ツール・ド・おきなわ市民100kmレースは、小集団のスプリント勝負に。勝者となった遠藤優(TEAM SFIDA)は、昨年の市民50kmの勝利に続くステップアップの栄冠だ。スタートからレースを組み立て、得意な展開に持ち込んでの勝利だ。

遠藤優(TEAM SFIDA)遠藤優(TEAM SFIDA) (c)Makoto.AYANOツール・ド・おきなわへの思いと過去の戦歴

「やっとツール・ド・おきなわだ」。それが当日の感想。3月からシーズンスタートをして11月14日まで、本当に1シーズンが本当に長かった。
多くの選手が感じている様に、ツール・ド・おきなわには特別な思い入れがある。ヤンバルの大自然のなか、公道を使用したレースができること、多くの選手が今年最後のレースとしてだれもが自分のベストを尽くそうと1年で一番輝ている状態であること、正真正銘の力と力の勝負ができること、そして練習をしているチームの過去の優勝者(市民200kmの武末選手、市民120kmの増田選手、ジュニア国際の高島選手など)への尊敬の思いなど、私の中では「おきなわが全て」という気持ちが強くある。

競技を始めて4年間、1度も優勝することができなかったのにもかかわらず、去年のツール・ド・おきなわ市民50kmで優勝することができた。
おきなわへの参加は今年で5回目。3回目までは完走する程度のホビーレーサだが、昨年の2009大会で市民50kmでトライアスロンのオリンピック選手である山本良介選手と逃げて、最後はスプリント勝負で人生初の優勝を飾れた。今年は100km前後の大会ですでに6勝。勝ち方を知ったことがこの1年での最大の成長だ。

コンディショニングの難しさ

毎年11月の第2日曜日に行われるこのレース、今年は曜日配列の関係から11月14日(日)に開催と、11月も中旬に入ってからの開催である。これは私だけでなく各選手ともコンディショニングが大変難しかったと思う。

この時期の本州では、朝の気温が一桁になることもよくあり、ピークの持っていきかた、怪我の予防や、精神面、体重等のコントロール、練習強度の問題など、とても苦労した。その対策として10月末までレースを入れて「もてぎ7時間エンデューロ120kmの部優勝」と「もてぎ7時間エンデューロ4時間の部2位」という結果を残すとともに、練習の質と量を確保した。
また木曜日に名護入りするなど、最大の目標であるツール・ド・おきなわにまずまずのコンディションでスタートラインに立つことができた。

全てはゴールスプリントへの詰将棋

思惑としては、私は大集団ゴールでも先頭でゴールできるスプリンターだ。国道58号に戻ってきた時に先頭集団にいれば勝てると思っていた。そのような状況を作るため、上りのスペシャリストではない私は集団のペースを『意図的に』落とすといった走り方をした。

途中は無駄なペースのアップダウンを作らせない、無駄足を使わずゴール前200mに行けるよう、スタート地点から一手、一手、詰将棋だった。全ては自分が飛び出す展開を作る為に。

スタートから与那の坂まで

チャンピオン210kmが通過、女子国際100kmのスタートの後、予定より20分ほど早くスタートが切られた。
最前列からスタートし、共同売店からすぐ「奥の上り」が始まる。勾配は緩いがスタート直後でもあり、ニュートラル的要素が強く、そして全体のペースを落とす一手として先頭付近でゆっくりゆっくり抑えながら上り、ほとんど足を使わずクリア。上りでは足が自然と浮いてくる絶好調な状態ではないが、まずまず走れている。
(データ: 奥 10分40秒・Avg290W 163bpm)

下りの路面は若干ウェットであるものの滑る感覚はなく、海岸線へ。使用したコンチネンタルのタイヤ、コンペティション(22mm)は安定感が抜群に良く、使用して良かったと感じている。このまま来年も使い続けたい。

与那までの西海岸線は楽な展開。所々工事区間で道が狭くなっていたが前方をキープしていた為ほとんどトラブルなく通過。一昨年の第落車を引き起こしたトンネルでも滑る気配は全くない。
「さぁ与那の上りへの左折」というところでポジション争いから危ない場面もあったが、身体がぶつかりあったりすることにも慣れているので問題なくクリア。最初の勝負どころ、与那の坂へ。

与那の坂と普久川の下り

待ちに待った与那の坂、ポジション良く3番手で上り始める。集団は横に広がり、切り捨て型のペースアップを図るわけではなく、ゆっくりとじわっと負荷が上がっていく。途中一人が逃げたが、この時点では最後まで単独で逃げ切ることは不可能と判断し、無理して追うことはせずペースを維持したままピークへ。

山岳賞は集団の先頭で全体の2番手通過、体感としてはかなり楽で、一番心配していた与那の上りへの不安は杞憂に終わった。ペースは遅いので30人前後の集団となるだけで大きな絞り込みにはならなかったが、また一歩スプリントへの詰めができた。

ピークを過ぎてからの普久川の下りは若干ウェット。落車をしないようにコーナーを攻めずに、集団の中でリラックスして下る。まだまだ先は長い。
(データ: 与那の上り[山岳賞前のピークまで]18分40秒・Avg308W 171bpm)

高江の上り

下りきったらすぐに高江の上りだ。ここの上りは今までの上りと違い、勾配があるものの一定の勾配なのでペースをつかみやすい。
前を引くのは2名ほど、まだまだ上げられる余裕を残しつつ、3番手キープで急勾配区間を通過。逃げを無理には追う気配は集団には感じられない。前に一人逃げているがまだ泳がせておいた方が走りやすい。
(データ: 高江[急勾配区間] 6分・Avg327W 170bpm)

ヤンバルの登りを行く市民100kmの選手たち

(c)Makoto.AYANO (c)Makoto.AYANO (c)Makoto.AYANO (c)Makoto.AYANO


高江から新コース分岐まで

新しくなった後半のコースまでは、平良湾沿いを除きアップダウンが続き、走り方を間違えると足にダメージが残ってしまう。この区間が100kmコースでの勝負の分かれ目だといっても過言ではない。
ケイデンス高めでアップダウン区間をクリアして、新コースへ。

サポートをしていただいているVESPA PROとショッツをしっかり補給する。レースではエネルギー消費が激しい。今年は30分に1個のペースでショッツを、1時間から1時間30分のペースでVESPA PROを摂取している。また、エレクトロライトショッツを使うようになってから、今年のレースでは足を攣ったことがない。

集団をリードして独走で羽地ダムへのトンネルをクリアする山崎嘉貴(長野)集団をリードして独走で羽地ダムへのトンネルをクリアする山崎嘉貴(長野) (c)Makoto.AYANOこの地点ではまだ前方に与那の坂から逃げた山崎嘉貴選手が1分前を走っていたが、平良のスプリントポイントで視界に入ったので集団はまだ無理して追わずに泳がせていた。

新コース・分岐からR58まで

今年のコースは昨年までの85kmから距離が延びて上り区間も増え、厳しさが増したと言われている。代表的な上りが今までの奥、与那、高江と、今回新しく加わった羽地ダムまでのアップダウン、羽地ダムへの上り。

だが、新コースになってから源河の長い上りが無くなり、与那の上りを除いては全て5分前後に収まる上り坂になった。その為「クライマー向けのヒルクライム」から「ロードレースとしてのアップダウン」の要素が強くなったといえるのではないか。私は後者の方が圧倒的に得意。この区間でいよいよ優勝をかけた勝負が始まる。

トンネルを通過する前方集団 集団後方に遠藤優(チームSFIDA)が控えるトンネルを通過する前方集団 集団後方に遠藤優(チームSFIDA)が控える (c)Makoto.AYANO

まず天仁屋付近の2kmほどの坂を2本。1本目、2本目とも一人、また一人と集団は数を減らしていく。ペースを集団に合わせて10名程の集団でクリア。その後の500m程の上り2本も先頭でクリアして10名程の集団にまで人数を減らすが、その後の工事区間や平坦でまた20名前後の集団に膨れ上がる。

このあたりになると足のある人がよく判り、強いのはチームKidsの2名、サニーサイドの1名と、「この人と勝負することになるだろう」と、羽地ダムの上りを前にチェックに入る。

5km程の平地を走り、いよいよ羽地ダムの上りへ。このあたりで急に雨が強くなってきて、サバイバルの様相を呈してきた。雨だが嫌にならない、逆に「いよいよ厳しい勝負ができる」と、気持がどんどん盛り上がっていく。

まずペースをあげたのはサニーサイドの選手。続いてチームKidsの2名が続く。予想通りの展開だ。
集団をさばくのに手間取ってしまい追走が遅れたため、10mほど開けて追走。この10mがなかなか追いつかない。後ろを見ると後方は誰も見えない。協調体制などできない。さらに雨が強くなり打ち付けてくる。

羽地ダムへのトンネルをクリアする前方集団羽地ダムへのトンネルをクリアする前方集団 (c)Makoto.AYANO今日初めて苦しいと感じた。雨のせいなのか、それとも限界に近いからなのか、視界が悪い。10mが追いつかない。まだ上りの距離も半分しか来ていない。

・・・どうする? そう考える前に身体がシフトレバーの変速スウィッチを押していた。まだ前が見える。追える足がある。勝ちたい思いは誰よりも強い。苦しいのならまだ走れる。この苦しさと一生残る悔しさなら、喜んで苦しさをとる。

前の3人も限界に近い状態で走っていたらしく、トンネル300mほど手前で追いついた。でも、さらに辛い勝負はここからだった。ここから先のアップダウンはお尻の穴にサドルを突き刺してしのぐ。苦しくてしょうがない。なぜか楽しくてしょうがない。この勝負をするために1年間走ってきたのだから。

頭の中で思っていたことは「今日の俺はスーパーな状態だ」ということ。最大の難所をなんとかしのぎ切った。

橋を越えて真っ暗なトンネルで下り区間に突入、路面はドライ。気持ちよく下っていくものの、後方から追いつかれてR58に出た時は、7、8名ほどの集団になっていた。

逃げとの差は下りに入る前で30秒差。絶対に捕まえられる。

データ: 
分岐後の上り2本目 4分35秒・Avg323W 170bpm
分岐後の上り1本目 3分45秒・Avg294W 166bpm
羽地ダムへの上り(トンネル付近まで)5分15秒・Avg325W 172bpm

スプリンターとして、最高の展開でゴール前へ

国道58号線を名護の街中へと走る。去年の50kmで優勝した時もそうだが、先頭集団でここを走るのは本当に気持ちがいい。これもツール・ド・おきなわの魅力の一つ。

集団のローテーションはうまく回らず、後方から追いつかれて、通称ジャスコ坂で逃げていた山崎選手(普久川からの単独逃げで一番足があったと思う)を吸収して10名程の集団になる。

ジャスコ坂はまだまだ上げられる、ここで行くこともできたが、今年は北から吹く追い風が弱いので我慢。スプリントになれば勝てるのだからと自分を必死で抑える。そう思えるほど足が残っている。

余裕を見せながら、後ろを見つつアタックや逃げを作らせないように走る。ここまで来て一番怖いのは、キレのあるアタックではなく、スピードやキレがなく「ふわっ」とした、誰も追わないうちに差がついてしまうような展開だ。
途中、DADDYの選手が国道58号終盤で抜け出すが吸収。その瞬間に逃げていた山崎選手がカウンターアタックをかけるが、すぐさまチェックして潰す。

国道58号を左折して街中へ。残り1kmの標識を過ぎると牽制気味にスローになる。誰も仕掛けようとしない。私は一番後ろに下がり誰の足があるか、誰について加速するか、どこから行くか、どういうスプリントをするかを考えていた。思い描いた絶好の展開だ。

そのようななか、「さぁ500m」というところで、集団中ほどの自分の直前で絡み合いが起こり、フルブレーキング! 
ここまで自分が勝つために最高の展開を作っておきながら、こんなところで…と思いつつも、落ち着いていた。前との差は開いていない。

ラスト300m。冷静にふと前を見ると、山崎選手の右手が変速する動きとリアメカが動く音が聞こえた。彼がサドルから腰をあげて集団右からロングスプリントに出た。変速はせずにケイデンスを上げて彼のスリップストリームに入る。

ラスト200m。山崎選手が集団を抜くか抜かないかのその瞬間、52×12にシフトアップし、腰を上げてスプリント。
詰将棋の最後の仕上げにかかった。1歩踏み込んだ瞬間、去年の50km優勝の時にも感じた、飛んでいきそうな加速。

ラスト100m、視界にあるのはゴールだけ。他のバイクの音、息遣いは全く聞こえない。まだまだ伸びる。加速の身体の使い方から、さらに伸びるように身体の動き方を変えていく。

ラスト50m、絶対に勝った。99%そう思う中での1%の不安。早くゴールに飛び込みたい!

残り40,30,20,10,…。

1.6秒差。スプリントとしては完璧に勝った。

市民レース100km ゴール 優勝した遠藤優(TEAM SFIDA)市民レース100km ゴール 優勝した遠藤優(TEAM SFIDA) photo:Hideaki.TAKAGI

今回はゴールと同時に手は挙がらなかった。数秒勝ったことを噛み締めてから、勝ったことを思い出してのウイニングラン。この一瞬だけは世界中で一番幸せだと思った。

市民レース100km ゴール市民レース100km ゴール photo:Hideaki.TAKAGIレース後と感想 来年は140kmで勝負する

レース後、漁港の駐車場で一緒に走った仲間たちとレースを振り返った。今年はツール・ド・宮古島で優勝していたこともあり、地元チームの選手からはマークされていたことを走り終わって初めて知った。そのような状況だからこそ、逆説的に自分の思い描いた展開を作ることができたのではないかと思う。

ペースを落としたことだけが私が勝てた理由だと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、それは違うと思う。私が最後の上りをトップ4名の集団に入り、遅れなかったかということを考えたら、このレースで私の上りの力は他の選手と比べて上位にあったということだろう。そのため、最後のスプリントの場面まで足が残せたのではないだろうか。ホビーレースのスプリントで重要なのは、純粋なスプリント力半分、足の残り具合半分だと思う。

今回は市民100kmで優勝できたが、まだまだ140km、そして210kmと挑戦が待っているし、強すぎる選手がいっぱいいる。
来年は市民140kmで優勝を目指すが、もっともっと強くなって沖縄に帰ってきたいと思う。

最後にツールドおきなわ関係者、ボランティア、地元の方々、応援してくれた全ての人に感謝の気持ちを記して、このレポートを締めたいと思います。本当にありがとうございました。

市民100km表彰式 優勝 遠藤優(TEAM SFIDA)、2位 山名洋平(TEAM KIDS)、3位 小島大太郎(Team-DADDY)市民100km表彰式 優勝 遠藤優(TEAM SFIDA)、2位 山名洋平(TEAM KIDS)、3位 小島大太郎(Team-DADDY) (c)Makoto.AYANO遠藤優(#1423)TEAM SFIDA

179cm/69kg
Twitter ID: lightweight_eps

【ガーミンコネクトのデータ】
http://connect.garmin.com/activity/56798360

【ゴールシーン】
http://www.youtube.com/watch?v=-G0d8PLbTXQ

【補給】
ボトル750ml×2(エレクトロライトショッツを溶かす)
給水ポイントにてスポーツドリンク500ml
ショッツ×10個(ノンカフェイン×6個、カフェイン入り4個)
VESPA PRO×4個

【使用機材】
フレーム    COLNAGO EPS (09 AMRD)
ホイール    Lightweight Standard G3 (F16H/R20H)
タイヤ     Continental Competition 22C (F 7.5bar/R 7.8bar)
ブレーキシュー SWISS STOP Lightweight original
コンポーネント SHIMANO DURA ACE 7970 Di2
クランク    QUARK CINQO ROTOR 3D CRANK 172.5mm
ギア板     ROTOR  Q-RINGS 52/39T
スプロケット  SHIMANO DURA ACE 7900 12-25T
ペダル SPEEDPLAY (ステンレスシャフト +1/2インチ)
ハンドル    OVAL R950
ツール・ド・おきなわ使用バイク コルナゴEPS Di2+Lightweightホイールツール・ド・おきなわ使用バイク コルナゴEPS Di2+Lightweightホイール photo:Yu Endoステム     SPECIALIZED TARMAC 69度
サドル     Selle SMP Strike Composite
シートポスト  3T DORIC
バーテープ   Viva Cotton
メーター    GARMIN  Edge500
ウェア PARENTINI TEAM SFIDA ORIGINAL
サングラス OAKLEY M-FRAME CLEAR

【今シーズンの主な成績】
・ひたちなか3時間エンデューロ 優勝
・群馬グランプリ102km 優勝
・ツールド宮古島 100km 優勝
・修善寺耐久(2時間ソロ暫定)優勝
・ツールド北海道 第3ステージ 優勝
・もてぎ7時間エンデューロ 120km 総合優勝
・ツールドおきなわ 市民100km 優勝
・チャレンジサイクルロードレース(未登録)2位
・もてぎエコクラシック ロードA 5位
・ツールド北海道 第2ステージ 2位
・FUJIチャレンジ200 10km 2位
・もてぎ7時間エンデューロ 4時間エンデューロ 2位


photo:Makoto.AYANO,Hideaki.TAKAGI