最後に短い登りゴールが設定されたブエルタ第19ステージで、フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がライバルを寄せ付けず区間2勝目を達成。6位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)は総合のリードを広げることに成功した。

最終日を除けば、ピエドライタ〜トレド間のこの第19ステージがスプリンターにとって最後のチャンスとなる。だが、ゴールの街トレドへの登りゴールが設定されたことから、アタッカーにもチャンスがあるレイアウト。

距離は今大会最長の231.2km。ブエルタ終盤に差しかかっての疲れが影響したか、逃げグループが形成されたのは25kmを過ぎてから。逃げたのはシャビエル・フロレンシオ(スペイン、サーヴェロ)、ホセ・フフレ(スペイン、アスタナ)、ドミニク・ローエルズ(ドイツ、チームミルラム)、マヌエル・オルテガ(スペイン、アンダルシア・カハスール)の4名。

逃げを決めた4人がスペインの荒野を行く逃げを決めた4人がスペインの荒野を行く photo:Unipublic

集団に容認されたこの4人の逃げはどんどんタイム差を開いていき、93km地点では10分47秒を稼ぎ出した。しかしここからチームHTCコロンビア、フットオン・セルヴェット、カチューシャといったスプリンターあるいはアタッカーを擁するチームの追走が始まり、タイム差が縮小していく。

93km地点では個人タイムトライアル世界チャンピオンのファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)がリタイヤ。マドリッドを目前にバイクを降りた彼の目標は2週間後にオーストラリアで行われる世界選手権だ。

メイン集団は静観メイン集団は静観 photo:Unipublic粘った4人だが、ゴールまで11kmのところで集団に吸収され、レースは振り出しに。残り5kmでゆるい登りに差しかかると、レースが活性化。口火を切ったのは第15ステージで勝利しているカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)。この動きに乗じてアタックしたのはチームメイトのダリオ・カタルド(イタリア)。

少し飛び出したカタルドを追ったのはルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケスデパーニュ)で、このスペインTTチャンピオンの走りにカタルドはついていけず脱落。下りに差しかかったところでサンチェスに追いついたのはここまで見事なカヴェンディッシュへのリードアウトを見せているスプリンターのマシュー・ゴス(オーストラリア、チームHTCコロンビア)。

パンクで総合順位を落としたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)パンクで総合順位を落としたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vosしかしこの2人を逃がすわけにはいかないのはエーススプリンターのタイラー・ファラー(アメリカ)を擁するガーミン・トランジションズ。デーヴィット・ミラー(イギリス)が追走し、2人を集団に吸収する。

残り1kmでゴールへの登りが始まり加速をしたのはジャンニ・メールスマン(ベルギー、フランセーズデジュー)。その後ろにぴったりとつけたのはフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)。メールスマンの加速を利用して、ジルベールが残り500mで先頭に立つと、後ろにつけたのはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)だけ。

しかし近年爆発的な加速力で勝利を量産するジルベールにとってアルデンヌクラシックのような短い登り基調のゴールは最も得意とするところ。ファラーを振り切ってトップでゴールに飛び込み、このブエルタ区間2勝目を飾った。

3位にはフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)が入り、5位に躍進目覚ましいピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTCコロンビア)、6位にマイヨロホのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)が入った。

波乱は総合2位につけるエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)で13秒遅れの23位でゴール。難易度の決して高いとは言えない短い上りでニーバリに対して12秒を失う手痛い結果になってしまった。下りでパンクしたフランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)は、114位でゴール。タイム差は15秒遅れのグループと同等扱いの処置がとられたが、これによりフランクは総合順位をひとつ下げて5位となった。

翌第20ステージはこのブエルタ最終決戦の舞台となる。超級山岳ボラ・デル・ムンドへの山頂ゴールで、ニーバリとモスケラの争いは決着を見ることになるだろう。いよいよブエルタ・ア・エスパーニャの王者が決する。

フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がファラーを振り切って勝利フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がファラーを振り切って勝利 photo:Unipublic

フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
「チームの素晴らしい働きがあった。僕は最後の500mになるまでアタックをしないように決めていたんだ。LLサンチェスが一番危険な選手だったけど、ミラーが追いに入った時には向かい風が吹いていたのでほっとしたよ。それで、スプリントはロングスプリントで勝負しようとも決めていたんだ。それがファラーに勝つための最良の策だと思ったんだ。世界で2番目に強いスプリンターに勝つことは、僕にとって名誉なことだけど、今日のゴール地点は完璧に僕向きのコースだったね。シーズン最初からの目標が世界選手権だったし、春のクラシックで勝ってから僕が世界選だけを見据えていたことを誰もが知っているから、僕は何も隠すことなんて無いんだ。僕のコンディションはパーファクトだ。このブエルタには区間1勝を狙ってきたけど、2勝を挙げた。満足以上のものを感じているよ」


マイヨ・ロホのリードを広げたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)マイヨ・ロホのリードを広げたヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Unipublicヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)
昨日、フェデリコ・バハモンテス氏がスタート地点にやってきて、僕にトレドのゴールについて教えてくれたんだ。それにものすごく助けられたから、彼にとても感謝している。ゴール地点について知っていたから、最後の10kmはベンナーティとともに集団の前方に位置するよう心がけたんだ。最後に集団が分裂したけれど、僕はもちうる力でできる限り速くゴールした。12秒のリードを得たことは明日に向けての素晴らしいボーナスだ。ボラ・デル・ムラーノがどれだけの難易度か知ってはいるけれど、この50秒のリードは僕を落ち着けてくれる」


エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)
最終局面では緊張感が漂っていた。コーナーでフランク・シュレクが横にいたけれど、彼はパンクの餌食になっていた。僕は限界で、ベストを尽くしきれなかった。この類のゴールは、僕よりもニーバリに分がある。チームメイトのダビ・ガルシアが差を詰めるのにあらん限りの力を使ってくれたけど、最後の橋を通った時には僕はもう息もつけないほどだった。明日僕はアタックをしなくてはらない。よい足があって、よい一日になることを望むよ。僕が平静でいるように見えるかもしれないけど、全くそんなことはないんだ。とても神経質になっているし、毎晩寝付くのに非常に苦労している。もし僕がこのブエルタに勝てないとして、12秒以下の差だったら…」

フェデリコ・バハモンテス「トレドの鷲」1959ツール覇者
大勢の観客と、偉大な勝者に彩られた素晴らしいゴールだった。この丘のゴールでは、ひとつのチームがレースを支配することは不可能だ。だからこそ最も強い選手がここで勝つことができる。個人的にフィリップ・ジルベールを私は知らなかったが、昨年ここを訪れた彼はよくこのゴールを知っていた。丘の最も険しい箇所で彼は6、7車身のリードを奪い、そして勝利した。彼のことを知らないけれど、それでも私は彼に魅了されたよ」
※その後インタビュー時にジルベールとバハモンテスが言葉を交わし、ジルベールは感激した。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第19ステージ結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)5h43'41"
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)
3位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)       +1"
4位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
5位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTCコロンビア)
6位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)
7位 ニコラス・マース(ベルギー、クイックステップ)
8位 グレガ・ボーレ(スロベニア、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)
9位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス・ドイモ)
10位 ポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)            +4"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       80h30'48"
2位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)        +50"
3位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)      +1'59"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)           +3'54"
5位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)        +3'57"
6位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +4'02"
7位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)     +4'10"
8位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)    +4'12"
9位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +4'28"
10位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)      +5'50"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 136pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   124pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   93pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        51pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  43pts
3位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケスデパーニュ)     25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)        15pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      16pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    17pts

チーム総合成績
1位 カチューシャ         241h18'17"
2位 ケースデパーニュ           +32"
3位 シャコベオ・ガリシア       +12'01"


text:Yufta Omata
photo:Cor Vos, Unipublic

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