獲得標高差5,000mに達する過酷なコースで争われた全日本選手権男子エリートロードレース。終盤のサバイバルバトルで小林海(JCLチーム右京)が山本元喜らを振り切り、連覇達成。そしてレース直後に電撃引退を発表した。



6月22日に修善寺の日本サイクルスポーツセンターで行われた男子エリートロードレース photo:Makoto AYANO

全日本選手権男子エリートロードレースコースプロフィール image:JCF
悪天候に見舞われた昨年から一転、晴天に恵まれた全日本選手権男子エリートロードレース。その舞台となったのは、2023年から3年連続となる静岡県伊豆市にある日本サイクルスポーツセンター。そこに日本競輪養成所の3kmコースを加えた8kmコースを20周する、総距離160kmで争われた。

「登りと下りしかない」と言われる通り、コースに平坦路はほぼ見当たらず、総獲得標高差は5,000mに達する世界的にも稀有なほど過酷なレイアウト。更に気温は30度を超えるなか、122名の選手たちが午前11時に鳴るスタートの号砲を待った。

集団の先頭で走り出したのは、マトリックスパワータグから今年JCLチーム右京に移籍した前回覇者の小林海。その横には3月の大腿骨骨折を経て、これが復帰レースとなった2023年王者の山本大喜(JCLチーム右京)や新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)、さらに優勝候補の1人に挙げられた金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム)が5時間弱の戦いに臨んだ。なお日本人で唯一ワールドチームに所属する留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト)と小山智也(ブルゴス・ブルペレットBH)は共に不出場だった。

122名の選手たちが全日本選手権のスタートを切った photo:Makoto AYANO

鎌田晃輝(JCLチーム右京)を中心に4名の逃げグループが形成された photo:Satoru Kato

スタート直後から川勝敦嗣(ミネルヴァあさひ)が単独で飛び出し、逃げを試みる。しかしキナンレーシングチームなどがこれを引き戻し、その後いくつかのアタックも決め手を欠く。そして逃げ形成のきっかけを、3周目で21歳の鎌田晃輝(JCLチーム右京)が作った。

今年2月にタイで開催されたUCIアジア選手権男子U23ロードレースで優勝し、U23ではなく男子エリートを選んだ鎌田には、遅れて阿曽圭佑(スパークルおおいた)と吉岡直哉(チームユーラシア-iRCタイヤ)がジョイン。さらにメイン集団を飛び出し、単独で追走した小島快斗(セブンイレブン・クリック・ロードバイクフィリピン)も加わり、先頭は4名となった。最終ストレートを含む登り区間での追い風の恩恵も受けながら、その時点でプロトンとの差は2分50秒まで拡大した。

しかし逃げからは8周目で小島が遅れ、10周目で吉岡が脱落する。徐々にタイム差を詰めるプロトンからは、序盤に落車に見舞われた増田成幸(JCLチーム右京)と新城雄大(キナンレーシングチーム)、武山晃輔(宇都宮ブリッツェン)が追走集団を形成。しかし、氷を背中に入れ、ボトルの水で身体を冷やさなければならない暑さの中でも、軽快に脚を回す先頭の2名には届かなかった。

特定のチームが牽引することなく、距離を消化していくプロトン photo:Makoto AYANO

単独となってからも、粘りの走りを見せた鎌田晃輝(JCLチーム右京) photo:Satoru Kato
「レッドゾーンに入らないよう」プロトン後方で脚を回す新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ) photo:Makoto AYANO


残り8周の登りで阿曽が遅れ、先頭は鎌田の単独となる。時を同じくプロトンのペースが上がるなか、ここから鎌田が驚異的な粘りを見せた。「自分が逃げることでチームの負担が減り、(展開によっては)そのまま自分が勝ち切るというプランでした」とレース後に語った鎌田は、残り5周にプロトンに捉えられたものの、そのポテンシャルを見せつける結果となった。

鎌田の吸収前から果敢にアタックを繰り返す金子は、集団のペースを上げていく。残り4周目に入ると、金子はコース前半の急勾配の登りで踏み込み、その登坂スピードには山本元喜(キナンレーシングチーム)と谷順成(宇都宮ブリッツェン)、そして小林が反応。残り3周の同じ登りで、今度はダンシングで勢いをつけた小林が、シッティングのままペースを上げた。

残り4周の登りで加速する金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) photo:Satoru Kato

登りアタックで後続を引き離す小林海(JCLチーム右京) photo:Satoru Kato

これにより小林と谷、山本の3名集団が形成され、金子が遅れを取る。しかし、その後先頭集団のペースが上がらなかったため、金子や新城、孫崎大樹(ヴィクトワール広島)や岡篤志(宇都宮ブリッツェン)らが下りを利用して追いつき、先頭は一時9名となる。しかし「最後は全身が攣っていました」と語った新城などが遅れ、残り2周の登りで再び小林が加速。先頭はやはり、小林と金子、谷、山本の4名に絞られた。

いよいよ最終周回に入ると、「一発ではなく、何発も仕掛ける必要があった」と語った小林がここでもペースを上げていく。それに金子と谷はついていくことができず、身体を揺らしながらのダンシングでもがく山本も脱落。口を大きく開け苦しさに耐えながらも、最終ラップをこの日の最速である12分49秒(前周回より約1分速いタイム)という驚異的なスピードで駆け抜けた小林が、悠々とフィニッシュに到着した。

最終周回でアタックを決め、連覇を達成した小林海(JCLチーム右京) photo:Makoto AYANO

表彰式で笑顔を見せる山本元喜と小林海、金子宗平 photo:Satoru Kato

ガッツポーズを繰り返し、男子エリートロードレースでは1999年以来となる26年ぶりの連覇を達成した。「嬉しいですし、ホッとしています」と語った小林は、「今日で引退するのですよ。最後のレースだったので嬉しいです」と突然引退を発表。「(アタックを躊躇して)ビビっている自分に気がつき、(決まらず)スプリントなってもしょうがないと、『出せるものは全部出そう』と思ってアタックしました」とレースを振り返った。

2位(25秒遅れ)には山本が入り、金子は3位(56秒遅れ)で2年連続の表彰台に上がる。そして「今日、できることは全てやりました」と語った新城は、7位(2分34秒遅れ)でレースを終えている。

各選手のコメントは別記事で紹介します。
全日本選手権ロードレース2025男子エリート結果
1位 小林海(JCLチーム右京) 4:47:02
2位 山本元喜(キナンレーシングチーム) +0:25
3位 金子宗平(群馬グリフィンレーシングチーム) +0:56
4位 谷順成(宇都宮ブリッツェン) +1:21
5位 岡篤志(宇都宮ブリッツェン) +2:33
6位 孫崎大樹(ヴィクトワール広島)
7位 新城幸也(ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ) +2:35
8位 鎌田晃輝(JCLチーム右京) +2:40
9位 内田宇海(弱虫ペダルサイクリングチーム) +3:25
10位 沢田時(宇都宮ブリッツェン) +5:04
text:Sotaro.Arakawa
photo:Makoto AYANO, Satoru Kato

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