国内最大のワンデーロードレース、ツール・ド・おきなわ。国内最長距離を誇る市民レースは「ホビーレーサーの甲子園」と形容される高いステイタスをもち、激戦が繰り広げられる。最高の栄光を手にするのは果たして誰だ? 変更となった新コースの最新情報と走り方も解説する。



本部大橋を渡る市民210kmのメイン集団本部大橋を渡る市民210kmのメイン集団 photo:Makoto.AYANO
3年ぶりとなるだけに予測が難しいのが市民レース。それでも優勝候補筆頭はやはり6度の優勝経験をもつディフェンディングチャンピオン、2019年覇者・高岡亮寛(Roppong Express)の名前を真っ先に挙げないわけにはいかないだろう。

松木健治(VC福岡)をスプリントで下した高岡亮寛(Roppongi Express)が喜びのガッツポーズ松木健治(VC福岡)をスプリントで下した高岡亮寛(Roppongi Express)が喜びのガッツポーズ photo:Makoto.AYANO
サイクルショップRX BIKEを立ち上げ、日本縦断などあらゆるバイクライドへの挑戦を続ける高岡は、今年グランフォンド世界選手権やアンバウンド・グラベル、グラベル世界選手権に出場するなど、オン/オフやジャンルを問わずアマチュアの世界タイトルを目指して果敢に走ってきた。しかし「最強ホビーレーサー」と称されるとおりルーツはロードレースにあり。2週間前の段階で、おきなわに向けて調整を重ねる高岡に状況と抱負を聞いた。

おきなわ2019 市民210km表彰 優勝:高岡亮寛(Roppongi Express)、2位松木健治(VC福岡)、3位井上 亮(Magellan Systems Japan)おきなわ2019 市民210km表彰 優勝:高岡亮寛(Roppongi Express)、2位松木健治(VC福岡)、3位井上 亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto.AYANO
「前回、2019年の優勝が42歳。そこから3年が経ってしまいました。自分自身に衰えはまったく感じてはいないのですが、その重ねた3つの年齢の影響がどうでるかは自分でも分かりません。そして空白の間に知らない新たな選手も出てくるでしょう。ただし僕自身は例年やってきたのと同じように、今回も身体を完璧に仕上げていくつもりだし、最高の調子で臨みたいと思っています。勝利を狙う走りを楽しみたいと思います」。

6月のニセコクラシック2022、残り10kmを切り独走して優勝した石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)85km参加者の後方に追走集団が迫る6月のニセコクラシック2022、残り10kmを切り独走して優勝した石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)85km参加者の後方に追走集団が迫る photo:Satoru Kato
そんな高岡がライバルになると挙げたのが6月に北海道で開催されたUCIグランフォンドワールドシリーズ「ニセコクラシック」で150kmクラスで全体のトップとなり優勝した石井祥平(アーティファクトレーシングチーム)だ。高岡も45-49歳クラスで優勝したが、各クラスが合流してからのレースで展開上も石井に負かされたかたちとなったため、今回のおきなわは事実上のリベンジマッチとなる。

2019年市民210km、東村で11人に絞られた先頭集団。このなかの誰にでも優勝のチャンスはあった2019年市民210km、東村で11人に絞られた先頭集団。このなかの誰にでも優勝のチャンスはあった photo:Makoto.AYANO
2019年のおきなわで高岡とゴールスプリントで争い2位だった松木健治(VC VELOCE)は、2021年6月に大腿骨を骨折する大怪我を負ったが、順調にリハビリを重ね、ニセコクラシック150km・40-44歳クラスで3位となっている。「最後まで苦しめておかなければ、松木さんのほうがスプリント力はある」と高岡は警戒する。松木は次のように今の状況と抱負を語ってくれた。

松木健治(VC福岡)との競り合いを制した高岡亮寛(Roppongi Express)松木健治(VC福岡)との競り合いを制した高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto.AYANO
松木「事故により大腿骨を複雑骨折し、厳しいリハビリが続きました。もう二度と走れないかもしれない状況からたくさんの方の支えのお陰でスタートラインに立つことができることに感謝しています。パフォーマンスを落としていると思われがちですが、出来る限りの準備をしてきたので過去最高の状態と言えます。今年は若手の実力ある選手の参加も多く、かなりのハイレベルな戦いが予測されます。その中で国内最強アマチュアレーサー決定戦を楽しみたいと思います。ゴール後に皆んなで気持ち良く讃え合えるレースが出来たら良いですね」。

イオン坂でアタックを試みる井上亮(Magellan Systems Japan)イオン坂でアタックを試みる井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Makoto.AYANO
高岡、松木に次いで2019年3位だった井上亮(Magellan Systems Japan)は「マグロミサイル」の異名をとり、「体力おばけ」と称される驚異的なフィジカルの持ち主。だが井上にも大怪我があり、不調・不振のシーズンが続いた。

井上「前回2019年大会以降、事故もあり、今年も長期に渡る体調不良など、一時は絶望的な状態でした。しかしその度に家族が支えてくれ復活することができ、3年ぶりのおきなわに戻ってくることができました。やりたい放題のクソ亭主をここまで支えてくれ、送り出してくれる家族に本当に感謝しています。再びこの地で、最高のライバル達と鎬を削る闘いができることを楽しみにしています」。

スタート前に恒例の「チバリヨー!」ホビーレース甲子園を制するニオは誰だ?スタート前に恒例の「チバリヨー!」ホビーレース甲子園を制するニオは誰だ? photo:Makoto.AYANO
発表された203人のエントリーリストは、2019年よりも数を減らしながらもレベルとしては従来と変わらない濃い面子が揃い、先頭争いのレベルは何ら変わらないだろうことが窺える。かつて名を馳せながらも終わったかに思えたあの選手が、実はこのおきなわに賭けて復活しているとの噂話も耳に入る。

もちろん市民210kmだけでなく、おきなわ市民各クラスそれぞれが「ホビーレース甲子園」だ。3年ぶりの大会は、待ちに待った待望の3年でもある。熱い戦いに期待しよう。

2019年大会の市民レース各クラス優勝者

市民レース210km トップ5
1位 高岡亮寛(Roppong Express)5:19:32.730
2位 松木健治(VC 福岡)
3位 井上 亮(Magellan Systems Japan)
4位 持留叶汰郎(thcrew)
5位 森本誠(GOKISO)
各クラス優勝者(名前のみ)
市民レース140km オープン 佐藤文彦
市民レース140km マスターズ 山本裕昭
市民レース100km オープン 白石真悟
市民レース100km マスターズ 酒井洋輔
中学生レース50km 犬伏輝斗
市民レディースレース50km 平子結菜
市民レース50kmオープン 遠藤優
市民レース50kmフォーティー 佐藤俊雄
市民レース50kmフィフティー 寺崎嘉彦
市民レース50kmオーバー60 福島雄二
チャレンジレース50kmアンダー39 Cavitt Demarcus Joseph
チャレンジレース50kmフォーティー 佐久間克昭
チャレンジレース50kmオーバー50 富山健太
小学生レース10km 久貝一心



最後の勝負どころが変わった新コースを写真で解説

前回大会までに使用された羽地ダムの登りルートが土砂崩れのため通行止めになり、復旧が間に合わなかったため、急遽別ルートが設定された。対象レースはチャンピオンレース、市民レースの210kmコース、140kmコース、100kmコース。状況は変わらず、既報のとおりだが、ここでは改めてコースの変更箇所を前日の現地取材にてお伝えする。

新コースは距離で約6km短くなるが、番越(ばんこし)トンネルからさらに2つのトンネルを経ての山越えルートの上り区間はむしろ長く伸びることになる。東江原(あがりえばる)トンネルを越えて、頂上にあたる区間が緩斜面のアップダウンになるため明確な峠が存在しないが、その区間を経て名護市街への下りは急勾配のダウンヒルとなる。

ここでは前々日に撮影したコースの写真をもとにフィニッシュまでを順を追ってポイントを解説していこう。

前回大会までの番越トンネルを抜けた時点で右折していたのを、新コースでは直進することになる前回大会までの番越トンネルを抜けた時点で右折していたのを、新コースでは直進することになる
前回大会までの番越トンネルを抜けた時点で右折していたのを、新コースでは直進することになる。そこからさらに2つのトンネルを抜けて、登りはしばらく続くことになる。ルートは直線的で、勾配は厳しくはなく、緩急もほぼ無い単調な登り。

番越トンネルを抜けてしばらく登ると2連のトンネルが現れる。左右の展望は開ける番越トンネルを抜けてしばらく登ると2連のトンネルが現れる。左右の展望は開ける
雨志川原トンネルと東江原トンネルと続く登りだ雨志川原トンネルと東江原トンネルと続く登りだ
連続する2つのトンネルを抜けた先のピークから一度下るが、その先には勢いをつけたままクリアできる、うねるような2つの短い登りが続く。脚が無くなってスピードに乗っていなければ踏み返す必要があるだろう。

2連トンネルを抜けても登りは続く。いったん勾配が緩むがその先でまた勾配が上がる2連トンネルを抜けても登りは続く。いったん勾配が緩むがその先でまた勾配が上がる

ピークを越えていったん下る。左手にカエルの「動物に注意」と「この先急カーブ有り」の看板ピークを越えていったん下る。左手にカエルの「動物に注意」と「この先急カーブ有り」の看板
短い下りの先で「うねり」を登り返す短い下りの先で「うねり」を登り返す
平坦に見える緩斜面区間が300mほど続く平坦に見える緩斜面区間が300mほど続く
複合コーナーにもなっている2つのうねりを越えれば、その先は視界が直線的に開ける300メートルほどの平坦区間が待つ。メリハリの無いアップダウンもここまでで、その先から名護市街へのダウンヒルが始まる。

平坦が終わると直線的に下り始める。先に名護市街が見えてくる平坦が終わると直線的に下り始める。先に名護市街が見えてくる
ダウンヒルの序盤は見通しの良い緩いコーナーで、徐々に勾配を増していく。前方に名護市街が見通せる直線路から先が急勾配となり、ノーブレーキならかなりのスピードに達するはずだ。

左手にパノラマが開けると急勾配ダウンヒルに突入左手にパノラマが開けると急勾配ダウンヒルに突入
左手にパノラマが開けるポイントからコーナーのアールが徐々にきつくなっていく。テクニカルでは無いが、道路の左右車線で滑り止め加工が違うため雨に濡れたウェット状態なら非常に注意を要するだろう。進行方向に対して左車線は滑りにくい加工がされた茶色い路面、右車線は通常の舗装だ。路面は良いが所々に道路の継ぎ目や陥没もある。

2つ目の左側が開けた区間を通過。ハイスピードとなるので景色を眺めている余裕はないはずだ2つ目の左側が開けた区間を通過。ハイスピードとなるので景色を眺めている余裕はないはずだ 下りの左車線が滑り止め加工がされた赤い路面となる下りの左車線が滑り止め加工がされた赤い路面となる


陸橋の最高速度での左急コーナーで名護市街へ陸橋の最高速度での左急コーナーで名護市街へ
大きなアールで左に曲がる先の陸橋のコーナーから薄緑色の鉄橋がダウンヒルの最終区間(地元では逆方向の登りを「オリオン坂」と呼ぶ)。オリオンビール工場の脇を抜け、スーパーサンエーへと続く東江(あがりえ)で名護市街地へと出る。

薄緑色のレトロなアーチを越えれば名護市街へと出る薄緑色のレトロなアーチを越えれば名護市街へと出る
下側から「オリオン坂」を見る下側から「オリオン坂」を見る
オリオン坂を越えて名護市街へ。平坦路の先にスーパーサンエー(右)オリオン坂を越えて名護市街へ。平坦路の先にスーパーサンエー(右)
信号のある交差点を2つ越えたら国道56号線へと出て、右折する。通常の交通から言えば逆走となる進行方向で、朝スタート地点となったホームストレートへ。名護市民会館前のフィニッシュラインまでは1.2km。50km各クラスとは逆方向に進んでフィニッシュすることになる。

国道56号線へ出て右折、クルマのある車線側を逆走する進行方向でフィニッシュへと向かう国道56号線へ出て右折、クルマのある車線側を逆走する進行方向でフィニッシュへと向かう
最後の上り区間には明確な頂上が存在しないが、下り始めてからは急勾配となって一気に名護市街へと下ることになる。フィニッシュまでの平坦距離も短いため、下りを利用してレースを仕切り直すことは難しく、多くのクラスでは登り区間で勝負が決まることになりそうだ。

前日に試走を十分行った選手も、レース終盤の体力が限界に近い状態でのダウンヒルでは慎重な走りを心がけてほしい。新型コロナ対応で医療体制が逼迫する今の状況では、ケガの無いレース運営こそ大会存続のキーとなる。そういった事情も心に留めつつ、レースに臨んでほしい。

text&photo:Makoto AYANO