2002年にUCIプロツアーチーム「サクソバンク」の前身「チームCSC」にフレームを供給し始めたことでロードレース界へ一気にその名を轟かせたのがカナダのトロントに本社を構える「サーヴェロ」だ。流体力学に基づく設計などその先進的なフレーム作りで一般サイクリストたちの間でも瞬く間に人気メーカーのひとつへと成長した。

サーヴェロ R5caサーヴェロ R5ca (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

そんなサーヴェロが今季発表したビッグニュースが、山岳用フレーム「R5ca」「R5」「R3」からなる新生“R”シリーズだ。新たに採用された「BBright」により飛躍的な剛性アップを実現し。その上で快適性能の共生と軽量化を図ったモデル群となっている。

「プロジェクト・カリフォルニア」と呼ばれる開発チームのもと、それまでの山岳用軽量バイク「R3」をシリーズとして完全にリニューアルしたのだ。

上下異形ヘッドチューブは下部のベアリングが1・3/8インチ径になっている上下異形ヘッドチューブは下部のベアリングが1・3/8インチ径になっている 下部1・3/8インチ径の上下異形ヘッドチューブに取り付けられるフォーク「FK30SL」もその操作性向上に大きく貢献している下部1・3/8インチ径の上下異形ヘッドチューブに取り付けられるフォーク「FK30SL」もその操作性向上に大きく貢献している ブレーキアーチのボリュームが異様な光景に感じられてしまうほど細いシートステーだが、乗ると堅牢な作りになっていることがわかるブレーキアーチのボリュームが異様な光景に感じられてしまうほど細いシートステーだが、乗ると堅牢な作りになっていることがわかる


ここで気になるのは新機構 BBrightだろう。BBrightとは、左右非対称ボトムブラケット設計におけるサーヴェロ独自の新規格のこと。ドライブ反対側のBBシェルを11mm広げるこの規格により、BB部に繋がるシートチューブ、ダウンチューブ、チェーンステイを大口径化。これによりフレーム全体の大幅な剛性アップに貢献している。また高剛性化の実現で軽量バイクにありがちな“体重制限”が“ない”ことも新生Rシリーズの大きな魅力となっている。

マットのフレームにツヤありブラックで描かれるグラフィックはハイエンドの落ち着きすら感じさせるマットのフレームにツヤありブラックで描かれるグラフィックはハイエンドの落ち着きすら感じさせる このバイクの要のBBrightに向かって各チューブが大口径となってつながっていくこのバイクの要のBBrightに向かって各チューブが大口径となってつながっていく


この一新された“R”の最高峰モデル「R5ca」が今回のテストバイクだ。「R5ca」は新規格のBBrightに加え、スクオーバルチューブを用いてフレーム重量675gという世界トップクラスの軽さを実現したモデル。

その究極の軽さへの挑戦はRシリーズ中「R5ca」だけがBBのベアリングは直接圧入する形式をとることからもうかがうことができる。弟分の「R5」に比べてシートアングルを寝かせるなどの細かな設計の違いがあるなど、そのこだわりは尋常ではない。

ワイヤーを流行の内蔵にしないところにも逆にサーヴェロの設計にこだわる思想を感じるワイヤーを流行の内蔵にしないところにも逆にサーヴェロの設計にこだわる思想を感じる BBrightによって大口径化されたシートチューブやチェーンステーはその形状からもはっきり分かるBBrightによって大口径化されたシートチューブやチェーンステーはその形状からもはっきり分かる 最近は各社凝った造形を見せるシートステーだが、サーヴェロは至ってシンプル最近は各社凝った造形を見せるシートステーだが、サーヴェロは至ってシンプル


逆に1・3/8インチ径の下部ベアリングを持つ上下異形テーパードヘッドチューブを採用したことはRシリーズ共通だ。フレームセットの販売でありながら、BBrightに合わせた軽量クランクセット「ローター 3D BBright」が装備されるのは「R5」と同様になる。

BBrightの中核をなすBBに取り付けられる専用クランク「ローター 3D BBright」はそれ自体の剛性も高いBBrightの中核をなすBBに取り付けられる専用クランク「ローター 3D BBright」はそれ自体の剛性も高い サーヴェロの代名詞ともいえるスクオーバルチューブ。フレームの細部を見ても無駄な造形は一切ないことが判るサーヴェロの代名詞ともいえるスクオーバルチューブ。フレームの細部を見ても無駄な造形は一切ないことが判る


まさにサーヴェロの新世代超軽量車となる「R5ca」。その実力が気になるところだ。さっそくインプレッションに入ろう。





―インプレッション

「ロードレーサーに求める高性能がすべて詰まったスーパーバイク」
流郷克也(ユーキャン)


「ロードレーサーに求めてる高性能がすべて詰まったスーパーバイク」流郷克也「ロードレーサーに求めてる高性能がすべて詰まったスーパーバイク」流郷克也 下位モデルの「R5」を軽量化しただけかと思っていたが、実際に乗るとまるで違っていた。「R5」はバイクとして弱点のないバランスの良さが際立った優秀なモデルだったが、「R5ca」は「R5」のその長所をそのままさらにスケールアップさせた印象だ。

ロードレーサーに求められる軽快さ、安定感、操作性、走破性など、それらがお互い成り立つことそのものが矛盾していようともすべての面において高い次元で成立している。

まずフレーム重量675gと聞くと、硬くて短時間のレース用というイメージが沸く人も多そうだが、まったくそんなことはない。カーボンの特徴である振動吸収性、路面追従性もしっかり感じられ、金属フレームにも似た反応の良さもある。重いギア、軽いギア、どちらでもどう回しても気持ちよく進んでくれる。

そしてハンドリング、ブレーキングなどの操作性も申し分ない。非常に素直なハンドリングで、スピード域に関わらず思ったとおりのラインに入ることができる。ブレーキングもとても優秀で、もがいている途中に急ブレーキをかけてみたのだが、安心して止まることができた。

またBBrightやローターのクランクで剛性の高さを謳っているが、そのとおりの結果が得られていると感じる。特に踏んだ感じで反応が早く、「R5」より硬いカーボンを使っている印象をはっきりと受けるほどだ。

これだけ反応を早くすると大抵脚にも余計な負担を負わせるものだが、それがない。これは「R5」でも感じたことだが、この「R5ca」においても同じなので、基本設計の優秀さを痛いほど感じるデキだ。

もちろんヒルクライムではその軽さを活かして活躍してくれるバイクだが、それだけではなくロングライドでもロードレースでもあらゆるシーンで使えるバイクとなっている。感性に訴える部分でも多くの人から支持を得られるであろうデキで、初心者からプロライダーまで誰が乗っても満足できる1台になっている。

個人的に評価の高かった「R5」をも越える、なかなか出会うことのできない、乗った瞬間にニヤリとしてしまうほどの仕上がりだ。それゆえに気になるのはその軽さからくる耐久性がどの程度のものなのか、というところだ。もし1万㎞乗ってもヘタリがなく、このスーパーパフォーマンスが維持できるのならば、現状でパーフェクトな1台と言わざるを得ない。



「ネックは価格だけ。そう言えるほど高い完成度」
若生正剛(なるしまフレンド)


675g。そのフレーム重量の軽さが目立つ。しかし、それ以上に“走りの軽さ”が素晴らしく気持ちいいバイクだ。
下位モデルの「R5」から単純に軽量化を進めただけのモデルではない。そう思えるだけのパフォーマンスアップを感じさせてくれる。また「R5」と比べるとレーシングモデル寄りにした印象を受けるので“レース機材”というイメージが合うフレームではないだろうか。

いろんなペダリングをしてみたが、「R5」より反応が早く、実際はどうか分からないが、カーボン素材を「R5」とは違うものを使っているように感じた。「R5」に比べて振動吸収などの快適性能より走りに重きを置いたレーシーな味付けになっているように感じたのは、これが一番の理由だ。

「ネックは価格だけ。そう言えるほど高い完成度」若生正剛「ネックは価格だけ。そう言えるほど高い完成度」若生正剛

超軽量車だけに気になる剛性面でも、BBrightや上下異形ヘッドパーツなどでバイク全体の大幅な剛性アップを図っているだけあって、その効果をとても感じる。しかも必要なところへ的確に剛性を持たせている。華奢な印象のある部分まで偏りを見せず、「変に一部だけ硬く感じる」なんてことは一切ない。

なかでもフロント周りの剛性アップを感じた。昨年のモデル「R3SL」は長身で体重のある私だと下りのコーナー手前のブレーキング時に一歩誤ればその軽さから弾き飛ばされてしまうような感覚があったのだが、「R5ca」ではそれを感じない。「R3SL」の直系新作モデルは新たな「R3」になるのだが、コンセプトとBBrightや上下異形ヘッドパーツなどの技術は同じため、新「R3」でも同じような効果が現れているだろうことを考えると、フロントの剛性アップは確かであろう。

また剛性アップによる操作性の向上もそうだが、ハンドリングそのものもいい。どんな状況でも行きたいラインに素直に入っていける。路面追従性も申し分ない。ペダリングからの力を効率的に推進力に換えて、とにかくどんなシーンでもよく走る。レース以外のロングライドなどにも使えると思うが、その際はテストバイクの装備ではなく、ホイールやハンドルなどのパーツで少し快適性能を増してあげるといいだろう。

価格的には一般人からしたらエンスージアスト向けのフレームだが、実際はどんな人にもオススメできる性能を持っている。このフレームの問題点があるとすればその価格だけだろう。しかしこのコストだから達成し得たパフォーマンスだと考えると、実に悩ましい。
レースからロングライドまでどんなシチュエーションでも素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれる、文句のつけようがないフレームだ。

サーヴェロ R5caサーヴェロ R5ca (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

サーヴェロ R5ca

フレーム:サーヴェロ スクオーバル カーボンチュービング
フォーク:サーヴェロ FK30SL
ヘッドセット:FSAORBIT IS カーボン
クランク:ローター 3D BBright
サイズ:48、51、54、56
重量:675g(フレーム)
希望小売価格(税込み):1,344,000円(フレームセット+クランク)





インプレライダーのプロフィール

流郷克哉流郷克哉 流郷克哉(ユーキャン)

東京、神奈川、静岡、山梨で展開するサイクルショップ「YOU CAN(ユーキャン)」の多摩境店店長。選手時代は脱サラ後、複数チームを経て30歳で日本鋪道と契約。生涯成績は国内でジャパンカップアマチュア部門優勝、ツールド東北ステージ優勝など。フランスに単身渡仏後、1シーズンで60弱のロードレースに参戦。エリート4勝、ほか1勝を挙げるほか、10位以内フィニッシュが20レースを越えた。2004年に引退し、現在ユーキャン多摩境店にて店長をしながら高校生ら若手育成に努めている。

YOU CAN



若生正剛若生正剛 若生正剛(なるしまフレンド)

自転車店「なるしまフレンド」店員。昭和第一学園在籍時に競技を始める。トラック競技で2年生時に初めてインターハイ出場を果たした。同じく3年生時は選抜、インターハイと大きな大会を連続出場。卒業後、自転車の楽しさを伝えたいと思い立ち、なるしまフレンドに入社。現在3年目を迎える。プロ選手としての経験が無いものの、ショップ店員としてはそれを逆手に一般自転車乗りの感覚を共有できることを強みにして接客している。

なるしまフレンド

ウェア協力:B・EMME(フォーチュン) 


photo:Makoto.Ayano
text:Kiichi.Gotoda