最終山岳を埋めた大観衆に背中を押され、タデイ・ポガチャルが圧巻の独走勝利を飾った。その前日、ホテルではマウロ・シュミットの勝利にジェイコ・アルウラーの宮島正典マッサーが絶叫。シュミットの素顔と、チームを包んだ安堵を語ってもらった。



遠くにいるUAEチームエミレーツXRGに向け、メキシコ人ファンが大合唱でデルトロを呼ぶ photo:Sotaro.Arakawa

サッカーW杯でフランス代表が敗れ、国中の注目がツール・ド・フランスへと移り始めたのだろうか。この日の最終山岳、1級山岳コル・デュ・アーグには、今大会でこれまで見たことがないほどの観客が詰めかけていた。勝利したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)も、レース後のインタビューで真っ先に沿道の観客へ感謝し、「登りと頂上での盛り上がりは忘れられない体験になった。これまで、こんな経験をしたことはない」と振り返った。

増えたのは観客だけではない。プレスや関係者の駐車場にはいつもより多くの車が並び、フィニッシュ後方のインタビューゾーンにも、開幕地バルセロナを上回るほどの報道陣が詰めかけていた。酷暑の影響もあってか、これまであまり感じることのできなかったツール・ド・フランスらしい熱狂を、改めて感じた1日だった。そしてその数時間前、スタート地点のパドックでは、前日の勝利に歓喜し、観客よりも先に声を枯らした日本人スタッフがいた。

とんでもない数のサイクリストや観客が押し寄せたル・マルクシュタイン photo:Sotaro.Arakawa
観客だけでなく、この日は報道陣も多く駆けつけた photo:Sotaro.Arakawa


独走でル・マルクシュタインのフィニッシュに到着したポガチャル photo:Sotaro.Arakawa



昨日、ステージ優勝したジェイコ・アルウラーの宮島正典マッサーに会うことができた photo:Sotaro.Arakawa

「みんな、肩の荷が下りた気持ちです。『はぁーっ』って(笑)」

第14ステージのスタート約1時間前、選手たちが準備を進めるパドックで、ジェイコ・アルウラーのマッサーを務める宮島正典さんに話を聞いた。スタート前のパドックで顔を合わせるのは久しぶりで、シュミットが勝利した前日、宮島マッサーは選手たちより先に宿へ入り、翌日の準備を進めるホテル班だった。

「昨日は部屋割りをして、荷物を運び込み、マッサージベッドを広げて、翌日のボトルも作っておく。最後の30〜40kmくらいから冷房の効いたホテルでみんなとレースを見ていました。勝った瞬間は全員で『うおーっ!』って叫びました」

「おかげで声が枯れちゃって…(笑)」と語る通り、宮島マッサーは少しかすれた声で、前日の主役について語ってくれた。

テハダとの一騎打ちを制したマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos

「やっぱり1勝するとしないとでは大きく違います。特に今のレースではUAEが強いので、1勝するだけでも難しい。1勝できたら素晴らしいし、2勝できたら、それはもう」

前年のツールでシュミットは、ヨナス・アブラハムセンとの一騎打ちにわずかな差で敗れた。だからこの勝利は、1年越しの雪辱でもあった。

「去年のツールでは僅差で負けて、でも今年は調子が良かった。絶対に勝ってほしかったので、嬉しかったですね。良いやつですし」

インタビューに答えるマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー) photo:A.S.O.

レース後の記者会見では、どんな質問にも丁寧に、時折笑顔を交えながら答えていたシュミット。日々を共にする宮島マッサーは、その人柄を「大人しくて、のんびりしている選手」と表現。「大人しくて、のんびりしている選手ですね。そこが面白いんですよ」。

「ホテルからチームバスにやって来るのは、いつも最後なんです。ただ、昨日はそれが少し早かった。今年2月のマスカット・クラシックで勝った時も、前日に僕へ『安全ピンはあるか?』と聞いてきたんです。普通なら当日に確認するのに、その時は前日だった。だから『もしかしたら、あいつ…』と(笑)。気合が入っている時は、行動が少しだけ速くなるのかもしれないですね」

「基本的にのんびりしていますが、僕らも別に急かしたりはしません。ツールに来る選手たちのスーツケースは、とても重たいんですよ。でもマウロは大小2つを持ってきて、小さい方しか部屋へ持ち込まない。僕らスタッフからすると、40kgもある大きな方を部屋まで運ぶより、軽い方がありがたいです」

それはスタッフへの気遣いなのだろうか。そう尋ねると、宮島マッサーは笑いながら答えた。

「そういうところが、ちょっと特殊なんですよね。でも、みんなから愛されている。だから勝ったら全員で大喜びです。いいやつですからね」

この日積極策を成功させるジェイコ・アルウラー photo:A.S.O.

待望の1勝を挙げたものの、ツールはまだ続いていく。次の勝利候補として宮島マッサーが挙げたのは、ルーク・プラップとマイケル・マシューズ。プラップは2025年ジロ・デ・イタリア第8ステージで、初めてのグランツール区間優勝したオーストラリア期待の選手。一方のマシューズは今年3月、練習中の落車で両手首を骨折。春のクラシックを欠場したが、6月に実戦復帰し、ツールに間に合わせた。

「やはりプラッピーに勝ってもらって、マイケルも勝てれば、怪我からの復活というストーリーもできますしね」

マシューズの状態についても、宮島マッサーは「悪くない」と話す。

「悪くないですよ。ここまでのツールは、展開的に彼が勝負するのが難しくなっていますが、かなり身体を絞り込んでいます」

text:Sotaro.Arakawa in Champforgeuil, France
photo:CorVos, A.S.O.
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