61kmの短いサーキットコースで開催されたツール・ド・シンカラ第1ステージは、地元インドネシアのフェリナントがスプリントを制した。愛三工業レーシングの最高位は12位の木守望。チームの連係面で多くの課題が残る第1ステージとなった。

オープニングセレモニーを待つ選手たちオープニングセレモニーを待つ選手たち (c)Sonoko.Tanakaスタートを待つ綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)スタートを待つ綾部勇成(愛三工業レーシングチーム) (c)Sonoko.Tanaka

スタートからトラブル発生!?

燦々と照りつける午後の太陽のもとで開催されたツール・ド・シンカラ第1ステージ。昨年よりも華やかになったオープニングセレモニーを見て、年々規模を拡大するインドネシアのレースに感心していたのも束の間……。地元の政治家さんたちのスピーチに続いて歌手の熱唱と、このオープニングセレモニーがとにかく長かった。

余裕を見せながらレース開始をまつ中島康晴余裕を見せながらレース開始をまつ中島康晴 (c)Sonoko.Tanakaセレモニーの最後にチームプレゼンテーションがあるため、ステージ横に召集された選手たちの表情が曇りはじめる。そして、スタート時刻は15時だったが、15時になってもまだチームプレゼンテーションは終わらない。予測できていたこの展開に、何度もコミッセールに新しいスタート時刻を尋ねたが、あいまいな答えしか返ってこなかった。

スタート時刻がわからなかったのはチームも同様。早くから(といっても本来のスタート時刻は過ぎているのだけど…)スタートラインに並ぶ選手がいる一方で、暑さが苦手な選手たちは、スタートの直前までチームカーで休んでいた。日本から参戦する愛三工業レーシングチームも然り。

そんな彼らがスタート時刻を知ったのは、スタート30秒前を告げるアナウンスだったと言う。慌ててスタートラインに向かい、集団の後方でスタートを切ったが、そのアナウンスすら聞こえていなかったチームも多い。チームカーが出発しても、後方には多くの選手が取り残されていた。

ツール・ド・シンカラ2011がスタートツール・ド・シンカラ2011がスタート (c)Sonoko.Tanaka

それに気がついた主催者は、スタート後半周ほど走ったところで、一旦選手を止めて、再スタートを切ることに。
「国内外から56ものメディアが取材に来ているんだ!(昨年は10媒体ほどだった)」という話を聞いて、なんだかレースに取り残されてしまったような気がしていた私だったけど、このドタバタとしたレース運営に、どこかホッとさせられたりして。

インドネシアのスプリンター、フェリナントが勝利

61kmの短いレースはさらに短い距離となってスタートした。レースは終始アタックをかける選手と、それを潰しにかかる集団とでハイペースで進行する。先行する選手はいても、決定的な逃げはできずに最後はお決まりのゴールスプリントとなった。

ゴールスプリントを制したフェリナント(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)ゴールスプリントを制したフェリナント(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン) (c)Sonoko.Tanaka

そして地元インドネシアのフェリナント(ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)が先頭でゴールラインを切った。インドネシアのナショナルチームに選ばれるスプリンターで、東南アジア競技大会では多くのメダルを獲得しているフェリナント。レース後に「チームワークの良さが今日の勝利に繋がった」と話した。


 西スマトラの中心都市パダン市街を抜ける周回コース 西スマトラの中心都市パダン市街を抜ける周回コース (c)Sonoko.Tanaka愛三工業レーシングはスプリントに加わらず

愛三工業のトップは12位の木守望。チームは前方でのゴールスプリントには加わらなかった。1回目から選手として参戦し、今回は3回目にして監督という立場で戻ってきた別府匠監督にレースを振り返ってもらった。

「消極的と言われてしまうかも知れないけど、今日は特別な作戦を立てずに、行ける選手が行けばいいと考えていました。そうしたら誰も行かなかった…というわけなんですが。

最終周回で、アサドユニバーシティと香港ナショナルチームの選手が先行していた。それを追ったのが中島康晴で、最終周回に入ったプロトン最終周回に入ったプロトン (c)Sonoko.Tanaka残り2kmの地点で彼が集団を牽いていたんですが、そこから加速する選手たちに埋もれてしまい、誰も前方に残りませんでした。

熊野ではゴール前でチームが機能していましたが、5人中3人が新しいメンバー、かつ頼れるスプリンターもいないという状況なので、まだうまく動けていません。でも今回のレースはステージが進むごとに強度が増すことを知っているので、今は焦らずに、暑さやレースに慣れることを最優先として考えています。

しばらくレースに出ていなかった選手もいるし、新人2人は熊野からの連戦になっている。なので、徐々に身体を慣らすことが、コンディションを上げ、総合が動くステージや後半で結果に結びつくと考えています」

 初めての海外レースを走る木守望(愛三工業レーシングチーム) 初めての海外レースを走る木守望(愛三工業レーシングチーム) (c)Sonoko.Tanakaチームのキーパーソン、綾部勇成

今回、チームのキーとなるのはチームキャプテン、綾部勇成だろう。チームの最年長でありキャプテンという立場から、チームをまとめながらも、上りが得意であるため、今レースではチームのエース役も担っている。しかしシーズン始めのツール・ド・ランカウイでステージ優勝してから、コンディションを落とし、春は自転車に乗れないほどだったと話す。

「2月にコンディションを落としてからは体調が悪く、本格的なトレーニングができるようになったのは5月頃からです。徐々にコンディションは上がってきていますが、5月下旬にナショナルチームとして参加したイランのプレジデンシーツリーダージャージを獲得したフェリナント、山岳賞はジャン・チャン・ジェ(韓国、トレンガヌ・プロアジア)リーダージャージを獲得したフェリナント、山岳賞はジャン・チャン・ジェ(韓国、トレンガヌ・プロアジア) (c)Sonoko.Tanakaアー(2.2)では、あまりいい結果を残せませんでした。到着してから中1日で標高3200mの高地に上り、息が切れるなど身体が順応しなかった感触です。順応していないと言えば、そうなんですが、思っている以上に走れなかったことにフラストレーションが溜まりました。今日のレースでも感じたことですが。

でもイランのレースが高地トレーニングになっているのは確かで、調子は上向いています。今回のレースで、トレーニングが結果に結びついて、このフラストレーションが解消してくれるといいですね。

あと、今日のレースを走ってみて、まだチームの動きが機能していないと感じています。新人2人は熊野からの連戦になりますが、まだまだレース中の動きがわかっていないなと思う場面がありました。熊野は日本国内のレースで、今回は日本人選手が多かったので、あくまでも日本のレースと捉えています。

アジアツアー1位という目標を掲げる愛三工業にとっては、今回のような海外が主戦場。ここでしっかりと動けるようにならないといけません。チームをまとめていくことも全日本選手権を前にした今回の大切な課題です。問題をひとつひとつ解決していけば、結果が出てくると思います」


課題を乗り越えながら前に進む愛三工業

ツール・ド・熊野では国内チームとして唯一、イタリアからの強豪、ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPOと戦えたと言っても過言ではない愛三工業。この強さの背景には、ここ数年アジアで戦ってきたたくさんの経験がある。

熊野ではスプリント2勝を挙げたが、そのスプリントにしても、トレイン組みがうまくいかず、何度も何度も悔しさを味わっている。しかし失敗から成功を掴んだ彼らの経験は強い。新しいメンバーを迎え入れての参戦となり、現状は問題を抱えているかもしれないが、それを乗り越えた先に、さらに強くなった同チームがあるだろう。そんな期待が膨らむ、ツール・ド・シンカラの初日だった。


ステージ順位
1位 フェリナント(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)1h28'23"
2位 チャン・ジェ・ジャン(韓国、トレンガヌ・プロアジア)
3位 プロジョ・ワセソ(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)
4位 セルゲイ・クデンツォフ(インドネシア、ポリゴンスイートネイス)
5位 モハマド・ハリフ・サレー(マレーシア、トレンガヌ・プロアジア)
6位 ヌグローホ・キスナント(インドネシア、プトラプルジュアンガン)
7位 ラマダニ(インドネシア、ビノンバルパッソル)
8位 ダビッド・ファンエード(オランダ、グローバルサイクリング)
9位 ダレーン・ロウ(シンガポール、CCNコロッシ)
10位 シー・シン・シャオ(台湾、アクションサイクリング)
12位 木守望(愛三工業レーシングチーム)
17位 綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)
22位 五十嵐丈士(フジ・サイクリングタイムドットコム)
34位 中島康晴(愛三工業レーシングチーム)
57位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
79位 松尾修作(フジ・サイクリングタイムドットコム)
98位 鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム)



総合順位
1位 フェリナント(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)1h28'13"
2位 チャン・ジェ・ジャン(韓国、トレンガヌ・プロアジア)+02"
3位 プロジョ・ワセソ(インドネシア、ユナイテッドバイクケンカナ・マラン)+06"
4位 アリレギ・ハギ(イラン、アサドユニバーシティ)+07"
5位 モハマド・ハリフ・サレー(マレーシア、トレンガヌ・プロアジア)+09"
6位 セルゲイ・クデンツォフ(インドネシア、ポリゴンスイートネイス)+10"
7位 ヌグローホ・キスナント(インドネシア、プトラプルジュアンガン)
8位 ラマダニ(インドネシア、ビノンバルパッソル)
9位 ダビッド・ファンエード(オランダ、グローバルサイクリング)
10位 ダレーン・ロウ(シンガポール、CCNコロッシ)
12位 木守望(愛三工業レーシングチーム)
17位 綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)
22位 五十嵐丈士(フジ・サイクリングタイムドットコム)
34位 中島康晴(愛三工業レーシングチーム)
57位 伊藤雅和(愛三工業レーシングチーム)
79位 松尾修作(フジ・サイクリングタイムドットコム)
98位 鈴木謙一(愛三工業レーシングチーム) 

チーム総合首位
ユナイテッドバイクケンカナ・マラン

ポイント賞
アリレギ・ハギ(イラン、アサドユニバーシティ)

photo&text:Sonoko.Tanaka