第3週に入ってなお、アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)の圧倒的な優位は変わらない。平日にも関わらずイタリア人の観客で埋まったクロノスカラータ(ヒルクライムTT)で、コンタドールはリードを広げることに成功した。イタリア勢は2位争いへの作戦変更を余儀なくされそうだ。

ドロミテへの玄関口ベッルーノドロミテへの玄関口ベッルーノ photo:Kei Tsujiスタート地点のベッルーノはドロミテ山塊の玄関口。ヴェネツィア方面から北に向かい、ベッルーノに差し掛かると、目の前に雄々しい山岳風景が現れる。

そのベッルーノの南に広がる山岳の中腹に、ゴール地点のネヴェガルはある。標高は1000mほど。冬場はスキー客が訪れるリゾート地で、山一面にアルペンスキーやクロスカントリースキーのコースがある。フィールドアスレチックやMTBコースもあり、夏場も観光客が集まる。

歓声を受けてネヴェガルのゴールを目指す歓声を受けてネヴェガルのゴールを目指す photo:Kei Tsujiコースはベッルーノの旧市街をスタート後、石畳を含む街中の曲がりくねった道を進み、短い下り区間を経てネヴェガルへ。前半は平坦基調だが、後半は登りっぱなし。平均勾配10%オーバーの登りが4kmに渡って続く。

ネヴェガルは「山岳TT」の名所だ。と言ってもロードレースではなく、有名なのは毎年8月に行なわれるレースカーによる山岳TT。中盤の勾配がキツイ区間をフェラーリなどが超高速で駆け上がる。

好天に恵まれたレース前半好天に恵まれたレース前半 photo:Kei Tsujiそのスタート地点は、ジロ山岳TTの中間計測ポイントが置かれた場所。トップ選手は5.5kmを3分足らずで登るというから、平均スピードは110km/hオーバー。ヘアピンカーブでスピードが落ちることを差し引くと、直線路でいったいどれだけのスピードが出ているのか・・・。参考までにYouTubeのリンクを貼っておく。

「前半の平坦区間でタイムを稼ぎ、後半の登りはダンシングでクリアしたい」と話していた別府史之(レディオシャック)が、険しい表情でラスト2km付近にやってきた。

4分24秒差のステージ127位に入った別府史之(日本、レディオシャック)4分24秒差のステージ127位に入った別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiずっとタイムカットを心配していたが、結果は4分24秒遅れのステージ127位。フミは「キツい登りだった」と感想を述べる。「でも昨日よりも脚の感触はいいし、踏めたから良くなっている。観客の声援がすごくて、登ってる最中も『ベップ!』や『フミユキ!』が途切れなかった。ゴールして下山する時も拍手喝采でした」。タイムカットまで数分の猶予を残して山岳TTを乗り切ったフミ。厳しいジロの完走まで残る5ステージだ。

谷を挟んだ反対側にドロミテの山々を望むネヴェガルの登り。午前中は肌がジリジリと焼けるのを感じるほどの快晴だったが、午後になると雲が出始めた。徐々に雲の密度が濃くなり、黒さを増していく。地元の観客は「これは雨になるぞ!コンタドールの時だけ雨になるかも!」と興奮する。

前々日のチーマコッピステージで果敢に逃げながらも、2位に甘んじたステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)が、マリアヴェルデを着てやってきた。ガルゼッリは昨年の山岳TTの優勝者。ガルゼッリのステージ優勝をするジャーナリストは多い。

歯を食いしばるのではなく、口を開け、目をつぶって最後の力を振り絞るガルゼッリ。イタリア語で「ガッツ」や「闘志むき出し」を意味する「Grinta(グリンタ)」という言葉がドンピシャで当てはまる表情。でも前々日のダメージが残っていたことは否めない。一躍暫定トップに立ったが、総合上位の走りが始まると、すぐに暫定トップを明け渡してしまった。

決死の表情で走るステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)はステージ5位決死の表情で走るステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)はステージ5位 photo:Kei Tsuji52秒差・ステージ7位のデニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)52秒差・ステージ7位のデニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC) photo:Kei Tsujiネヴェガルの登りを快走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ネヴェガルの登りを快走するアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Kei Tsuji


ガゼッタ紙を読みながら選手を待つガゼッタ紙を読みながら選手を待つ photo:Kei Tsuji総合上位陣は3分毎のスタート。ラスト2kmの時点で、明らかに総合3位のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)と総合2位のミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)のタイムが良い。2人の好走に、イタリア人の観客は盛り上がる。

でも、スカルポーニが通過してすぐ、コンタドールの上空を飛ぶヘリコプターの音が聞こえ始めた。空は黒い雲に覆われ、雷鳴が轟く。でも雨は降らない。むしろ太陽が遮られて涼しくなった分コンタドールに味方した?

徐々に雲が空を覆い始める徐々に雲が空を覆い始める photo:Kei Tsujiスカルポーニから3分遅れでスタートしたはずのコンタドールが、チームカーやオフィシャルカー、カメラモトの大群を引き連れてやってきた。時計でタイムをチェックしなくても、スカルポーニとの差が2分近くまで迫っていることは分かった。コンタドールが下位を30秒以上を引き離す圧勝だった。

グロースグロックナー、ゾンコラン、ガルデッチャでリードを広げたコンタドールが、だめ押しのステージ優勝。まだ5ステージも残っているのに、すでに5分近くの総合リードがある。マリアローザ争いは、エトナ山のステージで決着がついていたのかもしれない。

「イタリア人選手が手を抜いているわけじゃない。イタリア人選手は頑張っている。これは恥じらうことじゃない」とはニーバリの言葉。確かに一人だけ飛び抜けて強い。現実的に、スカルポーニとニーバリは、マリアローザを諦め、2位争いに徹することになる。

ジロのドロミテ決戦はこの第16ステージで終演。舞台はアルプスへと移ろう。第17ステージはドロミテ圏内のフェルトレからアルプス圏内ティラーノまで230kmの大移動。カテゴリー2級と3級山岳が後半に設定されていて、ゴールスプリントに持ち込まれる可能性が高いというのが専らの予想。個人的には、最後の3級山岳アプリカのハイスピードかつテクニカルな下りでサプライズアタックが起きるのではないかと予想している。

text&photo:Kei Tsuji in Nevegal, Italy

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