4月上旬から約1ヶ月半、シマノレーシングはヨーロッパ遠征を行なっている。オランダ南部のヴァルケンブルグのホテルをベースに闘う6名の選手と、それを率いる野寺秀徳監督に、遠征の意気込みやヨーロッパレースでの感触などを訊いた。

個人のレベルアップを目的に実現したヨーロッパ遠征

カウベルグでトレーニングを積むシマノレーシングカウベルグでトレーニングを積むシマノレーシング photo:Kei Tsuji今回オランダに渡ったのは鈴木真理、畑中勇介、村上純平、鈴木譲、西薗良太、青柳憲輝のフルメンバー6名。前者3名はヨーロッパレースを経験済みだが、後者3名はヨーロッパレースデビューに等しい。チームの野寺秀徳監督が指揮を執る。

チームの拠点となるのは、ベルギーとドイツの国境にほど近い、オランダ・リンブルグ地方のヴァルケンブルグ。あのアムステル・ゴールドレースで有名なカウベルグの上り口にあたる街で、2012年のロード世界選手権のコースもここを通過する。

オランダ・リンブルグ地方の丘陵地帯を駆けるオランダ・リンブルグ地方の丘陵地帯を駆ける photo:Kei Tsuji4月上旬に渡欧したチームは、フランスで4月13日から5日間の日程で開催されたツール・ドゥ・ロワール・エ・シェール(UCI2.2)に出場した。しかし初日から落車の連続で、エーススプリンターの鈴木真理は顔から地面にクラッシュしてリタイア。その他、5日間で村上純平、鈴木譲、西薗良太が相次いで落車し、ほろ苦いヨーロッパデビューとなった。

「初日からスピードに対応できなかった」。選手たちはそう口を揃える。だが同時に「日を追う毎にスピードや位置取りに慣れてきた。闘える実感が出てきた」という前向きな意見も多数。

ベルギーのヴィセで休憩するシマノレーシングベルギーのヴィセで休憩するシマノレーシング photo:Kei Tsuji5日間の闘いを終えて、チーム内の最高位は総合34位の鈴木譲。オランダのサテライトチームであるパークホテル・ルーディングに所属する阿部崇之は総合18位だった。

1年近く前からこのヨーロッパ遠征を計画し、遠征中ずっと雑務を一人でこなす野寺監督は「選手をヨーロッパのレースで走らせたいという思いは常々あった。シマノレーシングに入るとヨーロッパに行けないという考えを覆したかった」と話す。

昨年シマノレーシングは実業団Jサイクルツアーで圧倒的な力を見せ、畑中勇介を年間リーダーに導いた。しかし今季は必然的に実業団レース出場回数が少なくなる。そのことについては「もちろん国内レースをないがしろにするわけではなく、盛り上げたい気持ちに変わりはない。帰国後はしっかり闘っていきたい。選手個人のレベルアップが、国内レースのレベルアップに繋がると見込んで今回の遠征を決めた」と野寺監督。

今回のヨーロッパ遠征は初の試みで、今後とも継続していく考え。「チームとしてツール・ド・フランス出場を目指すという考えはないです。ヨーロッパに選手を送り込むことで、世界が広がり、個々のレベルアップに繋がれば」。

遠征に際して、現地オランダのプロコンチネンタルチームであるスキル・シマノがシマノレーシングをサポートしている。現地のメカニックやマッサージャー、アシスタントの3名がレースに付き添い、6名の走りを支えている。

カウベルグでトレーニングを積むシマノレーシングカウベルグでトレーニングを積むシマノレーシング photo:Kei Tsuji


ヨーロッパの厳しさを目の当たりにしながらも先を見据える6名

土地勘のある畑中勇介(シマノレーシング)がライドをリードする土地勘のある畑中勇介(シマノレーシング)がライドをリードする photo:Kei Tsujiフランスでのレース後、選手たちはヴァルケンブルグのホテルに帰着。取材に訪れたのは、フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が勝利したフレーシュ・ワロンヌ翌日の4月21日。イージーメニューの鈴木真理と鈴木譲を除く4名が、オランダ・リンブルグ地方からベルギー・ワロン地方にかけて、3時間ほどのトレーニングライドを行なった。

日本人が想像するオランダのイメージとはかけ離れた、アムステル・ゴールドレースの舞台となる丘陵地帯を縫うように駆けていく。

トレーニングの舞台となるのはオランダ、ベルギー、ドイツの三か国トレーニングの舞台となるのはオランダ、ベルギー、ドイツの三か国 photo:Kei Tsujiライドを先導するのは、スキル・シマノ時代に近郊のマーストリヒトに住んでいた畑中勇介と、かつてサテライトチームに所属していた村上純平。土地勘のある二人が、複雑に入り組んだ丘陵地帯の道を案内しながら自在に走っていく。

メンバーの中で最もヨーロッパでのレース経験が豊富な畑中勇介は「昨シーズン日本のレースで結果を残し、海外のレースを走りたいと思ったところに、今回の遠征の話が出てきた」と話す。「久々のフランスレースで『これだ!』という実感を得ました。でもこっちでの経験がある分、レースの厳しさを知っている。それだけにこの遠征中に結果を残したいという思いは強いです」。

青柳憲輝と畑中勇介(シマノレーシング)青柳憲輝と畑中勇介(シマノレーシング) photo:Kei Tsuji「1年間のブランクがあったので最初は苦戦しましたが、感覚を思い出しながら走りました」。そう話すのは、過去に2年間オランダで走っていた村上純平。「ですがヨーロッパで2クラスのレースに出るのは初めて。とにかく今年は地元秋田で開催される全日本選手権のタイムトライアルで結果を出したいです」。

ツール・ドゥ・ロワール・エ・シェールで良い逃げに乗りながらも、落車して右臀部を打ち付けた鈴木譲は、落車にもめげずに「こちらは脚と頭とテクニックの勝負なので、走っていて楽しい」と話す。

村上純平と西薗良太(シマノレーシング)村上純平と西薗良太(シマノレーシング) photo:Kei Tsuji「これまでは日本とアジアばかりでした。こっちのレースは刺激的で集団の密度、道の細さ、展開が全て違う。落車でチャンスを失ってしまったけど、感触は良かった。これからのワンデーレースで学びながら、結果を残したいです」。新たな発見の連続に、鈴木譲は声を弾ませた。

今季シマノレーシング新加入の西薗良太と青柳憲輝にとっても、ヨーロッパの舞台は初めての経験。西薗良太はすでに合計3回落車し、脛や腕など数カ所に擦過傷を負うなど苦戦した。

オランダ・リンブルグ地方の丘陵地帯を駆けるオランダ・リンブルグ地方の丘陵地帯を駆ける photo:Kei Tsuji「選手の平均値が高くて、しかもコースはど平坦。みんな強いので集団が一列棒状になるわけではなく、横に広がってハイスピードで進む。そこでスペースを見つけるのはテクニックが要求されるので、脚があるだけでは闘えないと感じた」と西薗は打ち明ける。

しかし同時に自身の成長を感じている様子。「上手くポジション取りをして、周りのペースに合わせて力を節約する。それが自分に欠けている部分。この期間中にその部分を一気に改善したい。ジュニアやU23の経験がない分、伸び率が大きいはず。先日のステージレースだけで自分の成長を感じることができた」。

メンバーの中で唯一U23の青柳にとっても良い刺激となっている。落車によるリタイア者が続出するレースを、青柳は無傷で走り切った。「集団の前に上がるだけでもテクニックが必要で、慣れるのに時間がかかった。いつかはヨーロッパで走りたいと思っていたので、今回が良い切っ掛けになりました」。

一方、メンバー最年長の鈴木真理は、久々のヨーロッパレースで落車し、途中リタイアに終わった。「やっぱりヨーロッパは最後まで闘える選手がプロトンの中に大勢いるので、位置取りが大変」とレベルの高さを痛感する。エーススプリンターを担う鈴木は「落車で肋骨を痛めたので、もがくことができず、スプリントできないかもしれない」とコメントしており、チームとして作戦変更を強いられる。

次戦は4月23日にオランダで開催されるアルノ・ワラールド・メモリアル(UCI1.2)。オランダ特有の平坦な周回コースが設定されており、細くてテクニカルなコースと、風に苦しめられることになる。その後もシマノレーシングはベルギーやオランダのレースを転戦。5月16日〜21日のオリンピア・ツアー(UCI2.2)を最後に日本へ帰国する予定だ。

ヨーロッパ遠征を行なうシマノレーシング@ヴァルケンブルグ旧市街ヨーロッパ遠征を行なうシマノレーシング@ヴァルケンブルグ旧市街 photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Valkenburg, Netherland