マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)は「第12ステージを最後にジロを去る」と宣言していた。それを「潔い&賢明」ととるのか、それとも「ジロに敬意を払っていない」ととるのかは、人によって様々。選手を恐れさせるドロミテ3連戦を前に、ステージ2勝目を飾ったカヴはジロを去った。

スタート地点を見渡すポディウムガールスタート地点を見渡すポディウムガール photo:Kei Tsujiスタート地点にやってきた別府史之(レディオシャック)を二度見してしまった。どこかいつもと違う。そうだ、サングラスだ。いつもかけているサングラスよりもボリューミーで、ちょっとスペーシーな印象のタイプをかけている。

出走サインを済ませてサイン台を降りてきたフミに聞くと「今日だけ限定ですよ」と言う。眼鏡をかけたままかけることができる「オーバーグラス」というモデル。レース後のコメントによると、物珍しさにプロトン内で人気が出ていたそうだ。

SWANSの「オーバーグラス」をかけて登場した別府史之(日本、レディオシャック)SWANSの「オーバーグラス」をかけて登場した別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiこの日も、イタリア半島の東岸、つまりアドリア海沿いをグングンと北上。マルケ州からエミリア・ロマーニャ州へと移ろう。基本的にコースはアドリア海に面した平坦路で、砂浜とビーチリゾート地、寂れた街、工業地帯を右目に見ながら選手たちは走る。

ゴール地点はポー川が作り出した広大なポー平原にあるラヴェンナ。そう、シチリア島まで南下したジロは、北イタリアまで戻ってきた。

小学校の授業の一環として沿道へ小学校の授業の一環として沿道へ photo:Kei Tsujiこの日は故マルコ・パンターニの故郷を巡るコースでもある。パンターニの生誕地であり、記念碑や墓地があるチェゼナーティコを134km地点で、パンターニが生涯を閉じたリゾートホテル「レ・ローゼ」があるリミニを111km地点で通過する。

1998年にダブルツール(同年ジロとツール制覇)を達成し、世界屈指のクライマーとして名を馳せたパンターニ所縁のステージだが、コースは正に真っ平ら。パンターニがトレーニングを行なっていた内陸部の山岳地帯には目もくれず、ジロは北へと急いだ。

ボトルを満載して集団を目指すリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)ボトルを満載して集団を目指すリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク・サンガード) photo:Kei Tsuji同じようにアドリア海沿いを北上する昨年の第13ステージでマリアローザを着ていたリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)が、忙しそうにボトル運びに勤しんでいる。

昨年着ていたマリアローザは現在、チームメイトのコンタドールが着ている。ポルトのジャージはボトルでパンパンに膨らんでいる。

アドリア海の製油所アドリア海の製油所 photo:Kei Tsuji4月のツール・ド・ロマンディに出場していたポルトに今シーズンの予定を聞くと「今年はジロは無し。出たい気持ちもあるけど、チームにはアルベルトという絶対的なエースがいるから」とため息混じりに語っていた。ところがどっこい、ジロ開幕直前のロマンディ期間中にポルトの出場が決定した。

昨年マリアローザを着たことでイタリアでの知名度は高い。でも本人はあくまでも脇役に徹する所存。「あまりにも準備期間が短かった。予定せずに3週間のレースを走るのは大変だ。でもできる限りのことはする。アルベルトを支えたい」。

マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)が先頭を守ってゴールへマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード)が先頭を守ってゴールへ photo:Kei Tsujiここまでのステージでポルトは全く姿を見せていない。総合でもすでに1時間以上遅れている。でもそれはアシストとして当然のこと。ここまで13日間かけて整えたコンディションで、翌日からコンタドールの山岳アシストとして走る。

スタート地点と合わせて4カ所で撮影し、時間に余裕をもってゴール地点ラヴェンナに向かう。でも比較的ゆったりとレースが進行したことで、ラヴェンナ周辺の道路は帰宅ラッシュで大混雑。さらにジロの交通規制と交通事故が重なって、クルマが数キロに渡って列を作る。

握手してゴールするミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)とクリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ)握手してゴールするミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)とクリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiゴール時間が迫っていたので、慌てて農道や脇道に突っ込んでラヴェンナの中心に無理やり向かう。ゴール地点に滑り込んだとき「レースは残り3km!」のアナウンスがあった。

一日中メイン集団をコントロールしていたHTC・ハイロードが、綺麗なトレインを組んで猛進する姿がスクリーンに映し出される。ラスト1500mまでラルスイティング・バク(デンマーク)が引き、バトンタッチしたアレックス・ラスムッセン(デンマーク)がラスト600mまで、そしてラスト200mまで発射台役のマーク・レンショー(オーストラリア)が引くという、これ以上ない完璧なリードアウト。

落車の影響で勝負に絡めなかった別府史之(日本、レディオシャック)がゴール落車の影響で勝負に絡めなかった別府史之(日本、レディオシャック)がゴール photo:Kei Tsujiこれまでのステージで疲労が蓄積しているためか、「爆発的な加速」とは言い難いスプリントだったが、HTC・ハイロードのミッションを完遂。ステージ2勝目を示すVサインを突き上げた。

カヴはこの日を最後にジロを去る。3つのグランツール全てに出場予定で、その先にはデンマークのロード世界選手権も控えている。ジロの過酷な山岳に苦しむよりも、帰国してゆっくりとトレーニングすることが、次なる勝利に繋がる。

ピンクの紙吹雪が舞うラヴェンナピンクの紙吹雪が舞うラヴェンナ photo:Kei Tsujiそう考えるのはカヴだけではなく、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)とフランシスコホセ・ベントソ(スペイン、モビスター)も同様にリタイア予定。ステージ優勝を飾った3名は、翌日の第13ステージをスタートせずに家に帰る。

ラスト2kmを切ってから発生した落車によって足止めを食らったフミは、カヴから約20秒遅れでゴール(ラスト3km以内の落車なのでタイム差無し)。エーススプリンターを担う予定だったロバート・ハンター(南アフリカ、レディオシャック)も足止めを食らったので勝負に絡めなかった。

さて、第12ステージのゴール地点ラヴェンナから第13ステージのスタート地点スピリンベルゴまでは300km以上ある。多くのチームのホテルはスピリンベルゴの近く。選手たちは疲れたカラダをチームバスのシートに埋めて3時間移動。

この移動時間を如何に短縮し、選手たちに疲労を与えないかがこれからの闘いに影響するかもしれない。翌日からの山岳決戦に備え、リクイガス・キャノンデールは特別にヘリを用意してヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)らを移動させた。いよいよマリアローザを懸けた闘いが佳境へと向かう。

text&photo:Kei Tsuji in Ravenna, Italy