8,000人弱のサイクリストが快晴の富士スバルラインを走った第19回Mt.富士ヒルクライム。その頂点を争う主催者選抜クラス男子で金子宗平(群馬グリフィン)が初戴冠。昨年の乗鞍に続き、ヒルクライムレースのビッグタイトルを手中に収めた。



好天に恵まれた富士ヒルクライム。参加人数やエキスポ開催など、フルスペックでの開催となった。 (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb

大会受付のテントであったもの。大きな被害を乗り越えて開催された大会だ。 photo:Naoki Yasuoka
第20回大会に向けた新しい大会ロゴが発表された (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb



各地に大雨と暴風をもたらした台風2号。様々な被害が報告されている中、多くのサイクリストの関心事となっていたのが、久しぶりのフルスペックでの開催が予定されていたMt.富士ヒルクライムの開催可否だ。

台風自体は金曜夜から土曜朝にかけて通過し、受付日となる土曜日には天候自体は回復。多くの出展社が集うサイクルエキスポもコロナ禍以前の規模を取り戻し、富士北麓公園には多くのサイクリストが集まる姿が戻ってきていた。

とはいえ、各地で高速道路が通行止めとなったり鉄道が運休となるなど、特に西日本方面の参加者は来場に難儀する人も多かったよう。大会会場にも台風の爪痕は残されており、受付用のポップアップテントが破損。交通事情の影響も鑑み、受付場所と北麓公園内の体育館へ移すと同時に受付時間を延長する対応が取られた。

スタート前、真剣な表情となる選抜クラスの面々 photo:Naoki Yasuoka
昨年の優勝者、真鍋晃が見据えるのは。 photo:Naoki Yasuoka



前日イベントは滞りなく行われている裏で、スバルラインには大雨と暴風による倒木や土砂の流出が複数個所で発生しており、レースの開催可否判断は難航することに。行政機関や道路管理者といった関係各所と協力し、倒木撤去や土砂清掃といった対策を実施し、夕刻17時にレースの開催が正式にアナウンスされた。

主催者、そして地元関係者らの多大な情熱によって無事に開催を迎えることとなった翌朝。スタート地点となる富士北麓公園の大駐車場を、朝日に照らされる富士山が見下ろしていた。この日最終的には8,000人弱のサイクリストがこの場から五合目を目指してスタートすることとなった。

選抜クラスが一斉にスタートしていく (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb

日本一の富士山を登るために、日本で最も多くのサイクリストたちが集まるのがこの富士HC。そこに集まる人たちは、目標タイムを目指したり、去年の自分を超えるためだったり、はたまた仲間と楽しく登るためだったり。その中で、最もわかりやすいのが主催者選抜クラス。今年一番富士山を速く登り切るために集った猛者たちが鎬を削るカテゴリーだ。

過去の富士HCや他のレースで好成績を収めた選手のみが参加できる主催者選抜クラス、前年の覇者である真鍋晃(EMU SPEED CLUB)が最前列に並び、定刻通りスタートを切った。

真鍋晃(EMU SPEED CLUB)と共に展開を作る金子宗平(群馬グリフィン) (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb

全日本TT王者であり、昨年の乗鞍王者でもある金子宗平(群馬グリフィン)がレースの中心となることが予想される中、胎内交差点を過ぎた計測開始地点を過ぎて間もなく真鍋と金子が抜け出す。集団はペースで追走し、一合目を過ぎたあたりで吸収する。

中盤には成田眸(MKW)が積極的な動きを見せ、抜け出しを図る。その動きに合わせるように真鍋と金子、そして2018年の富士HC王者にして、昨年乗鞍で2位に入っている田中祐士らも仕掛け、4名での逃げが生まれた。

中盤、積極的に動いた成田眸(MKW) (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb

優勝候補に挙げられる強力なメンバーが揃った逃げとなったが、逆に牽制の思惑が働いたか3kmほど逃げたのちに再び集団が追い付く。次にレースが動いたのは大沢駐車場を通過した四合目付近。

一人逃げていた玉村喬(天照CST)を吸収するタイミングで、金子がカウンターアタック。田中、橋本晴哉が追従。更に板子佑士(ソレイユ/JETT)と林直志(天照/EMU)が合流し、5名の先頭集団が形成。そこから山岳スプリット賞の計測開始地点で金子が更に加速。これに反応できたのは田中のみとなり、2人の勝負に持ち込まれた。

金子宗平(群馬グリフィン)が主催者選抜男子を制した photo:Naoki Yasuoka

2位に入った田中裕士 photo:Naoki Yasuoka
3位の板子佑士(ソレイユ/JETT) photo:Naoki Yasuoka




「どこかで抜け出さないと、スプリント力のある金子さんに勝てる可能性は無いと思っていた」と田中は振り返る。同時に、抜け出せるチャンスが少ないコースでもあると。その予想通り、ラストの平坦区間を2人のまま消化し、ゴール前の最後の登りへ。ラスト500m、ロングスパートを掛けた金子が田中を引き離し、ガッツポーズでフィニッシュラインを通過した。

鋭い加速でスプリントを制した板子が20秒遅れのメイン集団の頭を取り、3位に。奇しくも昨年の乗鞍HCと同じメンバーが同じ順序で表彰台に並ぶこととなった。

男子選抜クラス表彰式 (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb

4度目の富士ヒル参戦で初勝利を掴んだ金子。「スプリントになれば勝てると思っていて、思い通りの展開に持ち込めた。大きな目標の一つに掲げていたタイトルを獲得できて嬉しいです」と語る。表彰式では、午後に修善寺で行われるJPTレースへ参戦するというスケジュールを明かし、その場にいた全員を驚かせた。なお、CSCロードレースにおいても6周に渡って逃げ、底なしのパフォーマンスを見せつけた。

一方、惜しくも敗れた田中は乗鞍に照準を定める。「このコースよりも、乗鞍の方が自分に向いている。まだ絞れる余地もあるので、乗鞍は絶対に獲りたい」と、未だ手にしていないもう一つのヒルクライムタイトルへ意欲を見せた。


主催者選抜クラス女子の部は昨年の王者である佐野歩(Infinity Style)が連覇 photo:Naoki Yasuoka

女子選抜クラス表彰式 photo:So Isobe

同時に行われた主催者選抜女子クラスでは、昨年富士HCと乗鞍の二冠に輝いた佐野歩(Infinity Style)が連覇を果たした。

四合目までに4人に絞られた集団から昨年の乗鞍2位の三島雅世(Cycling-gym)がペースアップ。更に奥庭の登りで手塚悦子(IMEレーシング)が攻撃を仕掛けるも、最後の平坦区間に3名で突入することに。そして、トンネルを抜けた最後の登りで佐野が2人を引き離し、先頭でフィニッシュラインに飛び込んだ。

女子の大会新記録をたたき出した木下友梨菜。 photo:Naoki Yasuoka

更に、年代別に参加した木下友梨菜(あたおかロングライダーズ)が1時間6分44秒という大会記録を1分2秒縮めるレコードタイムを達成。4年ぶりのフルスペック開催となった富士ヒルクライムに新たな風を吹き込んだ。

今年は一歳刻みランキングなど、新たな試みも企画され、コロナ以降初となるフルスペックでの開催でありながら次なる一歩を踏み出したMt.富士ヒルクライム。来年は節目となる第20回大会。日本最大のヒルクライムイベントとして、更なるパワーアップに期待大だ。

別府史之さんがゲストとして参加 (c)The19th Mt.Fuji Hill Climb
第19回Mt.富士ヒルクライム主催者選抜男子リザルト
1位 金子宗平(群馬グリフィン) 57:26
2位 田中裕士 57:39
3位 板子佑士(ソレイユ/JETT) 57:45
4位 井出雄太(やまなし銀輪会) 57:46
5位 林直志(天照/EMU) 57:48
6位 真鍋晃(EMU SPEED CLUB) 57:50
7位 大島浩明(グランペール山岳大隊)
8位 石井勇悟(MAS×SAURUS)
第19回Mt.富士ヒルクライム主催者選抜女子リザルト
1位 佐野歩(Infinity Style) 1:13:20
2位 手塚悦子(IMEレーシング) 1:13:31
3位 三島雅世(Cycling-gym) 1:13:43
4位 宮下朋子(TWOCYCLE) 1:14:21
5位 栗原裕美子(TRC PANAMAREDS) 1:16:13
6位 テイヨウフウ 1:16:39
7位 佐倉あゆみ(ヤギ練) 1:18:28
8位 平山茜 1:22:30
text&photo:Naoki Yasuoka