いよいよシクロクロスシーズンが終盤。シーズンのハイライトとなる世界選手権が今週末ドイツ・セントウェンデルで開催される。オランダでのワールドカップを終え、現地入りした日本チームの最新情報をお届けしよう。

シクロクロス世界選手権2011 日本代表選手団とスタッフシクロクロス世界選手権2011 日本代表選手団とスタッフ photo SonokoTANAKA

シクロクロス世界選手権が開催されるセント・ウェンデル(独ザンクト・ヴェンデル)シクロクロス世界選手権が開催されるセント・ウェンデル(独ザンクト・ヴェンデル) photo SonokoTANAKAドイツに到着したナショナルチーム

シクロクロス世界選手権が開催されるセント・ウェンデル(独ザンクト・ヴェンデル)はドイツの西側、ルクセンブルグやフランスとの国境近くにある街だ。
2005年にも同じ場所でシクロクロスの世界選手権が開催されており、スヴェン・ネイス(ベルギー、ランドバウクレジット)が勝っている。また昨年はマウンテンバイク・マラソンの世界選手権も開催され、スポーツ振興の進んだ街とも言えるだろう。

年に一度のビッグレースを控えた日本人選手たちは、ワールドカップ最終戦が開催されたオランダから、火曜日に陸路で350kmほど移動し、会場近くのホテルに入った。
ホテル、と言っても着いてみると、そこは大学の構内! 今回はちょっと変わった大学内のホテルが彼らの拠点となる。食事は学生食堂で取り、メカニックの作業スペースは、シングル部屋のベッドを隣の部屋に移動させて、なんとか確保した。

世界選手権のコースが着々と造成中だ世界選手権のコースが着々と造成中だ photo SonokoTANAKA日本チームが滞在するホテル日本チームが滞在するホテル photo SonokoTANAKA


この時期にしては珍しく雪のないオランダだったが、ベルギーを通過してドイツとの国境を越えると、積雪が目立つようになった。さらに選手たちが到着した夜から一気に冷え込んで、雪がパラパラと舞い始めた。
気温は夜に氷点下まで下がり、日中は2,3℃程度まで上がる。木曜日にコースへ行くと、降った雪が溶けて重い泥のコンディションになっていた。粘土のような粘りけのある赤い土が草を巻き込んで、ブレーキやタイヤに絡みつく。試走を終えた選手たちが、走ってきた自転車を見て、思わず笑ってしまうほどの泥……。

緩んだ泥の路面緩んだ泥の路面 photo SonokoTANAKA軽く試走しただけでバイクにはこれだけの泥が積もる軽く試走しただけでバイクにはこれだけの泥が積もる photo SonokoTANAKA

レース当日、ピットが修羅場になるのかと思いきや、翌日にコンディションは一転する。今度は日中も気温が上がらず、前日の泥が凍りついてしまった。選手らは「凍ったほうが走りやすい」と話す。どんなコンディションかはレース当日の気温によって大きく違ってくるだろう。「コースはどう?」と質問しても、「当日になってみないとわからない」と、選手たちは口を揃える。

路面状況に合わせた空気圧を慎重に設定する路面状況に合わせた空気圧を慎重に設定する photo SonokoTANAKA試走中の辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)試走中の辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo SonokoTANAKA


路面状況はさておき、コースの概要を紹介しよう。セント・ウェンデル郊外の陸上競技場をスタート/フィニッシュとした全長2.8kmのコースになっている。土地の斜面を利用しているのが特徴で、急傾斜な登りや階段、下りがコースに組み込まれている。コースの前半にシケインが設けられ、その先にある斜面を斜めに登って、急傾斜な下り坂を下るセクションがもっともテクニカル。とはいえ、連続するカーブや人工的な砂区間などはない。

シクロクロス世界選手権2011コース全景シクロクロス世界選手権2011コース全景 photo SonokoTANAKA

期待がかかるジュニア1年目の沢田時

まず、エリートや女子に先駆けて1月29日(土曜日)にレースを迎えるのが沢田時(ENDLESS/ProRide)。高校2年生、ジュニアカテゴリー1年目で初めての世界選手権出場となる。とにかく自転車に乗るのが大好き!といった様子の沢田。木曜、金曜ともにほかの選手が引き上げても、一人会場に残って試走をしていた。
「とにかくレースが楽しみです! 先週のワールドカップのときは周りの空気に飲まれないようにって思いましたが、世界選手権は特別な緊張感があると思う。それを味わいたいですね」と話す。

ジュニアに出場する沢田時(ENDLESS/ProRide)ジュニアに出場する沢田時(ENDLESS/ProRide) photo SonokoTANAKA辻浦のアドバイスを受けながら試走する沢田時(ENDLESS/ProRide)辻浦のアドバイスを受けながら試走する沢田時(ENDLESS/ProRide) photo SonokoTANAKA


また試走では、全日本チャンピオン辻浦圭一と一緒に走り、ときおりアドバイスを聞いている姿が印象的だった。辻浦に彼の印象を聞いた。

「自分がジュニアだったときよりも、身体的に優れていると思う。当時、ヨーロッパで走っている先輩選手もいたが、今思えば機材やノウハウなど、充分だったとは言えなかった。でも自分や竹之内悠などの選手が、経験を積み重ねてきた分、スタートラインも高い。どんな結果が出るか楽しみです」。

ジュニアカテゴリーでの最高位は、現ロードレース全日本チャンピオンの宮澤崇史(ファルネーゼヴィーニ・ネーリ)が1996年に22位でフィニッシュしている。その記録を塗り替える素質は充分にあると多くの関係者は話す。シクロクロスが大好きなフレッシュな走りに期待がかかる。



「落ち着いて走りたい」 女子チャンピオン豊岡英子

「結果を出したい!」と話す豊岡英子(パナソニックレディース)。コースはハードだと話すが、これまでに数々の難コースを経験してきている彼女にとって、ハードなコースは当たり前になりつつある。

試走中の豊岡英子(パナソニックレディース)に地元の人から温かい声援が飛ぶ試走中の豊岡英子(パナソニックレディース)に地元の人から温かい声援が飛ぶ photo SonokoTANAKAホテルの部屋にローラー台トレーニングスペースを確保した豊岡英子(パナソニックレディース)ホテルの部屋にローラー台トレーニングスペースを確保した豊岡英子(パナソニックレディース) photo SonokoTANAKA


「下ったあとの轍など、ラインをミスしてしまったら、結果に大きく響くようなセクションがたくさんある。そこをいかに落ち着いていいラインで走れるかだと思う。攻めにいくか、安全にいくかも大切。もし自分が行きたいラインにうまく行けなくても焦らないようにしたい」。

弱点である「落ち着いて走ること」が今回のキーになるように感じる。スタート時の加速や位置取りは、ここ数年で格段とよくなっているので、持ち味を活かして、落ち着いてミスなく走れば、いい結果が導かれるだろう。



辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo SonokoTANAKA日本のシクロクロス界の2トップ、辻浦圭一&丸山厚 

男子エリートの代表選手に選ばれたのは全日本チャンピオンの辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)と、国内セレクションシリーズ、ポイント首位の丸山厚(MASSA-FOCUS-SUPER B)。

辻浦圭一は今回で11回目の世界選手権出場となる。例年どおり、全日本選手権後にヨーロッパへ渡り、レースを転戦する生活を送ってきたが、毎年課題となるのが、コンディションや体調の維持だと言う。そのため、今季は年明けのレース数を大きく減らし、食生活にも注意を払ってコンディションの維持に努めている。先週のワールドカップでは、思うような結果を出せなかったが、その後のトレーニングの感触は上々。今季ベストと言えるレースをめざす。

「今季はサポート環境や機材が充実しているので、自分の実力がもろに現れるレースになると思う。とにかくベストを尽くすこと。コースはその日になってみないとわからないが、泥でも氷でも、コースに対する不安要素はないです」。


一方の丸山厚は、社会人として仕事をしながら、国内プロ選手に負けない走りを見せている。世界選手権は4年ぶりとなるが、先週のワールドカップで、トップレースの雰囲気を取り戻している。

「強い選手ばかりなので、不安要素を考えるとキリがないけど、コースをよくチェックして自分の走りをしたいと思います。攻めるレース、積極的に走るレースをしたいですね。先週、ミスしてタイムをロスしてしまった部分もあるので、攻めながらもロスを減らしたい。今シーズン1番のビッグレースなので、トレーニングの成果を発揮できるように、パーフェクトな走りをしたいと思います。頑張ります!」

学生食堂のような施設で夕食を取る日本チーム学生食堂のような施設で夕食を取る日本チーム photo SonokoTANAKA試走を終えたバイクの整備にも余念が無い試走を終えたバイクの整備にも余念が無い photo SonokoTANAKA

今回、男子エリートの代表選手をめぐって波紋が起こっていた。代表選手の選考方法について、国内の4戦が設定されている“セレクションシリーズ”の上位選手と全日本覇者を中心とした選考とあるが、選考人数が明記されていないことや、海外で活動する選手への救済措置がないことなどから、すべての選手にとって納得できる選考ではなかったことは事実だ。そんな選手の想いをも背負った代表選手たち。これからはじまる2日間のレースが最高のものとなることを期待したい。



photo&text SonokoTANAKA