2010年7月11日、ツール・ド・フランス第8ステージがカテゴリー1級の頂上ゴールが設定されたアルプス山岳コースで行なわれ、アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)が自身初のステージ優勝を飾った。総合争いはアームストロングが脱落する波乱の展開で、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)がマイヨジョーヌを手に。

マイヨアポワを着るジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が果敢にアタックマイヨアポワを着るジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が果敢にアタック photo:Makoto Ayanoスイス国境近くを進み、アルプス山脈の奥深くに分け入る第8ステージ。後半にかけて1級山岳が2つ設定されており、標高1796mの1級山岳モルジヌ・アヴォリアズの天辺にゴールが設定されている。

今大会最初の難関山岳コースであり、総合争いの動向に注目が集まった。

3級山岳を先頭で駆け上がるコース・ムーレンハウト(オランダ、ラボバンク)、マリオ・アールツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、アマエル・モワナール(フランス、コフィディス)3級山岳を先頭で駆け上がるコース・ムーレンハウト(オランダ、ラボバンク)、マリオ・アールツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、アマエル・モワナール(フランス、コフィディス) photo:Makoto Ayano注目度の高いステージだけに、この日はスタート直後からアタックの応酬。6km地点でファビオ・フェリーネ(イタリア、フットオン・セルヴェット)の転倒が引き金となって、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)を巻き込む集団落車が発生。しかしメイン集団はスピードを弱めずにアタックを掛け続けた。

最初の1時間の平均スピードが50.8km/hをマークするハイスピードな展開の末、32km地点でようやく7名のアタックが決まり、メイン集団は落ち着きを取り戻した。

最後の1級山岳モルジヌ・アヴォリアズでペースを上げるダニエル・ナバーロ(スペイン、アスタナ)最後の1級山岳モルジヌ・アヴォリアズでペースを上げるダニエル・ナバーロ(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos総合で8分以上遅れているクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)やコース・ムーレンハウト(オランダ、ラボバンク)を含むこの逃げグループは、レース中盤に7分05秒のリード。メイン集団はマイヨジョーヌ擁するクイックステップが終始コントロールした。

この日の勝負どころはラスト50kmに詰め込まれた2つの1級山岳。ゴールの35km手前で頂上を迎える1級山岳ラマズ峠(登坂距離14.3km・平均勾配6.8%)でまずレースは動いた。

メイン集団から大きく遅れたランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)が1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るメイン集団から大きく遅れたランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)が1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上る photo:Cor Vosラマズ峠の上り手前でアームストロングは再びクラッシュ。ロータリーの縁石に乗り上げて転倒したアームストロングは、スペアバイクを駆って何とか集団に復帰したが、その際にチームメイトと体力を浪費してしまう。

チームスカイとサクソバンクがペースを上げたメイン集団からは、マイヨジョーヌのシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)が遅れ、続いて何とアームストロングが脱落。アームストロングはホーナー(アメリカ)やブライコヴィッチ(スロベニア)のアシストを受けたが、アスタナがペースを上げ始めたアスタナとの距離は広がるばかり。1級山岳ラマズ峠の頂上通過時でアームストロングは1分遅れ。もうその遅れを挽回する体力は残っていなかった。

チームメイトにアシストされながら快調に1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)チームメイトにアシストされながら快調に1級山岳モルジヌ・アヴォリアズを上るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos先頭ではムーレンハウトとアールツ、アマエル・モワナール(フランス、コフィディス)の3名が逃げ続け、メイン集団を1分40秒引き離したまま最後の1級山岳モルジヌ・アヴォリアズに突入。しかし登坂距離13.6km・平均勾配6.1%の上りでメイン集団のスピードには対抗出来ず、エスケープトリオはゴールまで5kmを残して吸収された。

ティラロンゴ、ナバーロ、ヴィノクロフ、コンタドールの4名を揃えたアスタナは、チーム一丸となってメイン集団ペースアップ。このペースにブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)やアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)が脱落してしまう。

観客が詰めかけた1級山岳モルジヌ・アヴォリアズ観客が詰めかけた1級山岳モルジヌ・アヴォリアズ photo:Cor Vosラスト8kmでアタックを仕掛けたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)以外誰も動かず、メイン集団はただ人数を減らしながら頂上を目指した。

ラスト2km通過後に口火を切ったのはロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)。ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)が続けざまにアタックを連発させたが、コンタドールが余裕の走りでこれらを封じ込めて行く。

ゴール前でメイン集団のペースを上げるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)ゴール前でメイン集団のペースを上げるロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク) photo:Cor Vosラスト1kmを切るとマイヨブランのアンディがアタックを仕掛け、サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)がこれに合流。コンタドールはライバルたちに前を牽かせ、自らアンディを追う仕草を見せなかった。

最後はアンディとサンチェスの一騎打ちに持ち込まれ、限界ギリギリの勝負を制したアンディが両手を挙げた。驚きと喜びの表情でガッツポーズを繰り返しながらゴールに飛び込んだ。コンタドールを含むメイン集団は10秒遅れでゴールした。

スプリント勝負でサンチェスを下したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)スプリント勝負でサンチェスを下したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vosこれまでツールで2年連続マイヨブランを獲得し、主役級の活躍を見せていたアンディ。意外にもこれが自身初のステージ優勝。グランツールを通して初めて先頭でゴールラインを駆け抜けた。ルクセンブルク選手権のタイムトライアルを除くとシーズン1勝目でもある。

「故意に追わなかったのかも知れないが、コンタドールを引き離すことが出来て満足している。今日は全てが上手く機能した。ファンタスティックなステージ優勝だ。上りで苦しんでいるときは兄フランクの存在が恋しかった。ピレネーでマイヨジョーヌを獲得したい。今はキャリアで最高のコンディションなんだ(レース公式サイトより)」

マイヨジョーヌに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)マイヨジョーヌに袖を通すカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Cor Vosアンディは総合2位に浮上。コンタドールから41秒のリードを得ている。昨年の総合2位からのジャンプアップに向けて、難関山岳初日を最高の形で終えた。

この日11分40秒遅れでゴールしたシャヴァネルに代わって、ライバルたちの動きに目を光らせ続けたエヴァンスが総合首位に立った。エヴァンスは2008年大会以来となる自身2度目のマイヨジョーヌ着用。アルカンシェルの上にマイヨジョーヌを重ね着した。

アームストロングは最終的に11分45秒遅れ、総合39位までダウン。アームストロングは「ダメな時はとことんダメ。言うまでもなく今日は私の日では無かった。打ちのめされたけど、レースに残って、あと2週間を最後まで楽しみたい」とレース直後のTwitterでコメントしている。8度目のツール制覇に向けた挑戦は早くも終わりを迎えた。

序盤のアタック合戦に加わった新城幸也(Bboxブイグテレコム)は1級山岳ラマズ峠でメイン集団から脱落。32分34秒遅れのグルペット最終便ではなく、トップから27分49秒遅れのグルペットでゴールした。総合では122位まで順位を下げたが「力を抜くところは抜き、出すところはとことん出す」という走り。山岳ステージを乗り越え、次なるチャンスを狙う。


ツール・ド・フランス2010第8ステージ結果
1位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)4h54'11"
2位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
3位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+10"
4位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)
5位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
7位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
8位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)
9位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)
10位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)
146位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)+27'49"

第8ステージ敢闘賞
マリオ・アールツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)37h57'09"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+20"
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)+1'01"
4位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)+1'03"
5位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)+1'10"
6位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)+1'11"
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+1'45"
8位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)+2'14"
9位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+2'15"
10位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、チームHTC・コロンビア)+2'31"
122位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)+51'17"

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)118pts
3位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)114pts
3位 ロビー・マキュアン(オーストラリア、カチューシャ)105pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)44pts
2位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)36pts
3位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)30pts

マイヨブラン(新人賞)
1位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)37h57'29"
2位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+1'25"
3位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+2'17"

チーム総合成績
1位 ラボバンク
2位 アスタナ
3位 レディオシャック

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano