今年初頭にデビューし、ようやくアジアンフィットモデルのデリバリーが始まったジロの新型フラッグシップヘルメットが「ARIES SPHERICAL(アリーズ スフェリカル)」だ。歴代の同社製ヘルメットを愛用してきたCWスタッフによるロングタームインプレッションを紹介する。



その報せは突然だった。「AETHERの後継モデルを発表するよ」という、ジロ本国ブランドマネージャーを務めるピーター・ニコルソン氏からの一通のメール。

ARIES SPHERICAL(アリーズ スフェリカル)。筆者の手元にはグローバルフィットのMサイズが届いた photo:Gakuto Fujiwara

AETHERも、そのさらに先代であるSYNTHEも、エアロヘルメットのECLIPSEにおいても、ジロはフラッグシップモデルを発表するにあたって、リリース前に完成版を実戦投入してきたが、新型フラッグシップモデルの「ARIES SPHERICAL(アリーズ スフェリカル)」はプロシーンでの目撃情報なく突如リリースした。2018年7月のAETHERリリースから実に4年半以上の時を経て、ジロのハイエンドモデルの代替わりを待っていたファンの元へデビューを果たした。

ジロが開発した二重構造シェル「スフェリカルテクノロジー」を継承しつつ、AETHERよりも20g軽く、4%エアロで、2.3%冷却効果を高めたというARIES。つまりは安全なのに軽くて速く、そして涼しいという優等生(詳細は発表時の記事を参照頂きたい)。そうこうして、筆者の元にはジロ本社からグローバルフィットのMサイズ(オフホワイト)が届いたのだ。

今回紹介するのは1月に届いたARIESのロングタームインプレッション。税込48,840円というハイエンドモデルだけに、それに、筆者自身がジロヘルメットのファンということで、冬と夏を通してのしっかりとした使用感をお伝えしたかった。購入に勇気が要るほどの金額だが、使いこむほどにその意味を理解できたのだった。

どこからどう見てもジロのハイエンドヘルメット。デザインの伝統を引き継ぎ、ブラッシュアアップさせているのは◎ photo:Kenta Onoguchi

ジロのヘルメットがファンを掴んで離さない大きな理由の一つが、そのスタイリッシュなデザインだ。ARIESもSYNTHEから始まるジロの新世代フラッグシップモデルの血統を引きつつアップデートされ、一見しただけでもジロの新しいハイエンドモデルだな、と思えるデザインを落とし込んできた。古くはATMOSに始まり、IONOS、AEON、SYNTHE、AETHER MIPSと、ずっと同社ヘルメットのデザインに惚れ、使い込んできた筆者にとって、歴代のデザインコンセプトを色濃く残しつつアップデートしている様は歓迎すべきもの。

Mサイズの実測重量は280g。当たり前のことだが、安全性を担保した上での軽さはヘルメットにとって正義である。短時間のライドであればどんなヘルメットを被ってもそこまで差は感じないかもしれないが、ライド時間が長くなればなるほど(特に大小の衝撃が続くオフロードなら尚更に)首や背中に負担が掛かり、疲れるだけではなく視線もどんどん手前に下がり、気づかないうちに危ない状況になっていることもしばしば。

単純な重量値だけで見れば他ブランドの超軽量モデルと比べてハンデはある(ダブルシェル構造なので当たり前だが...)ものの、重心バランスが良く、特に距離を走った時に数値以上の軽さを感じるのは、ジロのヘルメットに共通すること。ARIESもしっかりとその特徴を引き継いでいて、実走取材で160kmのロングライドイベントを走った時も、アメリカのグラベル取材に連れ出した時も、今まで以上に肩周りの疲れが少なかったように思う。

リアデザインは一新。排気効率を意識したデザインが見てとれる photo:Gakuto Fujiwara

インナーシェルの外側がシルバーに塗られているのが分かるだろうか。こうした細かいディティールが所有欲に貢献する photo:Gakuto Fujiwara
ナイロン地に純銀を付着させ、抗菌、臭気制御、温度調節を叶えるナノテク生地「X-STATIC」を使用 photo:Gakuto Fujiwara



新コンセプト「LIKE NOTHING(何も感じさせない)」を掲げるARIESだが、フィッティングはAETHERよりもやや深く(後頭部を中心にシェル形状がやや変更されている)、そのコンセプトとは良い意味で逆に、頭全体をしっかりと守ってくれる安心感が強い。上下に3ポジションの位置調整と頭囲のダイヤル調整を叶える「ROC LOC 5 AIR」フィットシステムと組み合わせれば、きっと好みの被り心地が見つかるはず。安全性についてはレビューが難しいが、ジロと同じグループのベル社ではオートバイ用ヘルメットにもスフェリカル構造が広まっているところを見るに、安心感はひとしおと言うべきだろう。

スピードを上げた時の通気性は驚くレベル。AETHERとの差はすぐに感じ取ることができるほど photo:Kenta Onoguchi

ARIESを被ってライドに出た瞬間、とにかく内部の風抜けが抜群なことに驚かされた。シルエット自体はAETHERとの決定的な差は無いものの、より大胆になった内部チャネルのおかげか、AETHERとの差はすぐに気づいた。AETHER比で2.3%の冷却効率向上という数字以上の風抜けの良さを感じる。

まだ寒い時期にARIESが手元に届き、梅雨真っ只中、そして酷暑の夏までロングタームインプレをしてきたが、暑いコンディションでは特に良さが光った。特に、蒸し暑く、気温が30度を超え、さらにヒルクライム中などの低速度のとき。ある程度以上の速度域で風抜けが良いことはもちろん、止まりそうになるスピードの時に、ベンチレーションから上方向に熱気が抜ける感覚が強い。

圧倒的に広いベンチレーション。低速度のヒルクライムでも十分に効果を発揮してくれる photo:Kenta Onoguchi

アイウェアを外すことの多い筆者としてはホルダーの継続は嬉しい。ラバーパーツでしっかりとホールドしてくれる photo:Kenta Onoguchi

逆に気温一桁台の時に直で被ってみると、前面のベンチレーションとエアチャネルの位置が容易に分かるほど局所的に地肌が冷え、まるでかき氷を一気に食べた時のような感覚になった。他のヘルメットにも言えることだが、ARIESの場合は特に冬場のインナーキャップを忘れないようにしたいもの。ちょっと極端な例かもしれないけれど、その冷却機能を一番感じた例だった。

ここまでは機能面の話をしてきたが、最後にカラーリングについて記しておきたい。テスト用ヘルメットを送ってもらうにあたって、先述したニコルソン氏にはオフホワイトをリクエスト。イメージ画像だけでは単純な白一色かと思っていたら、細かく艶ありと艶なしで塗り分けられていたり、「スフェリカル」を動かさないと見えない部分がシルバーだったり、何かと芸が細かくてすごくイイ。こういうハイエンドらしいデザインは所有欲を高めてくれる。

超軽量というわけではないものの、重心バランスが良く数値以上に軽く感じる。ジロヘルメットに共通するイイ部分だ photo:Kenta Onoguchi

現在、ARIES SPHERICALはグローバルフィットに続き、待望のアジアンフィットモデルが入荷し販売が開始されている。ジロのアジアンフィットは日本人にとって欧米ブランドであることを忘れさせる高いフィット感が特徴で、2019年のリリース以降多くの驚きを与え称賛を得てきた。ARIESのアジアンフィットもきっと多くの日本人ユーザーから高い評価を得ることになるはずだ。



ジロ ARIES SPHERICAL
サイズ: S(51-55cm/Matte Whiteのみ)/ M(55-59cm)/ L(59-63cm)
カラー:Matte Black、Matte White、Matte Carbon / Red、Matte Ano Blue、Matte Metallic Coal/ Space Green
グローバルフィット
重量: 280g(Mサイズ/実測)
Spherical Technology™ / MIPS® brain protection system 搭載
構造: インモールド・ポリカーボネートシェル / EPSライナー / AURA II Reinforcement アーチ
フィットシステム: Roc Loc 5 Air
インナーパッド: DryCoreスェットマネージメント / Ionic+ anti-microbial パッド
ベンチレーション: 24箇所のウィンドトンネル ベンチレーション
JCF公認モデル / CE安全規格取得
価格: 48,840円(税込)

インプレッションライダーのプロフィール

磯部聡(シクロワイアード編集部)

CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。入社以前からジロのヘルメットを愛用し、ATOMOS、IONOS、AEON、SYNTHE、AETHER MIPS、オフロードはMANIFEST SPHERICALと歴代製品を被り続けてきた。2019年には同社ハイエンドシューズ「IMPERIAL」の海外ローンチも担当した経験を持つ、自他共に認める同社ファン。