いよいよ今ツールのハイライトであるピレネー山岳に途中入した。コンタドールとシュレクはお互いの様子を探り合う牽制を続けるなか、ライバルを逃がした。ユキヤは淡々と初日をこなし、2年連続のツール完走に何の問題もないようだ。

トーゥールーズの純和風喫茶「OKINI(おおきに)」の皆さんトーゥールーズの純和風喫茶「OKINI(おおきに)」の皆さん photo:Makoto Ayanoスタートの街ラヴァルは、ミディ=ピレネー地域圏の首府、オート=ガロンヌ県の県庁所在地トーゥールーズにほど近い。トゥールーズ近郊にはかつてユキヤがエキップ・アサダ在籍時代にフランス遠征の拠点とした合宿所がある思い出の地。

この日ブイグのチームバスを現地の日本人が訪問。かつてチームがよく通ったトーゥールーズの純和風喫茶「OKINI(おおきに)」の皆さん。

「ユキヤがホントにまたツールに出ると思わんかったよ!」と、久々の再会を楽しんだ。

見渡すかぎりヒマワリの海!

トゥールーズ一帯はひまわり畑が有名だ。ちょうどツールの頃に咲き誇る、行けども行けども果てしなく続くひまわり畑。海のようにうねる黄色いじゅうたん。何も無いといえば何も無い。黄色い海をカラフルなジャージの一団が通る風景は、ツールを代表するものだと思う。カメラマンにとってひまわり畑に分け行って撮影するのは毎年の恒例行事。(これをやると全身草まみれになります)

満開のヒマワリ畑を縫うように進む満開のヒマワリ畑を縫うように進む photo:Makoto Ayano

ひまわり畑の中を進む集団は絵になるが、実情はアタックがかかった状態の大変なときだった。今日も序盤から逃げが決まる。

中間スプリントポイントを稼がなくてはいけないトル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)は、「序盤から逃げグループができてしまうので中間ポイントを取ることが難しい」とコメントしている。

サストレのおしゃぶりフィニッシュの地へ

ファンのサインに応じるシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)ファンのサインに応じるシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Makoto Ayano集団はさらに南へ進路をとり、ピレネーを目指す。田園風景のはるか向こうに、緑をたたえたピレネーの頂が逆光にかすんでみえている。南仏独特の、非常に暑くて乾燥した気候。街路樹の日陰でツールの通過を待つ人達。しゃわしゃわとクマゼミの鳴き声が響く。

ツールに山岳ステージが設定されて今年で100年目の記念に、ASOは当時初登場したピレネー山脈を2010年大会の最終決戦地に選んだ。ピレネーで決まる2010ツール、その最初のゴール地点は1級山岳アクス・トロワ・ドメーヌの頂上ゴールだ。

このゴール地点は、新しいスキー場の名で呼ばれるようになる以前、「プラトー・ド・ボナスクレ」の名で2001年からツールに登場している。アームストロングはすでに3回経験済みの山頂ゴールだ。

有名なのはカルロス・サストレ(スペイン、当時CSC)の初のステージ優勝のゴールシーン。生まれたばかりの子供のおしゃぶりをくわえながらゴールしたこと。そのあまりにユニークなゴールシーンに困惑「?・?」したことを今でもはっきりと覚えている。

サストレはその後しばらくはこのおしゃぶりを背中のポッケに携帯していたが、最近はさすがにもう持っていないようだ。そのかわりバイクのフレームにおしゃぶりのマークのシールが貼られている。

1級山岳アクス・トロワ・ドメーヌのゴールに向かう選手たち1級山岳アクス・トロワ・ドメーヌのゴールに向かう選手たち photo:Makoto Ayano

リブロン念願の勝利はフランスの4勝目

歓喜のあまり顔を手で覆うクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)歓喜のあまり顔を手で覆うクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Cor Vos逃げグループから最後まで生き延びたクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)がツール初のステージ優勝を飾った。グランツール初優勝で、アージェードゥーゼルとしては2008年のシリル・デッセルの山岳ステージでの優勝以来のツールでの勝利だ。同時にフランス人の優勝としてはこのツールの4勝目だ。

「本当に凄い! ここまで長い時間と労力がかかった。ここ2,3年チームにはすこしばかり運が欠けていた。スタートから勝利のチャンスを探って挑戦してきたけど実を結ばなかった。ニコラス・ロッシュが総合でいいところにいるけど、僕も総合を狙いたかったんだ。でもツールの序盤は不運があって失望していた。ツール第3週に成功したいと渇望していた。ピレネーでいいスタートが切れた。満足している。

フィナーレの2つの山岳の上りと下りをうまくこなして、いい差をもって最後の上りに到達した。全開でいったよ。昨年のツールのアンドラ・アルカリスの頂上ゴールでブリス・フェイユ(当時アグリチュベル)がどうやって捕まらずに勝利を掴んだかを知りたいぐらいだった。実際、最後の上りで僕らだけになって、すごい観客の声援を受けながら勝利を目指して、捕まらずにすんだ。そんなことがあるなんて!」

2005年に現在のチームと契約してプロ入りしたリブロンは、トラックとロードの兼用選手だ。2008年トラック世界選ポイントレース2位、今年はマディソンで2位になっているスピードマン。2008年ツールは総合137位で完走して以来2度目のツール出場だ。昨年はブエルタに出場して総合46位で終えている。ツール前哨戦と呼ばれるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは総合7位になるなど、総合力を身につけている。

「今日のスタート前はいろんな感情が入り交じっていた。今までの結果には満足できない。昨夜、『あと1週間ある』と言い聞かせたんだ。脚の調子は良かったから、それを生かしたかった。

逃げているとき、アスタナが追走を始まるまでに大きな差がついた。それがこの勝利をより美しいものにしてくれた。上りはうまく登れた。こんな結果を長いこと待っていたんだ」。

繰り返すアタックテスト アンディとコンタドールの心理戦

互いを牽制して上りを進むアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)互いを牽制して上りを進むアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Makoto Ayano4度のアタックを仕掛けたコンタドールに対し、アンディは徹底してマークする動きを見せた。コンタドールはアンディの反応を見ては諦め、またアタックを繰り返すという、ライバルに対してのアタックテストを繰り返すような動きを見せた。

お互いが牽制しあった結果として、総合3位のサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)と総合4位デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)が2人の隙をついてアタックを成功させる。アンディとコンタドールは最後は合意に達してスピードを上げたが、メンショフとサンチェスはタイム差を返すことに成功した。

コンタドールは言う。「アンディとお互い競り合う走りをするなか、他の選手の動きを良く見ていなかった。お互いコントロールし合ったが、結果からすれば2人で走ることのほうが僕にはあっていたようだ」。

「最後の上りはアンディを引き離せるに十分なほどは厳しくなかったんだ。だからアンディは僕についてこれた。他の選手(メンショフとサンチェス)がずいぶん行ってしまったことに気づいてからは、2人はできるだけ協力して前を追ったんだ。

チームは今日もとてもよく働いてくれた。たくさん仕事をしていいペースを作ってくれた。総合で遅れている選手たちに返されたタイム差についてはまったく気にしていない。たった数秒のことだし、タイム差は大きくあるんだ」。

互いを牽制して上りを進むアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)互いを牽制して上りを進むアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Makoto Ayano

総合を諦め、ステージ勝利にチャレンジするサストレ

メイン集団から遅れてゴールに向かうリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)とカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)メイン集団から遅れてゴールに向かうリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)とカルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) photo:Makoto Ayano勝利の記憶がある最後の上りでチャレンジしたサストレ。コンタドール集団のペースアップによってアタックは潰されて実を結ばなかったが、本来の調子を取り戻しつつあるようだ。

サストレは言う「今日は特別な日だった。2003年にここで勝っているし、特別なモチベーションを持って臨んだ」。

序盤に苦しみ、大きなタイム差を負ったサストレは、すでにツールの総合は諦めた。

「たぶん僕はツールに勝つことはできない。僕は闘い、ベストをつくすためにここに来ているんだ。誰もが知っているカルロス・サストレに感じが近づきつつあるんだ。ピレネーの重要なステージはまだ3つ残っている。またチャレンジしてステージ優勝したい」。

言い訳できない失望のウィギンズ

4分59秒遅れてしまったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)4分59秒遅れてしまったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayanoブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)は、4分59秒遅れでゴールし、総合ではアンディとコンタドールに11分30秒というタイム差を負った。もはや総合上位は難しく、言い訳もできない。

ウィギンズは言う「諦めるよりベストを尽くしたが、ただ昨年のような僕じゃななかったということ。自分でもなぜだかわからない。ただ力が湧いてこないだけだ」。

昨年のツールで4位になり、契約のあったガーミンから巨額の違約金を払ってチームスカイが獲得したイギリス人エース。しかしこのツールでの結果は単なる期待はずれ。

ジロの覇者イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)と、レディオシャックの第2のリーダー、リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ)もタイムを失い、さらに総合争いが遠のいた。総合争いはますます絞られるが、コンタドールとシュレクはサンチェスとメンショフをライバル視していない。

ピレネー初日を無事乗り切る

27分10秒遅れでゴールに向かうトマ・ヴォクレール(フランス)と新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)27分10秒遅れでゴールに向かうトマ・ヴォクレール(フランス)と新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayanoユキヤはチームリーダーのトマ・ヴォクレール(フランス)をエスコートして2つの山岳をこなし、27分10秒遅れでゴールした。アントニー・シャルトーがマイヨアポアを守り、Bboxブイグテレコムとしてはほぼ満足できる結果だ。残り3つの難関山岳ステージをこなせば、2年連続のツール完走が見えてくる。

― ピレネー山岳初日を終えた感想は?

「なんとも無いです。まったく平気です。遅れちゃってからはトマと一緒に走りました。トマをアシストしたわけじゃなくて、僕が先に遅れて、トマと合流したので2人で走ったまでです。今日もとくに頑張ることなく力をセーブしました。あと2日走れば休息日がやってきて、そのあとチャンスがあるステージがやってきます。それが待ち遠しいですね」。

ゴール後、下山の支度をするトマ・ヴォクレール(フランス)と新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ゴール後、下山の支度をするトマ・ヴォクレール(フランス)と新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano

アームストロングは明日必ずアタックする

スタート地点に登場したランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)スタート地点に登場したランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Makoto Ayano超級山岳パイエール峠の上りで早々に遅れ、ゴールには15分遅れで到達したアームストロング。グルペットでのゴールという、ツールでは過去にない経験をした。

「腰を落ち着けて楽しんだ。周りや沿道の人たちの様子を見回して走るという、僕にとってユニークな体験だった。ツールに勝つために走らないけど、いい時間を過ごすために走っている」。

ステージ後にそう言うアームストロングだが、ステージ優勝を狙っていることはもはや隠さない。ブリュイネール監督もアームストロングがステージ優勝に向けて力を温存していることを認めるコメントを出した。2日連続の脱落はファンを失望させるが、脚をフレッシュにして勝負のステージに臨むためのポジティブなアクションだ。

アームストロングは言う。「べストは尽くすけど簡単じゃない。集団の中の誰もが僕がステージ優勝を欲していることを知っている。アタックを狙う選手たちはどの逃げに乗るべきかを知っている。レースが厳しい局面を迎えたときにこそ力を使うべきで、運だけじゃない。集団の前にいて様子を伺うことにするよ」。

明日第15ステージは、1995年ツールでファビオ・カザルテッリ(イタリア)が落車して死去したコル・ドゥ・ポルテ・ダスペ峠を通る。

当時アームストロングはモトローラのチームメイトとしてそのツールを一緒に走っている。

かつての友人への追悼の意味、そして難関山岳ステージながら下りゴールというコースプロフィールも、アームストロングが勝つには適している。コンタドールとシュレクの牽制がある早めの段階で飛び出せば、勝機はある。ここで逃げずして他に勝てる日はない。アームストロングは必ずアタックするだろう。

text&photo:Makoto Ayano