待ちわびたスプリントステージで、初出場のオラフ・コーイがツール初勝利。長い逃げを打ったヴェストロフール、日常が隣り合うフィニッシュの街ポー、そしてデカトロンが選んだ“二兎”を現地から見た。

チームプレゼンテーションに向かうファンデルプールに歓声が飛ぶ photo:Sotaro.Arakawa

ピレネーの麓にある街ランヌメザンが、ツール第5ステージのスタート地点だ photo:Sotaro.Arakawa 
かつてツール総合4位に入り、いまはアメリカのTV局の解説者を務めるクリスティアン・ヴァンデヴェルデ photo:Sotaro.Arakawa

前日ほどではないとはいえ、猛暑のランヌメザンを出発する選手たち photo:Sotaro.Arakawa
スプリンターにとって待ちわびた日がやってきた。バルセロナを出発して5日目、フランス南西部、ピレネー山脈の麓にある小さな街ランヌメザンからポーへ向かう舞台は、158.3kmの平坦ステージ。フィニッシュの25.6km手前には3級山岳コート・ド・バレイクス(距離1km/平均8.8%)が設定されたが、スピードマンたちを退けるには至らなかった。
今大会初となるスプリントバトルの火蓋が切られる、3時間以上も前。この日のレース中継の画面を独占していたのは、バティスト・ヴェストロフール(フランス、ロット・アンテルマルシェ)だった。

低いポジションで逃げるバティスト・ヴェストロフール(フランス、ロット・アンテルマルシェ) photo:A.S.O.
フランス北西部のブルターニュ地域圏出身、2000年生まれの26歳。デカトロンCMA CGMの育成チームを経て、プロデビューしたのは2年前の2024年と遅咲きだ。それは元々トライアスロンの選手だったから。「僕はスプリンターでもクライマーでもない」と語るヴェストロフールの持ち味は、この日も見せた積極果敢なエスケープ。今年2月のツアー・オブ・オマーン(UCI2.Pro)でも逃げ集団から飛び出し、そのままプロトンを振り切ってプロ初勝利を飾っている。
自ら編集するYouTubeチャンネルでは、ヴェストロフールのキャラクターがよく分かる。特に昨年のオフシーズンにタイをバイクパッキングした動画は必見。プロトンという大勢から外れ、異なる動き(逃げ)に長けた、新時代のエスケーパーだ。
しかしその1人旅も、続いたのは残り14km地点までだった。ヴェストロフールを飲み込んだプロトンは、そこから各チームのリードアウトが集団先頭でポジションを奪い合い、フィニッシュに向けてスピードを上げていった。

この日のフィニッシュ地点と、奥に見えるのはサン=マルタン教会 photo:Sotaro.Arakawa
この日のフィニッシュ地点は「ピレネーの玄関口」と呼ばれるポーだった。ツール観戦者にとって聞き馴染みあるのは当然で、登場回数は今年で77回目。フィニッシュ地としては64回目を数え、パリ、ボルドーに次ぐ、ツール常連の街の一つだ。街の中心部にはピレネー山脈を望む遊歩道「ブールヴァール・デ・ピレネー」が延び、訪れた第一印象は「大きな街」だった。そう感じたのは、スタート地点の小さな街ランヌメザンと比べていたからでもあるだろう。
個人的な感想を述べさせてもらうと、ポーでのフィニッシュで実感したのは「ツールが街を丸ごと非日常に変えるわけではない」ということだった。フィニッシュ地点から道を1本挟んだだけで、マダムがスマホ片手に犬を散歩させ、親子はジェラートを頬張り、バーでは会話を楽しむ人々の姿があった。つまり、ツールなんぞ関係ない生活がそこには営まれていて、そのことに軽いショックを受けた。もちろんツールが日常になっているポーだから、ということもあろうが、ここフランスと言えど、すべての人にツールがあるわけではないのだ。

散歩するマダムと犬。この向こう側が翌日のスタート地点でもある photo:Sotaro.Arakawa

高い所から選手たちの到着を待つ photo:Sotaro.Arakawa 
オーストラリアから応援に来た夫妻。右上にある標識を見上げ、「何か切るもの持っていない?」と尋ねられたのだが…? photo:Sotaro.Arakawa

フィニッシュ手前200m地点。スプリントのスピードに観客たちの目が追いついていない photo:Sotaro.Arakawa
日常のすぐ脇で今大会初のスプリントを制したのは、今年ツール初出場のオラフ・コーイ(オランダ、デカトロンCMA CGM)だった。しかも単騎ながら、ライバルに並ばせることすら許さない圧巻勝利。
デカトロンCMA CGMは今年、19歳の総合エース、ポール・セクサス(フランス)と、スプリンターのコーイを同時に選出した。コーイが開幕前に語った目標は「ポールが総合でできるだけ上位に入り、自分は少なくともスプリントステージで1勝すること」。ポーでの勝利によって、コーイはその目標の半分を早くも達成したことになる。
グランツールにおける1チームの人数が9名から8名に減ったのは、2018年大会から。それ以来、より難しくなったのが総合エースとスプリンターの両立で、総合を狙うならば山岳アシストを厚くし、スプリントを狙うならリードアウトを連れてくる。限られた8枠の中で、その両方を高いレベルで成立させるのは簡単ではない。

5位と振るわず、足早にチームバスへと戻っていくフィリプセン photo:Sotaro.Arakawa 
デカトロンCMA CGMの監督に就任初年度に、早速結果を残したマーク・レンショー photo:Sotaro.Arakawa

チームメイトと勝利を喜ぶオラフ・コーイ(オランダ、デカトロンCMA CGM) photo:A.S.O.
8人のツールになって以降、ピュアスプリンターと総合エースの組み合わせで成功した例は多くない。特殊な脚質を持つワウト・ファンアールト×ヨナス・ヴィンゲゴーの2022年ユンボ・ヴィスマを除けば、アレクサンドル・クリストフが開幕ステージを制し、タデイ・ポガチャルが総合優勝を果たした2020年のUAEチームエミレーツぐらい。
さらにそこから時代は進み、総合チームがスプリンターたちを抱える余裕はますますなくなってきている。その中でコーイを勝たせたことは、デカトロンにとって単なる1勝以上の意味を持つ。ポーでの勝利は、セクサスとコーイという二兎を追う選択が決して不可能ではないと示す、最初の答えになるのかもしれない。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Lourdes, France




スプリンターにとって待ちわびた日がやってきた。バルセロナを出発して5日目、フランス南西部、ピレネー山脈の麓にある小さな街ランヌメザンからポーへ向かう舞台は、158.3kmの平坦ステージ。フィニッシュの25.6km手前には3級山岳コート・ド・バレイクス(距離1km/平均8.8%)が設定されたが、スピードマンたちを退けるには至らなかった。
今大会初となるスプリントバトルの火蓋が切られる、3時間以上も前。この日のレース中継の画面を独占していたのは、バティスト・ヴェストロフール(フランス、ロット・アンテルマルシェ)だった。

フランス北西部のブルターニュ地域圏出身、2000年生まれの26歳。デカトロンCMA CGMの育成チームを経て、プロデビューしたのは2年前の2024年と遅咲きだ。それは元々トライアスロンの選手だったから。「僕はスプリンターでもクライマーでもない」と語るヴェストロフールの持ち味は、この日も見せた積極果敢なエスケープ。今年2月のツアー・オブ・オマーン(UCI2.Pro)でも逃げ集団から飛び出し、そのままプロトンを振り切ってプロ初勝利を飾っている。
自ら編集するYouTubeチャンネルでは、ヴェストロフールのキャラクターがよく分かる。特に昨年のオフシーズンにタイをバイクパッキングした動画は必見。プロトンという大勢から外れ、異なる動き(逃げ)に長けた、新時代のエスケーパーだ。
しかしその1人旅も、続いたのは残り14km地点までだった。ヴェストロフールを飲み込んだプロトンは、そこから各チームのリードアウトが集団先頭でポジションを奪い合い、フィニッシュに向けてスピードを上げていった。

この日のフィニッシュ地点は「ピレネーの玄関口」と呼ばれるポーだった。ツール観戦者にとって聞き馴染みあるのは当然で、登場回数は今年で77回目。フィニッシュ地としては64回目を数え、パリ、ボルドーに次ぐ、ツール常連の街の一つだ。街の中心部にはピレネー山脈を望む遊歩道「ブールヴァール・デ・ピレネー」が延び、訪れた第一印象は「大きな街」だった。そう感じたのは、スタート地点の小さな街ランヌメザンと比べていたからでもあるだろう。
個人的な感想を述べさせてもらうと、ポーでのフィニッシュで実感したのは「ツールが街を丸ごと非日常に変えるわけではない」ということだった。フィニッシュ地点から道を1本挟んだだけで、マダムがスマホ片手に犬を散歩させ、親子はジェラートを頬張り、バーでは会話を楽しむ人々の姿があった。つまり、ツールなんぞ関係ない生活がそこには営まれていて、そのことに軽いショックを受けた。もちろんツールが日常になっているポーだから、ということもあろうが、ここフランスと言えど、すべての人にツールがあるわけではないのだ。




日常のすぐ脇で今大会初のスプリントを制したのは、今年ツール初出場のオラフ・コーイ(オランダ、デカトロンCMA CGM)だった。しかも単騎ながら、ライバルに並ばせることすら許さない圧巻勝利。
デカトロンCMA CGMは今年、19歳の総合エース、ポール・セクサス(フランス)と、スプリンターのコーイを同時に選出した。コーイが開幕前に語った目標は「ポールが総合でできるだけ上位に入り、自分は少なくともスプリントステージで1勝すること」。ポーでの勝利によって、コーイはその目標の半分を早くも達成したことになる。
グランツールにおける1チームの人数が9名から8名に減ったのは、2018年大会から。それ以来、より難しくなったのが総合エースとスプリンターの両立で、総合を狙うならば山岳アシストを厚くし、スプリントを狙うならリードアウトを連れてくる。限られた8枠の中で、その両方を高いレベルで成立させるのは簡単ではない。



8人のツールになって以降、ピュアスプリンターと総合エースの組み合わせで成功した例は多くない。特殊な脚質を持つワウト・ファンアールト×ヨナス・ヴィンゲゴーの2022年ユンボ・ヴィスマを除けば、アレクサンドル・クリストフが開幕ステージを制し、タデイ・ポガチャルが総合優勝を果たした2020年のUAEチームエミレーツぐらい。
さらにそこから時代は進み、総合チームがスプリンターたちを抱える余裕はますますなくなってきている。その中でコーイを勝たせたことは、デカトロンにとって単なる1勝以上の意味を持つ。ポーでの勝利は、セクサスとコーイという二兎を追う選択が決して不可能ではないと示す、最初の答えになるのかもしれない。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Lourdes, France
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