広州2010アジアパラ競技大会自転車ロード初日の16日、個人ロードTT[男女混合H1-4]で奥村直彦(風輪道)が金、個人ロードTT[男女混合C1-5]石井雅史が銀メダルを獲得した。日本選手の様子を現地中国・広州から佐藤有子がお伝えする。

16日、ロードTT[男女混合H1-4]表彰台。金メダルの奥村直彦[男子H3]。銀はチョーハントク(韓国)[男子H2]、銅はエドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]16日、ロードTT[男女混合H1-4]表彰台。金メダルの奥村直彦[男子H3]。銀はチョーハントク(韓国)[男子H2]、銅はエドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]


ロードレースは3日間の日程で、16日に個人ロードTT、17・18日にロードレースというスケジュール。会場は広州市街の南東、珠江という川の中州の島にある広大な学園都市「大学城」にあるトライアスロン場で、環状の道路などを使った1周6.8kmを周回する、ほぼ平坦なコース。クラスによって距離は異なるがTTもロードレースも同じルートを使用し、TTは2周または3周、ロードレースは6〜13周でレースが行われた。


奥村ロードTT[男女混合H1-4]で金、ロードレース[男女混合H1-4]は4位

16日は朝からの雨。雪でも降りそうな寒さのなか行われたこの日のロードTT[男女混合H1-4]で、奥村直彦がみごと金を獲得した。
16日ロードTT[男女混合H1-4]、スタートする奥村直彦。この日は強風で、後方ではコースセンターライン付近まで飛ばされたバナーパネルを危険防止のため撤去中16日ロードTT[男女混合H1-4]、スタートする奥村直彦。この日は強風で、後方ではコースセンターライン付近まで飛ばされたバナーパネルを危険防止のため撤去中 パラサイクリングの日本ナショナルチームがハンドサイクルのクラスで国際大会のメダルを獲得するのは、これが初めて。

8月に開催されたカナダ・ベコモの2010UCIパラサイクリングロード世界選手権でも、上位にずらりと欧州勢の名が並ぶなか、個人TT[男子H3]で10位と健闘した奥村。今回のレースでも、実走タイムでトップの25分03秒09でフィニッシュした。

このレースでは奥村ら男子H3の係数が100%に設定されていたが(※)、計算タイムでもチョーハンドク(韓国)[男子H2]に約7秒の差をつけて第1位に。

※16日のロードTTで使用された係数の詳細は、本稿末尾に記載。

17日、ロードレース[男女混合H1-4]スタート。中央奥の59番が奥村直彦[男子H3]、その手前がエドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]、その手前の54番がチョーハントク(韓国)[男子H2]。右奥の日本に似たジャージはシンガポールチームの選手たち17日、ロードレース[男女混合H1-4]スタート。中央奥の59番が奥村直彦[男子H3]、その手前がエドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]、その手前の54番がチョーハントク(韓国)[男子H2]。右奥の日本に似たジャージはシンガポールチームの選手たち 先に述べた8月の世界選手権のロード個人タイムトライアル[男子H2]の順位を見てみよう。今回16日のTTで2位のチョーハンドクは18位、3位のエドワード・マルーフ(レバノン)は16位だ。奥村を含めたアジアのトップの上に、欧州勢を中心としたスーパー選手がずらりと並んでいるというのが、世界のハンドサイクルの戦いの構図だ。

欧州では、年間7戦(2010年の場合)ほどのハンドサイクルのシリーズ大会EHC(European Handbike Circuit)があるなど、UCIカレンダーに掲載されている地域大会も多く、自転車競技としてのハンドサイクルの選手層は厚い。

17日、ロードレース[男女混合H1-4]。右端が奥村直彦[男子H3]17日、ロードレース[男女混合H1-4]。右端が奥村直彦[男子H3] 今大会16日の個人ロードTTの翌17日には、奥村はロードレース[男女混合H1-4]に出場。序盤は先頭グループに位置するが、後半少しずつ先頭の3人から離され、トップから3分11秒遅れの4位でフィニッシュした。

ロードレース最終日に奥村に今大会のレースの感想を聞くと、「TTでトップなのにロードレースで負け、というのは…」と苦笑を浮かべた。

ロードレースのフィニッシュ後の奥村に日本チームのスタッフらが駆け寄ると、奥村のハンドサイクルを指差しメカの具合を確かめるような様子を見せていた。聞くと「実はスタートの数10秒前にダンパーにパチンと音がしてトラブル発生、曲がった状態のまま走っていたんです。」という。

16日ロードTT[男女混合H1-4]を走る奥村直彦[男子H2]16日ロードTT[男女混合H1-4]を走る奥村直彦[男子H2]

「身体の右側に負担がかかってしまい、厳しかった…ということもありますが、韓国がとても速くなっているのも実感しました。韓国は3カ月ぐらいの強化合宿を組んだりもしているようです。」
「TTの金メダルは、もちろんとてもうれしいです。が、参加人数の少ないアジア地域大会で勝ったからと、喜んでいて、いいのかどうか…?」と、世界のレベルを身にしみて知る奥村ならではのコメント。金を手にした喜びのなかでも浮かれることなく気持ちを引き締め、次回へしっかりした視線を向けていた。


石井はロードTT[男女混合C1-5]で銀

16日のロードTT[男女混合C1-5]には石井雅史[男子C4]、藤田征樹[男子C3]、阿部学宏[男子C5]が出場し、石井が銀メダルを獲得。藤田は5位、阿部は11位だった。

16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]をスタートする石井雅史[男子C4]16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]をスタートする石井雅史[男子C4] 16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]を走る石井雅史[男子C4]16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]を走る石井雅史[男子C4]


16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]表彰台。銀メダルの石井雅史[男子C3]。金はリウシンヤン(中国)[男子C5]、銅はリーチャンユー(中国)[男子C1]16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]表彰台。銀メダルの石井雅史[男子C3]。金はリウシンヤン(中国)[男子C5]、銅はリーチャンユー(中国)[男子C1] 石井は今回、ロードレースは個人ロードTTのみに出場。スムーズに周回を重ね、C4男子のみではトップタイムでの銀だが、しかし石井はそこで満足しない。「今の自分の状態での全力は出し切りましたが、納得いく走りではない」という。

落車負傷からの国際大会復帰第1戦で、まだ身体はベストではない? と聞くと、「けがのことは別ですよ、ここへ来ているからには」と強い口調できっぱりと答えた。交通事故で引退するまで競輪選手としてシビアな世界で戦って来た石井らしい言葉だ。「ギアが踏めないのは、絶対的に練習が足りないから。自分の甘さです。生活やすべての面において。」と静かな口調に力がこもる。

「メダルもポイントも獲得できて、結果としては、いいとも言えるんですけど… 気持ちはいろいろ複雑です。ロンドンに向けて、いい材料にしていきたい。すごくいい経験でした」。

このレースの優勝者は、1992年生まれの18歳、中国のリウシンヤン[C5]。中国チームは、北京パラリンピックの前はパラサイクリング世界選手権に多数の選手を送っていたが、北京後にはその姿を見せていなかった。そのため今回は、中国の新たな実力ある選手たちがその存在をアピールすることになった。




ゴールスプリントで惜しくも4位の阿部

また、この大会で見応えのあるレースを見せてくれたひとりが、パラサイクリングデビューの前から健常者チーム(スペードエース)に所属し実業団BR1で走っていた阿部。16日の個人ロードTT[男女混合C1-5]に続き、17日のロードレース[男子C4-5]では、持ち前のねばり強さを見せてくれた。

17日、ロードレース[男子C4-5]。先頭集団からひとりちぎれるも懸命に追走する阿部学宏[C5]17日、ロードレース[男子C4-5]。先頭集団からひとりちぎれるも懸命に追走する阿部学宏[C5]

17日、ロードレース[男子C4-5]。追走で先頭集団に復帰した阿部学宏[C5]。左はリウシンヤン[C5]17日、ロードレース[男子C4-5]。追走で先頭集団に復帰した阿部学宏[C5]。左はリウシンヤン[C5] レースは11周74.8kmで行われた。序盤はリウシンヤンら中国勢を含む5人の先頭グループで前をひいていた阿部。4周目頃に阿部は先頭からひとり遅れるも、9周目には再び先頭グループに復帰。

まもなく先頭グループからリウシンヤンがアタック、続いてチョンユアンチャオ(中国)[男子C4]が追走。リウシンヤンがそのまま逃げ切り金メダルを獲得、チョンユアンチャオが3分53秒差の2位でフィニッシュ。

17日、ロードレース[男子C4-5]。阿部学宏[C5](左)、必死のゴールスプリントは届かず4位17日、ロードレース[男子C4-5]。阿部学宏[C5](左)、必死のゴールスプリントは届かず4位 3位争いはトップから約7分差の3人のグループ、バーマン・ゴルバルネジャド(イラン)[男子C4]、ワンハオファ(中国)[男子C4]そして阿部によるゴールスプリントに。阿部はゴルバルネジャドに破れ、惜しくも4位となった。

「最初は自分とイラン、フィリピンの3人がいて、中国のアタックにも誰か反応してなんとかなっていたんですけれど、200mぐらい離れたときにトップがかけて、そのままちぎれました」と展開をふりかえる阿部。

「ロードTTは、とにかくトップのリウシンヤンとの実力の差を感じました」。今大会のレースに点数をつけるとしたら?と聞くと「まだまだ課題が多すぎて…30点ぐらい」と謙虚な答えが返って来た。


藤田4位「ロードの経験不足を実感」

 16日のロード個人TT[男女混合C1-5]でレース順位5位、男子C3の実走タイムでトップと充分な走力を持つ藤田だが、18日のロードレース[男女混合(男子C1-3、女子C1-5)]では4位と惜しくもメダルには届かなかった。

16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]を走る藤田征樹[男子C3]16日、ロード個人TT[男女混合C1-5]を走る藤田征樹[男子C3]

レースは8周で、集団はほぼ一つのまま前半を終え、残り3周ほどで藤田を含む先頭7人と、続く中国のグループに分離。最後は7人のゴールスプリントとなり、1、2、3位はそれぞれジンヨンシク(韓国)[男子C3]、ガオショーミー(中国)[男子C2]、リャングイファ(中国)[男子C2]と各国のおなじみの選手が占めた。

「スプリント、届きませんでした…」フィニッシュ後、藤田は悔しさのなかで言葉を探しながら語ってくれた。
「前半はイランや韓国が中心になって。中国勢が動かないので、5周目で仕掛けて、最後は、ゴールスプリント勝負となりました。最後は牽制が入って動けず、ロードレースに関しては経験が足りないなと感じました。

18日、ロードレース[男女混合(男子C1-3、女子C1-5)]。藤田征樹[男子C3](選手右から3人目)は冒頭より最終周回まで先頭集団に位置するが、惜しくも4位18日、ロードレース[男女混合(男子C1-3、女子C1-5)]。藤田征樹[男子C3](選手右から3人目)は冒頭より最終周回まで先頭集団に位置するが、惜しくも4位 積極的にいろいろな練習をして、カナダ(2010UCIパラサイクリングロード世界選手権)のときより進歩はしていると感じていますので、まだまだこれからだと思います。

ロードTTでは、ペースもしっかり走れたし、ポイントも獲得できました。
今大会の結果は、自分の今までの練習に足りないところがあった、ということ。新しい練習を積んでいくために、また、さらにいろいろな方に、ご協力をいただけましたら、たいへん、ありがたく思います」。

18日で自転車競技はトラック、ロードともにすべて終了、パラサイクリング日本チームは金2、銀3のメダルを獲得した。日本障害者自転車協会のサイトによれば、今大会の成績によるランキングポイントは、合計150点ほどを獲得できる見込みだ。


意義深いアジアパラ競技大会の自転車競技

パラサイクリングのアジアの地域大会は少なく、2010年ではUCIカレンダーに掲載されている40近い大会のうち唯一のアジアの大会がこのアジアパラ競技大会だ。参加国数、選手数は世界選手権と比べるとまだまだ少なく、競技会としては発展途上だが、アジア地域の自転車競技を育てていきたいという運営サイドの思いが感じられた。
コースもほぼ平坦で、UCIパラサイクリング世界選手権ではおなじみの「容赦ないアップダウン」は見られなかった。ロードレースで周回遅れの選手も止めずに完走させる、人数のごく少ないクラスも統合してレースを成立させるなど、さまざまな配慮がされていた。

今大会では結果的に多くのレースが二輪・ハンドサイクル・タンデムの3レースに統合された形態で競技が行われ、また多くの初顔合わせの選手たちと走るレースに。世界選手権とはまた違った発想が要求されるレースで、選手たちもひとまわり大きくなるための刺激的な体験ができたに違いない。

広州ベロドローム選手入口の前で。左から藤田征樹[C3]、阿部学宏[C5]、伊藤保文(パイロット)、大城竜之[B]、石井雅史[C4]、若杉茂樹(メカニック)、高橋太一(トレーナー)、班目秀雄(オブザーバー)。今大会のパラサイクリング日本チームにはこのほか、平松竜司(コーチ兼通訳)と奥村直彦[H3]が参加した広州ベロドローム選手入口の前で。左から藤田征樹[C3]、阿部学宏[C5]、伊藤保文(パイロット)、大城竜之[B]、石井雅史[C4]、若杉茂樹(メカニック)、高橋太一(トレーナー)、班目秀雄(オブザーバー)。今大会のパラサイクリング日本チームにはこのほか、平松竜司(コーチ兼通訳)と奥村直彦[H3]が参加した


2010アジアパラ競技大会の自転車競技トラックおよびロードの出場国は、中国、韓国、日本、レバノン、アフガニスタン、バングラデシュ、イラン、マレーシア、フィリピン、シンガポール、スリランカの11カ国。トラック、ロードあわせてのメダル獲得は、UCIパラサイクリング世界選手権でもなじみの顔ぶれである中国、韓国、日本、そしてレバノンの4カ国がそれぞれ16、12、5、2個。加えてイランが1個の合計36個という内訳で、競技会として見たときには、トップ数カ国とそれ以外には、出場選手数という観点も含めると、大きな力の差があるといえる。

しかし、自転車ではロード競技のみが行われた4年前のフェスピック・クアラルンプール大会と比べると、今回初めてアジア大会と同じ会場を使用して行われた初めてのアジアパラ競技大会の自転車競技は、まだまだ発展途上とはいえ、競技会として、以前と比較にならないほど整ったものになってきた、という印象を受ける。

今回の自転車競技参加国のなかで、めきめき力を伸ばしているのが中国と韓国だ。現地では「油断していると、世界どころでなく『アジアで一番に』もあやういのでは」と危機感を語る声も聞かれた。継続的な若い人材の発掘と組織的な育成、そのためのバックボーンの確保が、ロンドン以降にむけての課題といえそうだ。

なお、4年後の第2回アジアパラ競技大会については、今大会で配布されているオフィシャル大会ニュース紙「ASIANPARAGAMES daily」12月15日号のサー・フィリップ・クレイヴンIPC(国際パラリンピック委員会)会長インタビューによれば、2014年に韓国・インチョンで予定されるアジア競技大会に続き、その2週間後に開催するという計画がある。それにはいくつか解決すべき課題もあり、現在アジア五輪評議会と話し合っている最中だという。

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※【ロードレース係数】
今大会の自転車ロードTTで使用された係数は、16日リザルトによれば下記の通り。

[男女混合H1-4]
H3男子 100.00%
H2男子 97.15%
H3女子 90.00%
(H4、H2女子、H1の参加者はなく係数不明)

[男女混合C1-5]
C5男子 100.00%
C4男子 98.82%
C3男子 96.70%
C2男子 91.71%
C1男子 85.51%
C5女子 90.00%
C4女子 88.93%
C3女子 参加者なし
C2女子 82.54%
C1女子 参加者なし

[男女混合B]
B男子 100%
B女子 90%

なお、ロードレースでは係数は使用せず実際の着順で順位を決定。
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------------日本出場種目の主な成績-----------

【16日】ロード1日目

▼ロード個人TT[男女混合H1-4]2周13.6km

1位 奥村直彦[男子H3]
 実タイム25分03秒09/係数100.00%/計算タイム25分03秒09

2位 チョーハントク(韓国)[男子H2]
 25分54秒31/97.15%/25分10秒01

3位 エドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]
 26分41秒21/97.15%/25分55秒57


▼ロード個人TT[男女混合C1-5]3周20.4km

1位 リウシンヤン(中国)[男子C5]
 28分49秒34/100.00%/28分49秒34

2位 石井雅史[男子C4]
 29分53秒11/98.82%/29分31秒95

3位 リーチャンユー(中国)[男子C1]
 34分37秒69/85.51%/29分36秒63

5位 藤田征樹[男子C3]
 31分20秒81/96.70%/30分18秒74

11位 阿部学宏[男子C5]
 32分03秒78/100.00%/32分03秒78


【17日】ロード2日目

▼ロードレース[男子C4-5]11周74.8km
1位 リウシンヤン(中国)[C5]
2位 チョンユアンチャオ(中国)[C4]
3位 バーマン・ゴルバルネジャド(イラン)[C4]
4位 阿部学宏[C5]

▼ロードレース[男女混合H1-4]6周40.8km
1位 チョーハントク(韓国)[男子H2]
2位 エドワード・マルーフ(レバノン)[男子H2]
3位 キムヨンキ(韓国)[男子H2]
4位 奥村直彦[男子H3]

【18日】ロード3日目

▼ロードレース[男女混合(男子C1-3、女子C1-5)]8周54.4km
1位 ジンヨンシク(韓国)[男子C3]
2位 ガオショーミー(中国)[男子C2]
3位 リャングイファー(中国)[男子C2]
4位 藤田征樹[男子C3]

(photo&text Yuko SATO)
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