残り17kmのオウデ・クワレモントでタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)がアタック。猛追するマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)を振り切り、3つ目のモニュメントとなる第107回ロンド・ファン・フラーンデレンを初制覇した。



ブルッヘを出発する第107回ロンド・ファン・フラーンデレン photo:CorVos

自身3度目のロンド制覇を狙うマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
優勝候補筆頭に挙げられたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos


気温6度。4月の肌寒い風が吹きつけたモニュメント(5大クラシック)第2戦のロンド・ファン・フラーンデレン(UCIワールドツアー)は、雨に降られることなく開催に漕ぎ着けた。ベルギー北部フランドル地方にて、19箇所の急坂と6箇所の石畳を含む273.4kmの戦いが繰り広げられた。

今年1つ目のモニュメントであるミラノ〜サンレモを制したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)、チームとして石畳クラシックを無双するワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、そして3つ目のモニュメント制覇を狙うタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)という”ビッグ・スリー”を含む175名が、2016年以来となるブルッヘ(ブルージュ)のスタートに集まった。

レースは序盤から近年の高速化を象徴するように、最初の2時間を平均時速49.3kmというハイペースで進んだ。スタートから109kmを走った地点でようやくベルギー王者ティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)やヤスペル・デブイスト(ベルギー、ロット・デスティニー)らを含む7名の逃げ集団が形成された。

スタート直後2時間は時速50kmに迫るハイスピードで展開 photo:CorVos

この日1度目のオウデ・クワレモントを前に、逃げに4分40秒のリードを許したプロトンでは大規模落車が発生する。そのきっかけとなったのはコースアウトして水を含んだ芝生にタイヤを取られたフィリプ・マチェユク(ポーランド、バーレーン・ヴィクトリアス)。路肩でバイクのコントロールを失い、そのままの状態でプロトンに振り戻されたマチェユクはティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツ)に激突し、そこからドミノ倒しのようにメイン集団前方で約30名を巻き込む惨事となった。

この原因となったマチェユクには失格処分が下った一方で、これが現役最後のロンドとなったペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)やポガチャルの重要なアシストであるウェレンスが途中リタイア。またジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)やファンアールトなどといった有力選手たちも落車に巻き込まれたが、無事に集団復帰を果たしている。

レース中盤に発生した大規模落車に巻き込まれたペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)はこの直後に棄権した photo:CorVos
約30名を巻き込んだ大規模落車 photo:CorVos


マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)の動きから第2グループが形成される photo:CorVos

落ち着きを取り戻し本格的に石畳と急坂区間に突入したメイン集団では再びマグナス・シェフィールド(アメリカ、イネオス・グレナディアーズ)らを巻き込む落車が発生し、近くにいたファンデルプールは持ち前のハンドリングテクニックでそれを回避するシーンも。そして直後のウォルフェンベルグ(残り114km地点)で、早くも元世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)がプロトンから飛び出した。

この動きには2021年覇者カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)が反応し、他にもシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)やマッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ)が追従。第2グループを形成した11名は約40kmの距離をかけて、レース先頭の逃げグループまで合流を果たした。

この日、23歳の誕生日を迎えたビニヤム・ギルマイ(エリトリア、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が落車リタイア photo:CorVos

レースは残り77km地点で逃げとプロトンとの差は2分。ファンアールトの他にもクリストフ・ラポルト(フランス)というカードを有するユンボ・ヴィスマがメイン集団の先頭でペースを上げたものの、逃げメンバーはキュングや今季好調のニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)らの尽力によりその差は3分まで拡大した。

そして徐々に先頭集団による”逃げ切り”という危機感が増してきたメイン集団から、大観衆が詰めかけたこの日2度目のオウデ・クワレモント(残り55km地点)でポガチャルが動く。ツール・ド・フランスを2度制した圧倒的な登坂スピードにファンデルプールとファンアールトは遅れ、その2人にはトーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)も食らいつく。

直後の急坂パテルベルグでも後続とのリードを拡大したポガチャルだったが、猛追するファンデルプールとファンアールトとの合流をチョイスする。ポガチャル追走に力を使ったラポルトとピドコックが遅れ、優勝候補の3名による第2グループが1分10秒先を走る先頭集団を追いかけた。

先頭集団を追走するファンデルプール、ポガチャル、ファンアールトの3名 photo:CorVos

終盤にアタックを仕掛けたマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) photo:CorVos

クルイスベルグを前にポガチャルたちに42秒差まで迫られた先頭集団から、レース前に「ビッグスリーのアタックに備えて常に彼らの前でレースを展開したい」と語っていたピーダスンがこの日2度目のアタック。昨年復活を遂げ、タイムトライアルも得意なピーダスンがモニュメント初制覇に向け独走体勢を築き上げた。

第2グループではクルイスベルグの登坂でファンデルプールが加速し、ポガチャルが余裕を持って追いつくなかファンアールトが遅れを喫する。ファンアールトは逃げに乗っていたナータン・ファンホーイドンク(ベルギー)の牽引を受け、何とか先頭集団に合流を果たしたものの、序盤の落車による影響からか勝負に絡むことはできなかった。

3度目のオウデ・クワレモントでアタックし、独走体勢を築いたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

ファンデルプールとポガチャルが加わった先頭集団はマッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ)が懸命に牽引するものの、ピーダスンとの差は35秒からなかなか縮まらない。しかし残り17km地点の3度目のオウデ・クワレモントでポガチャルが加速。石畳に時折リアタイヤを滑らせながらもシッティングで踏み続け、圧倒的な登坂スピードを披露したポガチャルがピーダスンをいとも容易く捉え、そして追い抜いた。

絶叫し白煙を焚く大観衆のなか後続を引きちぎったポガチャル。ファンデルプールが苦悶の表情で追いかけるものの、その差は一向に縮まらない。直後の最終登坂パテルベルグの頂上でポガチャルとファンデルプールの差は15秒。そしてフィニッシュまで続く平坦区間で一時30秒差まで拡げたポガチャルが、2021年のリエージュ~バストーニュ~リエージュ、その同年と2022年のイル・ロンバルディアに続く、3つ目のモニュメント制覇を成し遂げた。

ロンド初制覇を成し遂げたタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

「素晴らしいチームワークによって掴んだ勝利。今日という日を僕は一生忘れないだろう。最後のオウデ・クワレモントで全てを賭けたアタックをした。その代償で直後のパテルベルグで失速しかけたが、僕が勝つにはあそこで仕掛けるしか方法はなかった」とレース直後のポガチャルは語る。

ツール・ド・フランスで総合優勝を挙げた選手がロンド・ファン・フラーンデレンを制したのは、ルイゾン・ボベ(フランス)とエディ・メルクス(ベルギー)に続く史上3人目の快挙。その偉業をポガチャルは「仮に今日引退したとしても、これまでの選手キャリアに一切の悔いはない。それぐらい嬉しく、この勝利を誇りに思う」と喜んだ。

2位には16秒遅れでファンデルプールが入り、表彰台をかけた争いはファンアールトをピーダスンが下して3位入賞を果たした。

マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)は追走及ばず photo:CorVos

3位争いをピーダスンが制し、ファンアールトは4位 photo:CorVos

ロンド・ファン・フラーンデレン2023表彰台:2位ファンデルプール、1位ポガチャル、3位ピーダスン photo:CorVos
ロンド・ファン・フラーンデレン2023結果
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 6:12:07
2位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) +0:16
3位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) +1:12
4位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)
5位 ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)
6位 シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)
7位 カスパー・アスグリーン(デンマーク、スーダル・クイックステップ)
8位 フレッド・ライト(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス)
9位 マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター) +1:19
10位 マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ) +2:49
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos