上質なパウダースノーで世界有数のスキーリゾートとして知られる北海道のニセコ。そのエリアの中心に位置する双子山に、誰でも無料で利用できるツインピークス・バイクパークが誕生した。アジアでも有数の大規模マウンテンバイクフィールドとなるトレイルネットワークだ。


コーナーを抜けると目の前に羊蹄山が飛び込んでくる photo:Jinya.Nishiwaki

壮大な公共のトレイルネットワークの誕生。そのお披露目となるオープニングイベントが9月16日と17日の2日間にわたり開催された。サンタクルズ・バイシクルズ日本代理店のウィンクレルによる試乗会も同時に行われ、ゲストライダーとしてDHワールドカップに参戦している井本はじめ選手と九島勇気選手の2人が華を添えた。MTBの聖地カナダのウィスラーに4シーズン滞在し、ニュージーランドやヨーロッパのトレイルネットワークとバイクパークを走ってきた西脇仁哉がレポートする。

サンタクルズ試乗会の拠点となったリズム・ベース photo:Jinya.Nishiwaki

なぜニセコにバイクパークなのか。それはニセコに限らずだが、マウンテンバイクが夏場のスキーリゾートの観光資源となり得るからだ。ここにアジア有数のマウンテンバイクフィールドが完成すれば、夏場の観光産業がより活性化されるだろう。

橋の上でもこの余裕 photo:Jinya.Nishiwaki

アフターパーティーで思い思いの感想を共有する photo:Jinya.Nishiwaki
マップを覚え、利用ルールに目を通す photo:Jinya.Nishiwaki



また安全に上達できる良質なフィールドを提供することで、できるだけ多くの新規ライダーを呼び込み、継続的な利用者を増やす使命もこのバイクパークにはある。筆者が滞在していた北米最大のスキーリゾートであるカナダ・ウィスラーなど、今や世界各地のスキーリゾートではバイクパークを含む夏の集客数と利益がスキーシーズンのそれを上回っている。

井本はじめ選手は2022年、九島勇気選手は2023年に全日本DH選手権で優勝 photo:Jinya.Nishiwaki
キックバイクも走れるスムーズな路面 photo:Jinya.Nishiwaki



トレイルが増えるたびにマップは更新されていくという photo:Jinya.Nishiwaki

2021年6月、6人のローカルライダーがニセコエリアでトレイルネットワークを広げるべく立ち上がった。翌22年1月にはNPO法人ニセコエリア・マウンテンバイク協会(以下NAMBA)を設立し、倶知安町と町有林の使用契約を結んだ。その理念は、自然環境を維持しながらマウンテンバイカーのためにより良いフィールドをニセコエリアに作り、地域を発展させるというもの。

幼い頃からこの環境があるのは実に羨ましい photo:Jinya.Nishiwaki

彼らはその後、計画や準備を進め、夏が始まるまでに自治体や地元企業、クラウドファンディングを通して2100万円もの活動資金を調達した。そして、世界各地のトレイル造成を手掛けるアレグラ社に協力を仰ぎ、トレイル造成の開発フェーズ1を開始。秋には124人のボランティアが、750時間以上かけて作ったトレイルを試走した。同年内に造成されたトレイルの総距離は4.7kmである。

すでに数多くのスポンサーを獲得 photo:Jinya.Nishiwaki

2023年に入ってからは、開発フェーズ2として造成を進めてきた。今回オープンしたトレイルネットワークは、上りトレイル1本、下りトレイル2本、スキルパークの合計12.5km。もう1本の下りトレイルも、残すところ数百メートルの造成で完成する。

絶妙なGが味わえるコブの連続区間 photo:Jinya.Nishiwaki
これからも進化しながら愛され続ける麓の看板 photo:Jinya.Nishiwaki



標高差や全長がライド前にわかるのはありがたい photo:Jinya.Nishiwaki

日本有数のトレイルネットワークを築き上げるのに要した期間は、ここまでわずか2年ほど。しかし、このオープンをもって完成ではない。今後に控える開発フェーズ3では、今回オープンしたトレイルネットワークの西側に上りトレイル2本、下りトレイル4本の合計7.2kmを造成予定だ。

待望のオープンを前に、皆興奮を隠せない photo:Jinya.Nishiwaki

それだけでなく、マスタープランと称し20年をかけて隣接するリゾートと双子山をトレイルで結ぶ計画まであるのだ。そのうちの一つの東急リゾートにはゴンドラがあり、来年の7月には双子山に接続するトレイルができあがるとのこと。すべてが完了すると総延長は35kmに及ぶ。ツインピークス・バイクパークの利用状況次第では、今後ますます近隣のリゾートもMTBトレイルネットワークを欲するだろう。

ウィンクレルがスポンサーとなったショーグン・シンジケートトレイル photo:Jinya.Nishiwaki
アンケートに答えるとステッカーがもらえる粋な計らい photo:Jinya.Nishiwaki



NAMBAでは24名の理事らが5つの部門に分かれ、担当している。地権者との交渉や行政に町有林の使用許可を申請するアクセス部門。トレイルの計画を立て、造成と整備を行うトレイル部門。イベントやレースを企画実施するイベント部門。SNSなどで宣伝を行うマーケティング部門。そして、管理や会計などを行う事務局である。

この日はEバイクの参加者も多かった photo:Jinya.Nishiwaki
参加者に感謝を伝えるウィンクレルのクリス社長 photo:Jinya.Nishiwaki



副会長を務めるロス・カーティーさんに話を伺った。「ニセコやその近隣に住む方たちに利用してもらうため、このバイクパークを作りました。また、ニセコでは長い間、オーストラリアやニュージーランド、アメリカ、中国など、多くの外国人がリゾート開発に携わってきました。彼らは自国での経験から、MTBを利用した観光促進に詳しく、資金集めの重要性を知っています。ツインピークスが成功することで、倶知安町がさらに金銭面で支援し、海外からの集客も増えると見込んでいます」。

看板を前に誇らしげなNAMBA副会長のロスさん photo:Jinya.Nishiwaki

行政に対する申請を一手に引き受けるカーティーさん。道内の振興局にはマウンテンバイクのトレイル作りに関する規則がなく、新たにできた規則も毎年変わるため、事前に計画するのが大変なのだそう。

「トレイル同士の間隔は、林業で木を切り倒した際にトレイルを塞いでしまう可能性があるため、20m以上離すこととするルールが今年新たに追加されました。これにより、当初から予定していた1本のブルートレイルが作れなくなってしまいました。また、保有林にトレイルを作る際、その道幅は1m未満と厳格に定められています。下草刈りの幅は最大3mまでというのも規則でした。看板や標識を立てるのにも申請が必要です」。

自分たちの手で作り上げたフィールドを走るのは格別だ photo:Jinya.Nishiwaki

そこでカーティーさん自らが振興局に提案を持ちかけているのだが、そのやり取りの際に彼にアドバイスを提供し、全面的にサポートしてくれる心強い仲間がいる。理事の一人であり、道内一多くの山林を管理する千歳林業の栃木社長だ。また、司法書士や観光協会会長も理事に名を連ねており、最強の布陣でこうした障害を一つひとつ取り除きながら、驚異的なペースで開発を進めてきたのである。「彼らを始めとした仲間がいなければ、ここまでスムーズに開発を進められなかったでしょうから、NAMBAはとても恵まれています」。

緩やかに木々の間を抜けるマナ・スキルループ photo:Jinya.Nishiwaki
頂上までは景色を楽しみながらエゾシカトレイルを少し頑張って上る photo:Jinya.Nishiwaki



トレイル造成はアレグラ社が担当したが、今後の整備はNAMBAのトレイル部門が行っていく。
「現在、5人のトレイルビルダーがフルタイムで働いていて、来年は8人に増えます。活動の資金源はスポンサーや行政からの助成金です」。
国内のバイクパークでは聞いたことのない規模だ。ツインピークス・バイクパークのさらなる拡大にあたって、苦労する点もあったが希望も見えつつある。
「花園リゾートと繋げる予定なのですが、一部のエリアに分収造林が含まれており、トレイルの造成許可がまだ下りていません。しかし、ツインピークス・バイクパークがオープンしたことで、札幌から行政関係者を呼んで利用状況を説明すれば、許可してもらえる可能性があります。花園リゾートの隣にある東急リゾートも、ツインピークスの結果次第ではトレイル造成に投資するはずです」。

オープンの喜びを噛みしめる副会長の木村さん photo:Jinya.Nishiwaki

同じく副会長の木村俊一さんにも話を伺った。木村さんは倶知安町議会の議員でもあり、保有林の使用許可を申請しているという。
「最初に町議会にツインピークス・バイクパークの話を持っていったとき、他の町議たちはMTBのことを理解していませんでした。日本で何かを作るとなると、どの順番で話をしていくかが非常に重要になります。そこで、それに気をつけながら、許可を一つずつもらっているんです。また、最初から行政に助成金をお願いするとスムーズに進まなくなることがあるため、資金集めは外国人の理事たちに任せています」。

ニセコで年中通してアウトドアアクティビティーを提供するアンディーさん photo:Jinya.Nishiwaki

理事の一人、アンディー・メドウズさんは双子山の麓でスキーおよびバイクショップのリズム・ジャパンを営み、スポンサー企業としてもNAMBAの活動に関わっている。トレイル造成部門の担当として、話を伺った。

「やはり世界クラスのトレイルビルダーが作った公共トレイルネットワークだけあって、夏の集客増を期待できます。実際、ツインピークス・バイクパークがオープンして以来、リズム・ジャパンではEバイクのレンタル台数が今年最高を記録しました。

段差が少ないため安全に通過できるロックセクション photo:Jinya Nishiwaki

NAMBAがこれほどの勢いを保ってバイクパークをオープンできたのは、地元に世界クラスのトレイルが欲しいという願いと、現在の冬季ビジネスとの親和性が高い夏の観光基盤へのニーズがあったからです。それにはNAMBAの理事たちの得意分野を活かせたことやコミュニティーからの協力に加え、アレグラが実績ある造成チームを率い、実現可能な計画を立てたのが大きいでしょう。もちろん、日本のMTB業界からの支援も欠かせませんでした」。

井本はじめ選手が攻めるバームの後ろに見える山腹にトレイルが広がっていく予定だ photo:Jinya Nishiwaki

しかし、このような流れは観光を主産業とする地域でしか通用しないのではないか?

「そんなことはありません。行政や地元林業と協力し、コミュニティーや企業から支援を受ければ、ニセコに限らずどの地域でもツインピークスのようなトレイルネットワークを築けるはずです。そこでもっとも重要になるのが、何としても実現させようとする熱意です。僕たちは楽な道を歩んできたわけではありません。それでもこうして多くの利用者を目の前にすると、やってよかったですし、NAMBAの理念を信じて支えてくれたすべての方に感謝しています。今後もトレイルネットワークを広げていく中で、新たな開発地を探していきますので楽しみにしていてください」。

玉置宮司よりお祓いを受けるロスさん、アンディーさん、木村さん(手前から) photo:Jinya.Nishiwaki

9月16日の午前9時、ツインピークス・バイクパークの麓でオープニングセレモニーが行われた。ニセコ狩太神社の玉置宮司がロスさん、木村さん、アンディーさんとともにお祈りを捧げ、安全祈願を行った。総勢60名ほどの参加者の嬉々とした目に、双子山の緑が映る。皆でオープンを祝ったあと、一人ひとりが勢いよくトレイルへと繰り出していった。

嬉々としてトレイルへ出かける参加者たち photo:Jinya.Nishiwaki

一方、サンタクルズ試乗会の会場では、お目当てのバイクを乗りにやって来た参加者にスタッフたちが大忙しで対応していた。用意されたのは、DHバイクのV10を除いた全ラインアップ合計15台。

サンタクルズの最新バイクが勢ぞろいする様は圧巻 photo:Jinya.Nishiwaki
九島勇気選手は怪我のため、今回は試乗会のサポート役に回った photo:Jinya.Nishiwaki



また、カーボンホイールブランドのReserve(リザーブ)、レジェンドDHレーサーのスティーブ・ピートが興したアクセサリーブランドのPeaty’s(ピーティーズ)、アパレル、プロテクター、シューズなどを作るソフトグッズブランドのION(アイオン)、同じくシューズブランドのNorthwave(ノースウェーブ)、ヘルメットブランドのTSG、バイクパーツ、アパレル、アクセサリーブランドのSQlab(SQラブ)の製品も展示されていた。

Reserveのホイール展示
Peaty’sはカラフルなバルブや高級感溢れるケミカル類が特徴的



Northwave、ION、TSGのプロテクターとシューズ
お目当てのバイクに試乗するため、列ができていた



頂上まで2回上ってブルーとブラックの全トレイルを下るとなると、所要時間は2時間ほど。一般的な試乗会では異例とも言える長さだ。会場でしっかりとセッティングを出した後、本格的なトレイルでバイクとじっくり向き合えたことだろう。また、イベント初日はガイド付きツアーが2度開催され、多くのキッズライダーが列をなしてトレイルを駆け下りる姿が見られた。

ニセコローカルがキッズグループのガイドを務める photo:Jinya.Nishiwaki

また、初日の夕方からは、バイク&スキーショップのリズム・ベースにてアフターパーティーが開かれた。DJがノリのいい選曲で場を盛り上げる中、ケータリングサービスの多彩な料理を、日中のライドで消費したカロリーに合わせて皿に載せていく参加者たち。パーティーの最後にはサンタクルズとIONのアパレルやバックパックが当たる抽選会と、スペシャライズド Turbo Levo SLの限定ソイルサーチング・エディションのオークションも行われた。この日は朝から晩まで、文字通りMTB漬けの一日となった。

目いっぱい走ったら、腹いっぱいにして回復
参加者たちは音に体を預けながら、ライドを振り返っていた



IONのアパレルが抽選で当たり、喜びの表情を浮かべる
スペシャライズドのTurbo Levo SL限定バージョンを見事落札



ツインピークス・バイクパークのトレイル難易度は、最も低いグリーンから、ブルー、ブラック、そして最も高いダブルブラック(未完成)の5種類に色分けされている。各難易度は、段差の高さや道幅などが厳格かつ一貫して定められている。

質の高い環境で繰り返し乗ることこそ、最短の上達方法 photo:Jinya.Nishiwaki

グリーンは文字通り誰でも・どんなバイクでも走れるように設計されたトレイル。このバイクパークでは、ハイキングなどマルチユースを想定した上りトレイルの「エゾシカ」、「ジンジャ・ニンジャ」、「マナ・スキルパーク」、「マナ・スキルループ」のこと。特にスキルループはキッズたちのウォームアップとして人気で、パパやママと一緒に楽しげな声が森の中のあちこちから聞こえてきた。

年齢を問わず楽しめる設計のツインピークス・バイクパーク photo:Jinya.Nishiwaki
皆でワイワイ走るもよし、一人静かに路面と対話するもよし photo:Jinya.Nishiwaki



イベントでは撮影のためにこれらのトレイルを実際に歩いて回ったが、路面がとてもスムーズで斜度も緩くて歩きやすく、森林浴とともに楽しめた。白樺と背丈を超える笹が広がるのも、杉林ばかりの埼玉出身の筆者には新鮮に感じられた。

ツインピークス・バイクパークは、バイクパークと名付けられているものの、いわゆるゴンドラやリフトでアクセスするそれとは異なり、下るには上らなくてはならない。そこで麓から山頂まで行くのに使うトレイルが、全長3.5km、標高差195mの「エゾシカ」だ。

17個のスイッチバックのおかげで平均勾配は5%と緩く、所要時間は25分ほど。時折、少し急なセクションも短いながら現れるが、その後は平坦だったり下りだったりと、脚を休ませられるよう考えられたルート取りになっている。

子どもと大人からなるトレインが、上りのひと頑張りを終え休憩中 photo:Jinya.Nishiwaki
背中を追いかける側も追いかけられる側も、あっという間に上達するに違いない photo:Jinya.Nishiwaki



土を盛ってトレイル脇へ排水を行う水切りがいくつもあり、小さなコブとして上りにリズムを添える。スイッチバックは最新のロングホイールベースでも余裕で回り切れるサイズだ。山頂までに下りのブルートレイルと合計5箇所で接続しているので、頂上まで行かずとも、好みの区間を周回して楽しむこともできる。

ブルーからマウンテンバイクの要素が増え出すが、コブをすべてなめて走行できるため安心感は高い。頂上から麓まで、一本のトレイルを3区間に分け、「イージーライダー」、「ライズンライダー」、「エアライダー」と名付けてある。これらはいわゆるフロートレイルで、キッズバイクから29erまでホイールサイズを問わず走行できる。

自然に溶け込むダートリボン photo:Jinya.Nishiwaki

フロートレイルとは名ばかりに、バイクにただ乗っかっていれば下れてしまうものも見受けられる中、ツインピークスのそれは本格的だ。標識を横目に進入すると、まず緑の草木に囲まれたトレイルが右に左に、上に下にうねりながら続いているのが目に飛び込んでくる。その様はまるで茶色のリボンで、この時点で気分が盛り上がる。

バームやコブは、バイク操作が途切れない間隔で現れてくるので、ライダーを飽きさせない。むしろ、いつの間にかバイクを介した自然とのダンスに夢中になっていることだろう。ブルー、つまりは中級の位置付けだが、初心者でも安全に下れる設計になっている。

スポットライトのような木漏れ日がドラマチックな雰囲気を演出 photo:Jinya.Nishiwaki

頂上からはこれらのトレイルを下ってこなければならないので、この点は重要だ。中級者はトレイルビルダーの設計意図通りに走ることで、最新の走り方を身に付けられるはず。タイヤを路面と常に直角に触れさせることとスピードの出しすぎに注意すれば、フロートレイルならではの心地よいGを感じられるだろう。上級者はコブとコブを繋げて飛んでみるなど、より刺激的なラインを見つけてみるといい。

白樺と下草の対比が美しい photo:Jinya.Nishiwaki

ブラックは上級者向けとなり、今回のオープンではウィンクレルがスポンサーとなった「ショーグン・シンジケート」がそれに当たる。シンジケートは、ワールドカップのDHレースに参戦するプロチーム、サンタクルズ・シンジケートからの拝借だろう。

自然の地形を読み取るスキルがあれば、ジャンプもこの通り photo:Jinya.Nishiwaki

前半は岩を並べた起伏に富むセクションや高さ30cmほどのドロップが頻出。岩は極端に尖ることがないよう考えて配置されているが、くれぐれもラインを慎重に選び、リム打ちパンクを避けたいところ。前半のもう一つの特徴は、林間ではなく空が開けている点。開放的で、大自然の中を走っている気分になる。

ショーグン・シンジケートのロックセクション photo:Jinya.Nishiwaki

後半は林間になり、フロートレイルの要素が増えてくる。同時に斜度はきつくなり、所々に岩を配置して積極的なバイク操作を促してくるため、慎重かつ大胆に身体を動かしてやる必要がある。岩のドロップからのタイトコーナーはまさにその例だが、バームにはしっかりと角度が付いており、また出口まで伸びているので、曲がり損ねる恐れは少ないはずだ。さらにはコブの先端に岩が配置され、それをきっかけにジャンプを楽しめる。より高度な操作が求められ、ライン取りの精度を高めたり、スキルアップとしてチャレンジしたりするのにぴったりのトレイルだ。

一目でトレイルの情報がすべてわかる標識 photo:Jinya.Nishiwaki
逆走による接触事故をなくすため、出口にも進入禁止の標識が設置される photo:Jinya.Nishiwaki



日本の一般的なトレイルではまず目にしない標識が、ツインピークス・バイクパークのどのトレイルの入口と出口にも立っている。トレイル名、難易度のアイコン、トレイルスポンサーのロゴ、緊急連絡時に現在地の特定に役立つコード、上りまたは下りの方向や歩行者進入禁止を示すピクトグラム、世界中のトレイルネットワークを集めたTrailforksアプリのQRコードが記載されているのだ。

したがって、誤って逆走をしてしまったり、自分のスキル以上のトレイルに進入してしまったりする恐れはない。そして、その標識の最下部を飾るのが、「Made with love(心をこめて作られました)」のフレーズがなんとも誇らしげなNAMBAのロゴ。これらの標識は、初めて訪れるライダーに親切な作りであると同時に、国内に居ながらにして世界基準のトレイルネットワークが眼の前に広がっているのを認識させるだろう。

山頂の看板を眺めながら下るルートを計画中 photo:Jinya Nishiwaki

また、バイクパークの麓と頂上には、トレイルネットワーク全体のマップや各種情報、注意事項、スポンサーロゴを記した大きな看板が立っている。ルートを把握しきるまでは、麓の看板のマップを予めスマホで写真に収めておくと、ライド中に役立つだろう。なお、これらの看板が立つ敷地もスポンサーが購入する形となっているのが面白い。

オープニングイベントの参加者たちはツインピークス・バイクパークにどのような印象を持ったのだろうか? 

岡田さんはスペシャライズド・エンデューロを持参 photo:Jinya.Nishiwaki

札幌市から来た岡田吏欧さんは、国内のDHレースに参戦するヤングライダー。
「ツインピークス・バイクパークは9月2、3日に行われたスペシャライズド・ソイルサーチングのイベントに参加して以来、訪れるのは2回目です。今日は上りと下りの全トレイルを走りました。上りトレイルは中間までは上りやすかったです。そこから頂上までは道がタイトで、上りのスキルが問われるように感じました。路面は全体的にきれいで、走りやすかったです。下りのブルートレイルは流れが良く、バームも作り込んであり、走っていて気持ちよかったです。もう一本のブラックトレイルに出てくるロックセクションは、北海道にはない難易度だと感じました。北海道のDHコースは本州のコースに近づけて、ジャンプが組み込まれていることが多いんです。全体的に難易度は高いですけど、走れると楽しかったです」。

河野さんはコナ・ビッグホンゾ DLでグループライドを楽しんでいた photo:Jinya.Nishiwaki

仲間と一緒にライドを楽しんでいたのは北広島市にお住まいの河野さん。「双子山には初めて来ました。上りはクネクネしていて、上りやすかったです。途中に休憩も挟んだので、上り終えるのに3〜40分かかりました。山頂からはブラックのトレイルを2回下ったんですが、結構スリルがあり、難しいセクションも挑戦しながら楽しめました。いろいろなレベルのライダーが楽しめる作りになっていると感じました」。

先生役のウィルさん(左)と生徒役のMTB歴2日のSakkaさん photo:Jinya.Nishiwaki

ニセコローカルのSAKKAさんは、なんとこのイベントで初めてMTBに乗ったという。イベント2日目にお話を聞いた。
「イベント初日にMTBに初めて乗ったので、MTB歴は今日で2日目です。これだけの環境が整っている土地に住むからにはやらなきゃ損だと思い、参加しました。まだ機材は何も持っていないので、このイベント中は試乗車で楽しむとして、今後は買い揃えていきたいです。すでに気持ちの準備はできました。上りは変速のタイミングや滑りやすい路面に苦戦しましたが、周回するにつれ、上れなかったセクションもクリアできるようになりました。上達を感じられるのは嬉しいですね。良いエクササイズだと思って頑張ろうと思います。

スキルパークを走ったあと、中間からと山頂から下りました。下りは練習あるのみですが、ビギナーでもゆっくり走れば危なくないと思います。経験者に手ほどきしてもらいながら走れたので、安全に下りてこられました。公共トレイルですし、一緒に走る仲間がいるのでとても助かります。どんどんトレイルを広げて行ってほしいですね」。

サンタクルズ・ブラーに乗り、そつなくスイッチバックを回るSakkaさん photo:Jinya.Nishiwaki
サンタクルズ・トールボーイを自在に操り駆け抜けていったウィルさん photo:Jinya.Nishiwaki



ワーキングホリデーでニセコに滞在するウィルさんは、オーストラリア・タスマニア島出身。北海道の8割強ほどの面積で、良質なトレイルが数多くあることで知られる世界的なMTBデスティネーションだ。
「双子山で乗ったのはこのイベントが初めてで、全部のトレイルを走りました。どこも最高ですね。下るために上るのは当たり前として、下りの楽しさを考えると上る価値はあります。ブルーとブラックの両方を下りましたが、テクニカルなブラックが気に入りました。とは言えブルーはフローがすばらしく、とても楽しかったです」。

サチさんはMTB本場のトレイルを経験済みとあり、的確なコメントを頂いた photo:Jinya.Nishiwaki

札幌市にお住まいのイェール・サチさんは、NAMBAの理事の一人として事務局、イベント、ウェブサイトの翻訳を担当している。
「グリーンのトレイルが完成した去年から双子山で乗っています。日本でのMTB経験は少なく、カナダのウィスラーでトレイルを走ったこともありますが、双子山は上りやすいと思いました。ブルートレイルはレベルで言えば一番簡単な下りではありますが、すごく簡単とは言えない印象を受けました。ですので、普段から走り込んでいるライダーは楽しめると思います。これは、ビギナーの定義がMTB先進国出身のビルダーによって作られた双子山と国内のバイクパークとでは違うからかもしれません。スキルパークもあるので、万人が楽しめる作りになっていますね。ブラックの下りは迫力があり、このようなトレイルがあるのはとても嬉しいです」。

井本はじめ選手のサンタクルズ・ノマドはロックショックス&スラム仕様 photo:Jinya.Nishiwaki

ゲストライダーの井本はじめ選手はマイバイクのサンタクルズ・ノマドに乗り、参加者とのライドを楽しんでいた。世界各地のバイクパークを数多く走ってきた彼の目に、ツインピークスはどのように映ったのだろうか? 
「山頂まで上ってからは、ブルーとブラックを含め、グリーントレイルとの合流地点から上り返しつつ5本ほど下りました。上りトレイルはプロビルダーが作ったのがわかる作り込み具合でしたね。麓から頂上までにかかった時間は20分ほど。1本目はブラックトレイルのショーグン・シンジケートを下りました。前半は石が多く、ガタガタだったので、少し慎重に走りました。でも、リズムを覚えたら石をきっかけにジャンプで繋げられるようになりました。

トレイルビルダーとともにコースプレビューを撮影中の井本はじめ選手 photo:Jinya.Nishiwaki
さすがはワールドカッパー、ジャンプでタイトコーナーに進入する photo:Jinya.Nishiwaki



後半はテクニカルになり、滑りやすい土質ではあるものの、深く掘られたバームのおかげで楽しかったです。ブルートレイルは思った以上に良く、特に羊蹄山がドーンと現れる最初の区間は景色を楽しめました。想像していた北海道のトレイルらしい開けた景色が、そのまま目に飛び込んできた形ですね。

ツインピークス・バイクパークの拡大を願ってやまない photo:Jinya.Nishiwaki

ブラックトレイルの前半も景色が良く、空が開けた区間がもっと続くといいなと思いました。山頂からブルートレイルのエアライダーで景色を楽しんだあと、そのままライズンライダーを下り、最初の合流地点でグリーントレイルを上り返して周回するのがおすすめです。全体的にコンパクトにまとまっているバイクパークで、どこも楽しめました。e-bikeがあれば初心者でも楽しめるでしょうね。トレイルがもっと増える来年も期待できます」。

九島勇気選手のサンタクルズ・ノマドはフォックス&シマノ仕様 photo:Jinya.Nishiwaki

なお、同じくゲストライダーの九島勇気選手は、ワールドカップ参戦中に手を負傷してしまい、今回はライドを見送る形となった。

おそらく国内のどのバイクパークよりも遅くに開発が始まり、そしてわずか数年で最大規模の公共トレイルネットワークを築き上げ、今後もさらに拡大し続ける予定のツインピークス・バイクパーク。本場のMTB環境を知る海外からの移住者たちが開発を進め、率先して国内外から利用者をニセコに呼び込んでいく。その成功例が行政へのアピール材料となり、同時に国内のトレイルビルダーに対してフィールド作りを学ぶ機会を提供する。そしてもちろん、海外のバイクパークを訪れるのに抵抗がある日本人ライダーも、ニセコであれば東京・羽田空港からなら飛行機で1時間半、新千歳空港から自動車で2時間で行けるとなれば、より興味が湧いてくるだろう。国内に居ながらにして、MTB先進国と同様のトレイルネットワークを楽しんでもらいたい。



西脇仁哉(にしわき じんや)
文・写真:西脇仁哉(にしわき じんや)
1986年生まれ。小学生の頃からMTBを始め、大学卒業後にカナダ・ウィスラーで4シーズンにわたりMTB修行を積む。国内外のMTB雑誌やウェブサイトで取り上げられ、数々の写真や動画作品を制作。帰国後はフリーの翻訳家とフォトグラファーとして働き、海外の撮影クルーのアテンドも経験。今回が記念すべき人生初取材。@jingypsy

取材協力:ウィンクレル