11月16日から18日に開催された「ジャパントラックカップ」は、翌年に迫ったパリ五輪を見据えた選手達の活躍が見られた。その中から、今年ナショナルチーム入りした垣田真穂と、日本人で初めてUCIトラック・チャンピオンズリーグでリーダージャージを着用した橋本英也に話を聞いた。



垣田真穂「梶原さんをちょっとは焦らすことが出来たかな」

ジャパントラックカップⅡ女子マディソン表彰式に登壇した垣田真穂(右から3人目) photo:Satoru Kato

今年春に高校を卒業し、4月からナショナルチーム入りした垣田真穂(チーム楽天Kドリームス)は、女子チームパーシュートのメンバーとしてパリ五輪を目指す。9月に行われたアジア大会では内野艶和と組んで出場したマディソンで優勝。ジャパントラックカップでもその強さを見せた。

「梶原(悠未)さんが強いことは全日本選手権でもわかっていたので、ジャパントラックカップでは思い切ってたくさんチャレンジして自分の出せる力を全部出し切ると決めて臨みました。

内野艶和と組んで出場したマディソンでは2戦共に優勝した(写真前が垣田真穂) photo:Satoru Kato

特に梶原さんのスプリント力は強すぎて、モガいていても気がついたら『あれ?』って感じで前にいる。勝てないと確信してはいけないのだけれど、それが分かっていたからこそたくさんチャレンジしました。スプリント以外で梶原さんをどう崩すかを考えたら逃げるしかないから、マディソンでは(内野)艶和さんともコミュニケーションを取って攻めた走りが出来たと思います。梶原さんをちょっとは焦らせることが出来たかな、と。梶原さんが現役のうちに勝てるようになりたいですね。

今までは自信が無くて、走っていても『どうしよう、負けちゃうかも』とマイナスなことばかり考えていました。けれど今回はたくさんチャレンジしていくうちに自信がついて、次につながる走りが出来たと思います。今めっちゃ楽しいです」

女子オムニアムでは梶原悠未が垣田真穂の動きをマークするような動きが多く見られた photo:Satoru Kato

高校1年の時に出場したJBCF広島大会で唐見実世子(当時弱虫ペダルサイクリングチーム)を破り、昨年の同大会では全日本チャンピオンジャージを着る植竹海貴(Y's Road)を破った垣田。インターハイなど高校生の大会では池田瑞紀と共に同世代では抜きん出た力を見せていた。その池田と共にナショナルチーム入りし、自転車漬けの毎日。在籍する早稲田大学には週1回片道3時間半かけて通う。「大学まで遠くて大変」と言うが、およそ半年経って慣れてきたとも。

2022年JBCF広島大会 垣田真穂(写真左)が植竹海貴(Y's Road)を下して優勝 photo:Saotru Kato
高校時代のライバル池田瑞紀(左)と共に今年からナショナルチーム入りした垣田真穂(写真は2022年インターハイ) photo:Satoru Kato


「高校の時は重要な大会は年に2、3回くらいしかなかったから、大会が終わってから次までの期間で切り替えが出来ていました。でも今年は海外の大会に行って帰ってきて疲れが残っているうちに次の大会になってしまうからうまく切り替えが出来ず、気持ちのコントロールとか色々うまくいかない時期が続いていました。今はやっと環境に慣れてきて、ナショナルチームで世界のトップで走っている方々と一緒に練習し、集中して取り組める環境には本当に感謝しています」

目指すパリ五輪まで1年を切り、年明け早々のネイションズカップとアジア選手権で出場枠が決まる。残された時間は僅かだ。

「まずは来年のパリ五輪出場権を獲得することが目標です。今は団抜き(チームパーシュート)が五輪出場枠を得られるランキング10位でギリギリ。あと2ヶ月ほどしか無いから、ネイションズカップとアジア選手権で絶対に出場権を獲得出来るようにしたいです。今年のアジア大会とアジア選手権は中国と僅差だったので、もっと余裕をもって勝てるように頑張ります」

12月が誕生月という垣田はまだ18歳。「パリ五輪の時は19歳なので、10代最後の年に決めたいですね」



橋本英也「チャンピオンズリーグは競輪と似ている」

ジャパントラックカップⅡ最終日のオムニアムでトップ争いを見せた橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

UCIトラック・チャンピオンズリーグ最終戦を終えて帰国し、すぐにジャパントラックカップ出場とタイトスケジュールで臨んだ橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)。最終日のオムニアムでは優勝争いをして見せ、兒島直樹に逆転を許すも2位表彰台を確保。現アジアチャンピオンの力を見せた。

「チャンピオンズリーグのロンドンで体調を崩してしまったので、ジャパントラックカップは出ないことも考えました。でもコンディションの悪い中でどれだけ走れるかを試す機会と思って出場し、思っていた以上に走れたので良かったです。チャンピオンズリーグ後半に向けてコンディションが落ちてしまって、疲れもあったので僕としては休みたい気持ちもあり、この大会はそこまでモチベーションは高くなかったです。だから初日は全然踏めていなかったですね。

でも最終日は初日よりも踏めていたし、コジ(兒島直樹)とアメリカの選手(グラン・クンヅ)を逃してしまったけれど、2位と3位が混戦になっていたから2位は絶対落とさないようにと思っていました。勝ちたかったけれど、今日は兒島が強かったです」

ジャパントラックカップⅡオムニアム 逆転優勝した兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)は「強かった」と橋本英也 photo:Satoru Kato

初出場した「UCIトラック・チャンピオンズリーグ2023」では開幕戦のスクラッチで優勝し、日本人として初めてブルージャージ(チャンピオンズリーグのリーダージャージ)を獲得。惜しくも第3戦で脱ぐことになってしまったが、貴重な経験をしたと話す。

チャンピオンズリーグ第2ラウンド ブルージャージを着た橋本英也を含む4名の総合リーダーが登場 photo:UCI

「チャンピオンズリーグは世界選手権や五輪に比べたら小さい大会なので、現地で見た人は『ブルージャージすげーな』と思ってもらえたけれど、そうでないとまだ価値が知られていないと思います。これから開催を重ねていって認知されれば、ブルージャージを獲得することがすごいと思ってもらえるようになると思います。それにはまだ時期尚早な気がしますね。

でも現地ではブルージャージを着ることで注目はされましたし、英語もロクに話せない自分のような日本人でも周りから話しかけられたりするくらいでした。やはり結果を出すことが重要だなと感じました。

ショーアップされた競技場で開催されたUCIトラック・チャンピオンズリーグ photo:UCI

チャンピオンズリーグは新しい経験ではあったけれど、競輪と似ているところがあるなと感じました。世界選手権や五輪は選手のためのレースでお客さんのためにやるレースではないけれど、チャンピオンズリーグは競技時間を短くしたり結果をわかりやすくして観客を楽しませるような構成になっています。競輪も人気のある番組を撮ってお客さんに見てもらうようにしますから、そういうところが競輪に近い気がしました。来年は6日間レースに呼んでもらえそうなので、チャンピオンズリーグとあわせて出場したいですね。

チャンピオンズリーグではパリ五輪の会場も走ってレースのイメージがわきました。パリで結果を残してメダルを持ち帰ることが最大の目標なので、今はそれにフォーカスしていきます」

ジャパントラックカップ 観客の声援に応える橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

それにしても競輪と競技の両立は大変では?と聞くと「慣れですね」と言う橋本。「競輪はそこまで多く走ってない分、1走1走がフレッシュな状態走れるのが良い」とも。この記事が掲載される頃は、今年最後の競輪を走っているはずだ。


text&photo:Satoru Kato