今や世界的に有名になりつつある西伊豆のMTBツアー『ヤマブシトレイル』を、あえてeMTBで走ってみた。自然のトレイルを電動アシストを使って走るとどうなるのか? そこには新たな楽しみ方が広がっていた。気になるバッテリー消費量問題についても調査してみた。

山伏トレイルeMTBツアーへ出発。集合場所は松崎海洋センター前だ photo:Makoto AYANO

おなじみ「山伏トレイル」を、数あるショップのなかでも超走り屋として知られるMTBショップ店長たちとeMTBで走ってきた!。 ともに走って撮るのは綾野編集長、そしてその模様をeMTBライターの中村浩一郎がいつもの軽妙な筆でお届けしちゃう。



世界に誇る日本のMTBツアーを電動アシストフルサスMTBで!

西伊豆・松崎町を起点とする『YAMABUSHI TRAIL TOUR』(以下ヤマブシ)は、今や世界的に名の通りつつあるMTBガイドツアーだ。最近はツアーを楽しむMTBライダーたちだけではなく、MTBでの観光ビジネス成功例として、また海外にも日本を知れるエキゾチックなツアーとして多く紹介されている。

ただ海外サイトに書いてあることははっきり言って古いし、通り一辺倒のことしか書いてない場合が多い。しかも日本のことだからって適当だったり勘違いしたりして書いてあったりもする。プンスカプン!

壁を使っても遊べるU字型のトレイルは、かつて伐採した木を下すソリが走ったという photo:Makoto AYANO

そこでここでは、私たち日本の精鋭MTBライダーたちが、この走り慣れたヤマブシで、最新のフルサスeMTBを駆ってどう遊んできたかをお伝えしよう。

歴史を走る:江戸時代からの道と古代ランドマークでタイムトリップ

今さらだが、この山伏トレイルの成り立ちから。ヤマブシは、静岡県の西伊豆地域で使われていた山中の古道を、MTBが走れるトレールに再生してライドツアーを行なっている。

ツアーで走るそのトレイルのほとんどは、あなたが生まれる前からずっと道として使われてきた。話では1200年前、平安時代から馬が通り、山で切った木を運ぶソリが通り、山岳信仰のために山伏たちが通っていたという(だからヤマブシだ)。

なぜか山の中で遭ったアヒルちゃんと遊んでもらいました photo:Makoto AYANO

明治から昭和初期までは普通の生活道路として松崎町の方々が使っていたそうで、これら古道を再生するときに地元のおばあちゃんに「昔から使っていた道をまた通してくれてありがとう」なんて言われたとも聞いた。

そのオールドトレイルをMTBが走って楽しいようにリメークし、メンテしてキープしてマネタイズしてローカルにベネフィットまでプロバイドしている、今さながらのSDG'sの最先端を突っ走るツアーがヤマブシトレイルツアーだ。脚や馬であってもeMTBであっても、山道を通る人はずっといる。ツアーで走るあなたも、長く続く歴史の一部となるのだ。

木々の間をすり抜けていくトレイルライドは楽しい photo:Makoto AYANO

山を讃える詩を刻んだ石碑、馬を供養する馬頭観音。走りの速度に任せるだけでなく、トレイルの脇に通り過ぎていくものを見て思いを馳せる。人々がどうそこを利用し、暮らしてきたのかを、地形とトレイルの配置を感じて考える。山道に刻まれた歴史とトレイルを通して繋がるバーチャル・タイムトリップなのである。

いつものツアーでは下るトレイルを登り返すのは新たな発見と走り心地だ photo:Makoto AYANO

っていう壮大なロマンを、電動アシストのフルサスeMTBなら、アシストのないペダルMTBよりも味わえる。というのも、今回のツアーではその歴史トレイルをさっと下るだけではなく、eアシストパワーで登り返して2度楽しむからである。

プライベートのカスタムツアー「バッテリーが切れるまで走らせて!」

いつもなら下るトレイルを登るのは意外な楽しさがある photo:Makoto AYANO

現在ヤマブシには、これまでのペダルMTBツアー(1日8500円~、価格は税込み、以下価格表記は全て税込み)に加えてeMTBを使う『eライドツアー』も用意される。基本は3コースで、料金はeMTBレンタルセット込みで1人半日10,000円、1日15,000円とある。詳細はホームページをご参照のほど。

今回ヤマブシを走るのは、情熱あるMTBショップの店長達。それが下の6店長だ。走った愛車と一緒に紹介しよう。

今回のツアー企画者でもあるサイクルハウスMIKAMIの三上和志さんはスペシャライズドKenevoを駆る photo:Makoto AYANO

サローネ・デル・モンテの鎌苅ゆうみさんはスペシャライズドLevo SLCompのGen2、小柄な彼女も乗りやすい小さめサイズ photo:Makoto AYANO

BIKE SHOP FORZAの東寛之さんはジャイアントTRANCE E+に乗る photo:Makoto AYANO

オガワサイクルの小川雅広さんはスペシャライズドLevo SL Gen1、バッテリーエクステンダー装着 photo:Makoto AYANO

輪工房・田口信博さんはスペシャライズドLevo SLCompのGen2、バッテリーエクステンダーをボトルケージに(当日はGen1に乗車) photo:Makoto AYANO

BIKE SHOP FORZAの風間智晴さん。MondrakerのCHASERに乗る photo:Makoto AYANO

上記6名に加えて、世界を股にかけ走るシクロワイアード綾野編集長と、これを書く僕の8人である。皆がペダルMTBでの走りには自信があるが、今回乗るのは全員がeMTB、つまりeアシストパワー付きバイクである。どうにも普通の走りに収まらないのは目に見えている。

ということで、今回のルートは特別設定のプライベートツアーに。こちらからの内容のリクエストは『MTBを知り尽くしたeMTBライダーたちが、バッテリーが切れるまで存分に走れるコースに』であった。なお、プライベートツアーのお願いは5名以上なら可能で、参加料金はレンタル無しで1人1日10,000円になる。

4時間で半分近くまでバッテリー減。1時間の充電で20%弱の復活

トレイルヘッドまで林道を使ってのアプローチもeアシストで photo:Makoto AYANO

今回我々が走ったのは、ペダルMTBで走るトレイルをまた登り返すというのが基本のルートだった。走り始めから林道を自走で登ってのライドとなった。トランポ(クルマ)での搬送が必要ないのが気持ちいい。

このご時世に化石燃料を無駄に使わないのはもちろん、下る前に適度に登っておくことでウォームアップになり、下りで身体をきっちり動かせるようになる。登らないと下れないのは、物理だけでなく身体的にもそうである。

登りこそeMTBの本領発揮。フロートレイルに吸い付くように登っていく photo:Makoto AYANO

9時半に出発して、いつもは下るだけのトレイルを、登り返しも含めて午前中に2本ほど繋ぐ。炭焼きが拓いた古道トレイルは下りの楽しさに定評があるが、eMTBで登っても楽しめる。

登りが楽しいeMTBでは激登りで足を着かない勝負をしたくなる photo:Makoto AYANO

同じトレイルでも、上り方向と下り方向では見える景色すら異なっている。良いフロウで繋がったラインは、そのまま上りでも別の素晴らしいフロウになる。変化に富んだ地形の登りはテクニカルで面白い。

ボコボコの木の根っこ連続セクションもeMTBならパワフルにこなせる photo:Makoto AYANO

さすが乗り慣れているMTBライダーたちは激坂下りスイッチバックもお手のもの photo:Makoto AYANO

午前ライドが終わったのが12時半ごろで、僕がずっとオートモードで乗っていたYAMAHA MT-Proのバッテリーは午前の遅い時点でバッテリーの目安ライトが全4つ中2つにまで減っていた。感覚で言うと午前ライドで40%ほど使った感じだ。綾野さんの乗るトレックRAIL 5の場合、午前のライドで48%ほど使ったという。両方ともバッテリー容量は500Whだ。

昼食に行くあいだに山伏トレイルベースでeMTBを充電した photo:Makoto AYANO

このままだと午後のライドは心許ないので、ヤマブシのベースで充電する。昼食を食べながらの1時間を充電に充てたのだが、僕のは全4つ中3つまで復活。綾野さんの場合は65%まで17%復活した。

本日の獲得標高1600m! その日は楽ちんだが次の日以降は体がバキバキに

今回ガイドに出てくれたのは平馬啓太郎さん。ガイドの腕、ライドの脚さばき、チームの盛り上げ方はもちろん、卓越した画力で知られ『ヘイマン画伯』としても一部に有名(笑)。絵描きとしての表現力はどんどん進化しており、さまざまな場所・場面で見られる作品の表現力には驚かされる。

リードガイドを務めてくれた平馬啓太郎さん(山伏トレイル)。画伯の作品は伊豆の至る所にあり photo:Makoto AYANO

そんな無駄話はともかく、この丸1日をかけたプライベートeMTBツアーの走行距離38.5km、積算獲得標高は1,680m! 平馬さん曰く「通常なら1日かけるフルコースを午前中だけで走っちゃった、今までで最高獲得標高かも」であった。ヤッター!

ルートの途中で地元の農家の人に柑橘をもらった!いい時期に走るとこんなラッキーもあります photo:Makoto AYANO

疲れ知らずで1日走ったのだが、この日の綾野編集長曰く、「身体に負荷がこない気がするeMTBだけど、身体の局所に疲れや痛みがないだけで、翌日まで残る疲労感は大きかった。とことん遊ばせてくれるeMTBのポテンシャルはすごい」とのこと。表層筋肉には大した疲労はないが、実はインナーマッスルにはじわじわ効いているのである。eバイクだから楽とか痩せない、なんていうやつは大嘘である。乗れば痩せる、だって自転車だもの。

ヤマブシを走るなら見ておきたいこの光景。西伊豆の海を見下ろす絶景 photo:Makoto AYANO

ヤマブシ行くならロッジMONDOで薪火料理が最の高!

ロッジMONDOで薪焼き料理をいただく photo:Makoto AYANO

ヤマブシに走りに行くなら前泊あるいは後泊でぜひロッジMONDOに泊まりたい。ここはヤマブシが運営する宿で、これまでにSGD'sに関連する賞も取っている。

ロッジMONDOでの薪火料理。美味しい料理がズラリと並ぶ素晴らしい光景
薪火料理はこんな感じで焼いてくれる。熱そのものと遠赤外線で最高の焼き具合に
本日のメニュー。お品書きと照らし合わせながら食べるのが楽しい



トレイルの手入れで伐採した木々が家屋のリノベーションの材料となり、美しい色合いの部屋をデコレートした。個室は一泊一人:7,500円(税込)~。2段ベッドでドミトリータイプは一泊一人4,500円。厚いカーテンで他人がベッドでスマホを見ててもあまり気にならない感じが居心地いい。

本日のメインディッシュ「柑橘はちみつマリネの豚肩ロース薪火グリル」
「素材を薪火で焼いた鶏のトマト煮込み」お美味しゅうございました
苺のオードブル。料理はどれも超ハイレベルだ



ロッジMONDOに泊まるなら、その山から採ってきた木材による薪で焼いた薪焼き料理をぜひ食したい。その内容は写真をご覧いただきたいのだが、とにかく最&高で、1人5500円。

松崎町にあるロッジMONDO 山伏トレイルの経営する宿だ photo:Makoto AYANO
これに我々は舌鼓を打って、お酒もちょいちょい飲んでドミトリーのベッドで幸せに寝た。この前泊と薪焼き料理、それから薪で炊いたお風呂もヤマブシを楽しむ1つのパッケージであると考えてもらいたい。

泊まる時も泊まらない時も、基本的には9:30に松崎町の松崎海洋センター前に集合。車の場合は新東名長泉沼津I.C.もしくは東名沼津I.C.より伊豆縦貫道経由・国道136号線⇒松崎約72km。電車を利用する場合は駅までの送迎も行っているそうなので、予約時に相談を。なおヤマブシは「ふるさと納税」の返礼品としても扱っている。