衝撃的なモデルチェンジを果たしたビアンキのエアロレーサー"OLTRE"が、ついに国内に本格上陸。レーシングモデルの"RC"、ハイエンドの"PRO"、そしてミドルグレードとなる"COMP"の3モデルが揃い踏みとなったメディア向け試乗会にて、ビアンキのサポートライダーとして前作を乗り込んできた編集部員・高木が全モデルを一斉テスト。



ビアンキを取り扱うサイクルヨーロッパジャパンが新型OLTREのプレゼンテーションと試乗会を開催

現存する世界最古のバイクブランドとして今年で創業138年を迎えるビアンキ。コーポレートカラーのチェレステのお洒落なイメージもあり、老若男女、ベテランからビギナーまで幅広い層から支持を集めるブランドである。今年からUCIワールドチームに昇格したアルケア・サムシックのバイクスポンサーをしていることでも有名だ。

そんなビアンキを取り扱うサイクルヨーロッパジャパンが千葉県長生郡の「Sport & Do Resort リソルの森」で新型OLTREのショップ/メディア向け試乗会を開催した。新型OLTREをテストできるのは、関東では初ということもあり、多くのショップスタッフやメディア関係者が集まった。

「RCシリーズの走りが気に入った」とサイクルヨーロッパの澤村さん photo:Naoki Yasuoka

試乗に先立ち、サイクルヨーロッパジャパンマーケティング部の小櫃さんによる、新型OLTREのプレゼンテーションが行われ、バイクのコンセプトやコアとなるテクノロジーについてレクチャーを受ける。というわけで、インプレッションに移る前に、今一度新型OLTREの概要を説明しておこう。

軽量モデルのSPECIALISSIMAに対し、エアロロードに位置付けられてきたOLTREだが、ビアンキは今回の新作に関して並々ならぬ自信を見せる。これまで"XR4"まで数字を重ねてきたOLTRE XRシリーズの後継モデルとしてではなく完全に新たなコンセプトの下開発されたことを示すべく、モデル名からも"XR"は省かれ、シリーズとしてはシンプルにOLTRE、その後ろに"RC"、”PRO”、”COMP"というグレード名が続く。

サイクルヨーロッパジャパンマーケティング部の小櫃さんによるプレゼンテーション photo:Naoki Yasuoka

掲げられたコンセプトは"Aerovolution"。この、空力革命というキーワードが象徴するように、ビアンキはライバルたちの一歩先を行くハイパーエアロバイクとして、新型を開発した。既報の通り、ヘッドチューブに設けられたエアロディフレクターやステム前方に大きな穴を設けた専用コックピットなど、独創的な設計は全て空力性能向上のため。熾烈なエアロ競争を勝ち抜くためビアンキが取ったアプローチは、バイク単体での空力向上ではなく、バイクとライダー全体で空気抵抗を削減するという手法。

先述したエアロディフレクターや専用コックピットなど、目を惹く数々のギミックも、実のところ自転車単体ではほぼ意味をなさないという。これらが目的とするのは、最大の空気抵抗発生要因であるライダーへ向かう気流をコントロールすること。特に動き続けることで空気をかき乱す脚周りに負圧のエリアを設けることで、全体として大幅なエアロダイナミクスの向上を実現するという、新たな設計思想の下開発されたバイクだ。

新型OLTREシリーズの試乗車を多く用意

用意されるのは、アルケア・サムシックの選手らも駆る"RC"グレードを筆頭とした3モデル。興味深いことに、これまでビアンキがレーシングモデルに欠かさず搭載してきた振動除去素材"カウンターヴェイル(以下、CV)"はセカンドモデルとなるPROグレードにのみ搭載され、"RC"からはオミットされている。これは、タイヤのワイド化や高性能化によって振動吸収性が向上したことから、ピュアな走行性能を求めるレーシングモデルには不要と判断したとのことだ。

フレームモールドはRCとPROで共通とされており、異なるのはカーボン素材のレイアップ、そしてCVの有無となっている。一方末弟モデルとなるCOMPは、コンセプトは踏襲しつつも異なる形状のフレームに。エアディフレクターは無いものの、それを前提としたフレームデザインとされている。



■ビアンキ OLTRE RC「どんなシーンでも最速で駆け抜けられるピュアレーシングバイク」

ビアンキ OLTRE RC photo:Naoki Yasuoka

新型OLTREシリーズの中でプロユースのトップモデルに位置付けられているのがこの"OLTRE RC"だ。アルケア・サムシックの選手たちが使用しているバイクということもあり、洗練されたフレームやハンドルのデザインに目を惹かれる。セカンドグレードのPROと同じ造形となるが、フレームの右側には"BIANCHI"、左側には"REPARTO CORSE"(ビアンキのレーシング部門の名だ)となるアシンメトリーなグラフィックが特徴だ。撮影時も、グレードが分からなくなると左を見て確認すること数度。

新型OLTREを象徴するエアディフレクターは、UCIルールが適応されるレースでは使用できないという。国内では全日本選手権を狙うようなライダーは少し注意が必要だろう。アルケアの選手らも外しているが、エアディフレクターの下にはフォークやハンドルに設置されているような翼断面形状の突起が設けられており、ネジ穴を埋めるためのカバーを装着することでヴォルテックスジェネレーターとしての機能を果たすため、一定のエアロダイナミクスを発揮してくれそうだ。

REPARTO CORSE インテグレートバー photo:Naoki Yasuoka

トップキャップはカーボン製で、マグネット式で装着できる仕様に photo:Naoki Yasuoka
エアロなトップチューブデザインとケーブル内装システムを両立するために、なんと1インチのカーボンコラムを採用 強度を確保するために類を見ないレベルの肉厚コラムとなっている photo:Naoki Yasuoka


フロントフォークやダウンチューブは洗練されたデザインに photo:Naoki Yasuoka

ビアンキ曰く、「エアディフレクターはOLTREがライバルたちの先を行く存在であることを示す象徴。外した状態でも現在の最新エアロロードに優るとも劣らない性能を実現している」とのことで、いやがおうにも期待は高まる。もちろん、登録などが不要なホビーレースでは使用可能であるし、一分一秒を争う通勤や通学ではその真価を余すところなく発揮してくれるだろう(笑)

さて、今回はディフレクターを装着した状態でのインプレッションをお届けしよう。これまでにないであろう高速域でのエアロ体験を期待し踏み出した瞬間、良い意味で新鮮な驚きに襲われた。エアロロードらしい重厚感があるルックス、そして様々なギミックを搭載しているにもかかわらず、同社の軽量オールラウンダーであるSPECIALISSIMAと遜色のないレベルの加速を見せてくれた。

エアディフレクターはトルクスレンチで簡単に外せる photo:Naoki Yasuoka

ヴォーテックスジェネレーターキャップ photo:Naoki Yasuoka
エアディフレクターはトルクスレンチで簡単に外せる photo:Naoki Yasuoka


ヴォーテックスジェネレーターのカバーが同梱される photo:Naoki Yasuoka

あえてCVを排除したというのは、この鋭い加速感を実現するためなのだろう。これまでビアンキのレーシンググレードを特徴づけるテクノロジーとして全てのバイクに搭載されてきた基幹技術をあえて搭載していないということに対し、ほんの少し感じていたもやもやは走り出した瞬間にあっさりと吹き飛ばされた。

トップレベルのレーシングバイクらしい剛性感によって、グングン加速するバイク。あっという間に40km/h台での巡航態勢に入るが、この速度域でも普段より明らかに余裕がある。実際にエアロ効果を感じるのは30km/hあたりから。ハンドル周りの空気の抜けが良く感じ、まるでTTバイクに乗っているような速度の伸び方だ。

3Dプリンター製のRC139カーボンエアサドルは168g 他社の3Dプリントパッドサドルよりもクッションの厚みは薄く、レーシーな設計だ。 photo:Naoki Yasuoka

REPARTO CORSEのチューブレスレディーカーボンホイール photo:Naoki Yasuoka

低速から巡航域までの加速も素晴らしいが、その上の速度域では更なる輝きを見せる。スプリントではBB周りの剛性感が高く、踏み込んだ瞬間に加速。50km/hを超えてくるとエアロ効果の恩恵は更に大きくなっているのだろう、どんどん加速してくれる。スプリンターにとっては一段レベルアップしたかのように感じられるはずだ。ただ、剛性感が高いが故にライダー自身のポテンシャルも高いものが要求されるだろう。

一方、ヒルクライムにおいてもOLTRE RCはネガティブな表情を見せることは無い。ボリューミーなフレーム造形からは想像が出来ない登坂性能を有しており、斜度10%超の激坂でも非常に軽快。軽量かつ高剛性なフレームとステム一体型のREPARTO CORSEハンドルの組み合わせは、ダンシングで車体を倒していく際にも俊敏な反応を示し、思うがままにバイクを操れる。

TTバイクのように高速巡航しやすい photo:Naoki Yasuoka

ハンドリングはニュートラルで操作しやすい印象。ヘッドアングルは寝気味で、ホイールベースも長いジオメトリーによって、高速域でもブレずに真っすぐ進みやすいのは限界まで追い込むスプリントで真価を発揮するだろう。もちろん、ハイスピードなダウンヒルのコーナーでも余裕を感じられるし、高い直進安定性はロングライドでも走りやすく、疲労も溜まりづらいはず。

搭載されていたREPARTO CORSEのチューブレスレディーカーボンホイールはフロント50mm、リアが65mmとかなりのディープリムホイールで、バイクのポテンシャルを最大限に引き出してくれていると感じる。ジオメトリーも相まって、吹きさらし区間でも横風にハンドルを取られることも無い。このRC完成車に装着されるグレードには、SPBと呼ばれる高精度ベアリングが搭載されており、伸びの良さにも貢献してくれているのだろう。

エアロロードではあるが、激坂も軽快にクリアできる

速さのために設計を煮詰めた新世代のスピードスターがOLTRE RCだ。

これまで3年にわたってOLTRE XR3のリムブレーキモデルとディスクブレーキモデルを国内のトップレースで使い、ハイエンドモデルのXR4もインプレッションするなど、ビアンキのレーシングモデルの方向性については良く知っているだけに、今回の新型OLTRE RCの進化は目を瞠るものがあった。高い剛性とマイルドな脚当たりの良さを両立していた前世代がバランスの取れたオールラウンドレーサーとするならば、今回の新型はダイレクトな反応性と途轍も無いエアロ性能を前面に押し出すスピード至上主義のピュアレーサーへと生まれ変わったと言えるだろう。

とにかく1秒でも早くライバルに先んじるために日々練習を積むレーサーにとって、このバイクは最高の相棒になるはずだ。一方で、前作の乗り味にビアンキのアイデンティティを感じている方には、次にテストしたOLTRE PROがベストマッチとなるのではないだろうか。RCとPROに関しては優劣というよりも、用途に応じたラインアップとして用意されているのではないだろうか。そのために、CVという目玉技術の投入をあえて見送る決断が出来るところにビアンキのレーシングバイクブランドとしての底力を感じる一台だ。



■ビアンキ OLTRE PRO「エアロ性能にカウンターヴェイルの振動吸収性をプラスしたエアロロード」

ビアンキ OLTRE PRO

セカンドグレードに位置付けられるOLTRE PROはRCと同じフレームモールドとなっているが、振動除去システムのCVを搭載していることが大きな違いだ。エアディフレクターや専用ステム一体型ハンドルといった新型OLTREのエッセンスもRC同様に搭載している。

基本設計を共有していることもあり、エアロダイナミクスについては同等。ビハインドがあるならば、リアホイールのハイトが50mmと少し低くなっている分。とはいえそこは僅差であり、実際に平坦区間でのスピードの伸びはRC同様で、平坦が得意な人はより速く、苦手な人には助けとなるようなバイクと言える。

RC139カーボンサドルは145g photo:Naoki Yasuoka

OLTRE PROのみ、振動除去システムのカウンターヴェイルを搭載 photo:Naoki Yasuoka

CVを搭載したPROは、重量面ではRCよりも不利になっているのは事実。しかし、CVのメリットである振動吸収性は快適性に大きく寄与しているのもまた事実だ。今回、テストコースの近辺に存在していた石畳路面では、バイクの挙動も明らかに安定していた。

CVの実力については、前作にて体感していたこともあり、馴染み深く感じるものでもあった。振動吸収能もさることながら、踏み込んだ時の角が取れた感覚もまた前作に通ずるものがある。RCが鋭さ、キレ味を重視したチューニングだとすれば、PROは扱いやすさ、包容力にすこしウェイトを移したような印象。RCとはまた違った高性能により、レーサーだけでなくファストロングライドなどを目的としたサイクリストへも門戸を開く懐の広い一台だ。

振動吸収性に優れ、石畳も快適に走れる




■ビアンキ OLTRE COMP「自身の好みにカスタムしやすく安定感がある走りが特徴のエアロロード」

ビアンキ OLTRE COMP photo:Naoki Yasuoka

末弟モデルとなるOLTRE COMPは、エアディフレクターがついていることが前提として設計されているRCとPROとは異なる専用フレームモールドを採用している。カタログ写真や、遠目に見た際のフォルムは上位モデルとほぼ変わらないが、実車を並べてみると細部のディテールが異なっていることに気づく。

RC/PROのフレームよりも、全体的にエッジが落とされた滑らかな雰囲気を纏っているのがCOMPの特徴。特に大きな違いはエアディフレクターの存在しないヘッド周りのデザインで、よりボリューミーになっている。この設計により、フォークコラムもオーバーサイズとなっており、コラム厚も一般的な仕様に。このため、フォーク重量に関しては上位モデルよりも大幅に軽いというメリットもある。

COMPはノーマルハンドル仕様 photo:Naoki Yasuoka

OLTRE COMPはエアディフレクターがないが、専用のデザインでエアロ性能に優れる photo:Naoki Yasuoka

実際に走った印象も、その滑らかなフォルムからイメージされるようなスムーズな加速感。そのエアロ効果を体感できる速度域(30km/h~)まで到達することも容易で、そのスピードを維持するのももちろん得意。また、VELOMANNの50mmハイトのホイールもまた、巡航性能に貢献していると感じる。

ハンドリングに関してはCOMPもニュートラルな印象。完成車にはトレンドのフレア形状のハンドルがついている。ステムは専用品だが、ハンドルは自分の好みの形状のものがつけられるため、自転車歴が長い人やお気に入りのハンドルがある方でも、好きにカスタムができるのが特徴だ。

COMPはマイルドな剛性感で走りやすい photo:Naoki Yasuoka



ビアンキ OLTRE RC(DURA-ACE完成車)
フレーム:Oltre RCカーボン、電動コンポーネント専用、1.1/4-1.1/4ヘッドセット
エアディフレクター:〇
カウンターヴェイル:×
コックピット:レパルトコルサ インテグレートバー
サドル:レパルトコルサ RC139 CARBON AIR
ホイール:レパルトコルサ RC 65/50 SPBTECH
カラー:GRAPHITE-CARBON | CK16-ALU SILVER FULL MATT
サイズ:47、50、53、55、57
価格:2,002,000円(税込)

ビアンキ OLTRE RC(フレームセット)
フレーム:Oltre RCカーボン、電動コンポーネント専用、1.1/4-1.1/4ヘッドセット
エアディフレクター:〇
カウンターヴェイル:×
コックピット:レパルトコルサ インテグレートバー
カラー:GRAPHITE-CARBON/CK16-ALU SILVER FULL MATT、GRAPHITE-CARBON/BLUE/VIOLET-ALU SILVER FULL MATT
サイズ:47、50、53、55、57
完成車重量:6.85kg(55cm)
価格:836,000円(税込)

ビアンキ OLTRE PRO(ULTEGRA完成車)
フレーム:Oltre PROカーボン、電動コンポーネント専用、1.1/4-1.1/4ヘッドセット
エアディフレクター:〇
カウンターヴェイル:〇
コックピット:レパルトコルサ インテグレートバー
サドル:レパルトコルサ RC139 CARBON
ホイール:レパルトコルサ RC 50
カラー:GRAPHITE | CK16 FULL MATT
サイズ:47、50、53、55、57
完成車重量:7.3kg(55cm)
価格:1,155,000円 (税込)

ビアンキ OLTRE PRO(フレームセット)
フレーム:Oltre PROカーボン、電動コンポーネント専用、1.1/4-1.1/4ヘッドセット
エアディフレクター:〇
カウンターヴェイル:〇
コックピット:レパルトコルサ インテグレートバー
カラー:GRAPHITE/CK16 FULL MATT、GRAPHITE/WHITE FULL MATT
サイズ:47、50、53、55、57
価格:638,000円 (税込)

ビアンキ OLTRE COMP(105完成車)
フレーム:Oltre PROカーボン、電動・機械式コンポーネント対応、1.5-1.5ヘッドセット
エアディフレクター:×
カウンターヴェイル:×
コックピット:ヴェロマン エアロステム&ハンドルバー
サドル:ヴェロマン Mitora
ホイール:ヴェロマン V50R
カラー:WHITE|GRAPHITE FULL GLOSSY、CK16|GRAPHITE FULL GLOSSY
サイズ:47、50、53、55、57
完成車重量:8.1kg(55cm)
価格:781,000円 (税込)

text:Michinari TAKAGI
photo:Naoki Yasuoka
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