終わってみれば脅威の5勝のカヴ。しかしマイヨヴェールは最年長のペタッキの手に。アンディとコンタドールの2強時代はしばらく続きそうな予感だが、来年のツールはチームのシャッフルがありそうだ。コンタドールは進化するアンディに対抗できるのか?

終わってみればカヴ5勝! 昨年の6マイナスわずか1

世界でもっとも美しい大通りと言われるシャンゼリゼに、世界で最も美しい自転車レースであるツール・ド・フランスのプロトンが凱旋する。マイヨジジョーヌのコンタドールはアスタナのチームメイトに周囲をガードされ、集団内で走る。そして最後のスプリントバトルはマーク・カヴェンディッシュが5勝目を挙げた。昨年の最終ステージ優勝からちょうど12ヶ月。シャンゼリゼ連勝はツールの歴史上初めての快挙!

圧倒的なスプリント力でシャンゼリゼを制したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)圧倒的なスプリント力でシャンゼリゼを制したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)

圧倒的なスプリント力でシャンゼリゼを制したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)圧倒的なスプリント力でシャンゼリゼを制したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) カヴの小さな身体はフィニッシュフォトの「ピント外し」の原因になる。ペタッキなどの大柄な選手とのスプリントでは、先行していても正面からだと後方にいるように見えるからだ。でも今日の5車身差はその間違いさえ起こさせない。横からのカットで迫れば、そのあまりの余裕ぶりがはっきり分かる!

ツール序盤には調子が悪いと言われたカヴ。しかし終わってみれば、驚異的な昨年のステージ6勝には1つ及ばないが、ステージ5勝という圧倒的な強さを見せた。スプリント王の証マイヨヴェールを着るアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)を5車身離し、まったく余裕のスプリントを見せたカヴ。ゴール通過時には掌を広げて指五本で5勝目をアピール。牽引役のマーク・レンショーがいなくとも、チームHTC・コロンビアはベルンハルト・アイゼルなど他のチームメイトがアシストに回れるチーム力を見せた。そして何よりカヴ自身のスピードがずば抜けている。

マン島出身の超特急カヴは、ペタッキやマキュアンなど他のピュアスプリンター同様に山岳ステージが大の苦手。ピレネーステージでも登りが始まるやいなや遅れだし、アイゼルらアシストとともにタイムアウトと戦ってきた。シャンゼリゼの勝利は苦しい生き残りレースに耐えてきたカヴとチームにとって最高のプレゼントだ。

今ツール区間5勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)今ツール区間5勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) カヴは言う「ツール・ド・フランスでは1勝しただけでハッピーにならなくちゃいけない。なぜなら世界最高のハードなレースだから。最初の一週間は本当にタフだった。でもチームは諦めることなく巻き返し、結局は5勝できた。シャンゼリゼのフィニッシュはこのスポーツの象徴だ。またここで勝てたことが嬉しい。シャンゼリゼでの勝利は、今までに感じた失望をすべて帳消しにしてくれる」。

カヴがステージ5勝を挙げるも、マイヨヴェールはステージ2勝のペタッキの手に。カヴはマイヨヴェール獲得をこのツールの目標にして乗り込んできたが、序盤に失敗してステージポイントが獲得できない日があったことでポイント総合で争うマイヨヴェールは諦めざるを得なかった。それでもトル・フースホフトを抜いてポイント総合2位。ペタッキには11ポイント届かず。
カヴは一言「ごめん、これ以上はできなかった」とファンに謝るコメント。

区間5勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)区間5勝を挙げたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayano

途中失格になったが、カヴェンディッシュの強力な発射台役を務めたマーク・レンショーがシャンゼリゼに現れた途中失格になったが、カヴェンディッシュの強力な発射台役を務めたマーク・レンショーがシャンゼリゼに現れた photo:Makoto Ayanoステージ終了後、シャンゼリゼのパレードには頭突きで失格になったマーク・レンショーが現れた。カヴがレンショーを讃えようと、ふたり一緒で写真を撮ってくれとカメラマンにリクエスト。
これに気づいたテクニカルディレクターのジャン=フランソワ・ペシューさんがレンショーに「あのときは悪かったが、許してくれるかい?。また来年ツールで会おう。ただしフェアプレーでな」と許しを請い、仲直りの握手をするシーンがみられた。ふたりは凱旋門の前で関係を修復した。





最後までもつれこんだマイヨヴェール争いを制したアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)最後までもつれこんだマイヨヴェール争いを制したアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ) ペタッキ、史上最年長のマイヨヴェール獲得

マイヨヴェールは安定感ある走りの証明。ペタッキは今日2位に沈むも、ステージ2勝と安定的に上位に来るスプリントでマイヨヴェールを獲得した。36歳のマイヨ獲得は、マイヨヴェール設定57年の歴史の上で最年長に当たるという。

ペタッキは言う「マイヨヴェールは最初狙うつもりなどなかった。でもマイヨは安定感の証。途中からチャンスを感じて狙うようになった。そして獲得することができた。ステージ2勝を挙げたこともあわせると、忘れられないツールになった。

このツールにはステージ優勝だけを狙ってきた。ポイント賞を争うチャンスがあることなど最初は思いもしなかった。ステージ2勝して、毎ステージごとにジャージが近づいてきたんだ。僕が勝てたのはチームメイトのおかげ。スプリントでは彼らに大いに助けられた。
僕はいつでもレースに全力で取り組む。そしてチームもいつも完璧だった」。

ペタッキは既報の通りドーピング事件についての関与が疑われていて、帰宅後の水曜に事情聴取を受ける。判断が下るのはそれからだ。その結果次第でマイヨヴェール剥奪という事態になることはあり得る。

ペタッキは言う「2006年に膝のお皿の骨を割って以来、大きな問題が続いていた。このツールでも似たような話がある。でも僕はサポートしてくれるチームと家族、僕に近しい人々に感謝している。彼らはいつでも僕を信じてくれる。僕はやり遂げた」。

ペタッキは息子のアレッサンドロ君を連れて表彰台に上ることを考えていたそうだが、アレッサンドロジュニアはパリに来ることができなかった。その代わりアレッサンドロ君が最初に履いた靴をネックレス代わりに肩にかけて表彰台に登った。

マイヨヴェールを獲得したアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)マイヨヴェールを獲得したアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ) photo:Makoto Ayano

イタリア人としてのマイヨヴェール獲得は1968年のフランコ・ビトッシ以来。活躍が記憶に残るマリオ・チッポリーニは山岳が大の苦手でステージ優勝を量産するも、山岳が始まると遅れていたからだ。"スーパーマリオ"はタイムアウトを恐れる以前に、パリまで完走することを初めから考えない選手だった。

この勝利で通算155勝のペタッキは現在の現役選手のなかでもっとも成功している選手。そして2004年ジロ、2005年ブエルタに続き、今回のツールでのポイント賞獲得で、3つのグランツールすべてでポイント賞にあたるもの(レースごとに規定と概念が多少異なる)を獲得した選手になった。最近年にこれを達成しているのは、1999年のローラン・ジャラベール(フランス)。
3つのグランツールでのステージ優勝通算数は46勝。過去最高記録はチッポリーニの57勝と、まだ少し離れている。今季ジロを途中リタイアしたペタッキはブエルタを目指すことになるだろう。ただしドーピング問題が無事クリアできればだが。


コンタドールとアンディの運命を分けた「39秒」

アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)にとって今日のステージは凱旋パレードだ。チームメイトに守られ、フルイエローのバイクとジャージでシャンゼリゼを駆け抜けた。
例年よりも体調が良くなく、苦しい闘いを強いられた。3回の優勝のなかでもっとも苦しいツールになった。

アスタナのアシストに守られて走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)アスタナのアシストに守られて走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)

激戦を繰り広げたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が抱き合う激戦を繰り広げたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が抱き合う アンディ・シュレク(ルクセンブルグ、サクソバンク)の猛追を受け、たった39秒差でマイヨジョーヌを守りきった。ツール史上5番目に少ないタイム差での優勝決定だ。

この39秒というタイム差は、奇しくも第15ステージでアンディがチェーンを外した際にアタックして稼いだタイム差と同じだ。もしあのステージでコンタドールがアンディを待っていたら? 
そして、もしフランク・シュレクが第3ステージの石畳で落車せずに山岳で弟アンディと一緒に総攻撃を掛けていたら? レースに「たられば」はないが、マイヨジョーヌの行方はわからなかったかもしれない。

コンタドールは調子を崩した日がどの日かは明かさない。それがアンディの攻撃を真っ向に受けた第18ステージのトゥールマレーでのことなのか、あるいは差をつけた問題の第15ステージなのか。あるいは差をつけられたアルプス初日の第8ステージ、モルジヌ・アヴォリアズでのことなのか? いずれにせよその日がコンタドールにとっての危機だったか、あるいは無事に走って尚アンディのメンツを考えたのか? 

この謎はいつの日かコンタドール自身が明かしてくれる日が来るだろうか。




3度目の総合優勝を遂げたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)がスペシャルバイクとともに3度目の総合優勝を遂げたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)がスペシャルバイクとともに photo:Makoto Ayanoアスタナ残留、それとも移籍? コンタドールの未来は明るいか

来年のツールはどういう闘いが待っているのだろう。コンタドールとシュレクの対決時代がしばらく続くことは間違いなさそうだが、違ってくるのは2人をサポートするチームの構成だ。

フランクとアンディのシュレク兄弟は新たに結成されるルクセンブルグ拠点のチームに現在のチームメイト数名を引き連れて移籍すると噂されている。どの選手をアンディのサポートとしてサクソバンクから引き抜くのか、またどの選手を獲得するのか、それによってアンディを囲む環境は変る。新チームはもちろんアンディのツール優勝を第1目標に結成されるはずだ。ツールに強いチームがつくられなければ意味が無い。ただしスポンサーや予算規模はまだ見えない。

コンタドールにとって最大の脅威は、着実に進化を遂げ、自分に近づきつつあるアンディが、今よりも強力なチーム力を得ることだ。

そしてビャルヌ・リース監督率いるサクソバンクは、サクソバンク銀行がスポンサードを終了し、現在のサブスポンサーのサンガード社がメインスポンサーになると予想されている。もうひとつの(そちらがメインあるいはサブ)スポンサーはじきに発表されるだろう。ツール中はそれらの話はしないというのがリース監督の約束だった。

予算規模に応じて選手構成は変わってくるが、リース監督はシュレク兄弟の抜ける穴にコンタドールを欲している。コンタドールの個人スポンサーでもあるスペシャライズド社がチームの新たなメインスポンサーになるという噂もある。コンタドールとセット契約で、という憶測も聞こえてくる。いずれにせよリース監督のチーム運営手腕は評価の高いところ。コンタドールも条件が満たされれば行きたい移籍先のひとつに違いない。

アームストロングの抜けたチームのエースを誰にするか、ブリュイネール監督も悩むところだ。チーム総合優勝を獲得した通りチーム力のあるレディオシャックだが、選手の平均年齢は今回のツール参加チーム中最高齢。主力選手はヤネス・ブライコヴィッチを除いてリタイアが近づくベテランばかり。アームストロングが選手でなくなるなら、ブリュイネール監督を慕うコンタドールが再びタッグを組むのはあり得る話だ。なにしろディスカバリーチャンネル時代にすでに共に闘い、ツールに勝った関係だ。昨年で二人の関係が壊れていなければの話だが。

強力なアシストを見せたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)強力なアシストを見せたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Makoto Ayanoコンタドールがアスタナを出るか・残るかを迷ったのはつい昨冬のことだ。コンタドールがアスタナに留まる理由は、現在のところ自分をサポートしてくれる選手で固められているから。今回のツールでチーム力についての不安は払拭された。
アスタナに不満はないとは言え、ベストではない。移籍についてはありうる話だ。アスタナもコンタドール確保にさらに予算をつぎ込むか。
アスタナの本来の目標は、ツールを制覇できるカザフスタン選手を育てること。自転車を降りてチームの幹部になるであろうアレクサンドル・ヴィノクロフの野望とコンタドールの利害もまた、当分の間一致する。

なかにはコンタドールとアンディが同じチームで走るなどという噂もある。ツールを狙うエースが2人いる状態はあり得ない話だが、エースのバルベルデがレースに出れない状態のケースデパーニュは、家族的な人間関係を重視するスペイン人としては居心地のいいチームだ。そしてチームはバネスト時代からインデュラインでツールに勝ってきたエチャバリGMの率いる名門。予算が許せばお互い大歓迎の関係だ。

いくつものチームが当然コンタドールに興味を寄せる。そしていくつかのチームが来季のスポンサーを獲得できず、選手のシャッフルが起こる。これからの移籍マーケット情報が来年のツールの鍵を握ってくる。


アームストロングは最後までツイてない

真っ黒なリブストロングのジャージで走ろうとしたレディオシャックだが、コミッセールからはニュートラルゾーンで通常のレディオシャックのジャージに着替えなければ全員を失格にするとの警告が発せられた。
「世界中で癌と闘う患者の数は28ミリオン(2800万)人」を意味する28を背中にあしらったこの特別ジャージは、リブストロングのキャンペーンのため。ユーチューブにキャンペーン用のスポット広告も用意していたのに、話題づくりに失敗。肩透かしに終わる。

スペシャルジャージを着るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)スペシャルジャージを着るランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Makoto Ayano

スタート0km地点で路肩に座り込んでゼッケンをつけ直すレディオシャックの選手たち。しかしパンツは着替えることができずに罰金対象。
「騒動のおかげでかえって目立ったかも」と負け惜しみを言うアームスロトングだが、目的が達成できずにやれやれといった表情を隠せない。ランスの活動は、UCIのルールの前に否定されてしまった。

ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の背中にはがん患者2800万人の「28」ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)の背中にはがん患者2800万人の「28」 photo:Makoto Ayano思い出すのは100周年ツールの2003年。シャンゼリゼでUSポスタルの選手たちは全員がレトロなデザインのジャージで走った。グレーをベースにしたUSポスタルの旧ロゴ等をあしあったジャージで、全員がシャンゼリゼを走っている。
そのときは罰金を払ってことが済んだが、今回は「言うことを聞かないなら全員失格」と脅され、しぶしぶ着替えた。オルガナイザー側のダブルスタンダード? レトロジャージはその当時なぜ許され、今回はなぜダメだったのだろう?

リブストロングのさらなる知名度アップをもうひとつの目的にツールを走るアームストロングが最後に用意した演出は、無下に否定されてしまった。このツールでは最後まで思うようにいかないアームストロング。せめてもの反抗は、シャンゼリゼでのチーム総合表彰とパレードにこのジャージで登場したこと。しかし、最後まで思い通りにことが運ばないアームストロング。すべて狙いを外した最後のツールだった。

浮かない顔のアームストロングだが、ファンからの歓声はひときわ大きい。時代の終わりを感じさせる寂しい結果。レキップ紙はアームストロングのTTの写真に"Endstrong”(強さの終わり)と文字をノセて英雄に別れを告げた。

個人的にはランスの奇跡の復活から7連覇の最強時代をすべて見てきた。超人的な存在の英雄が、歳を取ることで翳りを見せる。その一部始終をみることができたことも感慨深いツールになった。ともかく、ランスの走りはもう見られない。ありがとうランス。さようならアームストロング。




photo&text:Makoto.AYANO

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