「フォスの姿がなかったのでタイミングを図り飛び出した。直前に肘を骨折した私が世界王者だなんて信じられない」と自身2度目のロード世界王者に輝いたアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)は語った。164.3kmの熱戦を選手たちのコメントで振り返ります。



優勝 アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)

1秒差で劇的な逃げ切り勝利を挙げたアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)1秒差で劇的な逃げ切り勝利を挙げたアネミエク・ファンフルーテン(オランダ) photo:CorVos
レース直後インタビュー

とにかく信じられない。誰かに”これが嘘だよ”と言われたら信じてしまうほどに。最後はマリアンヌ(フォス)の姿を探していたのに、気づいたら先頭集団にいた。彼女の合流は無理だと分かったけれど、私も肘の影響でスプリントできなかった。だから後ろからアタックするタイミングを待ち続けた。それが私に残された唯一のチャンスだった。(アタックした後も)後ろからスプリントで追い抜かれると思っていたが、彼女たちが私を捉えることはなかった。

(肘は)地獄のような痛みだった。サドルから腰を上げることができなかったので、登りの度に脚が爆発しそうなほど痛かった。いつもならダンシングでアタックするのが私のスタイル。そのため大幅な計画を変更を強いられた。肘を負傷する前まではマウント・ケイラ(残り131km地点)でアタックするつもりだった。だから全く違ったレースをしなくてはならなかった。マリアンヌがエースで、私はアシストの1人にしかすぎなかった。それがいまは世界王者。信じられない。

ロードで2枚目、個人TTも含めれば4枚目のアルカンシエルに袖を通したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)	ロードで2枚目、個人TTも含めれば4枚目のアルカンシエルに袖を通したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ) photo:CorVos
(前回優勝した2019年のヨークシャー大会と)両方にそれぞれのストーリーがある。今朝、このイヤリングを外して出場しようか迷っていた。しかしきっと幸運を運んでくれると思い付けたまま走った。肘の怪我がなければスタート後2kmでアタックしたヨークシャーと同じように、5kmから仕掛けたかった。しかし今日はラスト1kmのアタックで勝った。両方とも物語の詰まった勝利だよ。

来年限りで引退することもあり、チームTTでの落車後は本当に落ち込んでいた。引退するシーズンをアルカンシエルを着て走ることができればと思っていたし、アルカンシエルを着用して走るはずだった2020年もコロナ禍で台無しになってしまったから。これで来年、アルカンシエルを心から楽しむことができる。

レース前インタビュー

骨折した右肘に包帯を当てて登場したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ)骨折した右肘に包帯を当てて登場したアネミエク・ファンフルーテン(オランダ) photo:CorVos
肘を骨折して”絶好調”と答える人はいない。でもしょうがないこと。確かに私はこのような逆境をモチベーションに変えることのできる選手だが、現実を見なければならない。ダンシングやスプリントができない状態なので、チームメイトを全力でサポートしたい。

(肘を骨折を抱え走っても)健康を害することはなく、それが最も重要なことだった。またバイクをコントロールすることは可能なので、安全性にも問題はない。自分自身の成績を求めて走るわけではない。チームの作戦を話すことはできないけれど、少なくとも私が自ら勝利を狙いに行くことはない。

2位 ロッタ・コペッキー(ベルギー)

ファンフルーテンを追うロッタ・コペッキー(ベルギー)ファンフルーテンを追うロッタ・コペッキー(ベルギー) photo:CorVos
もちろん悔しさはある。世界タイトルまであと少しの所まで迫ったのに2位だったんだから。かなり落ち込んでいるものの、アネミエク(ファンフルーテン)は勝利に相応しい選手だと思う。

あの時どうすればよかったのか映像を見返してみないとわからない。アネミエクは完璧な瞬間に飛び出し、即座に反応しなかった過ちを犯したのは私だけじゃない。彼女は十分な速度をつけて私たちを追い抜いた。とてもスマートなアタックだった。

肘を骨折して出走するだけで十分クレイジーなのに、勝利するなんて…。彼女が100%の状態でないことは走りからも明らかだった。だが彼女はそんな状態の中、完璧かつスマートなアタックを披露した。私たちが躊躇した瞬間、彼女は行ってしまった。

2位ロッタ・コペッキー(ベルギー)、1位アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)、3位シルヴィア・ペルシコ(イタリア)2位ロッタ・コペッキー(ベルギー)、1位アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)、3位シルヴィア・ペルシコ(イタリア) photo:CorVos
最後の登りで先頭5名についていくことができなかったものの、ペーシングをして合流を果たすことができた。そうすれば勝利のチャンスがあると思い、それに懸けていた。でも絶好の機会を逃してしまった。世界選手権のメダル獲得を誇りに思うものの、それを上回る失望を感じている。

3位 シルヴィア・ペルシコ(イタリア)

イタリアがアシストメンバーフル動員でレースを絞り込むイタリアがアシストメンバーフル動員でレースを絞り込む photo:CorVos
勝つ時もあれば、負ける時もある。(イタリアとして)世界タイトルを守ることは簡単ではなかったものの、チーム一丸となる走りができた。3位に満足することはなく、ビタースイートな結果となった。チームメイトやスタッフ、私を信じてくれたコーチに感謝したい。

4位 リアヌ・リッパート(ドイツ)

「マウント・プレサント」最終区間で仕掛けるリアヌ・リッパート(ドイツ)「マウント・プレサント」最終区間で仕掛けるリアヌ・リッパート(ドイツ) photo:CorVos
今日は脚に力を感じ、最初の登り(マウント・ケイラ)や周回コースに入ってからも穏やかな展開だった。ラスト2周目の登りで加速し、エリーザ・ロンゴボルギーニと2人で飛び出す絶好の状況を作り出すことに成功した。だが数名に追いつかれ、5名の集団が形成された。

最後の登りも全力で踏み込んだが協力してくれる選手は現れなかった。残念だという気持ちと同時に、世界選手権のメダル獲得が近づいたと感じていた。今日は本当に調子が良く、アルカンシエル獲得も夢ではないと思っていたが、協調体制を築くことができたなかった。そして最終盤に追走集団が合流し、ファンフルーテンが完璧なタイミングでアタックした。

私は早めにスプリントを開始したものの、脚が音を上げ4位がやっとだった。表彰台ではなく優勝を争いたかったので悔しい。だが世界選手権という場で自分という選手を表すことができたし、このレースは今度の自信に繋がるものになった。

女子U23優勝&女子エリート12位 ニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)

2位ファイファー・ジョルジ(イギリス、チームDSM)、1位ニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)、3位リカルダ・バウエルンファインデ(ドイツ)2位ファイファー・ジョルジ(イギリス、チームDSM)、1位ニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)、3位リカルダ・バウエルンファインデ(ドイツ) photo:CorVos
ビタースイートな感情がある。エリートの中でももっとできたという悔しさと、アルカンシエルを着ることができたという喜び。家族や友人か駆けてつけてくれたなか、心に残る思い出ができた。

重要なことは(結果が分からなくても)脚を回し続けること。またSDワークスのチームメイトも周りにいたことも大きい。周りを見渡しU23の選手がいなかったので、何か良いことがあると信じて全力で踏み続けてみた。

私はずっとエリートでの結果を目指し走っていた。チャンスを無駄にすることなく、できる限り良い結果が欲しかった。そうじゃなければU23のタイトルが走りの邪魔になってしまいそうだったから。自分のレースには満足だが、気持ちはビタースイートだよ。良いスプリントができず、エリートでは12位だけどアルカンシエルを獲得することができた。それが今日のレースを特別なものにしてくれた。

女子エリートを制したファンフルーテンと並ぶニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)女子エリートを制したファンフルーテンと並ぶニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド) photo:CorVos
アネミエク(ファンフルーテン)が飛び出し、それを見た私は躊躇してしまった。良い位置にいた私は、彼女の動きを予想できなかった。彼女はレースを通して(アシストとしての)動きを全うしていたので、まさか自分の勝利を目指しているとは思わなかった。彼女の頭に勝利があるとも。

だけど彼女はチャンスを伺い、両手でそれを掴み取りに行った。もちろんその動きについていけばよかったものの、そんなのは”たられば”でしかない。瞬間的な判断が勝負を分かつのがレース。チャンスは常に転がっており、それを見極め、適切なタイミングで掴みにいくしかない。

歴史上初となる女子U23の世界王者になることができ、記憶に残る栄誉となった。特に母国ニュージーランドから最も近い国で掴んだこのジャージは特別で、二度とない体験だろう。まるでホームレースのような雰囲気だった。6週間前に鎖骨を骨折し、ブエルタでは上手く走ることができなかった。ここへ来るのも悩んだほどだが、出場して本当によかったよ。

text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

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