ステージレースの象徴と言えるリーダージャージ。毎日リーダーが入れ替わる激しい展開の中、どうやってチームロゴ入りのジャージが用意されているのか?ツアー・オブ・ジャパンの現場で、最速のオンデマンドプリントをこなすチャンピオンシステムに密着。「チャンピオンのための仕事」の舞台裏を訪ねました。

ツアー・オブ・ジャパン2026の各賞ジャージ。ステージレースを彩る存在だ photo:Satoru Kato
ツール・ド・フランスなら真っ黄色のマイヨジョーヌ、ジロ・デ・イタリアなら華やかなピンクのマリア・ローザ、そしてブエルタ・ア・エスパーニャなら真紅のマイヨロホ。そして、その脇を彩るポイント賞に山岳賞、そして若手優秀賞。ステージレースのリーダージャージは、着用する選手にとっても、応援する観客にとっても特別な存在だ。
でも、毎日リーダーが入れ替わる可能性を秘めたレースの中、各チームのスポンサーロゴが入ったジャージがどのように用意されているのかは、一般にはあまり知られていない事実。当たり前のように表彰台で手渡され、翌日には選手が着ているあのリーダージャージは、どうやって準備されているんだろう?ひょっとして、最初から参加選手全員分用意してるんだろうか...?

総合優勝を果たしたマッテオ・ファッブロ(イタリア、ソリューションテックNIPPOラーリ)。TOJ総合リーダーのグリーンは、5月の「みどり月間」に合わせた緑(知ってました?) photo:Satoru Kato
今回は日本最大規模のステージレース、ツアー・オブ・ジャパンに赴き、リーダージャージをサポートする「チャンピオンシステム」の現場に密着。フィニッシュ直後の表彰式、そして翌日のステージに向けて繰り広げられる、もう一つのスピード勝負の舞台裏を取材した。

チャンピオンシステム代表の棈木亮二さん。TOJ東京ステージで話を聞いた photo:So Isobe 
棈木さんがにらめっこしていたのはジャージ作成者リスト photo:So Isobe
ツール・ド・熊野やツアー・オブ・ジャパン(TOJ)の会場に必ず帯同している、チャンピオンシステムの社用バン。取材した東京ステージが終盤戦に差し掛かると、荷台に据え付けた作業台に向かって忙しなく手を動かす人物の姿があった。チャンピオンシステムジャパン代表を務める棈木亮二さんだ。
シクロクロスファンにとっては「シクロクロス東京」や「稲城クロス」の仕掛け人としてお馴染みだが、この日の棈木さんは「本職中の本職」の顔で、クルマの荷台に設置されたプリントマシンと対峙していた。そう、リーダージャージはもちろん全選手分を用意しているわけではなく、レース結果が確定した直後、あらかじめデザインが施されたジャージに、胸と背中のロゴをその場で一枚一枚プリントしていくのだ。
印刷そのものはあらかじめチームロゴが印刷された熱転写シートを使い、高温の熱プレスでインクを気化させてジャージの白抜き部分に浸透させる「昇華転写プリント」方式。180度以上に熱したマシンで60秒ほどプレスするといい、その作業工程は熱さ、そして時間との戦いだ。

レース終盤にプリントがスタート。社用車の荷台に据え付けたプリンターで作業が進む photo:So Isobe 
プリントは昇華転写で行う。180度以上に熱したマシンで60秒。 photo:So Isobe

転写作業が完了。印刷するロゴデータはチーム側から提供されたものを使う photo:So Isobe

前後2箇所のプリントを終えたリーダージャージ photo:So Isobe 
印刷を待つ山岳賞ジャージと新人賞ジャージ photo:So Isobe
8日間のツアー・オブ・ジャパンで用意されている特別賞は、個人総合、ポイント賞、山岳賞、新人賞の4つ。毎日それぞれをプリントして手渡すため、期間中に合計32枚のリーダージャージを作ることになる。ジャージの前後にプリントを行うため、作業回数は合計64回。1日あたり4着x2回=8回の印刷を行う計算だ。これをステージ成績が確定した直後、選手の体格に合わせてジャージのサイズと種類を選び、選手が会場を去るまでに速やかに行う必要がある。
さらに、レースに通じたファンなら、表彰台で袖を通す「ポディウムジャージ」と、翌日のステージで実際に着用して走る「レース用ジャージ」が異なることに気づいているはずだ。TOJの場合、ポディウムジャージはプリントではなくロゴシールでの対応となるが(本場のグランツールではこちらもプリントされる)、それにしてもフィニッシュ後の現場ははた目で見ていても目が回りそうな忙しさだ(特に転写シートは逆さまになっているので、焦っていると向きを間違い易いという)。

こちらはポディウムジャージ。印刷ではなくシールを貼り付ける photo:So Isobe
「正確に数えてはいませんが、ツール・ド・熊野は今年で14年目、TOJは12年目。もし間違えていたらスミマセン」と棈木さんは笑う。長年サポートを続けるこれら2つの国内最高峰ステージレースに加え、チャンピオンシステムは「シマノ鈴鹿ロード」や「シマノ・バイカーズフェスティバル」といった大規模ホビーレースのチャンピオンジャージも手掛けている。
「UCI公認のステージレースでは、ルールでリーダージャージを着用しなきゃいけないんです。しかし、現場で即座にプリント対応できるようなサービスを持つ会社がない地域もあり、UCI規定でもチームロゴの有無までは厳格に問われていません。チャンピオンシステムジャパンを立ち上げた当時、熊野やツール・ド・北海道のリーダージャージにはチームロゴがありませんでしたし、だからこそ、ツール・ド・フランスのようなロゴ入りジャージを作ってレースを盛り上げたいと考えました。誰にでも平等にリーダージャージをサポートし、大会を支えるという意味では、機材トラブルに対応するマヴィックなどのニュートラルサービスと同じ役割かもしれませんね」と棈木さんは言う。
チャンピオンシステムではジャージのグレードを3種類展開しているが、今年からはいよいよリーダージャージを最上位の「APEX」に統一した。現場には着用頻度の高いXSサイズを中心にSサイズもストック。さらに、汎用性の高い「APEX PRO」と通気性を重視した「APEX LIGHT」の2種類を用意し、選手の要望を聞いてから作業を行う。

準備されていたロゴなしのリーダージャージ。8日間で合計32枚の印刷作業を行う photo:So Isobe 
準備されていたポディウムジャージ用のシールたち。準備枚数はチーム力分析をもとに各チームごとに変えているという photo:So Isobe

ブース裏で黙々と進むプリント作業 photo:So Isobe
「これ、なんだか分かります?」と棈木さんが見せてくれたのが、各チームの名称と数字や、熱転写シートとポディウムジャージ用ステッカーの総数表。チームによって用意する枚数が違うことが分かるが、これは棈木さんをはじめチャンピオンシステムのチームが、過去のチームや出場選手の戦績やコンディションを見定めた上で決めた数。いくら協賛といえど際限なく予算を掛けることはできないため、出場チームの動向を見て、ジャージを獲得する予測を立てた上でオーダーしているそう。
「全チーム全ステージ枚数作ってしまうと予算も膨大になってしまいますから、ある程度勝率をこちらで予想しているんです。過去のリザルトと、強そうな選手が来るかどうかをにらめっこですね。もちろん数の余裕はもっているんですが、それでも特定のチームが勝ちまくると足りなくなる危険もなくはないんです」と言う。なお、余ったチームステッカーはチームに配り、チーム備品に貼ったり、ファンへのプレゼントとして活用してもらっているそうだ。

同じくチャンピオンシステムがサポートするツール・ド・熊野。リーニンスターが活躍したため、転写シートがなくなりそうになったんだとか photo:Satoru Kato
もちろん苦労話は尽きない。今年のツール・ド・熊野ではリーニンスターが大活躍したために転写シートがなくなりかけたし、過去にはステージ中にプリントマシンが壊れたこともあるし、同一選手が複数ランキングのトップに立った場合は次点選手が繰り下げでジャージを着用することになるが、タイムやポイントが僅差の時はその次点選手がなかなか確定しない。急いでジャージを刷り上げても当の本人はすでに翌日のステージに向けて移動していることもあり、車で追いかけることもしばしばだそう。
そもそも、各ステージ間の移動の運転や各チームとの連絡も含め、現場の業務は基本的にワンオペ。その仕事内容は決して楽ではない。レースを裏側まで完全に把握していなければ成り立たないプロの仕事だ。

完成したジャージを各選手に手渡していく photo:So Isobe 
チャンピオンシステム考案のデザイン。よく見ると「日本」が浮き出ている photo:So Isobe

優勝したマッテオ・ファッブロに手渡すジャージが完成(この日が最終日のため翌日に着用することはないが、お土産として持って帰ってもらうために製作するという) photo:So Isobe
「正直言えば手間も人件費も経費も掛かる面倒な仕事ですよ。でも華やかなUCIステージレースで色分けされたリーダージャージにキチっとロゴが印刷されていていることは、純粋にカッコいいじゃないですか。ファンの注目度も上がるし、選手やチームの士気も上がりますからね」と棈木さんは言葉を続ける。静かな口調だが、その信念はどうやらかなり強そうだ。
この「気分が上がる」という言葉は、チャンピオンシステムが掲げる「カスタムチームジャージを作る楽しさ」の原点とも深く繋がっている。「華やかなレースを影で支えるというのはすごい大事なこと。レースの裏側って本気でそう思っている人たちだらけなんですよね。だから我々も体力が持つ限りは頑張ってやり続けようと思っています」。
text:So Isobe

ツール・ド・フランスなら真っ黄色のマイヨジョーヌ、ジロ・デ・イタリアなら華やかなピンクのマリア・ローザ、そしてブエルタ・ア・エスパーニャなら真紅のマイヨロホ。そして、その脇を彩るポイント賞に山岳賞、そして若手優秀賞。ステージレースのリーダージャージは、着用する選手にとっても、応援する観客にとっても特別な存在だ。
でも、毎日リーダーが入れ替わる可能性を秘めたレースの中、各チームのスポンサーロゴが入ったジャージがどのように用意されているのかは、一般にはあまり知られていない事実。当たり前のように表彰台で手渡され、翌日には選手が着ているあのリーダージャージは、どうやって準備されているんだろう?ひょっとして、最初から参加選手全員分用意してるんだろうか...?

今回は日本最大規模のステージレース、ツアー・オブ・ジャパンに赴き、リーダージャージをサポートする「チャンピオンシステム」の現場に密着。フィニッシュ直後の表彰式、そして翌日のステージに向けて繰り広げられる、もう一つのスピード勝負の舞台裏を取材した。


ツール・ド・熊野やツアー・オブ・ジャパン(TOJ)の会場に必ず帯同している、チャンピオンシステムの社用バン。取材した東京ステージが終盤戦に差し掛かると、荷台に据え付けた作業台に向かって忙しなく手を動かす人物の姿があった。チャンピオンシステムジャパン代表を務める棈木亮二さんだ。
シクロクロスファンにとっては「シクロクロス東京」や「稲城クロス」の仕掛け人としてお馴染みだが、この日の棈木さんは「本職中の本職」の顔で、クルマの荷台に設置されたプリントマシンと対峙していた。そう、リーダージャージはもちろん全選手分を用意しているわけではなく、レース結果が確定した直後、あらかじめデザインが施されたジャージに、胸と背中のロゴをその場で一枚一枚プリントしていくのだ。
印刷そのものはあらかじめチームロゴが印刷された熱転写シートを使い、高温の熱プレスでインクを気化させてジャージの白抜き部分に浸透させる「昇華転写プリント」方式。180度以上に熱したマシンで60秒ほどプレスするといい、その作業工程は熱さ、そして時間との戦いだ。





8日間のツアー・オブ・ジャパンで用意されている特別賞は、個人総合、ポイント賞、山岳賞、新人賞の4つ。毎日それぞれをプリントして手渡すため、期間中に合計32枚のリーダージャージを作ることになる。ジャージの前後にプリントを行うため、作業回数は合計64回。1日あたり4着x2回=8回の印刷を行う計算だ。これをステージ成績が確定した直後、選手の体格に合わせてジャージのサイズと種類を選び、選手が会場を去るまでに速やかに行う必要がある。
さらに、レースに通じたファンなら、表彰台で袖を通す「ポディウムジャージ」と、翌日のステージで実際に着用して走る「レース用ジャージ」が異なることに気づいているはずだ。TOJの場合、ポディウムジャージはプリントではなくロゴシールでの対応となるが(本場のグランツールではこちらもプリントされる)、それにしてもフィニッシュ後の現場ははた目で見ていても目が回りそうな忙しさだ(特に転写シートは逆さまになっているので、焦っていると向きを間違い易いという)。

「正確に数えてはいませんが、ツール・ド・熊野は今年で14年目、TOJは12年目。もし間違えていたらスミマセン」と棈木さんは笑う。長年サポートを続けるこれら2つの国内最高峰ステージレースに加え、チャンピオンシステムは「シマノ鈴鹿ロード」や「シマノ・バイカーズフェスティバル」といった大規模ホビーレースのチャンピオンジャージも手掛けている。
「UCI公認のステージレースでは、ルールでリーダージャージを着用しなきゃいけないんです。しかし、現場で即座にプリント対応できるようなサービスを持つ会社がない地域もあり、UCI規定でもチームロゴの有無までは厳格に問われていません。チャンピオンシステムジャパンを立ち上げた当時、熊野やツール・ド・北海道のリーダージャージにはチームロゴがありませんでしたし、だからこそ、ツール・ド・フランスのようなロゴ入りジャージを作ってレースを盛り上げたいと考えました。誰にでも平等にリーダージャージをサポートし、大会を支えるという意味では、機材トラブルに対応するマヴィックなどのニュートラルサービスと同じ役割かもしれませんね」と棈木さんは言う。
チャンピオンシステムではジャージのグレードを3種類展開しているが、今年からはいよいよリーダージャージを最上位の「APEX」に統一した。現場には着用頻度の高いXSサイズを中心にSサイズもストック。さらに、汎用性の高い「APEX PRO」と通気性を重視した「APEX LIGHT」の2種類を用意し、選手の要望を聞いてから作業を行う。



「これ、なんだか分かります?」と棈木さんが見せてくれたのが、各チームの名称と数字や、熱転写シートとポディウムジャージ用ステッカーの総数表。チームによって用意する枚数が違うことが分かるが、これは棈木さんをはじめチャンピオンシステムのチームが、過去のチームや出場選手の戦績やコンディションを見定めた上で決めた数。いくら協賛といえど際限なく予算を掛けることはできないため、出場チームの動向を見て、ジャージを獲得する予測を立てた上でオーダーしているそう。
「全チーム全ステージ枚数作ってしまうと予算も膨大になってしまいますから、ある程度勝率をこちらで予想しているんです。過去のリザルトと、強そうな選手が来るかどうかをにらめっこですね。もちろん数の余裕はもっているんですが、それでも特定のチームが勝ちまくると足りなくなる危険もなくはないんです」と言う。なお、余ったチームステッカーはチームに配り、チーム備品に貼ったり、ファンへのプレゼントとして活用してもらっているそうだ。

もちろん苦労話は尽きない。今年のツール・ド・熊野ではリーニンスターが大活躍したために転写シートがなくなりかけたし、過去にはステージ中にプリントマシンが壊れたこともあるし、同一選手が複数ランキングのトップに立った場合は次点選手が繰り下げでジャージを着用することになるが、タイムやポイントが僅差の時はその次点選手がなかなか確定しない。急いでジャージを刷り上げても当の本人はすでに翌日のステージに向けて移動していることもあり、車で追いかけることもしばしばだそう。
そもそも、各ステージ間の移動の運転や各チームとの連絡も含め、現場の業務は基本的にワンオペ。その仕事内容は決して楽ではない。レースを裏側まで完全に把握していなければ成り立たないプロの仕事だ。



「正直言えば手間も人件費も経費も掛かる面倒な仕事ですよ。でも華やかなUCIステージレースで色分けされたリーダージャージにキチっとロゴが印刷されていていることは、純粋にカッコいいじゃないですか。ファンの注目度も上がるし、選手やチームの士気も上がりますからね」と棈木さんは言葉を続ける。静かな口調だが、その信念はどうやらかなり強そうだ。
この「気分が上がる」という言葉は、チャンピオンシステムが掲げる「カスタムチームジャージを作る楽しさ」の原点とも深く繋がっている。「華やかなレースを影で支えるというのはすごい大事なこと。レースの裏側って本気でそう思っている人たちだらけなんですよね。だから我々も体力が持つ限りは頑張ってやり続けようと思っています」。
text:So Isobe
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