに制圧。
風のあるテクニカルなステージに2勝目を期待するファラーとガーミン・サーヴェロ、そしてスプリントステージでだんだんと上位に来ていたダニエル・オス(リクイガス)が本気でゴールを狙ってきた。一方で、グライペル(オメガファーマ・ロット)やボアッソンハーゲン(チームスカイ)の姿はなし。
やはり最後は発射台レンショーのリードアウトから解き放たれたカヴは、最速スピードに乗ったままいつもより早めのスプリントで難なく勝利を挙げた。

両手を挙げてゴールするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)両手を挙げてゴールするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Makoto Ayano

終盤にアタックしながらも結果に結びつかなかったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)終盤にアタックしながらも結果に結びつかなかったフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Makoto Ayanoカヴは今日も強気だった。「マシュー・ゴスが残り700mのところまでマーク・レンショーを連れてきて、そこからレンショーが僕をずっと牽いてくれた。登り坂の600mのうちの残り200mまでかな。そこから僕が飛び出した。もう少し後で出たかったんだ。向かい風があったからね。でも、行かなきゃならなかった。誰にも文句を言わせたくなかったんだ。厳しかったけど、勝つことができた。とても満足しているよ」。

アタックが無駄に終わったジルベール。果敢に攻めたがステージ優勝には届かず、ゴールの着順でもノーポイント。結果的にはマイヨヴェールを遠ざけることになった。


マキュアンのアドバイス「もっとアグレッシブに戦いを挑め!」

このスプリントの始終をTV観戦したロビー・マキュアンはTwitterでガーミンとスカイの攻め方に不満を表明。そしてジルベールとロハスの闘い方に関してもコメントしている。
「ファラーは最速のスプリントをしたけど、HTCとカヴェンディッシュはそれを寄せ付けないほどベストだった。
カヴはグリーンをよりモノにしたと思う。ジルベールはあまりにたくさんのポイントを失った。
正直言って、ガーミンとスカイとロットが最後にもっと闘ってくれることを期待したけど、うまく組織出来ていなかった。
ジルベールとロハスは火曜日のガップのステージで最大限ポイントを取らないといけない。そしてアルプスではカヴに追いつくためにすべてのスプリントのチャンスを生かさなければいけない。カヴはパリで大量に稼ぐからね」。


リードを広げてマイヨヴェールを守ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)リードを広げてマイヨヴェールを守ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) photo:Makoto Ayanoシャンゼリゼで20勝とマイヨヴェールが見えてきたカヴ

まったく不安なく今ツール4勝目を上げたカヴェンディッシュ。Tモバイルの選手として出場した2007年ツールだけが無勝に終わっているが、これまでのツールにおいてはステージ通算19勝目(2008年4勝、2009年6勝、2010年5勝、2011年ここまで4勝)。
ツールの歴史上では「4年連続でロードステージ4勝以上を挙げた初めての選手」ということになる。
そして2007年からプロロード界入りしているカヴ自身の70勝目にあたり、チームハイロードとしてはチーム発足以来グランツール通算50勝目にあたる。

ツールのステージ優勝数更新に関しては、残りの最終パリステージのチャンスを入れると「20」の数字が見えている。このままの勢いでいけば、パリ・シャンゼリゼという最高のロケーションでステージ通算20勝とマイヨヴェールを同時に祝福する最高のツールになりそうだ。


マイヨヴェールに関しては慎重な姿勢を見せる

そして今日は中間スプリントでもジルベールとロハスを下し、ほぼ完璧なステージになった。
中間スプリントポイントで10ポイント、ステージ優勝で45ポイントを加算。結果、ロハスを37ポイント、ジルベールを71ポイント引き離した。パリでもう1勝の可能性があることを考えれば、この先続く山岳ステージでカヴより山をこなせるジルベールとロハスが中間ポイントとゴールでポイントを稼ぐのが有利だったとしても、もはや安全圏内に思えるポイント差だ。しかしカヴは油断していない。
「闘いはシャンゼリゼのゴールラインを越えるまで終っていない。気を抜くわけにはいかないよ」。

カヴは、2009年は第14ステージのゴールスプリントで降格処分となり、ポイントを一気に失った。そして山でアタックして中間ポイントを取ったフースホフトがマイヨを手にした。
2010年は序盤の平坦ステージでスタートが遅れ、それが響いてペタッキに11ポイント差でマイヨを奪われている。


HTC・ハイロードのアドバイザーを務めるエリック・ツァベル氏HTC・ハイロードのアドバイザーを務めるエリック・ツァベル氏 photo:Makoto Ayanoツァベル「中間ポイント変更で、より戦術的にポイントを狙う必要がある」

ゴール後、カヴのスプリントコーチをつとめるエリック・ツァベルにも質問が飛ぶ。果たしてカヴはパリでマイヨヴェールを着ることができるのか? 中間スプリントポイントにおけるルール変更がどう作用するのか? ツァベルはここまでの闘いも振り返りながら解説する。

「これまでの2年、カヴェンディッシュは中間ポイントを取りに行くことをしなかった。なぜならステージ優勝にだけ興味があり、脚光を浴びない中間ポイントに積極的になれなかったからだ。ルール変更がカヴを変えたかは分からない。でも今彼はマイヨ獲得のチャンスを最大限活かそうと考えている。

第1週にはアップヒルフィニッシュを含む3つのスプリントステージがあった。そして最終週はスーパーハードだ。パリでマイヨヴェールを勝ち取るためにはこれから中間スプリントがより重要になってくる。

よりたくさんのポイントがひとつの中間スプリントポイントでつくように変更されたルール。それは最初に通過する15人のためにある。そのおかげで面白い戦いになるだろう。
もし中間スプリントで勝てば、それはハーフステージを勝ったことを意味する。だからより戦術的に闘うことが必要になる。
もし第1週にマイヨヴェールを取りたければステージ優勝する必要があった。ステージ優勝すれば大量のポイントを手に入れることができた。いいスタートを切ることが重要で、ステージ優勝することが望ましかった。
第1週をクリアしたらマイヨヴェールの可能性が見え始める。そうすればそれにフォーカスすればいい。

私は『マーク(カヴェンディッシュ)にとって、過去2年は今年よりもマイヨベールを勝ち取るには少し易しかった』と言ってきた。そしてマークは少しのポイント差で2010年はペタッキに、2009年はフースホフトに負けてきた。でも、僕もマークも経験を積んできているんだ」。

ツァベルは次のように締めくくった。「彼と一緒に走った2008年と2009年が、僕の引退を早めた。なぜなら彼が速すぎたんだ。マークと仕事をするのはいつだって楽しい。彼はとても賢くてナイスガイだ。僕は彼のメンタリティーが好きだ」。


フランスの期待を背負ってマイヨジョーヌを着続けるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)フランスの期待を背負ってマイヨジョーヌを着続けるトマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) photo:Makoto Ayanoマイヨジョーヌの可能性を否定するヴォクレール

ランス・アームストロングとローラン・ジャラベールが前日のヴォクレールのプラトー・ド・ベイユでの健闘ぶりに、「ヴォクレールがツールの総合優勝を手にする可能性がある」とコメントした。しかしヴォクレールはそれをきっぱり否定した。

ヴォクレール「フランスじゅうがベルナール・イノーとリシャールヴィランク以来の勝者を期待していることは知っているよ。でも皆に『僕には勝つチャンスがある』なんてウソはつきたくないんだ。これははっきりさせておくよ。僕がツールに勝つチャンスは0パーセントだ。ツール最終週は決定的だ。主催者は最終週にツールが決まるようにコースをデザインしているんだ。
アルプスではどうなるか分からない。昨日は頑張ってなんとかついていけたけど、僕はアルプスがどんなに難しいか知っている。きっと難しいときがくる。
全力は尽くすよ。でも僕はツール・ド・フランスに勝ちに来ていない。僕が勝つチャンスはないよ。僕は僕の仕事をするだけだ」。


昨ステージで落車して顔面を怪我しているローレンス・テンダム(ラボバンク)昨ステージで落車して顔面を怪我しているローレンス・テンダム(ラボバンク) photo:Makoto Ayano顔面の傷が痛々しいテンダム 辛うじて完走

第14ステージで顔面からアスファルトに落ちる落車をして、プラトー・ド・ベイユ頂上には顔面に包帯を巻いてゴールしたというローレンス・テンダム(ラボバンク)が、この日は包帯もなく出走し、無事ゴールにまで辿り着いた。まだ傷が癒えず、顔面には傷跡が目立つ。
ラボバンクはチーム医師による診断の結果、出走には影響がないとして許可。しかし容態についてはこれからの連日で注意深く見守るとしている。

テンダムは言う「2kmでアタックが決まって集団が見送った。そのあと集団はコンスタントなペースで走ったのが僕にはラッキーだった」。

問題は口周りを負傷しているため補給食を食べるのが困難なこと。そのためこのステージでは一日ずっと液状のものと甘い食べやすいものを摂っていた。しかし見た目の悲痛さに比べてコンディションは悪くないというテンダム。
「僕は8針縫ったけど、フーガランドより22針も少ない。脚の調子は落車前と同じように調子いいんだ。ラルプデュエズではワールドクラスのパフォーマンスを見せてヒーローになりたい」。

バカンス渋滞に見舞われたレース後の大移動

ピレネーでの連日の山頂フィニッシュは下山時の大渋滞で選手たちがホテルに到着する時間が遅くなるという不満が出ていた。そしてこの日はステージ終了後、休息日と第16ステージの待つ北へ向けて約200kmの移動。それが日曜のバカンス渋滞と重なって、北へ向かう高速道路A9線の大渋滞を引き起こした。すべてのツール関係者がこの一本の高速道路で向かったこと、そして南仏の魅力あふれる地域へアクセスする幹線道路だったことが重なり、ホテルに到着するまで5時間かかるチームが続出した。

普段ならバイクの憲兵隊がエスコートして道を空け、チームは優先的に走行できるが、あまりの大渋滞に打つ手なし。選手たちは3日連続の大渋滞を経験した。

当の私は早めの移動のスタートを切って宿泊先のオランジュまで順調だったものの、到着したホテルの自動チェックイン機の故障でホテルに入れず。ホテルの駐車場に停めたクルマの中で一夜を明かすハメになってしまった。
バカンス中だからか、ヘルプに来てくれなかったホテルの管理人さんには心から「メルシーボクー」と言いたい!


photo&text:Makoto.AYANO
photo:CorVos
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