ワウテル・ウェイラント(ベルギー、レオパード・トレック)が落車したのを知ったのは、ゴール地点ラパッロのプレスセンターに重い荷物を置いた時だった。プレスセンターがゴール地点から少し離れていたので、内容を確認せずに、急いでカメラ機材を抱えてゴールに向かう。いつもと違う、静かなゴール地点についてようやく深刻なことが起こっているんだと理解した。

スプリントするアンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)やデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)スプリントするアンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)やデーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsuji終盤の山岳で動いたレースは、アンヘル・ビシオソ(スペイン、アンドローニ・ジョカトリ)が制した。デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)がマリアローザを獲得したが、表彰台は当然キャンセルになった。

その時点ではまだ確かな情報が入ってきておらず、ゴール地点で待つジャーナリストやチームスタッフの間で様々な憶測が飛んだ。

マシャドの集団復帰に力を尽くした別府史之(日本、レディオシャック)マシャドの集団復帰に力を尽くした別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiステージ優勝者から1分40秒遅れで別府史之(日本、レディオシャック)がゴール。先にゴールしていたティアゴ・マシャド(ポルトガル、レディオシャック)らに合流し、チームスタッフから受け取った清涼飲料水を流し込む。

「3級山岳の下りでティアゴ(マシャド)が落車してしまって、彼を集団に復帰させるために力を尽くしました」。隣にいるマシャドの肘には擦過傷が確認される。

親友ウェイラントの容態を心配するタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)親友ウェイラントの容態を心配するタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsuji「それよりも、落車したウェイラントの情報は入っていませんか?彼が縁石に顔から突っ込んだのを、後ろから見てました」。フミはプロトンの仲間を心配しながら、やるせない気持ちをのぞかせながら、足早にチームバスへと向かった。

しばらくして明らかに困惑した顔のタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)がゴールした。ウェイラントの大の親友であるファラーは、駆けつけたチームスタッフにウェイラントの容態を聞くが、誰も確かな情報を持ち合わせていない。

急遽プレスセンターで開かれた記者会見急遽プレスセンターで開かれた記者会見 photo:Kei Tsujiウェイラントが搬送されたという病院へ向かう同僚のリカルド・スカンフェルラからCFカードを受け取り、歩いてプレスセンターに戻る。手のひらの汗をズボンに押し付けながら、街の中を10分歩く。ジロにとって一大事が起きているのに、ラパッロの街はいつもと変わらない。

プレスセンターでRAI(イタリア国営放送)のジロ番組を見ていると、ウェイラントの死去が正式に発表された。

出走(PARTITI)207、完走(ARRIVATI)206出走(PARTITI)207、完走(ARRIVATI)206 photo:Kei Tsuji一瞬、プレスセンターは静まり返った。その数秒後、各国のジャーナリストがキーボードを叩く音や、携帯の着信音、事態を確認し合うジャーナリストの声で館内は埋め尽くされた。

そしてレース終了から約3時間が経った19時30分、プレスセンターで記者会見が始まった。ジロの総合ディレクターを務めるアンジェロ・ゾメニャン氏は、低いトーンのイタリア語で「まず最初に、ウェイラントの家族と、妻アン・ソフィーさんに、深い追悼の意を表したい。我々主催者はこれからミラノに向かい、22時30分にマルペンサ空港に到着する彼らを迎えにいく」と言葉を選びながら話す。

「それでもジロは続く。明日は会場の音楽やパーティーを止め、ウェイラントに黙祷を捧げる。出場を続けるかどうかは、レオパード・トレックを含め、全ての選手の判断に委ねる。いずれにしても彼らの判断を尊重する」。

亡くなったウェイラントは26歳。ちょうど1年前のジロ、しかも第3ステージで優勝している。総合優勝候補たちが落車やメカトラで苦しむ中、暖かな太陽が降り注ぐオランダ・ミデルブルフのゴールで、ウェイラントが両手を勢い良く突き上げる姿をよく覚えている。

ウェイラントは2004年のロンド・ファン・フラーンデレンU23レースで優勝し、パリ〜ルーベのU23レースで3位に。翌年クイックステップでプロ入りを果たし、2008年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝を果たした。

今年9月に妻(婚約者という情報もある)ソフィーさんとの間に第一子を授かる予定だったウェイラント。「だった」と過去形で書いているということに涙が出る。早過ぎる死。「これもロードレースの一部だ」と平然と言うジャーナリストもいるが、涙があふれて、とてもじゃないけど同意できない。

ジロは立ち止まらない。ジロは進み続ける。ここにいる全ての選手、スタッフ、ジャーナリスト、フォトグラファー…誰もが彼の死を悼み、そして彼という人間を忘れることがないだろう。

安らかに。RIP。

tex&photot:Kei Tsuji in Rapallo, Italy