新城幸也を擁するバーレーン・ヴィクトリアスを長年サポートするルディプロジェクト。世界最高峰の舞台で戦う選手のために開発されたエアロ系ロードヘルメット"NYTRON"をテスト。スイスサイドと共同開発され、優れた空力性能と通気性を備えるオールラウンドモデルの実力に迫る。



ルディプロジェクト NYTRON

マテイ・モホリッチが2022年のミラノ〜サンレモで優勝を遂げた際に着用していたヘルメットのNYTRON。イタリアのルディプロジェクトがバーレーン・ヴィクトリアスに供給するモデルの一つであり、スプリンターを中心に平坦系の選手たちやレースで選ばれるハイエンドモデルだ。

通気口は前後のみで、頭頂部は覆われたシェル造形は空力のエキスパートとして名高いスイスサイドの協力を得て開発されたもの。一見するとシンプルな造形だが、シェル外側は溝や段差が設けられており気流の流れをコントロールしようとする意思がみて取れる。専門家との共同開発を行うほど力を入れたエアロダイナミクスはモホリッチの独走にアドバンテージをもたらした。

前頭部のベンチレーションホールはサイズが落ち着いている

スイスサイドと共同開発したシェル形状とされている

大きな排気口が特徴の一つ

セミエアロヘルメットの課題でもある通気性についても妥協なく研究が行われた。前頭部のミニマルな開口部も頭に風が当たるような向きで配置されおり、ヘルメット上部の大胆な開口部や後頭部の大きな排気ポートから熱を逃がそうとしている。後頭部のメイン排気口の両脇のアウトレットは非常に複雑な形状となっており、その徹底された開発を感じさせる。

ヘルメット内部のチャネルはもちろん深めの作りだ。前頭部のポートから入り込んだ空気はまず比較的広めの空間に集合する。その後、前後に貫かれた溝を通り、頭頂部もしくは後頭部の排気口へと導かれる造形だ。こめかみ部分のインレットから入り込んだ空気はサイドに流れるような設計とされている。

ヘルメット後端部の大きなベンチレーションホールから熱気が逃げる

RSR 10 Mというアジャスターが採用されている

アジャストシステムはRSR 10 Mというベーシックなモデル。サポーターの上下位置を細かく調整できたり、顎紐のディバイダーの高さも変更できたりと、好みに合わせて調整しやすいことが特徴だ。ダイヤルの外周部は柔らかめのシリコンがコーティングされており、グローブを装着していても滑りにくくなっている。

NYTRONはWG11という回転衝撃に対するテストを経ており、万が一のアクシデント時に脳へのダメージを最小限に留めるように作られている。もちろんJCFの公認も受けているため国内の公式レースにも使用可能だ。重量はS-Mで250g、Lで300g。カラーはレッド-ブラック、ブラック、ホワイトと言う3種類。価格は29,700円(税込)。

―インプレッション

エアロと通気性のバランスが整えられていることがアドバンテージ

NYTRONを試したシクロワイアード編集部の高木は、カスクやアジアンフィット系のモデルがフィットする丸型頭の持ち主。サイズはそれらのブランドだとMやS/Mがフィットする。今回借り受けたNYTRONはLサイズで大きめ。アジアンフィットではないため楕円形のフィット感かと思っていたが、想像以上に横幅がワイドで丸型頭の自分でも着用は可能だった。

一方で、シェルの前頭部分が浅く作られているためか、頭に干渉するような印象もある。編集部内でもフィット感を確認したところ、同じアジアンフィットがマッチする部員でもバッチリと合うと言う意見もあったため、浅めの形状で受ける印象は人それぞれのようだ。丸型頭の方でも合う合わないはありそうなので、気になる方はショップで試着することをおすすめしたい。

テールが程よい長さに設定されているため、頭を下げ気味でもエアロが阻害されない

性能面ではエアロダイナミクスに注力したという通り、風の強い中でもヘルメットが風に押し返される感覚はなく、シェルが風を受け流すような印象がある。エアロ系とはいえテールが窄まって、短い作りとなっているため、スプリントのようなシチュエーションで頭を下げたり、横風を受けたりする状況下でも頭部や首元にストレスはかからないため、風の強い日の長距離ロードレースでも最後まで集中を切らす心配はなさそうだ。
  
ヘルメット前方のエアインテークは控えめなサイズ感だが、後方のダクトはダイナミックな形状とされているため、入ってきた風はそのまま抜けていく。中央部分の開口部から入り込んだ風はそれほど強く感じないが、頭の上を流れていく感覚があり、ヘルメット内の熱を押し出していくようなイメージだ。こめかみ部分から入る風は直接頭にあたり冷やすような印象を受ける。

頭頂部は風が抜けやすいチャネリングが施されている

またレース向けに開発されたエアロ系モデルは、速度域が高くなければ通気性が活きないということがある。NYTRONに関しては20km/hほどから風の流れを感じることができたため、激坂などでよほど速度が落ちなければ、通気性の恩恵を受けられそうだ。速度が高くなればなるほど、通気性とエアロダイナミクスは発揮される。

NYTRONにアセンブルされるパーツ類はオーソドックス。アジャスターダイヤルだけは他ブランドとは異なり、シリコンのようなもので覆われているため、指が滑らないグリップ力が備えられているのは嬉しいところ。顎紐のディバイダーは調整可能な仕様で、顎紐が走行中に耳に当たるということもなかった。

グリップ力に優れるダイヤルが備えられている

トップレーサーのために開発されたモデルで、おすすめはもちろんレースに出場する方だが、平坦をハイスピードで駆け抜けるホビーライダーでも十分にNYTRONの良さを引き出せる。エアロ系だが通気性に優れるNYTRONはオールラウンドに使えるモデルだった。



ルディプロジェクト NYTRON
サイズ:S-M、L
重 量:250g(S-M)、360g(L)
カラー:ブラック、ホワイト、レッド/ブラック
価格:29,700円(税込)

impression:Michinari Takagi
text:Gakuto Fujiwara