ツール・ド・フランス開幕を控えたデンマークの首都コペンハーゲン。ツール史上最北での開催となる3日間を前にチームプレゼンテーションが行われ、22チーム、176人の選手たちが「世界で最も自転車に優しい都市」の熱烈なファンに迎えられた。現地の雰囲気をお伝えします。



市内の運河にはデンマーク国旗が翻った市内の運河にはデンマーク国旗が翻った photo:Aurélien Vialatte
グランデパールはコペンハーゲン中心部。主要なビルや広場、公園、目抜き通りなどがツールの特別賞ジャージの黄色、緑、白に赤水玉などのカラフルな模様に染められ、市民憩いの広場にはファンパークが設置された。そして市の中心部を通る運河には赤に白十字のデンマーク国旗が連ねて飾られた。

コペンハーゲン中心部はツールを迎える催事で賑わったコペンハーゲン中心部はツールを迎える催事で賑わった photo:Aurélien Vialatte
自転車の使用率が高い「自転車王国」デンマーク。コペンハーゲン市民の通勤・通学のじつに44%が自転車を使うという。平均して市民一人あたり一日に1.4km自転車に乗っていると言われ、総計するとデンマークでは自転車が毎日800万km走っていることになる。つまりそれだけ化石燃料をセーブしていることになり、健康にも環境にも社会的にも良い効果がある。

コペンハーゲン市内のあちこちで見られる自転車活用のシーンコペンハーゲン市内のあちこちで見られる自転車活用のシーン photo:Makoto AYANO
デンマーク政府は2009年以来、自転車活用のためのインフラ整備へ20億ユーロを投資し、ますます脱車社会と自転車の活用を進めている。コペンハーゲンは「世界で最も自転車に優しい都市」「自転車政策でもっとも先進的な国」とも言われる。この国では自転車はもはや生活様式そのもの。

コペンハーゲン市民が通勤通学に自転車を使う率はじつに44%にのぼるというコペンハーゲン市民が通勤通学に自転車を使う率はじつに44%にのぼるという photo:Makoto AYANO婦人もヘルメットを被って自転車に乗る婦人もヘルメットを被って自転車に乗る photo:Makoto AYANO


コペンハーゲン市内をパレードするグルパマ・エフデジコペンハーゲン市内をパレードするグルパマ・エフデジ photo:Charly Lopez
もともと2021年に迎えるはずだったコペンハーゲンでのグランデパール。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受けて1年の延期を強いられたが、今年無事に開催にこぎつけた。ツールとしては10カ国目のフランス国外で迎えるグランデパールで、過去最北に位置する国での開幕となる。昨年、開幕地をブルターニュに譲ってからは様々な催しで盛り上げてきた。コペンハーゲンは2011年の世界選手権ロード開催都市であり、ツールを迎える下地はすでに十分にあった。

クリスティアン・プリュドム氏と女性市長ソフィー・ヘストルプ・アナスンクリスティアン・プリュドム氏と女性市長ソフィー・ヘストルプ・アナスン photo:Aurélien Vialatteバス停に貼られたツアー・フィーバーのポスターバス停に貼られたツアー・フィーバーのポスター photo:Makoto AYANO


市内の目貫き通りをパレードしてチボリ公園へと向かった市内の目貫き通りをパレードしてチボリ公園へと向かった photo:Charly Lopez
チボリ公園へと入園するチボリ公園へと入園する photo:Aurélien Vialatte
プレゼン会場となったのはコペンハーゲン中央駅の目の前にあるチボリ公園。自然を生かした庭園テーマパークは首都きっての観光名所で、市民憩いの場。自転車の国の自転車ファンが、夕方18時半からのチームプレゼンテーションを観ようと詰めかけ、公園内はもの凄い密度の人垣で埋まった。

クリスティアン・プリュドム氏と壇上にあがった女性市長ソフィー・ヘストルプ・アナスンさんはコペンハーゲンからパリまでキャンペーンのためにサイクリングした経験があり、3台の自転車を持っているとも。

一番に登壇したマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)に大歓声が湧く一番に登壇したマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)に大歓声が湧く photo:Makoto AYANO
クイックステップ・アルファヴィニルにはデンマーク人選手が3人!クイックステップ・アルファヴィニルにはデンマーク人選手が3人! photo:Makoto AYANO
大怪我からのカムバック、初のツールとなるファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル)大怪我からのカムバック、初のツールとなるファビオ・ヤコブセン(クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Makoto AYANO声援を受けて喜ぶカスパー・アスグリーン(デンマーク、クイックステップ・アルファヴィニル)声援を受けて喜ぶカスパー・アスグリーン(デンマーク、クイックステップ・アルファヴィニル) photo:Makoto AYANO


最初に登場したチームは白から青のジャージに変わったトレック・セガフレード。最初に登壇した地元デンマーク人のマッズ・ピーダスンに早くも観客たちのボルテージがマックスに。ピーダスンは第1ステージの優勝とマイヨジョーヌ獲得が期待されている。

そこからチームが順次登壇、クイックステップ・アルファヴィニルにはカスパー・アスグリーンとミッケルフレーリク・ホノレ、ミカエル・モルコフの3人ものデンマーク人選手がメンバーに選ばれた。そのそれぞれに大歓声が上がる。ファビオ・ヤコブセンへの怪我からのカムバックについても紹介された。ヤコブセンの後方のスクリーンには昨年のツールで活躍したカヴェンディッシュ(今年は選出されず)の映像が流され、それに反応するファンのため息も。

各チームのスター選手はもちろんピックアップしてマイクが渡され、紹介されていくが、10人のデンマーク人選手が登壇するたびに会場からは特別な歓声のエールが贈られた。

デンマーク人選手が登場すると拍手喝采して喜ぶファンたちデンマーク人選手が登場すると拍手喝采して喜ぶファンたち photo:Makoto AYANO
大歓迎にご機嫌なマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)大歓迎にご機嫌なマイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ) photo:Makoto AYANO
マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:Makoto AYANO
アルペシン・フェニックスはアルペシン・ドゥクーニンクにスポンサー入れ替えでこのツールからチーム名変更。マチュー人気も高く、マチューは「この素晴らしいデンマークのステージは3つとも取りたいね」とリップサービス。

会場の素晴らしい雰囲気にご機嫌なペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)会場の素晴らしい雰囲気にご機嫌なペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー) photo:Makoto AYANO
コロンビアファンの声援にご機嫌なリゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)コロンビアファンの声援にご機嫌なリゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Makoto AYANO
マグナス・コルトもデンマーク人ファンの大声援を受けて感激マグナス・コルトもデンマーク人ファンの大声援を受けて感激 photo:Makoto AYANOEFエデュケーション・イージーポストのバイクはPALECEスケートボードとコラボしたデザインEFエデュケーション・イージーポストのバイクはPALECEスケートボードとコラボしたデザイン photo:Makoto AYANO


ツールに合わせてジャージのデザインを変えてきたチームも続々。EFエデュケーション・イージーポストはまたしてもPALECEスケートボードとラファがコラボしたユニークなイラスト入りジャージとバイクを披露。恐竜?のキャラクターが描かれ、足元のクロックスまで柄物で揃えた。

アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)への声援も大きかったアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)への声援も大きかった photo:Makoto AYANO
爽やかなブルー基調の限定ジャージで登壇したイスラエル・プレミアテック爽やかなブルー基調の限定ジャージで登壇したイスラエル・プレミアテック photo:Makoto AYANO
クリス・フルームへの声援はとても大きかったクリス・フルームへの声援はとても大きかった photo:Makoto AYANOヤコブ・フルサン「この素晴らしいデンマークでチームメイトたちとここに登壇できて誇らしい」ヤコブ・フルサン「この素晴らしいデンマークでチームメイトたちとここに登壇できて誇らしい」 photo:Makoto AYANO


イスラエル・プレミアテックは爽やかなブルー基調のジャージとなり、バイクのカラーリングもそれに合わせた。ルワンダの伝統模様であるイミゴンゴを取り入れたデザインはアフリカのルワンダに「フィールド・オブ・ドリームス」という名の自転車センター建設を目指す、チャリティのため限定ジャージだ。

デンマーク人のヤコブ・フルサンは11回目のツール・ド・フランス参加を讃えられ大歓声が湧く。「本当に誇らしい。この素晴らしいデンマークでチームメイトたちとここに登壇できて誇らしい」と話した。

歓声に応えるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)歓声に応えるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Makoto AYANO
水色のヘルメットと柄をジャージに加えロット・スーダルはカレイブ・ユアンの人気にツール初参戦のルーキー、デンマーク人のアンドレアス・クロンへの大声援が並ぶほどだ。クロンは「クレイジーだ! こんなシナリオってある? 僕はここに上がるまで冷静だったけど、今は緊張してる」と、身に余る期待の大歓声に応える。デンマークのファンはどこまでも自国の選手への声援に熱い。

ツールのルーキー、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)にも大きな応援がツールのルーキー、アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)にも大きな応援が photo:Makoto AYANO最後のツール・ド・フランスを走るフィリップ・ジルベール(ベルギー、	ロット・スーダル)最後のツール・ド・フランスを走るフィリップ・ジルベール(ベルギー、 ロット・スーダル) photo:Makoto AYANO

「昨年以上を望みたい」と話すベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン)「昨年以上を望みたい」と話すベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) photo:Makoto AYANO
ポガチャルに迫るヴィンゲゴーの動画で会場のデンマークファンが沸くポガチャルに迫るヴィンゲゴーの動画で会場のデンマークファンが沸く photo:Makoto AYANO
もっとも熱かったのはヨナス・ヴィンゲゴーへの声援だ。MCがマイヨジョーヌにならったイエローのスーツに着替え、ユンボ・ヴィスマを迎えるとプリモシュ・ログリッチやワウト・ファンアールトを凌ぐ大声援がヴィンゲゴーに向けて湧く。

感情的になって涙ぐんだヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)感情的になって涙ぐんだヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto AYANO
ヴィンゲゴーの名を連呼するエールは鳴り止まず、感情的になったヴィンゲゴーが涙を流して声を詰まらせる。昨年は総合2位、今年はマイヨ・ジョーヌへという期待が一気に盛り上がった瞬間。ログリッチとファンアールトも主役を譲ったというような笑顔でヴィンゲゴーの肩を叩く。

ヴィンゲゴー人気に押されるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)ヴィンゲゴー人気に押されるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto AYANO
そしてディフェンディングチャンピオン、タディ・ポガチャルとUAEチームエミレーツが最後に登壇。もちろんポガチャルへの声援も歓声も大きいが、デンマーク人のミッケル・ビョーグへの応援もそれに劣らない大歓声だった。これにはポガチャルもラファル・マイカもビョーグを挟んで顔を見合わせ、驚いたといった表情でおどけた。

「レースを楽しむこと」と飄々と応えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)「レースを楽しむこと」と飄々と応えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
ポガチャルはMCの男性に「そのイエロースーツいいね、僕もほしい」と相変わらず飄々とした態度で受け答え。「レースを楽しむこと。それが何より」と軽く笑う。デンマークについて、ビョーグからは何と聞いてる?の問には「坂が全然無いってね」と笑う。ビョーグとはよくルームメイトになる仲良しだ。「ミケルはポテトを持ってきてくれたよ」とも。

選手の受け答えに熱い拍手を送る観客たち選手の受け答えに熱い拍手を送る観客たち photo:Makoto AYANOフレデリック皇太子もプレゼンテーションを楽しんだフレデリック皇太子もプレゼンテーションを楽しんだ photo:Makoto AYANO


コパンハーゲンが1年以上もお預けをくったグランデパール。自転車に熱いファンがどれほどまで待ち焦がれたか、そしてどれほど選手たちを応援しているか、そんな熱量の高さがよくわかったチームプレゼンテーションだった。

デンマーク人出場選手10人のリスト
ミッケル・ビョーグ(UAEチームエミレーツ)
アンドレアス・クロン(ロット・スーダル)
クリストファー・ユールイェンセン(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)
カスパー・アスグリーン(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミッケルフレーリク・ホノレ(クイックステップ・アルファヴィニル)
ミケル・モルコフ(クイックステップ・アルファヴィニル)
マッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)
ヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)
マグナス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)

コペンハーゲンのチボリ公園で行われたチームプレゼンテーションコペンハーゲンのチボリ公園で行われたチームプレゼンテーション photo:CorVos
付け加えると、もちろん観客たちはデンマーク人だけでなく各国選手もすべて応援している。プロサイクリングをよく知り尽くしているとも感じるのは、さすが多数の名選手を排出し、2011年の世界選手権ロード開催経験のある国だ。

それにしても人の密度が高すぎて、プレゼン中はステージ脇の撮影場所から一歩も動くことができなかった。その熱量は2017年のドイツ・デュッセルドルフでのグランデパールを遥かに凌いでいる印象だった。

text&photo:Makoto AYANO in Copenhagen Denmark