アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)は、14日(木曜日)のピレネーでのステージで、さらにライバルたちにタイム差をつけられる可能性がある。フランスと隣国スペインを隔てる超級山岳は、きっとコンタドールの傷ついた膝にさらなる負荷をかけるだろう。

ツールの大本命としてチームプレゼンに現れるコンタドールツールの大本命としてチームプレゼンに現れるコンタドール (c)Makoto.AYANOコンタドールは、12日のカルモーへの第10ステージは、まったく問題なく走りきった。ピレネー山岳を目前にして、残っていたのは13日のラヴォールへの平坦ステージだけだった。
12日付のプレスリリースで、コンタドールは次のように発言している。「うまくいけば集団の中でもう1日過ごして、超級山岳に備えることができる」

コンタドールは、今回のツールでこれまでに3回落車している。6日の第5ステージで2回、10日の第9ステージで1回だ。ライバルたちと同タイムでゴールはしているが、第1ステージで失ったタイム差はいまだに悩みの種となっている。
第1ステージでは、マキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)と観客1名との接触によって落車が発生し、コンタドールはこの落車の後方にいたために遅れることになった。ゴールした段階では、他の有力選手たちに1分17秒を失っていた。

第4ステージには笑顔で登場第4ステージには笑顔で登場 photo:Makoto Ayano優勝候補の選手たちタイム差は次の通りだ。

カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム) 00"
フランク・シュレク(レオパード・トレック) +3"
アンディ・シュレク(レオパード・トレック) + 11"
トニ・マルティン(HTC・ハイロード) +12"
アンドレアス・クレーデン(レディオシャック) +17"
イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール) +1'10"
ロバート・ヘーシンク(ラボバンク) +1'35"
アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード) 1'41"
クリスティアン・ヴァンデヴェルデ(ガーミン・サーヴェロ) +2'27"
リーヴァイ・ライプハイマー(レディオシャック) +4'50"
ライダー・ヘジダル(ガーミン・サーヴェロ) +13'06"


エヴァンスから1分41秒遅れているが、サクソバンクのGMビャルヌ・リースは12日の記者会見で目標は変わらないと述べた。

「まだこの位置につけている。どんなことがあっても、まだツール・ド・フランスの優勝を狙える位置だ」とリースは語る。

コンタドールは水曜日の第5ステージの落車で右膝を痛め、日曜日の第9ステージで再度同じところを痛めた。彼が右膝の回復に使えた時間は、11日の休養日だけだった。休養日明けの第10ステージで158km走り、その翌日の第11ステージでは167.5km走ることになる。だが、木曜日に控える第12ステージのリュザルディダンは、この2つのステージとは異なるのだ。

膝に不安を抱えながらアルプスに挑む膝に不安を抱えながらアルプスに挑む photo:Makoto Ayanoツール・ド・フランスのコースはピレネーを通過するとき、日曜日の第9ステージの標高1589mを上回る山岳が初めて登場する。木曜日の第12ステージでは、最大標高2115mのトゥールマレー峠まで登り、1715mのリュザルディダンでフィニッシュを迎える。

「ある意味では心配している」と記者会見でコンタドールは語った。「ツールは厳しい。僕は山岳ステージでは高ケイデンスで登る。そのときに膝に痛みを感じるかも知れない」
コンタドールは昨年のツールで優勝した。しかし、わずか39秒差しか、ルクセンブルグのアンディ・シュレクを上回れなかったのだ。現在、シュレクはコンタドールのタイムを1分半上回っている。


ピレネーとアルプスに挑む! チームスカイの若き苦労人ウラン

リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)は、チームスカイを率いて、14日のツール・ド・フランスの山岳ステージに突入する。彼が走るのはチームのためでもあるが、同時に故郷のコロンビアのウラオに住む母と妹のためでもある。

落車の跡が痛々しいファンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)落車の跡が痛々しいファンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ) photo:Makoto Ayano「ピレネーはピレネーだ。きつい登りだ」とウランは言う。13日の朝、第11ステージのスタート地点ブレイ・レ・ミンには重い雨模様だったが、彼の気分は明るかった。チームスカイは24歳のウランを全力でサポートする。第7ステージで、エースのブラドレー・ウィギンズが鎖骨骨折でリタイヤしたからだ。

ウランは責任を負うことに慣れている。14歳のときから、母と妹の面倒を見てきたのだ。彼の父親はゲリラもしくは民兵組織の検問で、持ち帰る食糧が多すぎるとして射殺された。ゲリラ兵は、ウランの父親が民兵に食糧を運んでいると、言いがかりをつけて射殺したのだ。

宝くじの集配の仕事がウランを救った。ウラオの急斜面を自分のBMXで上り下りすることで鍛えられると同時に、地元で注目を集めるようになっていった。地元の人々が彼をスポーツ学校に紹介し、ヨーロッパのレースに参加してコロンビアで成功するきっかけを作ってくれた。

レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)とリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ)レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コフィディス)とリゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoウランがツールで活躍できる下地は整っている。6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで優勝したブラドレー・ウィギンズをアシストしているのだ。ウランとウィギンズのふたりは、チームスカイの他のメンバーとアルプスのステージの試走も完了している。

ウランはピレネーも2009年にツールでケースデパーニュの一員として既に経験している。またピレネーは、ウランの住むパンプローナからもそれほど離れていない。ウランは、その街でコロンビア出身のサイクリストであるマウリシオ・ソレール(モビスター)、ファビオ・ドゥアルテ(ジェオックス・TMC)、マウリシオ・アルディラ・カノ(ジェオックス・TMC)らと暮らしている。

「ブラドレーがいればよかったのに。彼は総合上位を争えるのに」とウランは言う。「(ウィギンズの落車で)すべてが変わった。ぼくたちはまったく別の走りをすることになったんだ」

「夢? 毎年がんばり続けて、いずれパリで表彰台の上に立ちたいね。今年? トップ10に入りたいけど、わからない。なにができるか確かめることにするよ。すべては明日次第だ」

リュザルディダンを目指す第12ステージには、ウルケット・ダンシザンとトゥールマレーの2つの登りが含まれる。

チームスカイのデーヴィッド・ブレールスフォード代表は、ウランを信じるがウィギンズと落車したときに鼠径部を痛めたことが心配だと語った。チームが目指すのはステージ優勝とウランの総合上位入賞だ。ともすれば、パリで新人賞の可能性もある。そうなれば新人賞ジャージは、最近までウラオの土間で暮らしていた母と妹への素敵な贈り物になるだろう。


text: Gregor Brown in Lavauer
translation: Taiko.YAMASAKI + Seiya.YAMASAKI