2010年9月12日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第15ステージが行なわれ、地元アストゥリアス州出身のカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が難関ラゴス・デ・コバドンガを制した。総合3位のエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)がマイヨロホに対して11秒のリードを奪った。

ラゴス・デ・コバドンガで飛び立ったバレード

レースは開始直後からアタックの応酬レースは開始直後からアタックの応酬 photo:Cor Vosスペイン北部、アストゥリアス州にそびえ立つ難関山岳ラゴス・デ・コバドンガにゴールする第15ステージ。コースレイアウトは非常に特徴的で、コバドンガの上り口まで山岳は皆無。大西洋に面した平坦路をひたすら175km走った後、ラスト12kmで標高1120mまで一気に駆け上がる。

重要な山岳3連戦の2戦目。この日も序盤から激しいアタック合戦が繰り広げられた。

逃げグループを形成するフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)逃げグループを形成するフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ) photo:Cor Vos逃げが決まったのは、スタートから1時間半後。フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)、オリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)ら6名が先頭グループを形成し、降り始めた雨の中を逃げ始めた。

総合で大きく遅れた選手たちの逃げ(最高位の総合47位・39分16秒遅れのバレード)は、メイン集団の追走意欲を削いだ。リクイガスやケースデパーニュが集団コントロールを担ったものの、メイン集団のペースは上がらず、先頭グループのリードは広がるばかり。

逃げグループを形成するニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)やマーティン・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)逃げグループを形成するニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)やマーティン・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア) photo:Unipublicゴールまで50kmを残してタイム差は最大9分35秒に。コバドンガの上りが近づいてようやくシャコベオ・ガリシアがメイン集団のペースを上げたが、逃げグループとのタイム差が劇的に縮まることは無かった。

降り続く冷たい雨の中、7分のアドバンテージを得てコバドンガの上りに突入した6名の先頭グループ。この中で最もモチヴェーションが高いのは、地元アストゥリアス州出身のバレードに違いなかった。

「コバドンガは思い出の詰まった上り。子どもの頃、祖父の提案でマウンテンバイクを借りてこの上りを走った。頂上まで走り切ったので、そのご褒美として父にロードバイクを買ってもらったんだ」。上りを知り尽くしたバレードは、マーティン・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)のアタックに反応する形でペースアップ。バレードはベリトスを引き千切り、独走態勢に持ち込んだ。

ラゴス・デ・コバドンガで先頭グループから飛び出したカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)ラゴス・デ・コバドンガで先頭グループから飛び出したカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ) photo:Unipublic
最大勾配が15%に達するコバドンガをシッティングを多用して上るバレード。雨が降り、霧が立ち込める急坂の沿道には沢山の観客たち。最後の最後までリードを守り切ったバレードが、歓喜のガッツポーズでゴールに飛び込んだ。

先頭でラゴス・デ・コバドンガの頂上にゴールするカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)先頭でラゴス・デ・コバドンガの頂上にゴールするカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ) photo:Cor Vosベリトスとロドリゲスとともにラゴス・デ・コバドンガを上るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)ベリトスとロドリゲスとともにラゴス・デ・コバドンガを上るヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Unipublicラゴス・デ・コバドンガの上りに挑んだ総合5位のニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)ラゴス・デ・コバドンガの上りに挑んだ総合5位のニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) photo:Unipublic

バレードはレース後のインタビューで喜びが爆発。「地元で勝利するなんて最高の喜びだ!今日のゴールから僅か30kmの場所で育ったんだ。去年のクラシカ・サンセバスティアン以降、ずっとこんな勝利を待ち続けていた。このコバドンガと明日のコトベジョのステージは前から注目していた」。

地元アストゥリアス出身のカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)がステージ優勝地元アストゥリアス出身のカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)がステージ優勝 photo:Unipublic「上りでベリトスがアタックした時は焦ったけど、それが自分のアドバンテージになった。この上りは知り尽くしている。最も勾配のある区間でリードを守ることが出来れば、逃げ切れると信じていた。1週間前の第9ステージでも逃げたけど、その時はハンガーノックで失速した。それ以降、ずっと総合順位を落としながら逃げるチャンスを待っていたんだ」。

バレードはポーにゴールするツール・ド・フランスの第16ステージでも逃げを試みたが、独走の末にラスト1kmで吸収。惜しくもステージ優勝を逃している。これまで何度も何度も逃げを試みた29歳のバレードが、9度目のグランツール出場で念願のステージ優勝を掴んだ。


モスケラ渾身のアタック ニーバリの牙城は崩れず

ラゴス・デ・コバドンガでメイン集団のペースを上げるゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)ラゴス・デ・コバドンガでメイン集団のペースを上げるゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Cor Vosコバドンガのもう一つの闘い、それがマイヨロホを懸けた総合争いだ。本格的な上りが始まるとリクイガスがメイン集団をコントロール。オリバー・ザウグ(スイス)とロマン・クロイツィゲル(チェコ)の2人が、マイヨロホのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)を手厚くサポートした。

ゴールまで7kmを残して、総合10位につけていたカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)が静寂を敗った。

ニーバリのためにメイン集団を牽くオリバー・ザウグ(スイス、リクイガス)ニーバリのためにメイン集団を牽くオリバー・ザウグ(スイス、リクイガス) photo:Cor Vosサストレには総合3位のモスケラが合流。このアタックに伴うペースアップでメイン集団からは総合4位のシャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)が脱落してしまう。

サストレは吸収され、モスケラがメイン集団を引き離しながら霧のコバドンガを駆け上がる。クロイツィゲルは脱落し、マイヨロホのニーバリ自らがメイン集団を率いてモスケラを追走する展開に。

霧の立ちこめるラゴス・デ・コバドンガでニーバリらを突き放すエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)霧の立ちこめるラゴス・デ・コバドンガでニーバリらを突き放すエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Unipublicニーバリに食らいついたのはホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)とピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)の2人だけ。フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)やニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)は後退してしまう。

結局モスケラはメイン集団は捕まることなくゴール。しかし一定ペースを刻んだニーバリから奪っ他リードは僅かに11秒だった。

ラゴス・デ・コバドンガでヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)に続いたのはピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)だけラゴス・デ・コバドンガでヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)に続いたのはピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)だけ photo:Unipublicこの日の結果を受け、マイヨロホはニーバリが守り、変わらず4秒差でロドリゲス、タイム差11秒を詰めたモスケラが39秒差の総合3位に。トンドが遅れたため、ニーバリに最後まで食らいついたPベリトスが総合4位に浮上した。

アタックを仕掛けたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)はニーバリを11秒振り切ってゴールアタックを仕掛けたエセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)はニーバリを11秒振り切ってゴール photo:Cor Vos総合リーダーとして、落ち着いた走りを見せたニーバリ。レース後のコメントも、25歳とは思えない落ち着きっぷり。「アンドラではモスケラのペースに惑わされて自爆した。同じ過ちは繰り返さない。今日は自分の総合リードを守ることだけを考えて走った。今日もチームメイトの働きは素晴らしく、コバドンガではザウグとクロイツィゲルの走りが光った。状況を上手くコントロール出来ていたと思う。麓から頂上までずっと一定ペースで上ったんだ。ラスト3kmの下りで後輪が滑らせたことが唯一のミスだった」。

「モスケラよりもサストレを恐れていたんだ。モスケラはラスト5kmをヘトヘトになるまで走ったけど、その成果はたったの11秒だ。トラブル無く一日を終えることが出来て満足している。ビッグレースでリーダージャージを着るのは初めての経験じゃない。でも今回は最後までジャージを守り抜きたいと強く思う」。

モスケラ以外のライバルたちの動きを抑え込んだヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)モスケラ以外のライバルたちの動きを抑え込んだヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Cor Vos個人タイムトライアルを得意とするニーバリは、グランツール初制覇に向けて駒を一つ前に進めた。最大のライバルと目されるロドリゲスは「調子が悪かったわけじゃない。ニーバリが強かった。決して自分向きとは言えない個人タイムトライアルが控えているので、明日のステージでは彼からリードを奪う必要がある」とコメント。総合3位のモスケラも「今日は最後の最後まで全力で走った。明日も攻撃してニーバリからタイムを奪いたい」と臨戦態勢だ。

翌第16ステージは3つの難関山岳が登場する。1級山岳サンロレンソ峠と1級山岳コベルトリア峠を越え、最後は登坂距離10km・平均勾配8.1%のコトベジョ峠を駆け上がってゴール。難易度の高い山岳ステージだが、マイヨロホのニーバリは「明日も今日と同じような展開になると思う。上りが多いけど、チームワークで状況をコントロールする自信がある。今の総合リードを保ったまま個人タイムトライアルに挑みたい」と、自信を覗かせている。

選手コメントはレース公式リリースより。


ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第15ステージ結果
1位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)       4h33'09"
2位 ニコ・シーメンス(ベルギー、コフィディス)           +1'07"
3位 マーティン・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)   +1'43"
4位 フレフ・ファンアフェルマート(ベルギー、オメガファーマ・ロット)+2'06"
5位 ピエール・カゾー(フランス、フランセーズデジュー)       +2'10"
6位 オリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)    +2'12"
7位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     +2'15"
8位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       +2'26"
9位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)
10位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
11位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   +2'45"
12位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    +3'02"
13位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
14位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +3'03"
15位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)         +3'26"
23位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +4'06"
44位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)         +8'08"

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)   65h31'14"
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)        +04"
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    +39"
4位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)  +2'29"
5位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)   +2'30"
6位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)   +2'47"
7位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)      +2'48"
8位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)  +3'48"
9位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)   +4'29"
10位 ウラディミール・カルペツ(ロシア、カチューシャ)      +5'27"

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 111pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   90pts
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       82pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)        45pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)  36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)        11pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)      13pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    14pts

チーム総合成績
1位 カチューシャ        196h12'13"
2位 ケースデパーニュ         +3'45"
3位 サーヴェロ・テストチーム    +7'47"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic