モルベーニョのスタート地点に到着するなり、大粒の雨がボタボタと降り始めた。一斉に軒下に隠れる観客たち。ホテルのおじさんから「今晩から雨らしいぞ」と聞いていただけに終日雨降りを想像してしまったが、幸い選手たちが到着するころには雨が上がり、太陽が顔を出す。アスファルトを濡らした雨が蒸発し、ムワッとした湿気に包まれた。

雨上がりのスタート地点にやってきた別府史之(日本、レディオシャック)雨上がりのスタート地点にやってきた別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiここ数日、山間部を走っているというのに、窓を全開にしないと耐えられないほどの暑さが続いている。標高が1900mある昨日の2級山岳トナーレ峠も、上半身裸でも全然問題ないほど暑かった。

ちなみにドロミテに差し掛かった辺りから、ジャーナリストやフォトグラファーの数が一気に増えた。開幕地トリノを取材してから一旦離脱し、北イタリアに戻ったところで合流する報道陣は多い。加えて日本からの観戦客も増えてきた。モルベーニョでは日の丸もチラホラ。

別府史之(日本、レディオシャック)とジロのツイート担当者別府史之(日本、レディオシャック)とジロのツイート担当者 photo:Kei Tsuji出走サインを終えた別府史之(レディオシャック)は、何やら奥のVIPエリアに連れて行かれた。頼んでVIPエリアに入れてもらうと、スタッフに頼まれてPCでツイートしているフミを発見。今年からジロはツイッターでの情報発信に積極的で、フォロワー数の多いフミに目を付け、ジロのタグ付きツイートをお願いしたのだ。

フミのコメントがイタリア語に訳されてツイートされている。「Ciao a tutti, sono felice di correre il @giroditalia perche' ci sono tanti tifosi che mi vogliono bene! Sono molto contento, grazie a tutti!(みなさんこんにちは。沢山の観客から熱い応援を受けてジロを走ることができて、とても幸せです。とても満足しています。みんなありがとう!)」

序盤のアタック合戦に加わった別府史之(日本、レディオシャック)序盤のアタック合戦に加わった別府史之(日本、レディオシャック) photo:Riccardo Scanferla前日の中級山岳ステージを集団内でこなしたフミ。しかし逃げグループを捕まえきれずにスプリントを逃したことで悔しさを滲ませる。若干難易度が低いこの日は、スプリントの可能性に言及しつつも、逃げで突破口を開きたい考えだ。

「当たって砕けろという勢いでブレークアウェー(逃げ)を狙いますよ」。フミの言葉は気合いに満ちている。脚もとを見ると、前日までロープロフィールの軽量カーボンホイールだったが、今日は平坦路での巡航を優先したハイプロフィールのものを履いている。逃げる気満々だ。

ベルガモ旧市街に至る石畳の登りベルガモ旧市街に至る石畳の登り photo:Kei Tsujiフランスの著名なジャーナリスト、ジャンフランソワ・ケネが存在感を消しながらフミのインタビューにやってくる。ケネはプロノスティコ(ジャーナリストによる優勝選手予想)の上位の常連。フランス語でのフミとの質疑応答を終えると「今日はフミが良いと思っている。彼の名前をトップ5に入れておいた」と耳元で囁いた。

コース前半の大部分はコモ湖沿いの平坦路を走る。“落ち葉のクラシック”ことジロ・ディ・ロンバルディアでも通過するコースで、雨が降るといつもパンクが多発すると記憶している。でも、スタート地点で降っていた雨は上がり、幸いコースはドライなコンディションに。

序盤からアタックを繰り返した別府史之(日本、レディオシャック)がベルガモ旧市街に向かう序盤からアタックを繰り返した別府史之(日本、レディオシャック)がベルガモ旧市街に向かう photo:Kei Tsuji今日もスタート時間の10分前に出発し、コースに沿ってクルマを走らせた。ラジオコルサ(競技無線)はスタートからずっと鳴りっぱなし。「ヴェロチタ・センプレ・ソステヌータ(常にハイスピードな状態)」「グルッポ・センプレ・コンパット(常に集団は一つのまま)」。アタックが決まらない状態が延々と続く。

レース開始から1時間が経過し、平均スピードが告げられる。思わず耳を疑ってしまった。平坦路とは言え、1時間目の平均スピードは53.1km/h(選手たちによると54km/hオーバー)。どうりでクルマを飛ばしてもレースを引き離せないわけだ(あまりに速くてコモ湖沿いで撮影できず)。

先行するマルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)に並ぶエロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)先行するマルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)に並ぶエロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Kei Tsuji実際には、フミがそのハイスピードを作っていた当事者の一人だ。序盤からのアタック合戦に加わったフミは「1300Wのアタックを何度も繰り返した」と言う。

84km地点のベルガモの街に到着してすぐ、JSPORTの電話レポートに出る暇もなくプロトンがやってきた。しかもまだアタックが決まっておらず、ハイスピードな状態が続いている。

逃げに乗ることができず、悔しい表情でゴールする別府史之(日本、レディオシャック)逃げに乗ることができず、悔しい表情でゴールする別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiベルガモ・アルタ(丘の上のベルガモ)と呼ばれる旧市街に続く道は細く、しかも路面には握りこぶし大の尖った石が敷き詰められている。カテゴリー山岳ではないが、ジロのコースにはこんな仕掛けがアチコチにあって、選手たちを困らせる。

序盤から2時間近く続いたアタック合戦で力を使ったフミは、その凸凹登りを集団中程でクリアした。ジャージのジッパーを開け、熱さを逃しながら走っている。結局ベルガモ・アルタに続く登りで集団が縦に伸び、そこで逃げが決まった。残念ながらフミは逃げに乗ることができなかった。

ゴール地点はベルガモ北部の山間にあるサンペッレグリーノ・テルメ。街の名前を聞いてまず思い浮かべるのは、日本でも販売されているイタリア大手の炭酸入りミネラルウォーターだろう。そう、まさにゴール地点はその「サンペッレグリノ」の産地だ。

澄んだ川を挟むようにして形成されたこじんまりとした街。コース脇には、ミネラルウォーターを貯蔵する巨大な倉庫がある。余談として、第5ステージで紹介したコーラに似た炭酸飲料「キーノ」もサンペッレグリノ社製。

2日連続で逃げ切りが決まり、2日連続で若いアシスト選手が勝った。前日のディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)も初々しかったが、今日のエロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も表彰台で喜びを爆発させる。ニーバリの総合成績に執着してきたチームに良い勢いを持ち込むことができた。チームのプレス担当者パオロの顔が久々に緩んだままだ。

6分遅れでゴールしたメイン集団の中に、フミの姿はあった。悔しい表情を浮かべながらゴールラインを切る。「前半の逃げに乗るために片道切符で今日は挑みました。捨て身で何度も挑んだ。ベストは尽くしました」。しかし今大会2度目のエスケープは叶わなかった。

残る3ステージのうち、2ステージは頂上ゴールで、最後の1ステージは個人タイムトライアル。つまり、この第18ステージが実質的にステージ優勝のラストチャンスだったと多くの選手が言っている。でもフミは、展開によっては第19ステージの最後の3級山岳マクニャーガ頂上ゴールで逃げ切り、もしくはゴールスプリントになると予想する。天気予報によると、第19ステージは曇り時々雨。いよいよジロの最終決戦地アルプスに突入だ。

text&photo:Kei Tsuji in San Pellegrino Terme, Italy

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