2010年9月9日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第12ステージが行なわれ、マシュー・ゴス(オーストラリア)に最高の形で発射されたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)が余裕の勝利。3つのグランツール全てでステージ優勝を達成した。

アンドラ公国を離れてカタルーニャ州に戻るアンドラ公国を離れてカタルーニャ州に戻る photo:Cor Vos大会1回目の本格的な頂上ゴールから一夜明け、レースは再びスプリンターチームの手に委ねられた。厳しい山岳3連戦を前にした第12ステージと第13ステージはスプリンター向き。この日は前半に2級山岳ボイソルス峠が設定されている以外、大きなハードルは無い。

スタート直後に始まったアタック合戦は、10km地点で早くも終わりを告げる。逃げたのはグスタボ・セサル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)やビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)ら6名。

逃げグループを形成するビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)やグスタボ・セサル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)逃げグループを形成するビエル・カドリ(フランス、アージェードゥーゼル)やグスタボ・セサル(スペイン、シャコベオ・ガリシア) photo:Unipublic逃げグループを形成したのはいずれも総合で大きく遅れている選手たち。しかしこの日はスプリンターチームが序盤から集団をコントロールしたため、タイム差が3分18秒以上に広がることは無かった。

しかし小さなタイム差はカウンターアタックを誘発する。この日唯一のカテゴリー山岳である2級山岳ボイソルス峠でメイン集団からダビド・ガルシア(スペイン、シャコベオ・ガリシア)ら3名がカウンターアタックを仕掛け、すぐさま先頭グループに合流。

マイヨロホから5分14秒遅れの総合19位という危険なガルシアが逃げに乗ったことで、エウスカルテルも集団コントロールに合流。逃げグループは3名の選手を揃えたシャコベオ・ガリシアを中心にハイペースを保ったが、タイム差は常に3分以内に抑え込まれた。

アンドラ公国を離れ、山岳地帯を抜けてカタルーニャ州へアンドラ公国を離れ、山岳地帯を抜けてカタルーニャ州へ photo:Unipublic


ガーミン・トランジションズやクイックステップがコントロールするメイン集団ガーミン・トランジションズやクイックステップがコントロールするメイン集団 photo:Unipublicガーミン・トランジションズやクイックステップが積極的に集団をコントロールする一方で、逃げグループに選手を送り込んだチームHTC・コロンビアとランプレは集団後方待機。この2チームは終盤の勝負どころまで力を温存することになる。

結局スプリンターチーム率いるメイン集団は、ゴールまで23kmを残して容赦なく逃げグループを吸収。ここからメイン集団はもう一段スピードを上げ、カウンターアタックを封じ込めながらゴールへと猛進。ガーミンやクイックステップの他、フットオン・セルヴェットやランプレ、チームHTC・コロンビア、リクイガスが集団先頭のポジション争いに加わった。

集団スプリントに向けてメイン集団のペースを上げるガーミン・トランジションズ集団スプリントに向けてメイン集団のペースを上げるガーミン・トランジションズ photo:Unipublicゴールまで2kmを切ると、イタリアのランプレとリクイガスがトレインを組んで集団先頭に。しかしラスト1kmから連続したコーナーで両チームのトレインは崩れ、カヴェンディッシュを連れたゴスが先頭へ。最終スプリントさながらも加速で先頭に躍り出たゴスは、そのままカヴェンディッシュを引き連れて先頭で最終コーナーを抜けた。

ラスト200mの最終コーナーを駆け抜けたゴスとカヴ。後ろのデニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)やアンドレアス・スタウフ(ドイツ、クイックステップ)が最終コーナーで失速したため、チームHTC・コロンビアの2名が抜け出した状態に。ゴスに発射されたカヴは、後方を振り返る余裕を見せながらゴール。タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)の追撃は届かなかった。

ファラーを振り切ってゴールするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)ファラーを振り切ってゴールするマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Unipublic

チームHTC・コロンビア完勝。他チームを寄せ付けない圧倒的な勝利だった。その勝利をお膳立てしたのはゴスに他ならない。カヴはレース後のインタビューでゴスを讃えた。

危なげなくマイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)危なげなくマイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic「リードアウトマンとしてトレーニングを重ねているマーク・レンショーに対して、ゴシー(マシュー・ゴス)は純粋なスプリンターなんだ。彼は信じられないほど素晴らしい走りを見せてくれた。これはチームの勝利だ。僕はチームに連れられてゴールまで走っただけ。本当に感謝している。今日は自分の力で勝ちパターンに持ち込んだわけじゃないので、2年前のジロのように、彼にステージ優勝を譲ろうかとも思った。でも振り返ると後ろからライバルたちが迫っていたので、仕方なく先頭でゴールしたんだ」。

これまでジロ・デ・イタリアでステージ通算5勝、ツール・ド・フランスでステージ通算15勝を飾っている。初出場のブエルタでようやく1勝目を掴んだ。全てのグランツールでステージ優勝経験がある現役選手は、カヴェンディッシュの他にサイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)、アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)、パブロ・ラストラス(スペイン、ケースデパーニュ)、デーヴィット・ザブリスキー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)、デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)、ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)がいる。

再びポイント賞ジャージを手に入れたカヴは、最終的なポイント賞を狙うことを宣言。「全てのグランツールで勝利出来て本当に嬉しい。子どもの頃からテレビで見ていたブエルタで表彰台に上るのは特別だ。最後まで走ってグリーンジャージ獲得を目指したい。一般的にポイント賞はスプリンターの領域だけど、ブエルタでは山岳ステージでも同ポイントが与えられるから、厳しい闘いになる。中間スプリントポイントを狙う走りが要求されるだろう」。

「チームHTC・コロンビアは若手ばかりを揃え、世界選手権に向けて調整を兼ねてブエルタに出場している。序盤のステージで勝利を狙ったけど、パンクやポジション取りの悪さで勝利を逃していた。今日こうして勝てたけど、まだやるべきことは沢山ある」。これまで何度もチャンスを逃してきたカヴ。このステージ優勝で自信を取り戻したことだろう。ロード世界選手権ではイギリスチームのエースを担うと思われる。

勝利の立役者ゴスは、2005年TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)の大阪ステージ優勝者。今年のジロ・デ・イタリアではグライペルに代わってグランツール初勝利を飾っている。スプリンターながら起伏のあるワンデークラシックも得意とし、直前のGPウエストフランス・プルエーで優勝を飾った。

「ラルス(バク)が逃げに乗っていたおかげで、チームは力をセーブすることが出来た。かといって簡単なレースでは決してなかった。特に終盤は危険だったよ。ゴール前の風はトリッキーだった。最終コーナーで先頭を穫る必要があったので、ハイスピードで突っ込んだんだ。初日のチームTT以降、負け続けていたから、再び勝ちパターンに持ち込めて嬉しいよ」。ゴスはオーストラリア代表としてロード世界選手権に出場予定。地元開催だけにモチヴェーションは高いはずだ。

チームHTC・コロンビアの前に敗れたファラーは「確かに今日カヴェンディッシュは完璧なリードアウトを得た。でも決して勝てなかったとは思わない。でもちょうど追撃しようと思った時、前を走るクイックステップのアンドレアス・スタウフが最終コーナーで落車しそうになったんだ。そこでレースは終わった。砂が浮いた最終コーナーで勝利を逃した」と悔しいコメント。ポイント賞2位に浮上しており、今後はカヴvsファラーの闘いに注目だ。

マイヨロホの他、山岳賞、複合賞、チーム総合成績ともに変動無し。イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)は危なげなくマイヨロホを守っている。総合争いが再び加熱するのは第14ステージから。翌第13ステージもスプリント向きの平坦コースが用意されている。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第12ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)4h00'30"
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)
3位 マシュー・ゴス(オーストラリア、チームHTC・コロンビア)
4位 デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)
5位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)
6位 オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)
7位 アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)
8位 ワウテル・ウェイラント(ベルギー、クイックステップ)
9位 セバスティアン・シャヴァネル(フランス、フランセーズデジュー)
10位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)        51h37'45"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +45"
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +1'04"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)         +1'17"
5位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     +1'29"
6位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ケースデパーニュ)      +1'57"
7位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)         +2'07"
8位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)       +2'13"
9位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    +2'30"
10位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 85pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   76pts
3位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)         75pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)         41pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)   36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)         8pts
2位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    24pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)     24pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ      154h21'22"
2位 カチューシャ          +6'46"
3位 エウスカルテル         +8'49"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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