ピナレロのフラッグシップエンデュランスモデル”DOGMA X”をインプレッション。ハイエンドらしい設計を施し走行性能を追求すると同時に、アイコニックなX-STAYSやジオメトリー、ワイドタイヤへの対応によって、活躍の幅を広げたマルチロールバイクの実力に迫る。



ピナレロ DOGMA X(フレームセット)

イネオス・グレナディアーズが使用するピナレロのフラッグシップ、DOGMA F。DOGMAシリーズは2009年の登場以来、ピュアレースマシンとして位置付けられ、そのラインアップの中でも至高の存在として君臨し続けてきた。

一方、ピナレロはエンデュランスモデルにも手を抜かず、レーシングモデルと双璧を成すバイクを長年ラインアップし続けてきた。その嚆矢となったのが"KOBH 60.1"であり、そのイニシャルから名付けられたDOGMA"K"シリーズとして、その命脈が受け継がれてきた。そのどれもが、エンデュランスバイクとして安定性や快適性を追求しつつ、本質はパリ〜ルーべで勝つために開発されたレーサーであった。

シートステーは薄く、快適性を高めている
ダウンチューブはDOGMA Fのような造形とされている
ピナレロが得意としているONDAフォーク



ピュアレーサーのDOGMA F、エンデュランスレーサーのDOGMA K。ターゲットとするフィールドが異なる2つのレースバイクから構成されてきたDOGMAシリーズだったが、ついにその教義に変更が加えられる時が来た。それが、今回インプレッションを行うDOGMA X。DOGMAの名を受け継ぎつつ、レースに主眼を置かないホビーユースモデルとして開発されたエポックメイキングな一台だ。

ピナレロがこの新たなバイクへ込めたコンセプトは、DOGMAの名に相応しい鮮烈な走行性能のメリットをホビーサイクリストが余すところなく受け取り、サイクリングの可能性を拡げること。

DOGMA Xがフラッグシップたる走行性能を得るため、ピナレロは最先端素材であるトレカ T1100G 1Kカーボンを惜しみなく投入。強度と弾性を極限まで高めつつ、ナノアロイテクノロジーによって優れた耐破断性と安全性を実現したハイスペックマテリアルを採用することで、ライダーのパフォーマンスをダイレクトに推進力へと変換する性能を実現している。

DOGMA Xの象徴となるX-STAYSが快適性と剛性のバランスを整える
ステム一体型のTALON ULTRA LIGHT


TORAYCAのT1100G 1Kを素材に採用している
フォーククラウンとダウンチューブがインテグレーテッドデザインとされている



しかし、DOGMA Xを語る上でなによりも特徴的なのは"X-STAYS"と名付けられたシートステー集合部のデザインだろう。その名が示す通り、X形状のブリッジと二又に分かれたシートチューブとの接続部がトラスのような構造を生み出す、DOGMA Xを象徴するテクノロジーだ。

このX-STAYSにより、シートステーを極限まで細くし快適性を向上させることが可能に。シートチューブへの接合部が2か所に増やされた設計も、ライダーへの振動伝達を分散させる効果を発揮する。これらの相乗効果により、リアサス搭載バイクを開発していた経験もあるピナレロだが、それを不要とするレベルで縦方向への振動吸収性を高めることに成功した。

それでいて軽く、そしてペダリング効率にも優れているのがX-STAYSの真価だ。X形状のブリッジによって形作られたトラス構造は横方向への剛性を高め、ペダリングパワーをスポイルするフレームのねじれを抑制。細身のチュービングは重量削減にも寄与しており、快適性、剛性、軽量性という相反する要素を高次元でバランスさせることに成功した。

ボトムブラケット周りはマッシブな造形となっている
反クランク側のチェーンステーは下方にオフセットする非対称設計だ



もちろん、ピナレロの誇る左右非対称設計も導入されている。右側にのみドライブトレインが存在することに起因する応力の偏りをフレーム全体で補正することを目的としたアシンメトリックデザインによって、真にバランスの取れたライドフィールを実現するピナレロの独自技術だ。同じくピナレロのアイデンティティであるONDAフォークも採用され、一目でピナレロバイクとわかるシルエットを創り出した。

また最大35mmものタイヤクリアランスに設計しており、レース用タイヤよりも大きなエアボリュームによる衝撃吸収性や、接地面積拡大による安定性向上などの恩恵を受けられる。タイヤのチョイス次第では軽めのグラベルなどにも対応可能で、オールロードとしても活躍してくれる。

シートポストは非常に薄い作りが採用されている
エンデュランスモデルながらエアロを意識したヘッド
フォークの先端にはエアロフラップが備えられている



ジオメトリーも速くかつ快適にサイクリングが楽しめるように設定されている。DOGMA Fと他のXシリーズとの中間に位置する特別な設計が与えられており、長時間の前傾姿勢でも苦になりにくく、かつアップライトすぎないという、ファスト&ロングライドを求める方にぴったりのバイクを実現。リアセンターを全サイズ422mmとして直進安定性も確保した。

レースだけでなく、もっと広い世界を見据えたDOGMA X。ピナレロのイノベーションとイタリアンデザインが結晶した新時代のエンデュランスバイクを、なるしまフレンドの小畑郁とシクロワイアード編集部の高木三千成がテストする。



ーインプレッション

「ロードレーサーと言っても過言ではない剛性感」小畑郁(なるしまフレンド)

「DOGMAらしいバイク。DOGMAに乗りたい方にピッタリだ」小畑郁(なるしまフレンド)

想像以上にレースバイクらしい剛性があるバイクでした。DOGMA Xは一つ前のDOGMA Fと同じ世代のバイクですが、それと比べてもDOGMA Xの方が硬く、現行のDOGMA Fに近いのではないかと思うほどです。

さらにかつてONDAフォークが際立っていた金属フレーム時代のDOGMAやPRINCE、PARISのように、フロントエリアの安定感が印象的な乗り味を持っています。これはリア三角が細く作られていて路面追従性などが良く機能しているからこそ、前側のしっかりした印象が際立っているのかもしれませんね。

ペダリングへの反応もロードレーサーと言っても過言ではありません。頑張って踏み込めばシャープに加速してくれますし、車重が軽いのでふわっと踏んでも気持ちよく進んでくれます。無茶に踏みすぎると疲れてしまいますが、ライダー自身がペダリングパワーをコントロールすることで、長時間踏み続けられるような印象がありました。

「太いタイヤであればグラベル適性も引き出せる」小畑郁(なるしまフレンド)

エンデュランス系バイクらしくヘッドチューブ角を寝かせるジオメトリーで、ハンドリングがクイックにならないように味付けされています。ダンシングでバイクを振りながら走ろうとすると、バイクから「もっとゆったり乗ろう」と諭されるような感覚があります。

ただ直進安定性が高すぎるというわけでもなく、かつてのロードレーサーの中にはDOGMA Xと同じようなハンドリングのバイクも存在したので、扱いやすい範囲内に収められていると思います。むしろ、ウィンドブレーカーの着脱やボトルからの給水など、乗車中に行う動作を神経質にならず行える安心感がありました。

レースバイクらしい剛性感は、悪路への対応や快適性の確保へのアプローチとしてフレーム剛性を落とすのではなく、太いタイヤを組み合わせるという近年の手法を反映させているのだと思います。なので、テストバイクにフルクラムのSPEED 42というレーシングホイールとピレリのP ZERO RACE(28C)を組み合わせたことで、ピュアレーサーのような走りを感じたのだと思います。この組み合わせよりも軽快にしたいのであれば、カンパニョーロのHyperonなどがフィットするはずです。

「ロードレーサーと言っても過言ではない剛性感」小畑郁(なるしまフレンド)

良くも悪くも剛性高めと感じた足回りだったので、太いタイヤを装備して空気圧を調整すればエンデュランスやグラベルに適性のある乗り味も引き出せます。実際、今回のテストでもフルクラム SPEED 42からSHARQ(タイヤは30C)に履き替えると、より乗りやすく足当たりの良さが前面に出てきて、まるで別物のバイクのように感じられました。良し悪しではなく、セッティングによってレーシーにも、エンデュランスにも振れ、走るシーンやライダーの好みに合わせられる懐が深い自転車ですね。

ピナレロのフラッグシップらしくラグジュアリーなバイクなので、DOGMAに乗りたいけど、レースバイクではない選択を探している方にはうってつけの一台ですね。

「やはりDOGMAはDOGMA。レーシングバイクのよう」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「やはりDOGMAはDOGMA。レーシングバイクのよう」高木三千成(シクロワイアード編集部)

やはりDOGMAはDOGMAで、レーシングバイクのDNAが色濃く出ているモデルでした。エンデュランスバイクという位置付けですが、実際に乗ってみると、その印象は薄れます。レースで使用しても満足できるのではないでしょうか。

確かに振動吸収性はDOGMA Fより高めですが、ハンドルから伝わってくるロードインフォメーションの質にはレースバイクらしさがありました。これはDOGMA Fシリーズと同じMOSTのハンドルがフロントの硬さに影響していたり、フルクラム SPEED42というレーシングホイールが走行性能に影響しているとは思います。

対してリアステーは撓みが発生して、タイヤを常に路面に押し付けてくれるような感覚があります。トラクションは良好で、グラベルで急に踏み込んでもスリップすることなく、加速に繋がってくれたのはDOGMA Xらしい魅力でした。例えば、埼玉の飯能にある子の権現への荒れた急坂ヒルクライムでも最後まで踏み切れるような特性を持っています。

「ワイドなタイヤでオールラウンドな性能を引き出せる」高木三千成(シクロワイアード編集部)

巡航性能、スプリントの掛かりも良好です。ただし剛性が非常に高いので、ライダーを選ぶような印象がありました。ハンドリングはクイックで、グラベルで急ハンドルを切った時にはしっかり切れ込んでいきます。ただ舗装路でのコーナーではリアセンターの長さから、安定感が強めでした。

セッティングについてですが、チューブレスタイヤ推奨ですね。ホイールもしなりがあるモデルを選ぶと乗りやすさが増すと思います。実際にフルクラムのオールロードホイールであるSHARQ(タイヤは30C)を装着すると全く別なバイクに乗っているようでした。ワイドなタイヤということもありますが、操作感がマイルドになり、よりオールラウンドな性能を引き出せます。

ホイールやタイヤ次第でロードレースにも使うことができるポテンシャル、グラベルでも楽しめる性能を引き出せるバイクです。ピナレロらしい特性を持ちながらも独自の味付けがなされていて、既存のエンデュランスロードとは一線を画した一台でした。

ピナレロ DOGMA X(フレームセット)
マテリアル:TORAYCA™ カーボン T1100G 1K
サイズ:43, 46.5, 50, 51.5, 53, 54, 55, 56, 57.5, 59.5, 62(CC)
ジオメトリー:エンデュランスジオメトリー
付属品:フルカーボンシートポスト、前後スルーアクスル※TALON ULTRA LIGHT ハンドルバーは別売となります。
カラー:Xolar White、Xolar Yellow、Xolar Sea、Xolar Green、Xolar Sun
価格:1,100,000円(税込、通常カラー)



インプレッションライダープロフィール

小畑郁(なるしまフレンド)
小畑郁(おばたかおる)
圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高い、なるしまフレンドの技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。2020年以来、ベルマーレレーシングチームの一員として国内レースを走る。

なるしまフレンド神宮店(レコメンドショップページ)
なるしまフレンド HP


高木三千成(シクロワイアード編集部)
高木三千成(シクロワイアード編集部)

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。



text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO、Naoki Yasuoka
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