今年もマイヨジョーヌを懸けた3週間の闘いが始まる。98代目チャンピオンの座を巡り、世界屈指のオールラウンダーたちがピレネーやアルプスの山岳で攻防を繰り広げるのだ。注目はアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)の3連覇。しかしライバルたちは黙っちゃいない。

今年もコンタドールvsアンディの一騎打ちとなるのか?

圧倒的な力でジロ・デ・イタリアを制したアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)圧倒的な力でジロ・デ・イタリアを制したアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Riccardo Scanferla2007年大会で初優勝を飾り、2009年から連勝中のアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)は、3年連続、4度目の総合優勝を目指す。過去にツールで4勝以上しているのは5人(アームストロング7勝、アンクティル5勝、イノー5勝、メルクス5勝、インドゥライン5勝)だけ。

ジロ・デ・イタリアで2勝、ブエルタ・ア・エスパーニャで1勝しているコンタドールは、間違いなく現在世界最強のオールラウンダーである。ゴールポーズに由来する「エル・ピストレロ(銃を撃つ人の意)」というニックネームを持つ男は、狙った獲物を逃さない。総合優勝を狙った全てのグランツールを手中に収めている。

2度目のジロ・デ・イタリア総合優勝を果たしたアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)2度目のジロ・デ・イタリア総合優勝を果たしたアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Kei Tsuji山岳ステージでも個人タイムトライアルでもライバルを寄せ付けない。どんな種類のステージでも、スペシャリストと肩を並べる強さを見せる。オールラウンダーとして弱点を見つけられないほどの屈強さを誇っている。

今年は心機一転サクソバンクジャージでツールに挑む。アスタナから一緒に移籍したスパニッシュアシスト3人組、ヘスス・エルナンデス(スペイン)、ダニエル・ナバーロ(スペイン)、ベンハミン・ノバル(スペイン)を従え、更に昨年のジロ・デ・イタリアで新人賞を獲得したリッチー・ポルト(オーストラリア)やクリスアンケル・セレンセン(デンマーク)で脇を固める。

昨年のツール・ド・フランスで熾烈な闘いを繰り広げたアルベルト・コンタドール(スペイン)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク)昨年のツール・ド・フランスで熾烈な闘いを繰り広げたアルベルト・コンタドール(スペイン)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク) photo:Cor Vos平坦系アシストも充実しているが、今回スプリンターの出場は無し。チームの絶対的な目標はコンタドールの3連覇だ。

そんな盤石の体制を敷くサクソバンクだが、懸念材料がないわけではない。コンタドールは、昨年ツール期間中の検査でドーピング陽性反応が検出。スペイン車連は証拠不十分としてコンタドールに無罪を言い渡したが、UCI(国際自転車競技連合)が反論し、CAS(スポーツ仲裁裁判所)の訴訟にもつれ込んでいる。

アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Cor VosCASの判決の行方によってはツール出場が危ぶまれたため、コンタドールは5月のジロに出場。そのジロが予想以上のダメージを与えた。

近年のグランツールでは有り得ないほどの難易度を誇ったジロで、コンタドールは自身2度目の総合優勝を飾った。しかし3週間の闘いで受けたダメージは計り知れない。ライバルたちがツールだけを見据えて調整トレーニングを行なっている最中に、コンタドールは3週間に渡って全力を尽くした。

フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) photo:Kei TsujiCASによる事情聴取が8月延期されたため、コンタドールはツール出場が可能。しかし1シーズンにつき1グランツールに集中する傾向が強い現代のロードレースにおいて、史上8例目となるダブルツール(ジロとツールを同年制覇)達成は困難を極める。

「今年のジロは厳しく、ツールに向けての調整にはならなかった」とコンタドールは5月のミラノでコメントしている。果たしてコンタドールは1ヶ月のリカバリー期間で復調しているのか。王者としての真価が問われる夏になりそうだ。

ルクセンブルク選手権 ワンツー勝利を飾ったフランク・シュレクとアンディ・シュレク(レオパード・トレック)ルクセンブルク選手権 ワンツー勝利を飾ったフランク・シュレクとアンディ・シュレク(レオパード・トレック) photo:Cor Vos3連覇を阻止すべく、今年もアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)がコンタドールに挑戦状を叩き付ける。2年連続総合2位に甘んじているアンディは「3度目の正直」なるか。

昨年ツールの山岳ステージで、コンタドールと対等に渡り合ったのはアンディだけ。しかしプロローグでのつまずきと、山岳でのメカトラ、そして兄フランク・シュレクの序盤鎖骨リタイアが響き、コンタドールの牙城を崩すことはできなかった。パリに辿り着いた時点で、コンタドールとの総合タイム差は僅かに39秒。プロローグでコンタドールから42秒遅れたことを考えると、残りの20ステージではアンディがコンタドールより速く走っていたことになる。

今年は兄フランクとともにレオパード・トレックを結成。地元ルクセンブルクチームのリーダーとしてマイヨジョーヌを狙う。今年マイヨブラン(新人賞ジャージ)の対象年齢を超えたため、マイヨジョーヌ獲得に向けて突き進むのみ。

6月のツール・ド・スイスではコンディショニングの遅れを露呈したが、すべてはツールの最終週で輝きを放つため。ルクセンブルクチャンピオンの兄フランクも総合表彰台を狙える器であり、兄弟での波状攻撃がコンタドールを苦しめるだろう。ファビアン・カンチェラーラ(スイス)やヤコブ・フグルサング(デンマーク)、リーナス・ゲルデマン(ドイツ)、マキシム・モンフォール(ベルギー)らがバックアップ。新たに結成されたチームとは思えない屈強なアシスト勢が揃っている。

アウトサイダーと呼ぶには惜しいほどの豪華な面々

ツール・ド・ロマンディで総合優勝を飾ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ツール・ド・ロマンディで総合優勝を飾ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiマイヨジョーヌ争いは上記の2チームを中心に繰り広げられるだろう。そこに割って入るのが、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)や、イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)に代表されるアウトサイダーたち。今年も豪華な面々がマイヨジョーヌ争いに加わる。

2007年から2年連続で総合2位に入ったエヴァンスは、昨年のツールでマイヨジョーヌを着用。しかし落車による肘の骨折で失速し、最終的に総合26位に終わった。

イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei Tsuji今年エヴァンスはティレーノ〜アドリアティコとツール・ド・ロマンディで総合優勝を果たしており、調子は上々。山岳アシストの不足が心配されるが、持ち前のTT力で挽回してくるだろう。

昨年ジロを制したバッソは、今年ツールに目標を絞っている。バッソは2004年大会で総合3位、2005年大会で総合2位という成績を残す、現在マイヨジョーヌに最も近いイタリア人選手だ。

ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:A.S.O.しかしバッソは5月のトレーニング中に落車し、顔を15針縫う怪我を負った。怪我自体はもう問題ないが、落車に伴うコンディショニングの遅れが心配される。事実、前哨戦のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは連日山岳で遅れを見せた。バッソとエヴァンスと同じ1977年生まれ。2人のベテランにとって、マイヨジョーヌのチャンスはそれほど多く残されていない。

昨年ツールの最終個人TTでデニス・メンショフ(ロシア)に逆転され、表彰台圏外の総合4位に終わったサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)はリベンジを狙っていることだろう。2008年の北京五輪ロード金メダリストは、得意の下りでライバルを驚かすアタックを見せるかもしれない。

アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsuji昨年総合5位のユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)は、前哨戦のドーフィネで山岳ステージを制して存在感をアピール。スプリンターやクラシックレーサーを多く輩出するベルギーの中で、最も総合力のある選手であると言える。

アンディより1歳若いロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)は、TT能力と山岳力をバランスよく兼ね備えるオランダ期待のオールラウンダー。昨年のツールでは総合6位という好成績を収めており、今年はスプリンターを欠くチームの中で絶対的エースという位置づけ。オランダという平坦な国に育ちながら、世界有数の登坂力を誇る。

クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで総合優勝を飾ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで総合優勝を飾ったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosこのツールを現役最後のレースと定めているのが、37歳のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)だ。ツールでは2003年に総合3位。全盛期の輝きは陰りを見せているが、未だにそのファイティングスピリットは健在。若いロマン・クロイツィゲル(チェコ)とともにカザフスタンチームを率いる。

2009年大会で総合4位に入り、一躍オールラウンダーとして注目を集めた元五輪トラック競技金メダリスト、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)は、今年もイギリス人初のツール総合優勝を狙う。昨年は情熱をツールに注ぎ過ぎたことが災いして総合24位。その教訓を活かし、今年はプログラムを変更した。前哨戦ドーフィネの総合優勝が調子の良さを示している。

ツール・ド・スイスで逆転総合優勝に輝いたリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)ツール・ド・スイスで逆転総合優勝に輝いたリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック) photo:Cor Vos総合争いにおいて、複数のリーダーを揃えるチームは有利にレースを展開可能。レディオシャックは総合を狙える選手がなんと4名もいる。2度の総合2位経験者のアンドレアス・クレーデン(ドイツ)と、直前のツール・ド・スイスを制したリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ)、ツアー・オブ・カリフォルニアを制したクリストファー・ホーナー(アメリカ)、そしてヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア)の4人。展開やコンディションによって臨機応変にエースを変えてくるだろう。

ツール・ド・スイスでライプハイマーに逆転され、総合2位に終わったダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)にも注目したい。2004年ジロ・デ・イタリア覇者のクネゴは、近年ワンデークラシックに傾倒。しかし今年は近年稀に見るほどよく絞れている。山岳ステージでは見せ場を作ってくれるはずだ。

TTスペシャリストのトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)も総合成績に興味を示しており、山岳でタイムロスを抑えることができれば総合トップ10に絡んでくるだろう。地元フランス勢としてはジャンクリストフ・ペロー(アージェードゥーゼル)やジェローム・コッペル(ソール・ソジャサン)らが総合上位を狙う。ジロでブレイクしたジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)にも注目したい。

2010年ツール・ド・フランスの総合トップ10(チーム名は当時の所属チーム)
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)       91h58'48"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)       +39"
3位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)            +2'01"
4位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)       +3'40"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)+6'54"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)          +9'31"
7位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)    +10'15"
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)         +11'37"
9位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス・ドイモ)      +11'54"
10位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)    +12'02"

歴代のツール総合優勝者
2010年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Kei Tsuji, Riccardo Scanferla