MTBレースの最高峰「UCI MTBワールドカップ」がチェコで開幕。日本勢も参戦した初戦で、トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)とパック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)がそれぞれ男女エリートレースを制している。



ワールドカップ初戦の舞台はチェコ、ノヴェメスト。名物の直登区間を行く選手たち photo:UCI

数々の前哨戦を経て、MTBレースの最高峰シリーズである「UCI MTBワールドシリーズ」がチェコの名門コース「ノヴェメスト」で開幕。クロスカントリーワールドカップ、ショートトラックワールドカップ、マラソンワールドカップ、ダウンヒルワールドカップ、そしてエンデューロワールドカップというXC系3種目、グラビティ系2種目からなる合計5種目のフォーマットを統一し、新たにシリーズ化された大会だ。

2023年は5月12~14日開催のノヴェメスト(XCO/XCC)に始まり、8月上旬に開催される世界選手権(スコットランド)を経て10月6日~8日開催のカナダ、モンサンタン(XCO/XCC/DH)でフィナーレを迎える合計9戦(うちXCO/XCCとDHは8戦ずつ)。ノヴェメストには日本勢を含む世界トップクラスのクロスカントリーレーサーたちが集った。

土曜日開催のワールドカップに併催されるジュニアレースには、日本から欧州遠征の最終戦として現アジア王者の高橋翔(TeensMAP)とFUKAYA RACINGの嶋崎亮我と古江昂太が世界トップレースに挑んだ(コメントは別記事で紹介します)。

また、ワールドシリーズの開幕戦となったXCC(クロスカントリーショートトラック)では、激しいスピードレースの末にラウラ・スティガー(オーストリア、スペシャライズドファクトリーレーシング)と、トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が勝利。共に話題の新車を投入した男女二人が翌日のXCOに向け幸先良いスタートを切っている。



女子エリート:ピーテルスがW杯エリート初出場初優勝

先頭グループを組むパック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)とポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、イネオス・グレナディアーズ) photo:UCI

U23の女子(小林あか里が出走し41位フィニッシュ)と男子レースを挟み開催された女子エリートレースには92名が出走。序盤から2021年の世界女王イヴィ・リチャーズ(イギリス、トレックファクトリーレーシングXC)が飛ばしに飛ばし、アルカンシエルを着るポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、イネオス・グレナディアーズ)と、W杯エリートカテゴリー初挑戦のパック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が2番手グループを形成。しかし全7周回の4周目、快調に飛ばしていたリチャーズが後輪パンクを喫してしまう。

ピットエリアでホイール交換を待つ間に先頭を奪われ、さらに再スタートした際にチェーン落ちによって再度停止。度重なるメカトラブルによってリチャーズは優勝戦線から離れ、この日は4位に甘んじることとなった。

こうして優勝争いはフェランプレヴォとピーテルスの2名に絞られ、フェランプレヴォ優勢かと思いきや最終ラップでメカトラに見舞われてしまう。アルカンシエルを着るフェランプレヴォは2度に渡るピーテルスの攻撃を防ぐことができず、そのまま勝負あり。シクロクロスでは既にトップ選手として活躍するピーテルスが、白熱した戦いの末にMTBのW杯初勝利を遂げた。2位はフェランプレヴォ、3位は終盤一気に追い上げたロアナ・ルコント(フランス、キャニオンCLLCTV)だった。

W杯エリート初優勝を挙げたパック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:UCI

女子エリート表彰台 photo:UCI

シクロクロスを主軸にオフロード競技で活躍するピーテルス。U23カテゴリーの昨年はW杯で常に表彰台に乗る活躍を挙げていたが、エリートカテゴリーでは初挑戦初勝利。ロードレースでも今年のストラーデビアンケで6位入賞を果たしており、今後一層あらゆるジャンルで注目すべき選手となりそうだ。



男子エリート:落車からの追走、五輪・欧州王者ピドコックが逆転勝利

北林力(Athlete Farm Specialized)を含む122名が一斉にスタート photo:UCI

降雨によって突如難易度を増した男子エリートレースにはアジア王者の北林力(Athlete Farm Specialized)が参戦。スタート直後から近年勢い良い走りを見せるルカ・シュワルツバウアー(ドイツ、キャニオンCLLCTV)が抜け出し、10度の世界王者ニノ・シューター(スイス、スコット・スラム)とジョシュア・ドゥバウ(フランス、ロックライダーレーシングチーム)が追従した。

さらにトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)やXCC世界王者サムエル・ゲイズ(ニュージーランド、アルペシン・ドゥクーニンク)、マティアス・フルッキガー(スイス、トムス・マクソン)らが追走し、全8周回中の2周目に合流する。しかしピドコックの加速によって先頭グループは木っ端微塵となり、唯一五輪王者をフォローしたのはドゥバウ一人だけだった。

落車からの遅れを取り戻すトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:UCI

開幕戦を制したトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:UCI

発表されたばかりのニューバイクを駆るピドコックのフィジカルは冴え渡っていたものの、「タイヤの空気圧が高かった」と濡れた木の根や岩に苦戦し、残り3周の下り区間で落車も喫してしまう。しかし「落車した時は一息つき、パニックにならずリセットすることが大事」と冷静に追い上げ、残り1周となったタイミングでドゥバウをキャッチ。登りの度に仕掛け、最後の最後で粘るドゥバウを引き離したピドコックが逆転勝利を飾った。

「正直言って厳しいレースだった。コース状況が雨で一変したし、ショートトラックでは走らなかったセクションが多く苦労した。タイヤセッティングも悪く苦労したけれど、最終的に勝ててよかった」と、W杯のランキングリーダージャージを受け取ったピドコックは語っている。

男子エリート表彰台 photo:UCI

なお北林はラップアウトの99位でレースを終了。「この結果はしっかり受け止めて、このレースで感じた事、直せる事を次のレンツァーハイデのワールドカップまでに直し、走りのキャパシティを大きくしていきたい」と話している。

全カテゴリーの日本選手のコメントは別記事で紹介します。



UCI MTBワールドカップ2023 第1戦 XCO女子エリート結果
1位 パック・ピーテルス(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) 1:23:01
2位 ポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス、イネオス・グレナディアーズ) 1:23:06
3位 ロアナ・ルコント(フランス、キャニオンCLLCTV) 1:23:12
4位 イヴィ・リチャーズ(イギリス、トレックファクトリーレーシングXC) 1:23:17
5位 アレッサンドラ・ケラー(スイス、トムス・マクソン) 1:23:39
6位 アン・テルプストラ(オランダ、ゴーストファクトリーレーシング) 1:23:39
7位 カロリーヌ・ボヘ(デンマーク、ゴーストファクトリーレーシング) 1:23:40
8位 レベッカ・ヘンダーソン(オーストラリア、プリマフロール・モンドレイカー・ジェヌイン) 1:23:57
9位 シーナ・フライ(スイス、スペシャライズドファクトリーレーシング) 1:24:10
10位 マルティナ・ベルタ(イタリア、サンタクルズ・ロックショックスプロチーム) 1:24:43
UCI MTBワールドカップ2023 第1戦 XCO男子エリート結果
1位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 1:22:46
2位 ジョシュア・ドゥバウ(フランス、ロックライダーレーシングチーム) 1:22:51
3位 ニノ・シューター(スイス、スコット・スラム) 1:23:09
4位 ジョーダン・サルー(フランス、チームBMC) 1:23:09
5位 トマ・グリオ(フランス、キャニオンCLLCTV) 1:23:34
6位 ルカ・シュワルツバウアー(ドイツ、キャニオンCLLCTV) 1:24:07
7位 マティアス・フルッキガー(スイス、トムス・マクソン) 1:24:36
8位 ラース・フォースター(スイス、トムス・マクソン) 1:24:45
9位 ルカ・ブライド(イタリア、サンタクルズ・ロックショックスプロチーム) 1:24:55
10位 アラン・ハースリー(南アフリカ、キャノンデールファクトリーレーシング) 1:25:12
99位 北林力(Athlete Farm Specialized)
text:So Isobe