ジロ・デ・イタリアの最大の見どころである難関山岳3連戦が5月20日から始まる。次にあげる3つのステージがジロの趨勢を決することになるだろう。グロースグロックナー、モンテ・ゾンコラン、ガルデッチャ。しかし、ここで取り上げるのは、途中にある山のことだ。その名はモンテ・クロスティス。

ジロ第14ステージに採用されたモンテ・クロティスを試走するアルベルト・コンタドールジロ第14ステージに採用されたモンテ・クロティスを試走するアルベルト・コンタドール (c)CorVosモンテ・クロスティスは、ジロ・デ・イタリアの94年の歴史で初めて登場する。ステージのゴールでもスタートでさえもない。土曜日の第14ステージで、モンテ・ゾンコランのアペリティフ(食前酒)として登場する山なのだ。

※写真ではアルベルト・コンタドールが4月下旬に行ったコース試走の様子を紹介する。

この山の危険性が話題になることもあったし、残念ではあるが、ラパッロをゴールとする第3ステージでのベルギー人選手のワウテル・ウェイラントの死亡事故も危険性の指摘に一役買っている。
細く、質素な登攀路が続く細く、質素な登攀路が続く (c)CorVos
クロスティスの登りでは、1417mを14kmかけて登る。勾配は13km地点で18%に達し、平均勾配は10.1%にもなる。しかし、選手や監督たちが苦情を申し立てているのは、登りではなく「下り」だ。

「選手たちはクロスティスの下りも登りも望んでいない」とスカイのスポーツディレクター、ショーン・イェーツ氏は言う。
標高1892mの山頂を越えると、モンテ・ペツェットの渓谷を望む美しい風景が広がる。目をこらせば、モンテ・ゾンコランのつづら折りが見える。土曜日にはこのつづら折りに沿って、ファンが列をなすだろう。ここで昨年、イヴァン・バッソがカデル・エヴァンスを下し、ジロで2回目の総合優勝を飾った。

ライトがなく暗い素掘りトンネルライトがなく暗い素掘りトンネル (c)CorVosだが、選手たちは右はおろか左さえ見る余裕もないだろう。彼らのホイールの下にあるのは、今年一番の荒っぽい路面なのだから。

ジロのコースガイドには次のように書かれている。「山岳ポイントを過ぎるとラヴァスクレットの下りに入る。ここではパノラミカ・デッラ・ヴェッタのダート区間を通る。その距離は6kmで、等高線に沿っている。極端にテクニカルで狭い下りである」

ダート区間に加えて、標高差と多くのつづら折りもある。昨年のガヴィア峠の下りと同様、オーガナイザーは安全策としてネットを取りつけた。ウェイラントや、2年前のペドロ・オリリョのような事故を、これ以上起こしたくはないのだ。

頂上付近のパノラマ 4月下旬の残雪の風景頂上付近のパノラマ 4月下旬の残雪の風景 (c)CorVos元ラボバンクの選手オリリョは、サン・ピエトロ峠の下りで柵を越えて崖下に60mも転落した。幸運にも救助され、命をとりとめたが、選手生命は絶たれた。

ネットの設置に加えて、オーガナイザーは残りの27.1kmの下り区間の木や岩に対して緩衝材を取り付けた。

「オーガナイザーは安全性を高めるためにずいぶん努力してきたと思う」と、マリアローザのアルベルト・コンタドールは記者会見で言った。「下りの一部を舗装し、残りの未舗装区間をならした。でも、どれだけの対策を施せばいいかわからない。少し混乱したステージになるだろう」

道の状態をカメラに収め、タイヤ選択の基準とするコンタドール道の状態をカメラに収め、タイヤ選択の基準とするコンタドール (c)CorVosコンタドールのチーム、サクソバンク・サンガードのビャルヌ・リース監督も懸念を表明している。5月18日の朝、彼をはじめとするチーム監督たちは、レースディレクターのマウロ・ヴェーニ氏やUCI評議会と会合をおこない、モンテ・クロスティスについて話し合った。

リース監督は「危険すぎる」として、クロスティスを走ることに強く反対した。ヴェーニ氏はリース監督らに、昨年10月に発表されてからレースが始まるまでに意見を言う機会はいくらでもあったはずだと答えた。

「ジロが異常に危険なのは、誰でも知っている」と、前述のチーム・スカイのディレクター、イェーツ氏はつけ加える。「これまでにも常軌を逸したゴールがたくさんあった」

イェーツ氏は現役時代、下りの名手として名をはせていた。今でいうとヴィンチェンツォ・ニーバリに近い。
「ダート区間の山なんて下ったことがない。ジロはこういうことで悪名高いんだ。たとえば照明のつかないトンネルとか。近年、ワウテルの不幸を除いて、命にかかわるできごとが起こらなかったのは奇跡だ。トンネルに照明を入れるなどして、もっと責任を持つべきだろう。だが通例、ここではジロそのものが法律になるんだ」

天候が状況を変えることもある。雨が降れば、コンタドールをはじめとする選手たちは細心の注意を払わなければならない。現在の予報では、気温は20度で、雨の可能性もある。

雨天の場合は、第14ステージはリエンツからモンテ・ゾンコランを直接目指すコースとなり、モンテ・クロスティスのジロへのデビューはスキップされることになっている。逆に、路面が乾いていて晴天なら、選手たちは下りを「ゆっくり走ること」を選ぶ可能性もある。昨年、ファビアン・カンチェッラーラが呼びかけたツール・ド・フランスのスパをゴールとするステージの再現になるかもしれない。

「選手まかせにすべきじゃない」と、イェーツ氏は続けた。「UCIは運営団体として、この件への是非を表明すべきだよ。これは私の意見だがね」

UCIの代表者たちは、昨日の会合でジロ側が実施した安全策を指摘して、ゾンコランのステージは計画通りに実施すべきだと語った。

「なにも事故が起こらないことを願うよ。だが起きてしまったら大問題になる。誰が責任を取ることになっているんだろう?」

Tutto Bici Web(イタリア)が撮影したモンテ・クロティスのコースの様子


モンテ・クロティスを含むジロ第14ステージのコースマップ
モンテ・クロティスを含むジロ第14ステージのコースマップモンテ・クロティスを含むジロ第14ステージのコースマップ image:RCS Sport

text:Gregor Brown in Ravenna
translation: Taiko.YAMASAKI + Seiya.YAMASAKI

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