2011年4月29日、ティエランからヌーシャテルまでの165.7kmで行なわれたツール・ド・ロマンディ(UCIワールドツアー)第3ステージ。ゴール3km手前で攻撃を仕掛けた3名が僅差の逃げ切りを果たし、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が接戦を制した。

ティエランに続々と集まるチームバスティエランに続々と集まるチームバス photo:Kei Tsuji第3ステージのコースは、ロマンディ地方と呼ばれるフランス語圏の東端に達する。スタート地点は、牧草地と菜の花畑が広がる丘陵地帯の田舎町ティエレン。平坦な幹線道路を一路北上し、ヌーシャテル湖(琵琶湖の約1/3の面積)の湖畔を通って山岳地帯に入る。

ゴールの40km手前で1級山岳アンジェ、続けて2級山岳リニィエールをクリアし、テクニカルな下りと約14kmに渡る平坦区間を経てゴール。リヴィエラ海岸やコートダジュールにも似た雰囲気の、ヌシャテル湖畔第一の都市ヌシャテルで勝負は決する。

出走サインに登場した別府史之(日本、レディオシャック)出走サインに登場した別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsuji注目が集まったのは、終盤に登場する2つの山岳が集団を破壊するのか、それとも下りと平坦区間で挽回した集団によるスプリント勝負か。そもそも、このロマンディに出場しているビッグスプリンターの数は少ない。スプリンターの豪華さは同時期開催のツアー・オブ・ターキーに譲る。

有力候補のダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、レオパード・トレック)は前々日の第1ステージで鎖骨骨折によりリタイア。純粋なスプリント力に秀でているのはオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)やマーク・レンショー(オーストラリア、HTC・ハイロード)、ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)。

チームメイトたちとスタートを待つ新城幸也(日本、ユーロップカー)チームメイトたちとスタートを待つ新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Kei Tsujiスタート前、レディオシャックの別府史之は「チームにはカルドソというスプリンターがいます。最後の1級と2級の山岳で生き残ることができればスプリントを狙うかも知れない。フレイレやスウィフトは集団に残ると思いますよ」と予想する。

その意見を踏まえ、ユーロップカーの新城幸也に「エーススプリンターはユキヤ?」と問いかけてみる。しかし答えはNO。「今日はゴール前に山岳があるのと、悪天候が予想されているので、スプリントにならないと思います。スプリントになったとしても、総合の人たちだけの闘いになって、登りをこなせないスプリンターは入ることができない」。

逃げグループを形成するジェローム・キュザン(フランス、ユーロップカー)ら4名逃げグループを形成するジェローム・キュザン(フランス、ユーロップカー)ら4名 photo:Kei Tsuji「だからチームの狙いは逃げです。総合に関係の無いメンバーで逃げることができれば、追いが緩いはずなのでチャンスがある」とユキヤは続ける。その言葉通り、ユーロップカーは前日に引き続いて、逃げグループに選手を送り込むことに成功した。

逃げたのはジェローム・キュザン(フランス、ユーロップカー)、クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・サンガード)、イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、モビスター)、アレクサンダー・クチンスキー(ベラルーシ、カチューシャ)の4名。タイム差は4分50秒まで広がる。

前半の平坦区間を駆け抜けるメイン集団 新城幸也(日本、ユーロップカー)が手を振る前半の平坦区間を駆け抜けるメイン集団 新城幸也(日本、ユーロップカー)が手を振る photo:Kei Tsuji

1級山岳アンジェを先頭で通過するクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・サンガード)1級山岳アンジェを先頭で通過するクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・サンガード) photo:Kei Tsujiリーダーチームであるカチューシャが逃げグループに選手を送り込んだため、スプリント狙いのラボバンクが集団コントロールを担当した。

1分50秒のリードで1級山岳アンジェをクリアした先頭グループからはキュザンが脱落。一方のメイン集団も細分化し、レンショーを始めとするスプリンターたちもここで集団から脱落してしまう。フミとユキヤはそれぞれ集団に食らいついたが、続く2級山岳リニィエールでポジションを落とした。

沿道に映えるツール・ド・ロマンディのフラッグ沿道に映えるツール・ド・ロマンディのフラッグ photo:Kei Tsujiやがて2級山岳リニィエールで先頭はセレンセン単独に。80名ほどに絞られたメイン集団を相手に、独走でゴールまでの平坦区間に入るセレンセン。しかしゴールまで距離を残して集団に飲み込まれる。続いて飛び出したリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)も、リードを奪えずに捕まった。

フレイレやスウィフト有利のスプリント勝負に持ち込まれると思われた刹那、パリ〜ニース総合覇者のトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)がラスト3kmでアタック。これにアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)が合流し、一気に集団を引き離す。

スプリントを繰り広げるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)スプリントを繰り広げるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Kei Tsujiヌーシャテルの最終ストレートに姿を現したマルティン、ヴィノクロフ、シュレル。後方からスプリンターたちが迫り来る中、ヴィノクロフとシュレルがスプリントで競り合う。バリケードに追いやられたシュレルが手を挙げて進路妨害をアピールするその前で、ヴィノクロフが片手でガッツポーズを繰り出した。

ヴィノクロフが表彰台の裏に向かうその後ろで、シュレルがコミッセールに進路妨害を訴える。しかしその訴えは認められず、ヴィノクロフのステージ優勝が確定。前日のダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)に続いて、アルデンヌ・クラシックで苦汁をなめた選手がステージ優勝を飾った。

片手を挙げるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)と、抗議するミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)片手を挙げるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)と、抗議するミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Kei Tsuji「左の進路を選んだのはシュレルだ。右にはもっと大きなスペースがあったのに」。ヴィノクロフはレース後の記者会見でスプリントの正当性を主張する。「明日の個人タイムトライアルに向けて脚を残すことも考えたけど、マルティンが飛び出したので、迷わずに反応した」。

ヴィノクロフはブエルタ・アル・パイスバスコ第3ステージに続く今シーズン2勝目。ステージ優勝によってボーナスタイム10秒を獲得し、総合トップのパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)と32秒差の総合2位に浮上した。

ラヴニュ監督に不平を漏らすミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)ラヴニュ監督に不平を漏らすミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Kei Tsuji「初出場のツール・ド・ロマンディを堪能できている。総合優勝できたらなお最高だ」と、大会制覇に意欲を見せる。「明日好調ならば良い走りをしたい。でもマルティンは調子が良さそうだ」。

ヴィノクロフが総合争いにおける最大のライバルと目するマルティンは、ブラットから1分18秒遅れの総合21位。ヴィノクロフとのタイム差は46秒ある。翌日の個人タイムトライアルでは、ヴィノクロフ、マルティン、そしてカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)らの走りに注目したい。

危なげなくリーダージャージを守ったパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)危なげなくリーダージャージを守ったパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ) photo:Kei Tsuji「自分の順番が回ってこないうちに(チームメイトのキュザンを含む)逃げが決まってしまいました」。ヴィノクロフから56秒遅れの第2集団でゴールしたユキヤはそう悔しがる。「最後の2級山岳の頂上で、メイン集団に50m届かなかった。目と鼻の先だったのに、合流できなかったです。追いついてスプリントしたかった」。

「昨日あまり寝付けなかったので、登りで千切れるかも」と、スタート前に冗談混じりで語っていたフミも56秒遅れの集団でゴール。脚は回っているが「終盤雨が降らず、厚着の影響でオーバーヒートになってしまいました」と悔やむ。

いよいよツール・ド・ロマンディも残り2ステージ。翌日の第4ステージは起伏のある20.1kmの個人タイムトライアル。最終日はジュネーヴにゴールするスプリンター向きのステージだ。

メイン集団から少し遅れて1級山岳アンジェをクリアする別府史之(日本、レディオシャック)メイン集団から少し遅れて1級山岳アンジェをクリアする別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsuji1級山岳アンジェでメイン集団から少し遅れた新城幸也(日本、ユーロップカー)1級山岳アンジェでメイン集団から少し遅れた新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Kei Tsuji


レースの模様はフォトギャラリーにて!

ツール・ド・ロマンディ2011第3ステージ結果
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)     3h47'55"
2位 ミカエル・シュレル(フランス、アージェードゥーゼル)
3位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)
4位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)
5位 オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)
6位 ダヴィデ・ヴィガノ(イタリア、レオパード・トレック)
7位 ジョフロワ・ルカトル(フランス、レディオシャック)
8位 アラン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)
9位 マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ・ISD)
10位 ロブ・ルーグ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
96位 別府史之(日本、レディオシャック)                +56"
99位 新城幸也(日本、ユーロップカー)

個人総合成績
1位 パヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)          12h31'34"
2位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)       +32"
3位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD)            +38"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)     +42"
5位 ゴルカ・ベルドゥーゴ(スペイン、エウスカルテル)          +46"
6位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)       +50"
7位 ベナト・インチャウスティ(スペイン、モビスター)          +51"
8位 スティーブ・モラビート(スイス、BMCレーシングチーム)
9位 ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)
10位 トーマス・ローレッガー(オーストリア、レオパード・トレック)   +52"
57位 別府史之(日本、レディオシャック)               +5'23"
109位 新城幸也(日本、ユーロップカー)               +19'31"

山岳賞
オレクサンドル・クヴァチュク(ウクライナ、ランプレ・ISD)

中間スプリント賞
ダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア、チームスカイ)

新人賞
ピーター・ステティーナ(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)

チーム総合成績
モビスター

text&photo:Kei Tsuji in Neuchatel, Switzerland

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